異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第169話お母さん! 馴れ馴れしいよ!

______ホワイトシーフ城______


給仕達が用意した料理の数々がダイニングテーブルの上に乗せられ、長旅の疲れを癒すべく俺とパス、ホワイトは料理に口を付ける。


「どうした? パス? まだ、顔色悪そうだな」


「え? ああ、うん。何かドッと疲れて」


そりゃあ、腰を抜かして失神してしまうほどに尻尾をこねくり回されてしまったのだから致し方ないか。
パスの頬は風呂上りという事もあってか、薄いピンク色をしていた。


「ホワイト? サンの様子はどうだ?」


「うん。ミルクを与えたらグッスリ眠っているよ。夜泣きしてもメイドさん達が見てくれるっていうからこれで私もやっと眠れるよ」


ホワイトは笑顔を浮かべながら、安堵感に満ちた様子でスープを啜る。
夜泣きの際、サンは何故か俺やシルフ、パスがあやしても泣き止むことがなく、ホワイトが抱っこしないと泣き止むことがなかった。
そんな状態なので必然的にホワイトが夜泣き担当になり、ホワイトの睡眠時間が大分減った。
ホワイトは「大丈夫だよ。私、子供好きだし」とみんなに気を遣わせないようにしていたが相当疲れが溜まっていたのだと思う。


「そうか。色々とお前に任せっきりで悪かったな。でも、お前が居てくれて助かったよ」


「そう? 何か照れるね」


ホワイトは頭に手を当て、照れた仕草を見せた。
ここにはホワイトが入れるような風呂があり、風呂上りのホワイトは珍しく小奇麗な服装をしており、はだけた胸元を見入ってしまった。
いかんな。
あの妖艶な姿のパスを思い出して、まだ、悶々としてしまっているようだ。
俺は自ら頬を叩き、自身を律した。


「で、花島。あの状況、一体何があったの... ...?」


「あ、あぁ... ...」


ホワイトは対面にいるシルフを気にしながらも小声で俺に今の状況を聞いてくる。
何があった?
それは俺が一番聞きてえよ!


目の前には少女のような屈託のない笑顔を髭面のオッサンに向けるシルフとワイングラスを片手にシルフの腰に手を回すオッサン。
っうか、オッサン!
腕がシルフの胸に当たっているんですけど!
シルフも少しは嫌そうにしろよ!
オッサンに抱かれるぞ!


「ん? 青年? どうした? スープが冷めちまうぞ」


俺の視線が気になったのか、オッサンはほろ酔いになりながら話しかけてきた。


「言われなくても飲むよ!」


なんだろう。
イライラする必要なんてないのに、初対面の人に喧嘩腰になってしまう。
いかん。
いかんぞ。
花島。


「シルフ。そろそろ、状況を説明してくれないかな? その男性は一体誰なんだい?」


俺がオッサンと話をすればまともな会話にならないと判断したのか、パスは自らみんなが言いたかった言葉を代弁してくれた。


「え? あ、ああ。それもそうね」


パスの言葉で我に返ったのか、シルフはオッサンから離れ、襟を正した。


「おいおい。シルフ、そんな急に離れる事ないだろ。久しぶりの再会なんだからもっと仲良くしようぜ」


離れたシルフを自らの元に手繰り寄せようとするオッサンに、俺は再びイライラしてしまい、椅子から立ち上がった瞬間。


「______dmtijj」


ボソボソとオッさんが呪文を唱えると音も無く、何も無い空間から木のツルが現れ、俺の身体を拘束。


「ぐっ! か、身体が!」


「ぐはは! どうだ! 参ったか!」


「何しやがる!」


オッさんは狩を楽しんでいるかのように高笑いし、パスは絡みついたツルを引き剥がそうと立ち上がる。


「くそったれ!」


暴言を吐きながら悶えていると、横にいたホワイトが俺の肩に触れた。
すると、木のツルは正気を失ったように一気に枯れ、身体が自由になる。


「おじさん。いきなり魔法使うなんて一体どういう事かな?」


魔法?
ホワイトはいつになく険しい表情をオッさんに向ける。


「ほー。お前、俺の魔法を打ち消したな。どういうカラクリだ?」


ホワイトは弱い魔法であれば打ち消す”能力”を持っている。
今まで出会った魔法を使える連中は魔女と呼ばれ、非常に魔力が強かったのでホワイトの能力が注目される事はなかったが、オッさんの驚いた表情を見るとホワイトも相当な実力者である事が伺えた。


「質問をしているのはこっちなんだけど?」


ホワイトの身長は4m近い。
座っていても相当な大きさだ。
オッさんも身長は小さな方ではないが、ホワイトに見下げられるオッさんは子供のようだった。


いいぞ!
ホワイト!
お前の力でそんなエロ親父潰してしまえ!


「黒き神、全空を覆い、大地を支配する者よ。我は矛。身に百首の竜を宿す... ...」


「詠唱なのか?」


オッさんは良い年こいて厨二のような呪文を唱え始める。
今まで耳にした呪文は意味が分からないものだった。
しかし、オッさんが発した言葉は意味のある文字の羅列でそれが妙に不気味に感じ、一瞬、その場の空気がひりついた。


「マモルさん! やめて!」


「... ...シルフ?」


だんまりを続けていたシルフが声を上げ、オッさんを止め、シルフと目を合わせるオッサン。


「... ...眠っ」


聞き取れない程に小さな声を口にすると、オッサンは席を立ち、そのまま、扉を開けてどこかに行ってしまった。
オッサンが魔法を使わなかった事で俺は肩の力が抜け、ゆっくりと席についた。


「... ...一体、あれは何だったんだ?」


聞き慣れない詠唱。
見たところ、オッサンは普通の人間だと思ったが、詠唱を行ったという事は魔女である事を意味する。


こんな時、魔女に詳しいレミーが居れば簡単に聞けたのに______いやいや! あいつらにはもう頼らないって決めたんだ!
ゴーレム幼女をどこかに飛ばした張本人達なんかもう、アテにするな!


心の中で断捨離を行っていると横にいたパスが再び、シルフに問う。


「シルフ? 一体、あの人は誰なんだい? 随分と親しい間柄に見えたけど?」


そう、本題はそれ。
先程、オッサンに邪魔されたから聞けなかったけどそれを聞かなければ話が進まない。
もし、シルフがオッサンに何か弱みを握られていて、あのように抱きついたりするように命じられているのだとしたら助けてやらねばいけない。
シルフの側に居てやれるのはもう、俺しか______。


「あの人は金田まもると言って、花島と同じ、異世界からこの地に来た人。そして、私の婚約者よ」


「いせ______婚約者!?」


青天の霹靂とはこの事か。
シルフの口から衝撃的な発言を同時に二つ耳にし、俺は啜っていたスープを盛大に吐き出してしまった。

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