異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第111話お母さん! 第一回戦は飯!②

「飯うまい!」


口をモゴモゴとしながら誰も聞いていないのに感想を述べながら次々に飯を喰らうミーレ。
食べ方は汚いがこれはどちらが制限時間内に多くの飯を食べられるかが求められる戦い。
マナーなどどうでも良いのだ。
それにも関わらず、ウチの忍者ときたら... ...。


「才蔵! 早く食えよ! 間に合わないぞ!」


ミーレがすでに十杯近く食べているにも関わらず、才蔵はまだ二杯目。


「米を作ってくれた生産者の事を思って食べるのが食事のマナーだ」


「そうだけど! 今は対戦中!」


黙々と米を口に運ぶ姿はまるで修行中の僧侶のようだった。
才蔵の言っている事は正しい。
しかし、今はそれを優先している時ではない。
俺が貧乏ゆすりをしながら戦況を見守っていると天音が話しかけてきて。


「大丈夫だ。花島。才蔵は今、米と対話をしている」


「米と対話?」


何言ってんだこいつ?


天音の発言に冷やかな視線を送っていると才蔵が箸を置き、米を食うのを中断。


「おいおいおい! 食べるのやめちゃったよ!」


「焦るな花島。これからが才蔵の本気だ」


「え?」


才蔵はピシッと垂直に手を挙げ、司会を呼びつけ、何かを指示。
司会はそれをメイドに伝達し、メイドはコロッセオの内部に戻っていった。


「... ...一体なんなんだ?」


垂直に挙げた手を戻すと才蔵の体から骨が砕けるような音が会場内を包んだ。


「では、参ろう」


目を見開き、再び箸とお椀を持った才蔵は今までとは打って変わり、阿修羅の如く飯を喰らう。


「... ...」


観客を含め、俺たちが圧倒されていると天音が今の状態を分かりやすく解説してくれた。


「あれは”奥義骨砕き”だ。自身の肋骨あばらぼねをバラバラに砕き、胃袋を限界まで膨らませている」


「え? マジで... ...」


たかが大食い対決で自身の骨を砕くなんて常軌をいっしている。
確かに勝って欲しいがあまりのトリッキーな技に引いてしまった。


「才蔵は! 今、痛みに耐えながらも戦っているんだ!」
「才蔵... ...。男だぜ!」


何故か伊達やエイデンは才蔵の姿に感化されて大泣き。
俺とシルフはその様子にも引いてしまった。


「骨砕かなくても外せば良いんじゃないの?」


ホワイトが自然な疑問を零す。


「あ... ...」


と天音は明らかに「その手があったか!」と言わんばかりに気まずそうな表情をしながら口をつぐんでしまった。


そうだね... ...。
ちょっと、気合入れすぎたね。
才蔵が勝っても負けても俺たちは暖かく出迎えようと心に誓った。


ただ、みるみるうちにミーレとの差は縮まっていく。
これはひょっとして、ひょっとするかとしれない。


「ふー! お腹一杯だ!」


妊婦のような腹をポンポンと叩くミーレ。
序盤に飛ばしすぎたのか早々にペースダウン。


「ミーレ! 早く食べな!」


「だって、食べてて飽きちゃうんだもん!」


確かに白飯を食べ続けるのはなかなかキツイ。
味を変えたいと思うのはミーレだって同じこと。


「しょうがないねぇ」


レミーは双子の妹のワガママを聞き入れると便所の棒をホウキで掃くように振り、目の前にキッチンセットと鍋や包丁などの調理器具と色とりどりの食材を何もない所から出現させた。


「2分待ってな」


腕を捲り、フライパンに火をかけるとレミーは目にも留まらぬ速さで食材を切っていく。


「ハンヌ陣営のレミー選手! 軽快なリズムで食材を切っていくぞ!」


「部分転移魔法を使ってるわね」


今まで黙って見ていたシルフが久々に喋り出した。


「部分転移?」


「今、私が作った造語よ。まるで、包丁を高速に動かしているように見えるけど包丁の始点と終点に転移魔法をかけているのよ」


「始点と終点?」


「包丁を上下に動かすと必ず自分の腕の位置から対象物までの距離があるでしょ? それを転移によって短縮して切るスピードを速めているのよ」


ふーん。
瞬間移動みたいなもんかな?
なんか、そんなに凄そうにも思えないけど。


「はい! 出来たよ!」


ミーレの前にレミーが調理した炒飯が湯気を立てて、差し出される。
魚介類を具材として使っているのかほんのりと磯の香りがこちら側まで届き、涎が溢れてくる。


「うっはー! 美味しそう!」


「ジャンジャン作ってやるから残さず食べるんだよ!」


再び、ペースを上げるミーレ。


「これは両者譲らぬ展開となってきました! 残り十分です!」


レミーが調理中に才蔵がミーレを追い抜いたが予想以上にミーレの食べるペースが速く、あと少しで追いつかれてしまう。


「頑張れ! 才蔵!」
「才蔵! 頑張ってください!」
「ファイト!」


俺たちは必死にエールを送る。
______が、突然、才蔵の手が止まった。


「おーっと! 才蔵選手が止まってしまった! 一体どうした!?」


「... ...腹が痛い」


才蔵は青白い顔にビッシリとまだら模様に汗を掻き、腹を押さえている。


「まさか!?」


天音は審判に合図を送り、才蔵の元まで歩み寄り、服を割いて腹部を確認。


「花島! シルフちょっときて!」


天音が慌てた様子でこちらに手招きをする。
ゴーレム幼女を背負っていたので一旦、ホワイトに預けて天音と才蔵のもとに向かい、才蔵を見ると。


「うわ! すげぇ毛が凄い!」
「ちょっと! そんな汚いもの見せないでよ!」


「いや! そこじゃなくて!」


才蔵の胴体は素肌が見えないくらいに毛で覆われている。


「この量は凄いよ! 何!? こいつも獣人だったの!?」


「違うわよ! ただ、毛が凄いだけ! 才蔵が起きたら言わないでよ! 気にしてるみたいだから!」


気にしてるなら剃れ。


「それよりも! 凄い腫れてる! 冷やさないと!」


腫れ?
あぁ、確かに腫れてるな。
毛のインパクトが凄くて一瞬分からなかった。


「もしかして、折れた肋骨が内蔵とかに刺さって内出血してるんじゃないの?」


恐らくそうだ。
よく見えないけど何となく青黒い。


「多分! いつもはこんな失敗しないんだけど、大勢の人がいる前で緊張したのかもしれないわ!」


ええ... ...。
まぁ、緊張するのは分かるけど。
ええ... ...。


「ちょっとシルフさん魔法で治してよ」


冷やして治るどころの怪我ではない。
ここは魔法でちゃっちゃと治した方が効率がいい。
シルフもそう思って、既に準備をしていると思いきや、腕を組んで直立不動。


「あれ? シルフー」


「嫌よ。気持ち悪い」


まぁ... ...。
気持ちは分かるよ。
男の俺もあれに触れるのはご免だ。
でもさ、治さないと俺たち負けちゃうんだけど。


「ちょっとシルフ! 早く治してあげて!」


このままでは試合どころか生命の危機にも直結してしまう。
焦った天音は恫喝するような態度でシルフを見やる。


「嫌よ。そんなのに触れたらあたしも毛ダルマになるわ」


「大丈夫よ! ほら! あたしだって触れてるでしょ!? 少しモシャっとして気持ち悪いけど慣れれば芝生みたいなものよ!」


「あ、私、芝生アレルギーなんで」


シルフと天音は攻防を繰り広げる。
恐らくシルフはマジで指一つ触れる気がないようだ。


「あんた! 王様だからってその態度なんなのよ!」


仲間のピンチに力を貸さないシルフについに天音がキレた。


「嫌なものは嫌」


「あたしだって嫌よ! でも、しょうがないでしょ!?」


あぁ... ...。
才蔵が気絶してて良かった。
こんな事聞いていたら俺だったら泣いちゃう。


「さぁ! 試合は佳境! 時間は残り五分を切りました!」


アナウンスを確認した天音は今度はシルフに諭すように語りかける。


「お願いよ。このままではパス様が王になれない。力を貸して」


「... ...」


シルフは優しい王様になりたい。
優しい王様ならこういう時にどうするかは分かっているはず。
ただ、シルフは本気で嫌なのだろう。
足がガタガタと震えていた。


「... ...わ、分かったわ」


「ありがとう」


シルフは恐る恐る才蔵に近付き、腰を落としてマジマジと才蔵の腹部に広がる黒い草原を見る。


「うっ!」


口元を押さえるシルフ。


「どうした!?」


「は・吐きそう... ...」


「頑張れ! 死ぬ訳じゃないだろ!」


「死ぬかもしれない... ...」


「才蔵の方が死にそうだから!」


「もう、いっそのこと、息を引き取って欲しいわ。こんな毛ダルマが縦横無尽に動き回っていたと思うとこの世の終わりよ」


「そこまで言う!?」


ヤル気を見せたのは良いが御託を並べ、才蔵に触れようとしないシルフ。
本当にこのままでは試合にも負けるし、命を落としかねない。


「さぁ! 残り三分を切った!」


ラストスパートをかけるミーレを横目に俺はシルフの背中を叩く。


「お前にしか救えないんだ! 根性見せろ! 王は民の為にいるんだろ!?」


「言われなくても分かってるわよ!」


シルフは目を閉じ、黒い草原に手を当てる。
ついに覚悟を決めたようだ!
凄いぞ!
偉いぞ!


「なんかあれだな、ひじき鷲掴みしてるみたいだな」


「うっ! もう駄目... ...」


限界を迎えたシルフは口から吐瀉物を吐き出し、才蔵の腹にブチまけた。
その直後、俺の後方からも嗚咽音が聞こえ。


「うげええええ!!!」


シルフが吐いたのを見たミーレはもらいゲロし、今まで腹に溜めていたものを全て吐き出してしまい、辺り一面ゲロまみれになった。


「試合終了!!!」


最悪のタイミングで試合終了の合図。
才蔵はゲロまみれだし、醜態を晒したシルフは泣いてる。
地獄絵図とはこの事だろう。


「あの... ...。これ... ...」


ん??
先程、才蔵に指示されたメイドがコップに入った白湯さゆを持って来た。
恐らく、何かの作戦で使う予定があったのだろう。
作戦を立てた当の本人はゲロまみれで気絶しており、白湯は虚しく湯気を上げている。


「... ...シルフ。とりあえず、白湯でも飲んで落ち着け」


「うぅ... ...。屈辱よ」


「まぁ、次頑張ろうぜ」


クヨクヨしていてもしょうがない。
試合はまだ四試合もある。
その内の三回勝てば良いのさ。


「勝者はパス王子チームの才蔵だ!」


ん?
司会の言葉に耳を疑った。


「あれ? 今、何て言った?」


「勝ったって! 才蔵が!」


俺と天音は驚いて目を合わせた。


しかし、何故?


「えー。厳正な審査の結果、全て吐いてしまったミーレ選手は失格とし、才蔵選手の勝利です」


うーん。
なんか勝った気しないが、まぁ、良いか。


よし、とりあえず一勝だ!

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