異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第179話お母さん! シルフの目線

◇ ◇ ◇
■ ■ ■


______セバスの墓前______


父や母が亡くなり、どれくらいの歳月が経っただろうか。
私は両親の命日に墓前に花を手向ける時間がないほどに国を守る為、仕事に没頭した。


故に恋愛などの浮ついたものをした事はない。
あるのは、10歳の時にした実る事がない初恋のみだ。


「......セバス。あの時はお前が居てくれて助かったぜ。また、生きているお前に会いたかったんだけどな」


私の初恋の相手______マモルさんはセバスの墓前で手を合わせ、瞳を潤ませる。
そういえば、こうやって、セバスの墓前に来るのは初めてかもしれない。
セバスが亡くなって以降、気持ちの整理が付かずに足が向かなかった。
簡易的に作られた墓石の下には骨だけになったセバスがおり、もう、あの笑顔が見られないと思うと、再び、私の心は私を弱い者にしようと瞳から大粒の涙を流させる。


「シルフ。辛かったな」


子犬のように肩を震わせる私をマモルさんはソッと抱きしめ、私は少し汗臭いマモルさんの胸の中にしばらく顔を埋めた。



◇ ◇ ◇



「もう、大丈夫か?」


「ご、ごめんなさい! 私ったら、つい......」


「いや、いいんだ。シルフだって、まだ、子供なんだから泣きたい時は泣いた方がいい! ガハハハッ!」


マモルさんは大きな口を開け、笑う。
マモルさんの屈託のない笑顔を見ると、私の口元も緩むのが分かる。
正直、マモルさんのビジュアルは私の好みではない。
髭面、細い目、ゴツゴツとした大きな手......。
言葉遣いや匂いも好きなものではない。
しかし、まるで魔法にかけられたかのようにマモルさんが側にいると心が休まるのだ。


「そろそろ、城に戻ろう。陽が暮れる」


「ええ」


私の前を歩くマモルさんの大きな背中。
まるで、父のような大きな背中にソッと触れると。


「ん? どうした?」


「あ、いえ、急にごめんなさい」


頬を赤らめる私の顔を見て、マモルさんは何かを察したのか、自身の背中にヒョイと乗せた。


「ま、マモルさん! お、下ろして!」


「ガハハハッ! 軽い軽い!」


ああ。
この背中からもう離れたくない。
私は落とされないようにマモルさんの背中にしがみついた。



◇ ◇ ◇



______王宮内______


並べられた料理に口を付けることなく、マモルさんの美味しそうに料理を頬張る顔を見ていると、パスが怪訝そうな顔を浮かべながら声を掛けて来た。


「シルフ、料理冷めちゃうよ」


「え? あ、そうね。でも、お腹空いてないの」


パスはマモルさんに夢中な私に不快感を抱いているのだろう。
私に呆れているのは分かるが、正直、自分の事を棚に置いて人にとやかく発言するのはどうかと思う。
自分だって、花島が居る時はベタベタしているくせに。


「あれ? そういえば、花島とホワイトは? そういえば、昼間から姿が見えないわね」


「ああ、『用事がある』って言ってホワイトの家に行ったよ。今日は戻らないんじゃないかな?」


「用事? 一体何の用?」


「知らなーい。ま、二人でよろしくやっているんじゃないのかな?」


「よ、よろしくって......。ぱ、パスはいいの? 花島がホワイトと二人っきりで、不安じゃない?」


「うーん。花島が誰を好きになろうが関係はないからね。僕は花島を好きな自分が一番好きだから」


「へ、へえ。逞しいわね」


正直、パスが言っている事は良く分からない。
女というものは独占欲が強く、好きな人が他の女と一緒に居ることを知ったら私だったらその女を火炙りの刑にしてやりたくなる。
パスは元男という事もあり、その辺の感覚が人と違うかもしれない。


「ガハハハッ! シルフ! 面白い友達を持ったな!」


「え? あ、まぁ......」


「オジサン! お前じゃないよ。僕にはヴァ二アル・パスという名前があるんだ」


「そうか! そうか! これは失礼した! 聞きたかったんだが、パスは花島って野郎の事が好きなのか?」


「うん。というか、結婚しているよ」


「結婚! そうか! まさか、人間と魔族が結婚しているとはな! 色々な所を旅してきたがそういった事例は初めて聞いた!」


ちょっと、マモルさん。
さっきからパスの胸元を見て、ニヤケ過ぎよ!
パスには負けるけど、私だって谷間はあるんだからこっちを見て!


「で、魔族とSEXして子は産めるのか? 産んだとしても人間として生まれるのか? それとも、魔族か?」


「______なっ!? マモルさん! そんな、直接的な!」


食事中にも関わらず、マモルさんがあまりにも不謹慎なことを言うので、私は話を止めようと立ち上がる。
きっと、パスもこういう話を公然の面前で話すのは嫌なはず。


「さあ。どうだろうね。花島とそういう事をしたことないから分からない」


パスがあっけらかんと答える様子を見て、パスよりも年上な私が赤面しながら大声を上げたのが無性に恥ずかしくなり、私は花弁を垂らす花のようにストンと椅子に座った。


「何!? あの兄ちゃん、こんな上玉と結婚しているのにSEXしていないのか!? もしかして、童貞か!?」


「どうだろ? 僕の方から迫ってはいるんだけど、『今日は止めておこう』って毎回断られる」


「そうかそうか。パスもそりゃ、災難だな。童貞の嫁に貰われるなんてよ。どうだい、色々と溜まっているんだろ? 俺が慰めて______」


______ガタッ!


「し、シルフ様!」
「シルフ!」


好きな人が他の女、ましてや元男を口説いているのを隣で聞かされるなんて心臓に針を刺されているようで生きた心地がしなく、人目もはばからずに私はダイニングを飛び出した。


          

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