異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第145話お母さん! ゴーレム幼女の過去④

______三ヶ月後。


クックの生産する魔銃や魔爆などの魔具により、聖リトラレル王国の軍事力は強化され、リトラレル王は国土をより一層広げていき、海を越えた先にある国々にも徐々に認知されていった。


レインは相も変わらず戦場では恐れられ、”最悪の魔女”が歩く所は草木一本残らないという噂も流れるほど。
住民や仲間の兵も彼女に畏怖いふしていた。


「おい! レイン! どこにいる!?」


魔銃を大量生産する為にクックの家の脇に大きな製鉄所のような小屋が作られ、朝~深夜までそこに籠り、殺人兵器を日夜生み出している。
当然、食事などの家事を行う時間も術もなく、レインはクックの専属メイドのような立ち位置となっていた。


「台所だ!!! ったく、何故、私がこんなことを... ...」


レインは暖炉に薪をくべ、食事の支度を行いながら自身の不遇を吐露。
”最悪の魔女”と戦場で恐れられるレインのエプロン姿を誰が想像するだろうか。
クックが作ったというエプロンは前掛というよりもフリルが付いたメイド服のような趣向を凝らしたものであった。


「こっちに来てくれ!」


「今、手が離せない! 後にしてくれ!」


「いいから早く来い!」


「無理だ!」


このようなやり取りが数回続き、クックが全く聞く耳を持たない為、レインは食卓の上にサラダを置き、作業小屋に向かった。



______作業小屋______



作業小屋に入ると、暗がりから人影が見え、レインは頭の中で敵を倒す術を3つ考え、何が来ても良いように身構えた。


「おいおい。殺気が駄々洩れだぞ」


「... ...なんだ、喋るトドか」


「あ? お前、トド見たことないだろ? 知ったかぶりすんなよ」


「トドくらい家の庭にいたわ。そっちこそ、トド知らないだろ? アザラシとトドの区別もつかないだろ?」


「分かるわ! でっけえ茶色か、ちっさい茶色で俺は見分けてるけどね!」


「あさっ。お前、本当に人間か? で、何の用だ?」


レインとクックはこの三ヶ月の間でグッと距離を縮め、レインも徐々に心を開き、今では冗談交じりの会話をするようになっていた。


「あ、ああ。とっておきのを作ってな」


「とっておき?」


クックは近くにあった蠟燭ろうそくに火を点け、麻布で覆った何かを照らす。
クックの腰ほどの高さであり、レインと同じ背丈を持つものは魔銃や魔爆とは違うものだと直感したのだろうか。
レインは腕を組み、布が取られる瞬間を待った。


「これだ!」


勢い良く布を取ったことでホコリが舞い、レインはゴホゴホと咳き込み、目を赤くした。


「くっ! 掃除くらいし______何だそれ?」


文句を言いながら、目の前に現れた人の形をした黒い鉄の塊を見て、目を丸くする。


「泣いて喜べ! こいつは天才魔術師と呼ばれた俺が作った、レイン専用の鎧だ!」


「鎧?」


「ああ! 魔弾ぐらいじゃ何発受けてもビクともしねえ! ガハハハッ!」


鎧の頭をゴツゴツとした男くさい手で叩きながら、クックは大きな口を開け、満足気に笑った。
言葉には出さないが、クックは自分の世話をしてくれているレインに感謝をしていた。
これは彼なりの日頃からの感謝の気持ちを込めた無骨なプレゼントであったのだろう。


「何か、カッコ悪い」


「ガハハ______ん?」


椅子の上に置かれた鎧の周囲をぐるっと回り、彫刻品を見定める幼き貴婦人の感想を受け、製作者である老人は言葉を失う。


「重たそうだし、動きずらそうだし、窮屈そう」


「そりゃ、鎧だからなぁ... ...。でも、中は意外と快適だぜ」


クックが鎧の頭部にある目玉のように光る二つの魔石を押すと、鎧がミイラの棺桶が開くように中央から割れた。
鎧の中にはクッション材代わりに麻布が敷かれ、無数の魔石が内側に貼られている。
蝋燭の火に照らされた赤、青、紫、緑、黄色の魔石は命を持つ生命体のように点滅している。


「... ...落ち着かなそう」


レインは煌びやかな魔石を見て、そう呟く。


「これはオシャレの為の魔石じゃないぞ。この鎧は生命維持装置の役割もしている。赤の魔石は”暖かさ”、青は”冷たさ”、紫は”魔力”、緑は”風”、黄色は”光”を生み出す。学校で習ったろ?」


「学校なんて行ってないから分からない」


「... ...そうか」


魔石を活用した自身の発明品を褒めて貰おうにもレインには魔石の知識がない。
五大魔法を活用した英知の結晶体である鎧の凄みを見せても、教養が無いレインの心には響かなかった。


「あ、これ」


現代芸術家の作るエキセントリックな作品を見るかのような表情だったレインは鎧の頭部に埋め込まれた、青く一際光を放つ魔石に手を伸ばす。


「触っちゃイカン!」


次の瞬間、クックの怒号が飛び、初めて聞く、クックの声のトーンにレインは体を強張らせた。


「す、すまん」


いつになく怯えた表情を見せるレインに謝罪をするが、レインはソッとその場を去ってしまった。





          

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品