異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第122話お母さん! 第五回戦は3ON3!④

休憩を終えた俺たちヴァ二アル・パスチームがコートに足を踏み入れると歓声は徐々にざわめきへと色を変える。


「ちょっと! 審判! 控え選手でもない人がいるんだけど!」


鈴音は俺の事を指差し、不正をしていると言わんばかりに審判に詰め寄るが、審判は「いえ。あれは花島選手なので問題ございません」と杓子定規な対応。
納得がいかない鈴音は胸を突き出し、審判に詰め寄る。


「はあ!? いや、全然違うでしょ! 誰よあいつ!」


「花島選手で... ...す」


「いや、あなたも困惑しているじゃない!」


やれやれ。
カナリアは見た目は美しいが、ピーピー鳴けばその美しさを台無しにしてしまうほどにやかましい。


「へい! GIRL! 俺は花島だぜ!」


指をパチンと鳴らしながら、俺は眉間にシワを寄せ、鈴音に声をかける。


「どこがよ! 別人じゃない!」
「あはは! 花島! その顔どうしたのよ! その髪型似合わないよ!」
「oh... ...。花島。まさか、僕のコスプレする程にファンだったなんて... ...」


鈴音は怒り。
ミーレは笑い。
トムは憂いた。


俺は何故かヴァ二アルの体液を飲んだら、短髪だった髪は肩まで届くほどに伸び、パーマ屋さんに行った訳でもないのに髪の毛がチリチリになった。
今まで団子っ鼻だった鼻も鼻筋が通って高くなり、日本人特有の平たい顔は目の部分が窪んで顔全体的に堀が深くなった。
用意されたユニフォームがパツパツになる程に筋肉量が増大し、乳首が浮き上がる。
そして、ビジュアルの変化もさることながら、何よりも気持ちがとても高揚しており、俺は大声で。


「エイドリアーン!!!!」


とベトナム帰還兵のように咆哮した。


「うるさっ! 意味不明な奴が意味不明な事言わないでよ! 尚更、頭が混乱するじゃない! 天音! あんた! 一体何をしたのよ!」


うん。
まあ、正論。
心は熱した石のように燃えているのだが、頭は冷静で鈴音がイライラしている事は共感できる。
俺に話しても意味がないと思ったのか、鈴音は自身の妹に話を振ると。


「はあはあ... ...。素晴らしい上腕二頭筋... ...。だ、抱かれたい... ...」


天音は涎を垂らしながら恍惚した表情でまるで発情期の猫のようだった。
女性からセックスアプローチをされるのは実に嬉しいのだが、それよりも俺は自身の肉体に夢中で太ももや上腕二頭筋に力を入れ、筋肉の隆起する様を楽しんでいた。


「ちっ! 一体、何なの! 気持ち悪い集団ね!」


突然の変化を受け入れる事が出来ずに鈴音は地団駄を踏む。


「え~。では、試合を開始したいと思います」


これではラチが明かないと思ったのか、審判は場を仕切り直す。
鈴音もバカな連中に付き合いきれないと悟ったのか、諦めて自身のコートに戻って行った。


____ピー!


第二ピリオド開始の合図。
先程、ジャンプボールをこちら側が奪取したので、今回はハンヌ陣営からスタート。
ゴール下からトムがミーレにパスを出し、パスを受けたミーレは鈴音の方を向き、パスを出し、鈴音はそれを走りながら受けるとすかさずドリブルでコート中央まで進めようとしたのだが____。


_____パン!


「なっ!? 天音!? 一体どこから!?」


蝶のように舞い、蜂のように刺すかのように天音は華麗なスティールをやってのける。


「へい! 天音! パス!」


「花島!」


俺はミーレの裏を取り、空いたゴール下に走り込んだ。


「なっ!? 花島がなんでそこに!?」


たしかに俺は先ほどまでセンターラインよりも後ろにいた。
鈴音が声を上げるほどに人間とは思えないスピードでここまで走り込んで来たのだ。


「うおー! 止めてやる!」


クマのように両手を上げ、俺のシュートコースを完全に防ぐトム。


「よし! これで完全にコースを防いだ!」


鈴音が拳を振るう。
一見、誰から見てもシュートコースはなく、既に空中にいる俺の選択肢はパスしかないと思われたのか、ミーレと鈴音はパスを受けられないように天音とホワイトにガッチリとプレッシャーをかけている。


だが、俺の選択肢の中に逃げるようなものはない。
左手に持っていたボールを右手に持ち換え、トムから右腕を離し、フックシュートに変更。


「OH! ダブルクラッチ! ただ、甘いね!」


左手では打たないと頭にあったトムは俺の動きを瞬時に判断。
長い腕を伸ばし、右手のボールに触れる。


「HAHAHA! ナイス! ブロッ... ...く!?」


トムがボールに触れた瞬間、ボールは煙のように消えてしまい、トムは目を丸くする。


____パスッ... ...。


次の瞬間、ゴールネットが乾いた音を上げ、縦横無尽に自身を揺らした。


____ワッ!


劣勢だったヴァ二アル・パスチームに初めて得点らしい得点が決まり、歓声で場の空気が揺れ、俺の頬を程よく撫でた。


「戻るぞ! ディフェンスだ!」


恍惚した表情を浮かべ、「どうだ?」と敵陣営に言ってやりたかったが、俺たちは6点のビハインドがある。
たかが一点取ったくらいで喜んではいられない。


「花島!」


横に走る天音が声を張る。
何事かと思い、彼女を見ると拳をこちらに突き出している。
まあ、こういうの本当はガラじゃないんだけど... ...。
普段ならやらない事だが、俺は差し出された拳に自身の拳をぶつけた。
これも、ヴァ二アルの体液で心身が強化された副作用なのだろうか?
ああ... ...。
きっと、この覚醒状態が終了すれば、酔いが醒めた後のような気分になるのだろう。







          

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