異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第45話お母さん! ホワイトの家は意外と近かった!

「もう、疲れた!!! 動きたくない!」


シルフは突然、引きこもり生活が長かったニートが久々にやったバイトの三日目のような発言をしながら地べたに座り込んでしまった。


「まだ、町を出て二時間くらいしか経ってないぞ!」


「だって、疲れたんだもん! しょうがないでしょ! 私は偉いから歩く事なんて殆どないのだから!」


クソ!
これだから可愛くて、権力の有る奴は嫌いだよ!
俺がシルフといがみ合っていると横からホワイトが喧嘩を止めるように「私も少し疲れたから少し休憩しようよ。花島」と言ってくれたので、木陰で休憩することにした。

まあ、早く家に帰る事を望んでいるホワイトが言うのだ。
ここはホワイトに免じて休憩させてやろう。


「... ...10分だけだぞ」


「やったー!」


シルフは両腕を上げ、万歳のようなポーズを取り、満面の笑みを浮かべ喜びを身体全体で表現。
その姿は俺が一番最初に出会った冷酷な王女とは程遠く、本当に同一人物なのかと疑ってしまうほどだ。
こいつ、双子の姉妹とかで俺の知らない所で入れ替わってたりしないよな?
とサスペンス小説のトリックのような事まで妄想してしまった。


「そういや、セバスの姿がないな。シルフの魔法で馬にして乗ってくれば良かったのに」


俺は残念そうな目でシルフを見ると。


「今日はセバスの奥さんと娘さんの命日なの。年に一度の休暇ってやつよ」


年に一度の休暇!?
どんだけ、ブラック企業なんですか。


「命日? この世界にもそういう風習があるのか?」


「ええ。あなたの世界にも?」


「あるよ。茄子ときゅうりに割り箸を刺して馬にしたり、灯籠に火を点けて家の前に置いたりするよ」


「茄子ときゅうり? 灯籠?」


ああ、しまった。
この世界には茄子ときゅうりも灯籠もないのか。
俺が別の言葉に言い換えようとすると、ホワイトがシルフに分かりやすいように例えてくれた。


「茄子はマンドラゴラの太もものような形をしていて、きゅうりはマンドラゴラの腕みたい形をしている野菜だよ。灯籠って物は解らないや」


なんだ。
茄子もきゅうりもこの世界にあるのか、シルフが世間知らずなだけか。
それにしても、マンドラゴラって汎用性高いな。
大体の物マンドラゴラで例えられるんじゃないか。


「なるほどね。で、マンドラゴラの太ももと腕を使ってどうするの? 食べるの?」


「食欲無くなるわ! 天国と現世を一時的に繋いでやるのよ。死者はそれに乗ってお盆の期間だけ現世に遊びに... ...」


あれ?
チョット待て。
俺、命日の話じゃなくて何故かお盆の話してるぞ!?
ぐあっ!!!!
お盆近かったから勘違いしてもうた!!!


「へえ~。何か素敵な風習ね」
「本当!」


... ...うん。
まあ、命日の風習じゃなくてお盆のなんだけどね。
こいつらが俺の居た世界に来る事はないから、訂正しなくていいか。
いい感じに話纏まりそうだし。


そして、適度に休憩を取った所で俺達は再び、歩き出した。



______巨人の村______



「ふい~。やっと着いたわね!」


町を出て数時間、昼過ぎに出たはずなのに日が暮れようとしている。
ホワイトの家を見て、まず最初に思ったのは巨人族の家なので、家がデカイというシンプルな感想。
家の高さは20mくらいあり、城の扉と同じくらいの大きさの石で出来た頑丈そうな扉が印象的。


そして、「それにしても、よくこの距離で迷子になったな... ...」と思うのと同時に一つの疑念を抱く。


こいつ、ひょっとして、キャラ付けの為に”迷子キャラ””を演じていたんじゃないのか!?


俺とシルフが同行していなければ、巨人の足で一時間かからない程度でこれたは距離.. ...。
しかも、町から家まで、ほぼ一本道でこれで、迷う訳がない... ...。


「パパ! ママ! ただいま~!!!」と涙ながらに家に駆けて行き。


ホワイトが感動シーンを見せるが俺の心は疑心暗鬼であった。
ドシン! ドシン!
と音を立てて家に近づくので、家の中の人が気付いたのか、大きな石の扉をガチャっと開けて出てきたのは髭の生えた屈強な体躯をした巨人。


「あれがホワイトの父親か... ...。デカイな」


父と感動の再会。
俺も年甲斐もなく目頭が熱くなり始めていたのだが。
ホワイトは「あ! おじさん! こんにちは!」と近所のオジサンに挨拶するかのような対応。


ん? オジサン?


「やあ! ホワイト! 久しぶりだな! 一体、どこ行ってたんだ?」


「王国に行って迷子になってたの!」


「そうかそうか。それは大変だったな~。両親も心配してたぞ。でも、まあ、元気で何よりだよ。それと、お前の好きなジャンボタニシ沢山持って来てやったから後で食べるといい」


「本当!? オジサンありがとう!」


ホワイトは帰るおじさんに手を振り、おじさんも笑顔で手を振り、森の中に消えていく。
感動の再会だと錯覚した俺は瞼に涙を貯めながらその様子を見ていると。


「何? 何で泣いてるの?」


とシルフが俺をおちょくってくる。
俺は恥ずかしくて「いや、目にゴミが入って」と言って誤魔化した。



□ □ □



______ホワイトの家______



「シルフ様。娘を助けていただきありがとうございます!」


「何とお礼を申し上げたら良いのやら... ...」


ホワイトの両親が深々と頭を下げ、そよ風程度の風が俺の顔に当たる。


ホワイトの両親という事から俺は勝手に『はじめ人間ゴン』に出てくる原始人のような巨人を想像していたが、現実は全然違った。


ホワイトのボロ雑巾を巻いたようなファッションとは違い、父はチノパンのようなパンツ、白いTシャツを身につけ、髪の毛が茶色で少しチョイ悪親父のような印象。
母は白いワンピースを身に着け、ラベンダーのような香りがして、清楚で品がある。


その両親の横に立つ、原始人のような格好でいる娘... ...。
反抗期なのかな? 何かビリビリの服とか汚い服着たい時期あるよね。


下から上に舐めるようにホワイトを見るとホワイトと目が合い。
やべえ! 見下したような目で見てたから殴られる!
と咄嗟に防御姿勢を取るが... ...。


「パパ! ママ! 花島も助けてくれたのよ!」


とシルフにばかり礼を言う両親に遅れていた俺の紹介もしてくれる。
確かにこの構図だと俺がシルフのお付きの者と思われても仕方ない。
ホワイトを助ける事が出来たのはシルフだけでなく俺の力も大きい。
気を回せるホワイトは本当に心が優しい奴だと思うよ。


「... ...そうなんですか。娘を送ってくれてありがとうございます。花島君の本体はその大きな鼻かな?」


は?
何だこの親父いきなりブッこんできたな。


「いえいえ。お父さん。僕は鼻が寄生したモンスターではないんです。ただ、巨大な鼻を持つ人間です」


「え!? 人間!? あ・よく見ると... ...。 これは、大変失礼した! 君にそっくりなモンスターがいるものでつい... ...」


「いえ。いいんです。僕の鼻が巨大なせいで申し訳ない。ははは」


何度もこのやり取りをしているので、紳士な対応が出来るようになった。
心のダメージも少ししか負わない。
ただ、寝る前に言われた事を思い出して、僅かに枕を濡らす程度。


それにしても、俺にそっくりなモンスターがいるのなら、是非とも一度は、見てみたいものだ... ...。


「あなた達、お礼の言葉なんていいから、私の仕事を手伝いなさい」


シルフは煩わしい言葉を全てとっぱらい、少し前に出て胸を張って自分よりも大きい巨人たちに言った。
というか、命じた。


「え? 私たちで良ければお手伝いさせていただきます。ただ... ...」


随分、あっさりと承諾を得た。
さすが、王女様といったところか。
しかし、ホワイトの両親は顔を見合わせ、神妙な面持ちをしている。


「ただ? 何なの?」


言葉を詰まらす言い方をするホワイトの両親に、シルフが当然のように問いただす。


「... ...」
「... ...」


ホワイトの両親はシルフの返答に答えようとせずに、不安そうな表情で天井を見上げる。
シルフに返答しないと失礼にあたると感じたホワイトが、口を開く。


「実は... ...。私のお兄ちゃんに問題があって... ...」


「お兄ちゃん? 兄弟がいるのね。じゃあ、その方にも手伝ってもらいましょう」


「たぶん、無理だと思う... ...」


「無理? どうしてかしら?」


ホワイトと両親は目くばせをして、アイコンタクトで何やら相談をしているようだ。
シルフが、曖昧な回答をするホワイト達に、若干イライラしてきたのが伝わってきたのか、ホワイトはため息をつきながら「じゃあ、二階について来て」と言いシルフと俺を誘導した。

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