異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第28話お母さん! ゴーレムマンションは思ったよりも豪華です!

_____「ゴーレムの城」______


「お・大きいですね... ...」


森を抜けると開けた原野にレンガを外壁に使用された重厚感のある城が圧倒的な存在感で鎮座しており、セバスは上を見上げ、率直な感想を漏らす。


「ふん! た・大した事ないわよ! どうせ、中はチンケな作りでしょ!?」


強がっているが、シルフは明らかに目が泳いでいる。
その証拠にシルフは馬を降りる際、鞍から垂れる足を固定する部分に足を通せずにワタワタとしていた。


「... ...ん。ここね」


足を固定する部分を目視で確認し、シルフは馬を降り、城内に入る為に玄関ドアの前に立つ。
玄関ドアもゴーレムの能力で作られ、両開きの木製扉の真ん中には弓を持った天使の意匠が施されており、技術の高さが窺える。
天使のデザインをチラリと確認し、シルフはドアをノック。
すると、自動で扉が開き、豪華なシャンデリアとエントランスホールの中央にある噴水がお出迎え。
室内は白を基調とされており、フロアには大理石が敷き詰められ、大人が腕を回しても回しきれないほどの横幅がある石柱が何本も立ち並び、エントランスホールの奥には大人十人が横並びで昇れるほどの階段が... ...。


「ウチの宮殿よりも豪華だ... ...」


兵士の一人がうっかり口を滑らすが、開いた口が塞がらないシルフ一行の耳にはそれが入っていないようで、注意するような意識があるものはいなかった。


「シルフ様... ...。中も素晴らしいですね」


セバスが感嘆の声を上げ、シルフを見ると目を潤ませ、歯を食いしばってあからさまに悔しそうな様子で肩を震わす。


「ふん! エントランスは少し豪華に作ってるみたいね! でも、少し派手過ぎない!? 趣味がおばさんよ! ほかの部屋もこんなんだったら飽きちゃうわ!」


小姑のようにブツブツ言いながら、シルフは各階をくまなく自身の目でチェックしていく。


□ □ □


「え~。ここは子育て世代が入るフロアみそ」


城内の案内もゴーレム幼女が務め、語尾の『みそ』はそのまま。
慣れてきたのか、そんな些細な癖よりも二階の部屋が気になってしょうがないのかは定かではないが、シルフは説明を聞くことなく、勝手に扉を開け、居住部屋を覗く。


「_____くっ! 何よこれは」


三人家族を想定している部屋は3LDKの間取りでリビングは20帖もあり、6帖ほどの洋室3つと寝室、更にはウォークインクローゼットも完備され、この世界では見たことがないだろう。
対面キッチンが採用され、風呂→脱衣場→キッチンとつながる動線お母さんには嬉しい動線となっている。


「シルフ様! 脱衣場に棚がついてますよ! これならタオルとか着替えを置いておけますね!」


セバスは何やらはしゃいでいる。
シルフの世話を長年しており、もう、主婦目線になっていたのだろう。


「____くう~!!!」


シルフは批判する点も見つからないのか、黙って唇を噛みしめ。


「次よ! 次!」


ここには居たくなかったのか、まだ部屋の中を見たそうなセバスと兵士達を強引に次の階まで連れていく。



□ □ □



「え~。次は高齢者が入る部屋みそ」


先程の間取りとはガラッと変わり、コンパクトに纏まっており、内装はこの世界では見ることがないであろう、『和』を採用。
畳に使用するイグサを手に入れる事は出来なかったのか、畳にはヤシの葉を細かく千切ったものを代用しているが、見た目は畳そのもの。


「みてみて! シルフ様! この床! 木の香りがしますぞ! ああ... ...。癒されます~」


そして、高齢者のことを考えてか、全面バリアフリー設計となっており、オールフラットな床。
更に廊下にも手摺を取り付けている安心設計。


「シルフ様! ここは段差がないので老体の私も楽に歩けます!」


「____くっ! セバス! 私の城は段差だらけだって言うの!?」


「え!? いや、その... ...」


返答に困るセバス。
周囲の兵士達の中には「確かに段差多いよな」とセバスの発言に賛同する者もチラホラ。
シルフはこう見えて、人見知りだ。セバス以外の人間に心を開く事はあまりない。
この時も兵士達に文句を言えばいいのだが、それを言えず、黙ってセバスの頬を叩き八つ当たり。



□ □ □



「で、ここは独身の童貞と処女が入る監獄だみそ」


もう、カンペのようなものをゴーレム幼女は見ていない。
これは、ゴーレム幼女の感想だ。
正式にはここは単身者が入る、ワンルームタイプ。
大きな窓がリビングに付き、そこからゴーレムの森を一望できる。


「シルフ様! すごい眺めですよ!」


セバスや兵士達は子供のようにガラスに張り付き、外の景色を堪能。
「高い所に来るとお腹空くな!」「いや、お前は食い意地が張ってるだけだろ!」「ハハハ!」と盛り上がる兵士達を横目にシルフはもう千切れてしまうかと思う程に唇を噛みしめ、薄っすらと血が出ている。


他にも異世界では見る事がない、『水洗トイレ』『ガスキッチン』などの設備を見て、シルフはその度に意気消沈していった。



□ □ □




「これで以上だみそ! どうだったみそ?」


ゴーレム幼女が笑顔で感想を求めると兵士達や町の住人は。


「いや~。素敵でしたよ! こんな設計みた事ありません!」
「俺、痔持ちなんであのウォシュレットってやつ試してみたいよ!」
「あのキッチンとかいう場所は使いやすそうね~」


と次々に声が。
シルフはそれらの声を耳に入れないように耳を両手で塞ぐ。


「____で、これを作ったのはあなたですか?」


と住民の一人がゴーレム幼女に問いかける。


「作ったのはあたしだけど、指示を出したのは花島だみそ!」


「花島... ...?」


住民達は聞き慣れない名前に首を傾げる。


「... ...花島だって!?」

耳を塞いでいたシルフはその名を聞き、耳から手を離す。


「ぬわははは!!! そうだ! 俺が花島だ!」


待ってました! と言わんばかりに階段の最上段からガウンを羽織って、右手にワイングラスを持った花島が韓国のセレブのような貫禄で降りてくる。
そして、驚きを隠せない様子のシルフの前に立ち。


「よう。久しぶりだな王女様」


と圧倒的なドヤ顔をかます。

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