異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。
第129話お母さん! 第五回戦は3ON3!⑪完
得点板には17:17語呂が良い数字が羅列されている。
2Pシュート×2
1Pシュート×4
を入れてしまえば、この長かったようで短い試合は終わり、その勝者が王位継承権を得る。
ただ、荷が重いと考えてはいけない。
俺はただ、この試合に勝つ事だけを考えて行動すればいい... ...。
「花島。あいつら、また、オールコートで当たってくるつもりね」
天音は不安を顔に浮かべる。
「天音。ここまで来たんだ。試合を楽しもう」
相手がどんな魔法をどんな時に使うなんて考えてもしょうがない。
来るものは来るし、来ないものは来ない。
俺達は前に進むだけ。
だったら、先ずは試合を楽しんだ者勝ちだ。
「ええ。そうね」
彼女も色々と深く考えていたに違いない。
俺の発言を聞いて、天音は目元にシワを寄せて無邪気に笑った。
ゴール下から先程と同じような構図で天音は俺にパスを出し、俺が受け取る瞬間、鈴音はそこを狙っているに違いない。
二度同じ手を喰らわぬように俺は反対サイドにいたホワイトをこちらサイドまで呼んだ。
これにより、天音は俺かホワイトどちらにでもパスを出す事が可能になり、スティールされる確率がグッと低くなった。
「お前さ? バカだろ? あの巨人はゴール下以外じゃ役立たずでしょ?」
鈴音はどうも俺の作戦を勘違いしているようだ。
ホワイトを自陣まで来させたのは理由がある。
数秒後、鈴音はそれを知るだろう。
「天音!」
俺の掛け声と共に天音はホワイトにパスを出す。
「あいつはドリブルを突けない。つまり、パスしか選択肢は残されていない。だったら、パスを出せないようにあんたと天音を守ればいいさ」
鈴音とミーレはパスコースを完全に塞ぐ。
「バスケはパスやドリブル以外よりももっと重要な事があるだろ?」
「なに?」
俺の発言に鈴音は顔を曇らせ、俺は次の瞬間に。
「ホワイト!!! 思いっきり、ぶん投げろ!」
と大声で指示。
「___えい!」
ホワイトはまるでハンマー投げのようにサイドからボールを射出。
ボールは真っ直ぐ飛ばずにゴールから大きく反れる。
「アハハ! 下手クソね!」
鈴音は指を差して笑った。
「いや、これでいい」
「___え?」
大きく反れたボールは直角に軌道を変え、ゴールに向かう。
「なに!? 軌道が!?」
俺達に残された魔法使用は残り二回。
そして、2Pシュートを二回決めればこの試合は終了する。
ここで魔法を使わない手はない。
シルフは回復魔法などの他に風を操る魔法が得意だ。
なので、ホワイトが適当に放ったボールの軌道を変えるのなんて朝飯前。
先程、ヴァ二アルの体液の服用が能力使用と認められのを聞き、外野が魔法を使う事はルール上問題ないのは認識済み。
後はどこでそれを使うか悩みどころではあった。
「さあ、お前らも使えよ。魔法」
「___くっ!」
ここで魔法を使わなければ間違いなく2点を献上する事になる。
鈴音はそれを阻止するために魔法を使うか、自らの得点の為に使用するか考えを蟻の巣のように幾重にも頭の中で張り巡らしているに違いない。
「1... ...。2... ...。3... ...」
焦る鈴音に俺はカウントダウン。
「ミーレ!!! ボールを止めなさい!」
耐え切れずに鈴音はミーレに指示。
ミーレはそれに従い、先程と同じようにゴールをうんと小さくし、ボールがリングを通過する事を妨害した。
______ガン!
案の定、ボールはゴールリングに嫌われる。
「これで何とか______あれ!?」
鈴音が気付いた時には時すでに遅し。
俺は弾かれたボールを手中に収めていた。
「残念だったな。シルフの魔法はあくまで囮。これが狙いだ」
シルフの魔法だって万能ではない。
今回のルールではボールに危害を加える事は禁じられている。
なので、魔法でボールを操る事は不可能。
風で軌道を変えるのだってギリギリだったはずだ。
そんな状況で軌道を変えたボールを正確にゴールさせることが普通に考えれば出来る訳がないだろう?
シルフは軌道を変えただけであって、ゴールするなんて鼻から考えていなかったのさ。
こちらが魔法を使った事で冷静な判断力を失ったお前が悪いのだよ。
鈴音。
俺は足元を確認することなく、ボールを放り、それは気持ちの良い音を立ててネットを通過。
「うわははは!!! あと二点!!!」
「くそくそくそ!!!」
鈴音はむき出しになった感情をコートにぶつける。
ただ、時間も残り少ない。
鈴音は急いで自陣に戻り、体勢を整える。
鈴音から見ると俺達はハーフコートディフェンスで自らの攻めを待ち構えているように見えるだろう。
そして、鈴音は思うのだ「第三ピリオドは捨てて、第四ピリオドで作戦を立てて仕切り直す」と。
ただ、それは弱者の考え。
強者として長年君臨してきた鈴音が正常な思考状態であればそう考えるはずがない。
だが、今は状況が悪い。
きっと、彼女は自ら悪い方向に進む。
鈴音はゴール下でボールを審判から受け取り、いつも通り、ミーレにパスを出して試合を再開するつもりだろう。
ただ、彼女は振り返った瞬間に必ず目の前の光景に困惑する。
「______!? は!?」
ほらね。
言った通りだ。
そして、次に言うのは「どっちが本物だ!?」と言うに決まっている。
「どっちが本物だ!?」
ハーフコート上には本物のミーレとシルフの変異魔法でミーレに変身した俺の姿。
この魔法を制限されたルールの中でボールへの使用と人体に対しての使用は禁止されている。
だが、それは対戦相手には使用してはいけない。
という事だ。
味方への使用は認可されたこと。
バスケには5秒ルールというものが存在する。
審判からボールを受け取ってから5秒以内にスローインでパスを出さなくてはいけない。
5秒というのは短い。
まして、チームメイトと同じ姿をした者が二人いるなんて想定もしていなかっただろう。
どっちが本物だと鈴音は疑心暗鬼にかられている。
そして、俺が沈黙を続ける中、ミーレがこの状況で言ってはいけない言葉を発する。
「鈴音! 私が本物だよ!」
あーあ。
言っちゃった。
次の瞬間に鈴音はニヤリと微笑み。
「そんな虚言誰が信じるか!!!」
そう言うと鈴音は偽物のミーレの胸元にノーバウンドでパスを出す。
「お! ナイスパス!」
俺はそれを受け取り、シュートの構え。
「______!? 花島!?」
鬼のような形相でこちらに迫る鈴音。
俺のシュートをブロックしようと腕をいっぱいに伸ばす。
「そんなあからさまに... ...」
鈴音が俺のシュートを必死でブロックしようとする事も想定済みだ。
俺はシュートと見せかけ、後ろにパスを出す。
パスを受け取ったのはもちろん天音だ。
「天音! 決めろ!!!」
「やめろおおおお!!!」
天音は2pラインギリギリの場所からシュートを放つ。
それは今までのどのシュートよりも美しく弧を描き、吸い込まれるようにしてゴールネットを揺らした。
____パスッ!
トン... ...。
トン... ...。
綺麗なバックスピンがかかったボールは天音の胸元まで戻り、天音はそれをガシッと掴んで。
「花島... ...。やったね!」
次の瞬間、地鳴りのような歓声が場内を包んだ。
____わあああ!!!!!
ホワイトやベンチに居た皆もこちらに駆け寄って来て、俺と天音の労をねぎらう言葉を次々に掛ける。
「花島! 天音! やったよ! 勝っちゃった!」
「お、俺、感動したぞ!!!」
「やったな!」
シルフの姿を探すがこの円の中にはいない。
視線をベンチに向けると魔法を連続で使った事で疲弊してしまったのか、ベンチの椅子に仕事終わりのサラリーマンのようにもたれ掛かっていた。
「くそくそくそ!!!」
俺達が黄色い声を上げる中、鈴音は悔しさを爆発させていた。
彼女からしてみればきっと勝てる試合だったのだろう。
だが、それは鈴音からしてみれば。
俺からしてみれば仲間を信じていない奴が俺達に勝てるはずがないと思っていた。
別に俺は性格が腐っている訳ではないからいちいち口には出さないけど、鈴音の敗因を挙げるとすればコミュニケーション不足と言うしかない。
だって、ミーレの性格を知っていたらあいつがあの状況で「私が本物!」って言うに決まってるもん。
まあ、ミーレ相手だから変異魔法を使った作戦を思いついたんだけどさ。
大きな歓声の中、一際大きな音で拍手する者が一人。
音の方向に目を向けると普段見ることがないような満面の笑みを浮かべた半袖丸の姿がそこにはあった。
「パス陣営の皆さん! 素晴らしい試合を見せてくれてありがとう!」
なんだ?
俺達の好プレーに心打たれたって訳?
いいや。
こいつはそんな熱血漢ではない。
きっと必ず言葉の裏があるはずだ。
半袖丸の言葉に場内は真冬の体育館のように静まり返る。
彼の様子がおかしな事は会場にいる人間からしてみれば分かりやすかったのだろう。
「ただ、残念な事実を皆様にお伝えしなくてはなりません!」
闘技場内の半袖丸にスポット照明のように観客達の視線は向けられる。
自身に注目が集まって嬉しい目立ちがり屋なのか、半袖丸は微笑を浮かべる。
あいつはここを自身のオンステージだと勘違いしている。
てめえ引っ込め!
と早く誰か野次を飛ばしてくれ。
ただ、俺の気持ちとは逆を行くように次の半袖丸の発言で彼は観客達の注目を確かなものとする。
「そこのパス王子は実は人間ではない! 魔族なのです!」
いや、そんなのみんな知っているだろ?
「ま、魔族だと!?」
「俺達の王は魔女の手下だってのか!?」
「嘘だろ!?」
観客達は驚きを隠せない様子。
むしろ、中には怒り心頭の輩もいた。
っうか、ヴァ二アルが魔族って周知の事実じゃなかったのか??
「やはり、パス様は人ではなかったのか... ...」
才蔵は遠い目でポツリと呟く。
「しかも! 皆様! 目の前のパス王子の格好を見て下さい! 彼は男のくせに女のような服装で女性のようなふくよかな胸を持ち、妖艶な雰囲気を醸し出している! しかし、彼にはちゃんと男の象徴が股の下に付いているのです!」
半袖丸がヴァ二アルについて語る最中、鈴音がヴァ二アルの懐に潜りこみ、胸に巻いたサラシごと小刀で服を一刀両断するとヴァ二アルの裸体が露わになる。
女性的な撫で肩で腰にクビレがあり、出る所は出ている体型にも関わらず、股の下には男性の象徴とも言える部位があり、尻の割れ目の上の部分からは人間や他の種族には生えていない尻尾がある。
ヴァ二アルはこれが本当の自分だと言わんばかりに胸元や下腹部を手で覆ったりはせず、威風堂々とその場に立ち尽くす。
「... ...魔女だ」
「最悪の魔女だ... ...」
「男と女の両性を持つ魔族... ...。伝説と一緒だ」
静まり返った観客達の中から降り始めの雨のようにポツリポツリと魔女というワードが出始め、徐々にそれは豪雨のように大きな塊となってヴァ二アルを攻撃する言葉に変わり、同時に物も場内に投げ込まれる。
ヴァ二アルは何も言わずにそれをジッと見ていた。
「皆様! 静粛に! 大丈夫! 私達にはハンヌ王子___いや! 新たな国王がついている! 私達は魔女などには屈しない!!!」
半袖丸の声に呼応する観客達。
半袖丸の脇にいるヴァ二アルの兄。
ヴァ二アル・ハンヌは青ざめた表情で弟を見ている。
このショーがハンヌの指示で行われていないという事は彼をよく知らない俺から見てもよく分かった。
ヴァ二アルもそれは分かっているのだろう。
彼は何故か兄に向かって微笑みを見せた。
「何を言っているのよ!? ヴァ二アルは魔法でこんな姿に一時的になっているだけよ! それをいいように下らない伝説と結びつけないで!」
シルフが感情的になり、民衆達に向かって叫ぶが彼女の声に耳を傾ける者などいなかった。
シルフは唇をグッと噛み、この状況を作ったハンヌ陣営に右の掌を向け。
「Defoe en  rec... ...」
「やめろ!」
シルフが何かしらの魔法をハンヌ陣営に打ち込もうとしていた。
そして、それをエイデンが止めた。
「離して! あいつら許さない!」
シルフは恐らく、殺傷力がある魔法を打ち込む気だったはずだ。
彼女の目はセバスの亡骸を抱いていた時と同じで憎悪に囚われているようだった。
「人を殺せば人でなくなる。それはただの獣である」
獣人であるエイデンは同胞に語りかけるようにシルフに言葉をかける。
人ではない種族として通じるものがあるからか、シルフは落ち着きを取り戻し、上げた腕をゆっくりと下ろした。
「ヴァ二アルちゃん。風邪引くよ」
ホワイトは裸になったヴァ二アルに布を被せ、俺達は後ろ指を指されながら会場を後にした。
2Pシュート×2
1Pシュート×4
を入れてしまえば、この長かったようで短い試合は終わり、その勝者が王位継承権を得る。
ただ、荷が重いと考えてはいけない。
俺はただ、この試合に勝つ事だけを考えて行動すればいい... ...。
「花島。あいつら、また、オールコートで当たってくるつもりね」
天音は不安を顔に浮かべる。
「天音。ここまで来たんだ。試合を楽しもう」
相手がどんな魔法をどんな時に使うなんて考えてもしょうがない。
来るものは来るし、来ないものは来ない。
俺達は前に進むだけ。
だったら、先ずは試合を楽しんだ者勝ちだ。
「ええ。そうね」
彼女も色々と深く考えていたに違いない。
俺の発言を聞いて、天音は目元にシワを寄せて無邪気に笑った。
ゴール下から先程と同じような構図で天音は俺にパスを出し、俺が受け取る瞬間、鈴音はそこを狙っているに違いない。
二度同じ手を喰らわぬように俺は反対サイドにいたホワイトをこちらサイドまで呼んだ。
これにより、天音は俺かホワイトどちらにでもパスを出す事が可能になり、スティールされる確率がグッと低くなった。
「お前さ? バカだろ? あの巨人はゴール下以外じゃ役立たずでしょ?」
鈴音はどうも俺の作戦を勘違いしているようだ。
ホワイトを自陣まで来させたのは理由がある。
数秒後、鈴音はそれを知るだろう。
「天音!」
俺の掛け声と共に天音はホワイトにパスを出す。
「あいつはドリブルを突けない。つまり、パスしか選択肢は残されていない。だったら、パスを出せないようにあんたと天音を守ればいいさ」
鈴音とミーレはパスコースを完全に塞ぐ。
「バスケはパスやドリブル以外よりももっと重要な事があるだろ?」
「なに?」
俺の発言に鈴音は顔を曇らせ、俺は次の瞬間に。
「ホワイト!!! 思いっきり、ぶん投げろ!」
と大声で指示。
「___えい!」
ホワイトはまるでハンマー投げのようにサイドからボールを射出。
ボールは真っ直ぐ飛ばずにゴールから大きく反れる。
「アハハ! 下手クソね!」
鈴音は指を差して笑った。
「いや、これでいい」
「___え?」
大きく反れたボールは直角に軌道を変え、ゴールに向かう。
「なに!? 軌道が!?」
俺達に残された魔法使用は残り二回。
そして、2Pシュートを二回決めればこの試合は終了する。
ここで魔法を使わない手はない。
シルフは回復魔法などの他に風を操る魔法が得意だ。
なので、ホワイトが適当に放ったボールの軌道を変えるのなんて朝飯前。
先程、ヴァ二アルの体液の服用が能力使用と認められのを聞き、外野が魔法を使う事はルール上問題ないのは認識済み。
後はどこでそれを使うか悩みどころではあった。
「さあ、お前らも使えよ。魔法」
「___くっ!」
ここで魔法を使わなければ間違いなく2点を献上する事になる。
鈴音はそれを阻止するために魔法を使うか、自らの得点の為に使用するか考えを蟻の巣のように幾重にも頭の中で張り巡らしているに違いない。
「1... ...。2... ...。3... ...」
焦る鈴音に俺はカウントダウン。
「ミーレ!!! ボールを止めなさい!」
耐え切れずに鈴音はミーレに指示。
ミーレはそれに従い、先程と同じようにゴールをうんと小さくし、ボールがリングを通過する事を妨害した。
______ガン!
案の定、ボールはゴールリングに嫌われる。
「これで何とか______あれ!?」
鈴音が気付いた時には時すでに遅し。
俺は弾かれたボールを手中に収めていた。
「残念だったな。シルフの魔法はあくまで囮。これが狙いだ」
シルフの魔法だって万能ではない。
今回のルールではボールに危害を加える事は禁じられている。
なので、魔法でボールを操る事は不可能。
風で軌道を変えるのだってギリギリだったはずだ。
そんな状況で軌道を変えたボールを正確にゴールさせることが普通に考えれば出来る訳がないだろう?
シルフは軌道を変えただけであって、ゴールするなんて鼻から考えていなかったのさ。
こちらが魔法を使った事で冷静な判断力を失ったお前が悪いのだよ。
鈴音。
俺は足元を確認することなく、ボールを放り、それは気持ちの良い音を立ててネットを通過。
「うわははは!!! あと二点!!!」
「くそくそくそ!!!」
鈴音はむき出しになった感情をコートにぶつける。
ただ、時間も残り少ない。
鈴音は急いで自陣に戻り、体勢を整える。
鈴音から見ると俺達はハーフコートディフェンスで自らの攻めを待ち構えているように見えるだろう。
そして、鈴音は思うのだ「第三ピリオドは捨てて、第四ピリオドで作戦を立てて仕切り直す」と。
ただ、それは弱者の考え。
強者として長年君臨してきた鈴音が正常な思考状態であればそう考えるはずがない。
だが、今は状況が悪い。
きっと、彼女は自ら悪い方向に進む。
鈴音はゴール下でボールを審判から受け取り、いつも通り、ミーレにパスを出して試合を再開するつもりだろう。
ただ、彼女は振り返った瞬間に必ず目の前の光景に困惑する。
「______!? は!?」
ほらね。
言った通りだ。
そして、次に言うのは「どっちが本物だ!?」と言うに決まっている。
「どっちが本物だ!?」
ハーフコート上には本物のミーレとシルフの変異魔法でミーレに変身した俺の姿。
この魔法を制限されたルールの中でボールへの使用と人体に対しての使用は禁止されている。
だが、それは対戦相手には使用してはいけない。
という事だ。
味方への使用は認可されたこと。
バスケには5秒ルールというものが存在する。
審判からボールを受け取ってから5秒以内にスローインでパスを出さなくてはいけない。
5秒というのは短い。
まして、チームメイトと同じ姿をした者が二人いるなんて想定もしていなかっただろう。
どっちが本物だと鈴音は疑心暗鬼にかられている。
そして、俺が沈黙を続ける中、ミーレがこの状況で言ってはいけない言葉を発する。
「鈴音! 私が本物だよ!」
あーあ。
言っちゃった。
次の瞬間に鈴音はニヤリと微笑み。
「そんな虚言誰が信じるか!!!」
そう言うと鈴音は偽物のミーレの胸元にノーバウンドでパスを出す。
「お! ナイスパス!」
俺はそれを受け取り、シュートの構え。
「______!? 花島!?」
鬼のような形相でこちらに迫る鈴音。
俺のシュートをブロックしようと腕をいっぱいに伸ばす。
「そんなあからさまに... ...」
鈴音が俺のシュートを必死でブロックしようとする事も想定済みだ。
俺はシュートと見せかけ、後ろにパスを出す。
パスを受け取ったのはもちろん天音だ。
「天音! 決めろ!!!」
「やめろおおおお!!!」
天音は2pラインギリギリの場所からシュートを放つ。
それは今までのどのシュートよりも美しく弧を描き、吸い込まれるようにしてゴールネットを揺らした。
____パスッ!
トン... ...。
トン... ...。
綺麗なバックスピンがかかったボールは天音の胸元まで戻り、天音はそれをガシッと掴んで。
「花島... ...。やったね!」
次の瞬間、地鳴りのような歓声が場内を包んだ。
____わあああ!!!!!
ホワイトやベンチに居た皆もこちらに駆け寄って来て、俺と天音の労をねぎらう言葉を次々に掛ける。
「花島! 天音! やったよ! 勝っちゃった!」
「お、俺、感動したぞ!!!」
「やったな!」
シルフの姿を探すがこの円の中にはいない。
視線をベンチに向けると魔法を連続で使った事で疲弊してしまったのか、ベンチの椅子に仕事終わりのサラリーマンのようにもたれ掛かっていた。
「くそくそくそ!!!」
俺達が黄色い声を上げる中、鈴音は悔しさを爆発させていた。
彼女からしてみればきっと勝てる試合だったのだろう。
だが、それは鈴音からしてみれば。
俺からしてみれば仲間を信じていない奴が俺達に勝てるはずがないと思っていた。
別に俺は性格が腐っている訳ではないからいちいち口には出さないけど、鈴音の敗因を挙げるとすればコミュニケーション不足と言うしかない。
だって、ミーレの性格を知っていたらあいつがあの状況で「私が本物!」って言うに決まってるもん。
まあ、ミーレ相手だから変異魔法を使った作戦を思いついたんだけどさ。
大きな歓声の中、一際大きな音で拍手する者が一人。
音の方向に目を向けると普段見ることがないような満面の笑みを浮かべた半袖丸の姿がそこにはあった。
「パス陣営の皆さん! 素晴らしい試合を見せてくれてありがとう!」
なんだ?
俺達の好プレーに心打たれたって訳?
いいや。
こいつはそんな熱血漢ではない。
きっと必ず言葉の裏があるはずだ。
半袖丸の言葉に場内は真冬の体育館のように静まり返る。
彼の様子がおかしな事は会場にいる人間からしてみれば分かりやすかったのだろう。
「ただ、残念な事実を皆様にお伝えしなくてはなりません!」
闘技場内の半袖丸にスポット照明のように観客達の視線は向けられる。
自身に注目が集まって嬉しい目立ちがり屋なのか、半袖丸は微笑を浮かべる。
あいつはここを自身のオンステージだと勘違いしている。
てめえ引っ込め!
と早く誰か野次を飛ばしてくれ。
ただ、俺の気持ちとは逆を行くように次の半袖丸の発言で彼は観客達の注目を確かなものとする。
「そこのパス王子は実は人間ではない! 魔族なのです!」
いや、そんなのみんな知っているだろ?
「ま、魔族だと!?」
「俺達の王は魔女の手下だってのか!?」
「嘘だろ!?」
観客達は驚きを隠せない様子。
むしろ、中には怒り心頭の輩もいた。
っうか、ヴァ二アルが魔族って周知の事実じゃなかったのか??
「やはり、パス様は人ではなかったのか... ...」
才蔵は遠い目でポツリと呟く。
「しかも! 皆様! 目の前のパス王子の格好を見て下さい! 彼は男のくせに女のような服装で女性のようなふくよかな胸を持ち、妖艶な雰囲気を醸し出している! しかし、彼にはちゃんと男の象徴が股の下に付いているのです!」
半袖丸がヴァ二アルについて語る最中、鈴音がヴァ二アルの懐に潜りこみ、胸に巻いたサラシごと小刀で服を一刀両断するとヴァ二アルの裸体が露わになる。
女性的な撫で肩で腰にクビレがあり、出る所は出ている体型にも関わらず、股の下には男性の象徴とも言える部位があり、尻の割れ目の上の部分からは人間や他の種族には生えていない尻尾がある。
ヴァ二アルはこれが本当の自分だと言わんばかりに胸元や下腹部を手で覆ったりはせず、威風堂々とその場に立ち尽くす。
「... ...魔女だ」
「最悪の魔女だ... ...」
「男と女の両性を持つ魔族... ...。伝説と一緒だ」
静まり返った観客達の中から降り始めの雨のようにポツリポツリと魔女というワードが出始め、徐々にそれは豪雨のように大きな塊となってヴァ二アルを攻撃する言葉に変わり、同時に物も場内に投げ込まれる。
ヴァ二アルは何も言わずにそれをジッと見ていた。
「皆様! 静粛に! 大丈夫! 私達にはハンヌ王子___いや! 新たな国王がついている! 私達は魔女などには屈しない!!!」
半袖丸の声に呼応する観客達。
半袖丸の脇にいるヴァ二アルの兄。
ヴァ二アル・ハンヌは青ざめた表情で弟を見ている。
このショーがハンヌの指示で行われていないという事は彼をよく知らない俺から見てもよく分かった。
ヴァ二アルもそれは分かっているのだろう。
彼は何故か兄に向かって微笑みを見せた。
「何を言っているのよ!? ヴァ二アルは魔法でこんな姿に一時的になっているだけよ! それをいいように下らない伝説と結びつけないで!」
シルフが感情的になり、民衆達に向かって叫ぶが彼女の声に耳を傾ける者などいなかった。
シルフは唇をグッと噛み、この状況を作ったハンヌ陣営に右の掌を向け。
「Defoe en  rec... ...」
「やめろ!」
シルフが何かしらの魔法をハンヌ陣営に打ち込もうとしていた。
そして、それをエイデンが止めた。
「離して! あいつら許さない!」
シルフは恐らく、殺傷力がある魔法を打ち込む気だったはずだ。
彼女の目はセバスの亡骸を抱いていた時と同じで憎悪に囚われているようだった。
「人を殺せば人でなくなる。それはただの獣である」
獣人であるエイデンは同胞に語りかけるようにシルフに言葉をかける。
人ではない種族として通じるものがあるからか、シルフは落ち着きを取り戻し、上げた腕をゆっくりと下ろした。
「ヴァ二アルちゃん。風邪引くよ」
ホワイトは裸になったヴァ二アルに布を被せ、俺達は後ろ指を指されながら会場を後にした。
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