異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第159話お母さん! 刃向かう瞳

______ヴァ二アル国______


◇ ◇ ◇
■ ■ ■


「行ける! 倒せるぞ!」


才蔵達の攻撃に防戦一方のゴーレム幼女。
才蔵は手応えを感じており、異形の獣に勝てるのでは?
と気持ちが高ぶっていた。


「あら~。ちょっとマズイかしらー?」


レミーは今の状況を見て、楽観的な様子で呟く。


「マズイ?」


こちら側がゴーレム幼女を圧倒しており、無数に繰り出される攻撃でゴーレム幼女に反撃の隙すら与えていない。
戦いを経験していないハンヌには今の状況が読めていなかった。


「イキャアア!!!」


周囲を飛び交う翅虫はむしを払うようにゴーレム幼女は雄叫びを上げる。
肌を刺すような嫌な気配を察し、才蔵たちは咄嗟に距離を取った。


「HAHAHA! お前ら何ビビッているんだ!」


「______ちょっ! トム!」


こちら側の優勢を疑っていなかったトムは他の者が距離を取ったにも関わらず、単身、ゴーレム幼女に突撃。


「go to hell!!!」


「イキャアア!!!」


トムの右ストレートは完全にゴーレム幼女の顔面を捉えた。
しかし、ゴーレム幼女は吹き飛ぶどころか、微動だにせず、瞬きすらしなかった。
赤黒くなった瞳がぎろりとトムを睨むとトムは目が合った瞬間に30mは離れた瓦礫まで吹き飛ばされ、口から血を吐き出す。


「______ぐっはっ!」


「イキャアア!!!」


戦士達は一様に足を震わせ、顔を引き攣らせた。
何故なら、今まで対峙してきた獣の雰囲気が明らかに変わったからだ。
血と泥が入り混じった金色の髪は微風を受けふわりと浮き上がり、華奢な二本の足は大地を掴むようにしっかりと立っている。
そして、先程まで赤黒かった瞳は鮮血を浴びたように赤赤と不吉を告げていた。


「おい! 化物! こっちだ!」


ゴーレム幼女の背後に金色の甲冑を身に纏い、刃こぼれが一切ないサーベルを構えたヴァ二アル・ハンヌの姿。
戦士達が戦意を削がれる中、目の前の怪物にヴァ二アル国の若き王は剣先を向ける。


「イキャアア!!!」


ゴーレム幼女は大地を揺らす叫びと共に後ろを振り返り、敵意を見せた若き王に飛びかかる。
抵抗する事も出来ずに両腕を掴まれ、地面に叩きつけられたハンヌ。


「ヒッ______!」


ハンヌは初めてゴーレム幼女の目を見て後悔した。
ああ、何故、こんな化物に私のような人間が剣を向けたのだろうかと______。
後悔先に立たずとはこの事。
ゴーレム幼女は野生の本能で敵の首元に牙を立てた。


「ハンヌ様!!!」


鈴音は悲鳴のような声を上げた。


「______kiyu llo!」


呪文と共に鈴音の背後から緑色の風のような形のないモノがゴーレム幼女とハンヌに向けて放たれ、倒れたハンヌだけを包み込んだ。
牙を立てたゴーレム幼女は無理矢理引きはがされ、奇声を発し、術者であるシルフを睨む。


「ゴーレム! あなた、いい加減にしなさい!」


腕を組み、執事やメイドに説教をするように怒るシルフ。
眉を額に寄せ、放たれた言葉には感情がこもっていた。


「イキャアア!!!」


当然、自我を失っているゴーレム幼女はシルフの言葉に聞く耳を持たず、ユラユラと歩きながらシルフの元まで近づく。


「シルフ! 逃げろ!」


ゴーレム幼女の叫び声には”威圧”の力が備わっている。
才蔵や鈴音達は身体が強張り、その場から動けなくなっていた。
エイデン、鈴音の横を禍々しい真っ黒なオーラを放つ怪物が通り過ぎ、ゴーレム幼女は瓦礫の上に立つシルフの側まで近づいてきた。
シルフはゴーレム幼女に臆することなく言葉を続ける。


「あなたは強いのでしょう!? ハンヌに操られているならそれを振り払いなさい! 大丈夫! あなたにはそれが出来る!」


ゴーレム幼女の状態を見て、シルフはハンヌの仕業だと直感的に察していた。
ハンヌは執事であるセバスや自身の父や母を殺した宿敵。
シルフは訴えを続ける。


「私たちと一緒に街を作ったりしたでしょ!? それを忘れてしまったの!? あなたが戦うべき相手は私たちじゃない! 自分自身よ!」


髪を振り、シルフは言葉に熱を込める。
しかし、ゴーレム幼女は表情も変えず、距離を詰める。


「シルフ! いけない! 早く逃げろ!」
「シルフ!」


才蔵たちが必死で声を振り絞るがシルフはその場を動こうとしない。
シルフの瞳は怯える事なく、一点を見つめ。


「殺せるもんなら殺してみなさい!」


「イキャアア!!!」


ゴーレム幼女はシルフに向けて拳を振り上げた。


          

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