異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第95話お母さん! 男って単純!

「花島! 大丈夫!? 起きてよ!」


「僕を受け止めてくれたせいで... ...」


ホワイトの声とヴァ二アルの涙声が聞こえる。
こんな俺でも心配してくれる奴がいるなんて幸せなことだ。
そういえば、もう、この世界にきて半年以上経ってしまった。
向こうの世界では何年経っているか分からないが母親が心配していないかという事だけが気掛かりだ。


「おーい! 花島! 起きろみそ!」


どすっ!


「ぐはっ!」


腹部に鈍痛を感じ、最悪の目覚め方をした。


「おまっ! 死んだらどうする!?」


痛みの先を見ると腹に直径1mほどの岩が乗っかっている。ゴーレム幼女が起こすために乱雑に落としたのは明白な事実。


「どうせこんなんじゃ死なないみそ。ゴキブリ並みの生命力だけが花島の長所みそ」


サラリと他の長所を否定しながらゴーレム幼女は見下ろしながらケタケタと笑う。
まじでこいつ、一週間後どうなってもいいから辱しめを受けさせてやるからな。
と俺は心に復讐の二文字を刻んだ。


「花島! もう、死んだかと思った! 僕を助けて死ぬなんて嫌だからね!」


スクール水着姿のヴァ二アルは俺が生き返ったことに感激したのか自身の胸に抱きかかえる。
喜んでくれるのは非常に有り難いのだが、あまり刺激を与えすぎると再び死んでしまうので使用上の注意は守っていただけたい。


「ヴァ二アルちゃん。花島、息が出来なくて苦しそう... ...」


「あっ! ご・ごめん!」


ヴァ二アルが勢い良く俺を放すと両の鼻の穴からは赤い線が垂れる。

「うわあ! 大変! 僕が思い切り押し付けちゃったからだよね!?」


「いや。違うみそ。本当にこいつは恥という言葉を知らない生き物だみそ」


「うーん。さすがに今回ばかりは私も擁護出来ないよ... ...」


そして、俺は自身の鼻の穴にティッシュを詰め、立ち上がり、ヴァ二アルに指示を出す。


「ヴァ二アル。俺がお前にそんな格好をさせたのには意味があるんだ」


「う・うん... ...。でも、これ、露出度高すぎじゃあ... ...。男の僕でもさすがに恥ずかしいよ... ...」


ヴァ二アルは自身の姿をもう一度見直して弱音を吐く。
そして、俺はヴァ二アルの華奢な肩を掴みながら。


「ヴァ二アル・パス! お前に適材適所があるって言っただろ!? ホワイトやゴーレム幼女は俺をただの変態だと思っているかもしれない」


事実、二人は蔑んだ目線を送る。
これが学校生活中であれば翌日からイジメの標的になるレベル。


「ただ、俺はお前がもっと輝けるようにしたいだけなんだっ... ...!」


「輝ける... ...。この格好が関係あるのかい?」


ヴァ二アルは俺の言った言葉を疑問に感じている。
どうやら、この格好が単に俺の趣味だと言わんばかりだ。
ふう。やれやれ。
俺は変態だがそこまで度が超えた変態ではない。
時と場所、そして、何よりも大事な節度を持つ変態だ。
そこをはき違えてはいけない。


「まあ、俺が今から指示を出すから言われたとおりにやってみ」


「う・うん」


そうして、俺はヴァ二アルに役割を与えるために彼女、もとい、彼をプロデュースする事を始めた。


◇ ◇ ◇


ヴァ二アル登場の衝撃から数十分後、生ける屍の目覚めのように気絶していた町の住人たちが起き上がりだす。


「いてて。一体、何があった? 何か良い夢を見ているようだ」
「ああ。それにとてもエッチな光景だった気がする」


何故かあまりの衝撃で一部の住人の記憶は飛んでいた。


「あ・あの... ...。お仕事お疲れ様です。良かったらこれ飲んでください」


「ん? ああ。ありが_____。ぐはっ!」


住人Aは横から差し出された白い水を受け取ろうと後ろを振り返ると同時に再び意識を失い、倒れ込んでしまう。
それを見たヴァ二アルは再び慌てふためく。


「ど・どうしよ!? 花島!」


「いや、いいんだ。倒れた男の顔をみろ。良い顔で眠っているだろ... ...」


男の顔をヴァ二アルがのぞき込むと口を大きく開け、「げへへへ」とだらしない顔をしている。


「良い顔!? なんか、人としてしちゃいけない表情だよ!?」


ヴァ二アルは困惑しているがこれはこれでいいのだ。
実際、スクール水着姿のヴァ二アルを住人達はジッとみている。
男はともかく、抜群のプロポーションであるヴァ二アルの姿に女たちも見惚れていた。


「うむ。さすが、サキュバス。思った以上の力だ」


「... ...サキュバス? 花島? ヴァ二アルちゃんはサキュバスなの? あたし、初めて見たよ!」


ホワイトが驚くのも無理もない。
シルフの話によるとサキュバスという生物はこの世界でも空想上の生物として扱われていたのだから。


◇ ◇ ◇


前夜に戻る。


シルフの部屋で俺とシルフはヴァ二アルをどれだけ可愛く、そして、エロく見せることが出来るか、話し合いをしていた。


「やっぱり、スクール水着が鉄板だって!」


「いや! 単に肌の露出度高すぎだ! 女の子ならもっと清楚に行くべきだ!」


ヴァ二アルの女体化により、同じものが好きだと知った俺とシルフはもっと仲良くなれると思っていたのだがどうやら好きなものは同じでも方向性の違いがあることで揉めていた。


「ふん。あたしはそんな男女おとこおんなは認めないみそ」


シルフに怒られたためか、ゴーレム幼女はこちらの輪に入らずに部屋の片隅で体操座りをしながらふてくされていた。
一方、ヴァ二アルは俺とシルフの着せ替え人形になっていたので疲弊して地面に座り込んでいた。


「花島~。もう、僕、限界だよ~。お腹空いた~」


そういえば、ヴァ二アルはこの城についてから何も食べていない。
森をさまよっていた期間を考慮すると下手したら数日間飲まず食わずだった可能性すらある。


夢中になっていたのは良いが、ヴァ二アルの体調を考えなかったことを深く反省した。


「そうだな。気付かずにすまなかった。この城には大方の物はある。何が食べたい? 肉? 魚?」


リクエストを聞くとヴァ二アルはゆっくりとシルフを指さし。


「僕、シルフお姉ちゃんを食べたいな!」


その瞬間、背中に戦慄が走った。
そして、部屋の隅にいたゴーレム幼女はハンヌ戦で見せた白いウエディングドレスに身を包み、右手に岩石で出来た剣を構える。


「おいおい。シルフは食べ物じゃないぞ。あれか? セクシャルな意味での食べたい発言か?」


するとヴァ二アルは首をフルフルと横に振り。


「ううん。普通に美味しそうだから」


と曇りない目でシルフを見やる。


こいつはあれだ... ...。
とんでもないものを拾ってきたのかもしれない。
そして、「食べたい」と名指しされたシルフを見ると動揺している様子はなく、シルフもヴァ二アルの目をみて逸らさない。


「... ...」
「... ...」
「... ...」

沈黙を破ったのはシルフからだった。


「そんなに食べたければどうぞ」


「ちょっ! おまえ____」


俺が止めると同時にヴァ二アルがシルフに飛びつき、後ろにいたゴーレム幼女もこちらに走り込む。


「あっっ____!」


シルフからは官能的な声が漏れ、恐怖から目を閉じた。
まさか、拾ってきたものがシルフを食べるなんて思ってもみなかった。
俺は自身の行いを一生悔やむことになるだろう。


「アハハ! ちょっと、ヴァ二アル! くすぐったいわ!」


ん? くすぐったい?
シルフから断末魔が聞こえる事はなく、女の子同士でじゃれ合うような「キャッハうふふ」というような色っぽい声が聞こえて来た。


「いや~。やっぱり、シルフお姉ちゃんの魔力美味しいよ。生き返る~」


「アハハ! 何これ、変な感じがするわ」


あっけに取られていると武装解除をしたゴーレム幼女がポツリと言葉をこぼす。


「魔力吸収か。何百年も生きてきたけど、久しぶりに見たみそ」


「魔力吸収? それって、相手の魔力を吸って自分の魔力にするってやつか?」


「おお。花島、良く知っているみそ」


魔力吸収。
こういった世界を題材にした物語ではよく耳にする力。
しかし、目の前でそれを見るとは思わなかった。


魔力を吸っているヴァ二アルの身体は微かに緑色の光を帯び、ホタルのように点滅している。
恐らく、この緑色の光は普段見る事が出来ない魔力という物質なのだろう。
そして、当初、「くすぐったい」と声を上げていたシルフは徐々に「あっ... ...」と何ともエロい声を出し始めた。


美女と美女が絡みつく様子は問答無用でエロい!!!

俺はこのままでは正気を保っている事が出来ないと考え、隣にいたゴーレム幼女に話しかけた。


「お前、『久しぶりに見た』って言ってたけど、魔力吸収ってそんなに珍しい能力なのか? 魔法少女たちの使っていた時空転移とかの方が珍しそうだけど」


俺の発言を聞き、ゴーレム幼女は深い溜息をついて。


「はあ... ...。”魔法”と”能力”は違うって前に教えてやったのにもう忘れたのかみそ? 時空転移は”魔法”で魔力吸収は”能力”だみそ」


「ちょ・ちょっと忘れてただけだろ!」


「知識っていうのは時には武器になるみそ。ちゃんと勉強くらいしておかないと生き残れないみそ」


「... ...ぐっ!」


俺は正論を言われ、悔しい気持ちを飲み込んだ。
1+1=2
も分からないような奴に「勉強しろ」と言われるのは予想以上にやきもきする。


ただ、ここで言い争いをしてもしょうがない。
俺は大人の対応でその場を凌ぐ。


「まあ、これも勉強だから教えてやるみそ。前にも言ったがこの世界には魔法を使える奴と能力を持つ奴が二種類いる。そして、数で言えば魔法を扱う事が出来る生物の数は圧倒的に少ないみそ」


「え? でも、魔法少女たちもシルフもそれにお前だって使えるじゃないか」


「こんな狭いコミュニティでこれだけ魔法が使える奴が揃っているってのはちょっとした異常事態みそ。魔法使い一人で数万の能力を持った軍隊をつぶしてしまうほどと言われているみそよ」


... ...えー。
そんなにすごいの魔法使える奴って... ...。
100人に1人くらいいるものだと思ってた。


まあ、だから、少し魔法が使えるシルフのような若者でもこうやって国を統治できるのか。
何か、今まで疑問だったものが解けた気がした。


「数が少ないのだから魔力だって容易に吸えるものじゃないみそ。魔法使いは昔は大勢いたけど殆ど死んでしまったみそ。だから、魔法使いの数が少なくなることに比例して魔力吸収という能力を持つ生物も減っていった。むしろ、もう、この世にいないと思っていたみそ」


「なるほどね」


魔法使いがいなくなった理由としては戦争か何かで死んだのだろうか?
何か、夢のようなもので見た記憶はあるのだが、上手く思い出せない。
まるで、頭の中に靄がかかったかのようにその記憶だけが不透明だ。


「っ____! あああ!」


シルフが絶頂に達するような声を上げる。
これはさすがにマズイと判断した俺はゴーレム幼女と協力して木にしがみついているセミのようなヴァ二アルを剝がす。


「っ... ...。ハアハア... ...」


どれくらい魔力を吸われたのだろうか。
シルフは全身に汗を掻いてベッドから起き上がれない様子だ。


「おい! お前! ちょっと、吸い過ぎみそ!」


「ご・ごめんなさい! あんまりにも美味しかったんです!!!」


反省の言葉は一応述べているが、本当に美味しかったのだろう。
ヴァ二アルの口元は緩みっぱなしでどうも言葉と表情が合っていなかった。


シルフを見るとピンク色のネグリジェは汗で透け、下着が露わになっており、水分を含んだ服はピタッと肌に吸着していて、俺は生唾を飲まないと窒息してしまいそうだ。


「このままシルフが起き上がらなかったらどうしてくれるみそ!」


ゴーレム幼女は怒り心頭でヴァ二アルの胸倉をつかみ、上下左右に振っている。
こんな状況にも関わらず、俺は上下左右に揺れるヴァ二アルの胸とは対照的なゴーレム幼女の胸元をみて「可哀そうだな... ...」と目頭を押さえる。


「少し返しますから~!」


「少しじゃなくて全部返せ!」


「そうしたら僕が死んじゃうよ~!」


色々と押し問答があった後、ヴァ二アルはシルフの身体に自身の手を当て、魔力の一部を返還し、シルフは疲れたのかそのまま眠ってしまった。

それにしても、今までにないくらいにエロい光景だった... ...。
俺はその夜、寝ずに朝を迎えた。


          

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