異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第115話お母さん! 本番は5回戦!

◆ ◆ ◆


観客達からの賞賛の声は止まず、俺を出迎えるヴァニアル達の声は10mほど近付かなければ聞こえなかった。


「花島ー!」


ヴァニアルが俺に抱き付いてくる。
興奮しているのか、ヴァニアルの身体は風呂上がりのように火照っていた。


「やったよ! カッコよかったよね!? ね!?」


「うん! カッコよかった! 本気で惚れるかと思った!」


「俺達、結婚してるんだからいつでも惚れていいんだよ! ガハハ!」


俺は、宝クジで一億円当たった人間のようにヴァニアルと抱き合い勝利を分かち合っているとホワイトがこちらに近づいてくる。
背中に預けていたゴーレム幼女の姿はなかった。


「花島。ゴーレムちゃんの容態全然良くならなくて救護室に運んだよ」


「ああ。すまんな。色々と面倒見てもらって... ...」


まあ、あの様子だと試合に参加するのは難しかっただろう。
しかし、腹痛であんなに苦しむのだろうか?
疑問を浮かべていると天音や伊達も俺を祝福しにきた。


「花島すごいね!」
「まさか、トムに勝つなんて!」


トム... ...。
そういえば... ...。


「伊達! お前の弟なんなんだよ! クソ裏切り者じゃねぇか!」


俺は伊達に文句を言った。


「すまん! まさか... ...。あいつが... ...」


伊達はワザとらしいくらいに大粒の涙を流し、謝罪。
流石にこれ以上責めるのは気が引けてしまった。


「しかし、あいつらクサイわね」


これはジョークなのだろうか?
ゲロまみれから復活したシルフは普段通りに腕組みをする。


「う、うん。そうだな」
「... ...そうね」
「... ...そうだね」


自信満々なシルフに誰もツッコム事が出来ず、場の空気を読んで同調した。


「ああ。恐らく、あいつらは不正をしている。つまり、この戦いはあいつらの手の内ってことだ」


「___!? まさか!? 権威ある王戦だぞ!」


驚きを隠せない者、だろうなと予想していた者。
反応は様々だがそれぞれの中に不安は残る。


「____じゃあ! 運営本部に不正をしていると言おう!」


ヴァ二アルが運営本部のあるコロッセオ内部を指さす。
俺はその指を引っ込めさせ。


「運営本部に言ってもいいが、全てがグルって可能性もある。安易に不正を指摘して証拠がなかったら、または消されていた時、どうする?」


「それは... ...。でも! これじゃあ、僕たちが____!」


「そう! このままでは俺達は負けちまう。だが、裏を返せばこれはまたとないチャンスだと言える」


「チャンス?」


「ああ。恐らく、あいつらは第一回戦は勝っても負けてもどっちでも良かった。最終的に3勝出来れば問題ないんだ」


俺の発言を補足するようにシルフが一歩前に出て。


「つまり、第三回戦や四回戦や五回戦はどんな手を使ってでも相手側は勝ち星を上げてくる。... ...という事はある程度試合内容を把握していなきゃいけないわね」


「そういう事だ。今、確実に分かっている不正はあいつらは試合内容を把握しているという事。冷静に考えていればおかしな話だ。第一回戦、第二回戦と相手側に有利な闘いじゃねえか。こっちなんて誰が出場するのか直前まで悩んでいるのに」


「試合内容が分かっているならその為の人材を事前に集める事が可能だった... ...。そうか。だから、あいつらはトムを... ...」


どうやら、ここまで説明すれば大方の連中には今の状況を理解出来たようだ。
しかし、それを把握したからと言って打開策が見いだせた訳ではない。
皆の表情は暗いまま。


「そんなに暗い顔するな。運営本部の全員がグルって訳じゃない。司会がいちいち対戦内容を発表する時にメイドから”紙”を貰っていただろ? って事は試合内容は多くの者には直前まで明かされていない。恐らく、あの紙はどこかに保管されているんだ」


「なるほど。花島のくせに頭が回るじゃない」


シルフは手をポンと叩く。
花島のくせには余計じゃ。


「え!? え!? つまり、どういう事!?」
「私も分かんないなー」


ホワイトやヴァ二アルは花島の回答を待っている。


「うん。だから、次にやる試合内容をこちらで把握しておく。そうすれば事前に対策出来るじゃないか」


「対策って... ...。それだけで大丈夫?」


「ああ。何もしないよりはした方が良い」


俺の提案は少し弱いのかもしれない。
状況を好転するような奇策を発表してくれると考えていた皆は落胆した表情で俺を見やる。


「あら。私の考えていたものと少し違ったわ... ...。だから____」


俺はシルフが発言しようとするのをテレパシーで威圧した。
今、彼女に発言されるのは困るからだ。
俺の意図を察したのか、シルフは出かけた言葉を呑む。


「あれ? シルフ何か言おうとした?」


天音がそう問うがシルフは「いえ。何でも」とすまし顔をして見せた。


「さあ! パス陣営! 第三回戦をそろそろ始めますよ!」


司会はこちらを急かす。
ここで作戦会議を行い、ハンヌ陣営に何か対策をされても困る。


「よし! もう、第三回戦と四回戦は捨てる! で、俺は第五回戦の試合内容を調べてくる! 第五回戦に賭けよう!」


俺はそれしか方法がない。
と言わんばかりに断言。
他に策も時間もないのを肌で感じている一同から反対意見もなかった。


「分かった。とりあえず、俺が三回戦に出場する。弟のケツは兄である俺が拭わないとな」


伊達はそう言い残すと闘技場の中央に歩みを進めた。
俺は心の中で「あいつ、出番あまりなかったけど結構カッコイイな」ともう少し発言の機会を増やしてやれば良かった。
と反省した。


「よし! これにはお前ら忍者の協力が必要だ! 天音! エイデン! 付いてきてくれ!」


「... ...」
「... ...」


潜入=忍者
という方程式は世界常識だ。
ジェームズボンドと張るくらいの知名度は忍者にもあるだろう。
しかし、忍者でも国の役人でもない俺に命令されるのは不満なのだろうか?
二人はムスッとしていて、天音は30歳間近だというのに口をプクッと膨らませている。
いや、それはそれでギャップ萌えだけどさ。


「なに!? 俺じゃあダメ!? 頼むよ!」


「... ...そういう問題ではない」


「じゃあ、なに??」


「私は忍者ではない。武士だ」
「俺も忍者じゃない。スパイだ」


くっ! 何だよこいつらのこだわり!
腹立つわ!
エイデンに至ってはほぼ忍者じゃん!
英語版NINJYAみたいなもんじゃん!


「ああ。分かった。じゃあ、武士である天音とスパイであるエイデンには心外だと思うけど忍者っぽい事してください。お願いいたします」


俺は二人に不本意ながら頭を下げて再び、お願いした。




          

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