異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第156話お母さん! 戦狂乱舞

「こ、攻撃が効いているのか?」


技を繰り出した才蔵は、ゴーレム幼女に自身の技が当たるとは思わず、驚いた顔を見せる。


「恐らく、あいつがあの化物の体力を削っておいてくれたんじゃないかしら?」


「あいつ?」


視線の先に見えるのは今にも地に膝を突きそうそうなレミーの姿。
ゴーレム幼女の波状攻撃によって鼻や口からは出血し、所々服が破れ、柔肌が露出し、あられもない姿をしている。


天音と結婚する事になった才蔵も少し前までは童貞。
女性に対しての免疫はまだなく、レミーの姿をみて赤面してしまうのは必然であった。


「レミー!!! 今助ける!」


「______ハンヌ様!」


勇敢な若き王は滑るように瓦礫の丘を下り、今にも倒れてしまいそうな枯れ木のようなレミーに向かって走る。
脇を通り抜けようとする金色の若獅子を止めようとゴーレム幼女は奇声を発しながら腕を伸ばすが、伸ばした腕にクナイが刺さり、ゴーレム幼女は苦痛で顔を歪ませた。


「あ、当たった?」


クナイを投げた鈴音も才蔵と同様に目を見開き、驚いた反応を見せる。
「自分達の攻撃でもあの獣にダメージを負わせることが出来る」
そう確信した戦士達は鍛錬してきた技をゴーレム幼女に向けて繰り出した。


「レミー! 大丈夫か!?」


「あらー。イイ男ね。心配してくれるの?」


「... ...レミー?」


ブラックを抱き抱えたハンヌは彼女の異変に気が付き、もう一度名前を呼んだ。


「レミーではないわー。私はブラック。レミーは私の一部なのー」


シルバーウルフの毛並みのような美しい銀色の艶のある髪、二重で大きな金色の瞳や赤子のように柔らかな白肌はレミーそのもの。
姿形、衣服、声色は同じ。
口調や雰囲気だけがレミーとは違っていた。


「レミーは無事なのか?」


「ええ。私の奥底で意識は眠って貰っているからご心配なくー」


猫なで声で顔を摺り寄せてくるブラックに困惑するハンヌ。
ただ、ここ数日で王になり、弟であるパスが翅の生えた魔族になった事など、自身の周りが目まぐるしいスピードで変化していき、彼はそれに順応するスピードが極めて早かった。
人間であるハンヌには魔法や能力という異能を持ち合わせてはいないが、物事の受入の速さは二つの異能に匹敵する力と呼べる才である。


「あの獣を倒したい。手だてはあるか?」


「やだー。その凛々しい顔も素敵ねー」


「今、君の冗談に付き合っている時間はないんだ。倒す手段を知っているなら教えて欲しい」


真っ直ぐな瞳は土煙の中でも輝きを失わず、ブラックを見つめる。


「... ...あと一発。転移魔法を使えば、あの子を別の時空に飛ばせば全てが終わる」


「そうか! じゃあ、それを______」


解決策を知ったハンヌの腕には力がこもる。


「二つ問題があるわー」


ハンヌの勢いを殺すようにブラックは話を続ける。


「一つは私の杖が折れちゃってねー。これじゃあ、転移魔法を使う事が出来ないのー。だから、ミーレから杖を借りて来てちょうだい」


双子の魔女が持つ”八首の多頭龍の首”、通称”便所の棒”は魔力を増幅させる装置のようなもの。
転移魔法は体の中に存在する魔力を一点に集め、凝縮しなければ使用する事が出来ない。
その為、便所の棒がなければいくらブラックといえども転移魔法を使用する事は不可能なこと。


『______それは僕が取ってくるよ』


ブラックの頭の中にテレパシーを使い、話しかけるヴァ二アル・パス。
ブラックも彼の言葉にテレパシーで返す。


『あらー。新米魔女さんねー。あなたに出来るのー?』


『出来る出来ないじゃないよ。やらなきゃいけないんだ』


パスの言葉には熱がこもっていた。
彼も王位継承戦やこの戦いで少しずつ成長していったのだろう。
ブラックは少年から青年になったパスの言葉を聞き、口元が緩んだ。


『素敵な心持ちねー。でも、その岩の塊はどうするつもりー?』


岩石の巨人はゴーレム幼女が集中砲火を受けているにも関わらず、意識は完全にパスにしか向いていない。
パスが下に降りようとすると岩石の巨人が行く手を阻む。
パスが杖を取りに行くよりも時間はかかるがハンヌが行く方が現実的に思えた。


『何故かさっきから岩石の巨人の動きが鈍いんだ。もしかしたら、上手く抜けられるかも!』


岩石の巨人はゴーレム幼女の魔力の力に比例して動く。
ゴーレム幼女はレミーとの戦闘により大幅に魔力を消費し、魔力がない才蔵や鈴音の物理攻撃すら喰らってしまっているほどに力が弱っている。
パスにも僅かだが魔力があり、攻め時というものを肌で感じていたに違いない。


『わかったわー。それじゃあ、そっちはあなたに任せるわー』


ブラックは電話を切るようにプツリとパスとの回線を切った。


「どうやら、あなたの弟が杖を持って来てくれるみたーい」


「何!? パスが!?」


ハンヌは自らの弟が危険な目に遭う事を想像し、一瞬取り乱す。


「あの子は強いわー。大丈夫よー」


少し前であればハンヌはパスの行動を止めていただろう。
しかし、ハンヌは弟を止める事無く、黙って空を見上げた。


「くそっ! 全然いけないよ!」


パスの動きに合わせるように岩石の巨人は長い手を振り、パスが丘まで行く事を阻止している。
動きが鈍くなったとはいえ、翅が生えて間もないパスの空中での動きは鈍く、空中をホバリングするのもやっとのこと。
これ以上、時間がかかれば丘まで行けたとしても戻ってくる体力がなくなってしまう。


「おーい!!! ヴァ二アルちゃーん!」


地上から呼ばれ、パスは声がした方向に目を向けるとそこには腕を大きく振り、パスに合図を送るホワイトの姿があった。
ホワイトは何やら口を大きく開き、何かを欲している。
少し頭を捻った後、パスは答えを導き出す。


「でもなあ... ...」


「ヴァ二アルちゃん! 急いで!」


「... ...」


みんなを救うため、背に腹は代えられない。
パスは意を決し、深呼吸をした後に口の中で大量の唾液を溜め、下にいるホワイトに向かって吐き出した。
疲れていたのか、唾液はねっとりと粘着生があり、ホワイトの口に入るまで切れる事はなく、乾燥した空に綺麗な虹が掛かった。


「______ごふっ! げっほげっほ!」


想定していたよりも唾液量が多かったのか、唾液はホワイトの気管支を詰まらせた。


「ホワイト! 大丈夫______!?」


「うん。だいじょ... ...ぶ?」


みるみるうちに身長が大きくなるホワイト。
岩石の巨人の腰、胸、頭に匹敵するほどに身長が増していき、遂には岩石の巨人よりも頭一つ大きくなってしまった。
突然現れた巨大な生物に岩石の巨人もチラリと見る。


「ヴァ二アルちゃん! 今だよ!」


大きくなったためか、ホワイトの声は野太く低い声になった。
岩石の巨人の興味が初めてパスから別に移った。
これはまたとない好機。
ホワイトの声に従い、パスはホワイトの後ろをすり抜ける。


「おっと! あなたの相手は私なんだよ!」


岩石の巨人はすり抜けるパスを打ち落とそうと腕を振り上げるが、ホワイトによって止められ、そのまま、押し倒された。
下にあった家々は粉々に砕け、大量の砂が空に舞う。
戦地から脱出したパスは一瞬、後ろを振り返ったが、事態は急を要するもの。
感傷に浸る余裕などありもせず、ミーレが待つ丘まで翅を動かした。



______マンティコアの瞳内部______


◇ ◇ ◇
■ ■ ■


「シルヴィア... ...。お前、何を... ...」


腹を抉られるような痛みがし、目線を落とすと右の脇腹のあたりに赤い宝石のようなものが埋め込まれていた。


「私はここでレインやお爺様と一緒に消える運命。だけど、花島。あなたは違うわ」


目線を落とし、先程までキーキーとうるさい声のトーンだったが、急に落ち着いた口調になった。


「シルヴィア... ...」


別れのような言葉を言った後、シルヴィアは不自然なほどに分かりやすい笑顔を浮かべた。
勘の良い人間でなくてもその笑顔は本心ではない事は窺い知れた。

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