異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第141話お母さん! ハンヌの正体とシュタイナー・レイン

「ヴァニアル・クックって全日本アームレスリング大会で優勝したあのヴァニアル・クックか?」


「にいちゃん? そういうのいいから... ...」


大変だ。
明らかに呆れ顔をしている。
俺の愛嬌もこの状況では場違いだったようだ。
咳払いを一つし、場を仕切り直すとするか。


「で、数百年前の魔術師が突然どうしたよ?」


質問を投げかけたところでヴァニアル・クックはため息をつきながら腰を落とし、俺にも座るように手をクイクイと動かす。


「魔術師じゃない。大魔術師だ。俺に作れないものはないからな」


いの一番に発した言葉はとても下らない事だった。
”大”とかどうでもいい事に固執するので目の前の老人が本当に凄い人なのか疑心暗鬼に駆られる。


「どっちでも良いよ。その魔術師が俺に何の用? それと、ゴーレム幼女を救えるなら早く救ってくれよ。それと、腹減ったから魔術で飯出してよ」


要望を言いすぎてしまった為か、ヴァニアル・クックは額に青筋を浮かべながら。


「にいちゃん。自分で何とかしようとは思わんのか?」


と親のような口ぶり。


「うん。俺、他力本願だから。オジサンも俺の中にずっと居たんだから良くわかるだろ?」


鼻を高くしながら胸を張る俺の姿を見て、「こいつに何を言ってもダメだな」と諦めたのか、渋い顔を浮かべた後にヴァ二アル・クックは襟を正し、重々しく口を開く。


「俺にレインを救う事は出来ない。恐らく、誰にも救う事はもう出来ない」


胡坐を掻きながら口髭を触るヴァ二アル・クックの言葉は爺さんの姿も相まってか、より一層、弱々しく感じた。
ヴァ二アル・クックは自身を大魔術師と言ったが、恐らくそれは過去の事で今はそれほど力がないのだろう。
魔力というものを老体から僅かしか感じる事が出来ない。


「それにしても、何故、ゴーレム幼女... ...。いや、あの獣は操られたんだ? こんな事をするのはこの世界にはあいつしかいないが、それは倒したはずじゃあ... ...」


俺は出掛かったゴーレム幼女という言葉を避け、獣と言い換えた。
頭の中ではあの獣の正体がゴーレム幼女だったというのは既に認知している。
だが、それを言葉として発するのは抵抗があり、ヴァ二アル・クックは現実を直視しようとしない俺に何も言う事はしなかった。


「まず、操られたという認識が間違っているな。レインは感染したんだ。ハンヌというウイルスに」


「感染? ウイルス?」


「ああ。繰り返すが、ハンヌは人じゃない。正確には様々な人間の意識が集合したモノ。そうだな... ...。”精神思念体”とでも言っておこうか」


人の意識が集合?
精神思念体?
予想していなかった事を言われ、頭の中はプチパニック状態。
ただ、病気のようなものであればゴーレム幼女を救えるのでは?
という淡い期待が心に宿る。


「病気ならあの獣を救えるんじゃ___」


「__だから言ったろ。それは無理だ」


ヴァ二アル・クックは言葉を遮り、現実を受け入れきれない俺に対して苛立っているようだった。


「万に一つ、レインを救えたとしても自我を保っている事は出来ないだろう。喋る事も動く事も思考する事も出来ない方が可哀想だとは思わないか?」


「それは... ...」


ヴァ二アル・クックの言葉に言い返す事が出来なかった。
ゴーレム幼女の尊厳を保つ為、ヴァ二アル・クックは死という選択をしている。
それは妥当な考えであり、多くが賛同するに違いない。
だが、俺の勘ではゴーレム幼女は死を望んでいない。
天から垂らされた一本の綱に必死にしがみついているように感じ、ヴァ二アル・クックの提案を受け入れる事は出来なかった。


『怖いみそ... ...。暗いみそ... ...。誰か助けてみそ... ...』


先程から室内に響き渡るゴーレム幼女のすすり泣く声にヴァ二アル・クックは眉をひそめ。


「兄ちゃん。レインも早く楽になりたがっている。頼む... ...」


ヴァ二アル・クックは辛辣な表情を浮かべた直後、頭を下げる。
その姿からは大魔術師の威厳や貫禄はなかった。
先程から俺の中には一つの疑念がある。
それはヴァ二アル・クックが何故、ゴーレム幼女にここまで干渉するのかということ。


「もしかして、あんたはゴーレム幼女の父親なのか?」


ゴーレム幼女は自身の父親は死んだと言っていた。
その父親は実はヴァ二アル・クックで魂となった現在でも現世に存在している事も考えられる。
魔法や精神思念体なんて非現実的なモノも存在する世界。
幽霊がいてたとしても何も驚かない。
しかし、ヴァ二アル・クックは首を横に振り、父親である事を否定。


「じゃあ、兄弟? 親戚?」


矢継ぎ早に質問を投げかけるが、ヴァ二アル・クックが首を縦に振る事はなかった。
では、関係のない他人なのだろうか?
次の質問をしようとした時、ヴァ二アル・クックはおもむろに着ていたコートの前を開き、胸の中央に埋め込まれた青白く光輝く鉱物のようなものを見せてきた。
鉱物は夜空に輝く一番星のように暗闇をひっそりと照らし、まるで、ヴァ二アル・クックの心臓に寄生する虫のようだった。
そして、鉱物にはびっしりと何か文字のようなものが刻まれていた。


「おい... ...。なんだそれ... ...」


「”マンティコアの瞳”死者を甦らせる魔具であり、レインを動かす核だ」


「ゴーレム幼女を動かす? __それって」


「ああ。レインは既に死んでいる」


ヴァ二アル・クックの心臓に呼応するようにマンティコアの瞳と呼ばれる魔具は微かに脈打ちながら不規則に発光している。
その光景はまるで、ゴーレム幼女が俺に語りかけているかのようだった。

          

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