異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第31話お母さん! シルフも幼女化です!

_____「ホワイトシーフ王国城下町」_____


昨日の晩、エルフの王女シルフに誘惑... ...。
いや、お願いされたからまず初めに国の現状と実情を知る為、町を散策してみる事にした。

「ねえ! 歩くの早過ぎよ!」


「じゃあ、無理してついてこなくても良いだろ... ...」


「あなたが、逃げ出さないか監視しているのよ!」


シルフの目線まで腰を落とし、話をする。
毎回、このように上下運動をしなくてはいけないと思うと憂鬱だ... ...。
年齢的には27歳という端数処理を行えば20歳になり、世間では若者の部類に類する。
だが、俺は内臓脂肪が多く、健康診断で”要治療”と言われてしまった程に運動不足。
今日はこの上下運動を二回しかしていないのに膝が痛い。


「逃げ出さないよ。それにしてもその姿はやっぱ、どうにかならないの?」


「私はこの国の王よ。国民からしてみれば神と同等なの。そんな、神々しい私が普通に歩いていたら国民が卒倒するわ。だから、わざわざ、変装までしているのよ! 感謝しなさい!」


シルフは小さな指をこちらに向けて、得意げに鼻を鳴らす。
いや... ...。
感謝するのは百歩譲って国民だとしても、俺に感謝を強要されても困るんだけど。


シルフが町中を歩くには目立ち過ぎる。
それに、こんな異界から来た俺と行動を共にしているところを住民に見られたら場合、彼女の品位が疑われる。 つまり、カモフラージュが必要だ。
だが、異世界の変装は予想の斜め上を行く。
それは”変装”ではなく”変身”であった。


□ □ □


シルフは人を別の生き物に変える、”変異”という”魔法”を使う事が出来る。
魔法少女と婆にも「変異魔法なんて基礎中の基礎よ! まあ、でも、エルフ族の変異は中々、クオリティが高いわね」と言われるような折り紙つき。
その魔法は自分に対しても有効だ。
そして、何を思ったか定かではないが年齢にして10歳くらいの純粋無垢そうな幼女に変身させたのだ。


身長は小さく、かがまないと目を合わすことが出来ない。
美しい白い肌と金髪と青い目は変わらない。
本人曰く、「自分の幼い頃の姿になったの!」だそうだ。


小学生の姿に戻ってえらくはしゃいでおり、小さい頃に着ていたというフリフリのついた白いドレスをクローゼットの中から引っ張り出し、今朝はどれを着ようかと鏡の前で悩んでいた。


俺は気怠そうな態度でその様子を見ていて、それがシルフに伝わったのか、シルフは俺に食って掛かる。


「何よ!? 何か言いたげね!」


「いや、別に... ...」


「あたしはね! 好きでこの姿になったんじゃないんだからね! 嫌々よ! でも、町に出るには変装が必要でしょ!?」


実のところを言うと俺はこう言いたかった。


『町に出る事を大義名分に、小さい自分に戻りたかっただけだろ?』と____。
シルフは既に、この国の王女である。
一国の長であるシルフが自身の変身能力で幼い頃の自分に戻ってハシャいでいたら、仕えている兵たちはどう思う?


シルフは「王女たるものいつも、堂々としていなさい」と母親からきつく言われていたらしいので、宮殿にいる時の彼女はいつも気を張っていたのか。
笑顔を見せたりすることなどなく、仏頂面だった。
母や父が存命だったこの時期つまり、自分が幸せだった頃を忘れないようにシルフのクローゼットの中には服や人形などの沢山の思い出の品が押し込まれていて、痛々しくも感じた。


□ □ □


そして、今、水を得た魚のようにシルフはお気に入りの服を着て、天真爛漫に町を闊歩する。


「シルフ様! あまり、はしゃぎ過ぎると逆に目立ちますよ!」


シルフの肩からかけている毛皮のポシェットから小さなネズミが顔を出し、可愛らしい声でシルフを注意。
そう、こいつは元人間であり、元馬の王女の執事セバスだ。
シルフが町に行くという事を知ったセバスは「シルフ様をこんな野蛮な輩と一緒に行動させるのは反対です!」と言って付いてきた。
だが、馬のままだと目立ち過ぎる為、小回りのきくネズミの姿に魔法で変えられたのだ。


俺はセバスが人間だった姿を見た事がなかったので、「こいつ、なんか可哀想だな... ...」と思い、目頭が熱くなった。


「おい! 人間! 今、私の事を見て不憫に思っただろ!」


憐れみを感じた生類(セバス)は右手をピョコっと天に掲げてこちらを威嚇。


「いや、なんか、可哀想に見えてきて... ...」


「可哀想ではない! 執事である以上! 命に代えても王女様を守るのが執事の勤めだ! 私はこの事に誇りすら感じている! 断じて、ネズミになる事を喜んでいる訳ではないぞ!」


そう言いつつも、セバスの口もとからは涎が... ...。
ああ、分かったこの執事変態だな... ...。
俺は自分が変態であることから変態を見付ける事が人よりも長けていたのですぐにこいつがアブノーマル執事だと察した。


_____それにしても、二人と一匹でこんなにも騒いでいるのに人一人見かけないし、家からも出てこない。

商店らしき、店の扉は閉められており、窓も開いてないし、洗濯物も干しておらず、生活感がまるでなし。
朝と言っても、9:00は過ぎてるだろ!?
人一人いない町ってなんだよ!


... ...まあ、でも、人口が少ない事はマンションのチラシを撒いた時に既に分かっていたことだ。
チラシを一万枚くらい作って撒いたのにも関わらず、街の人は数十人しか集まらなかった。
それを踏まえて、その数十人は現在、ゴーレムの森にある俺が作ったマンションに移り住んでいる。

しかし、まあ、この町には数十人しか人がいないのかよ!
数十人いなくなっただけで町はゴーストタウン化した現状に内心俺は焦っていた。
だって、「国を再建して!」って言われたけど、人がいないんじゃ話にならないよ!


山から降りてきた北風が街の通路と化したメイン通りに吹き、寂しい街並みを強調するが。

「らんらんらーん♪♪」


シルフのアホみたいに音程が外れた謎の歌が冷たい風に乗って街の端から端まで響き、その歌声を聞いたこの街の裏番長が目を覚ましてしまった。

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