俺がこの世に生まれた意味

高木礼六

魔窟での制限

ーーな、何が起きたんだ?

さっきまでいたはずの悪魔の群れが今は跡形もない。瞬間移動でもしてどこかへ飛んだ、はたまた、元からゴブリンなんていなかったという幻覚、と言うわけでもなさそうだ。

悪魔がいたはずの場所にアイテムがたくさん落ちている。
つまり、一瞬の内にあれだけの群れのゴブリンが何者かにやられてしまったということだ。

恐らく、原因はあの青白い光の筋、あの筋が一瞬でゴブリンをやっつけたと思うのが一番妥当だ。

問題はそれを誰がやったかだ、アースカティアではない、あんなことできない、ララとレレもできない。

ならば必然的に犯人はわかる。

クエストに同行してきた英雄、いつの間にか三人の前に佇む黒髪の青年だ。


「君たち、魔窟がどんなところか知らないのか?」


グランバイトは後ろを振り向かないまま、重たい口調で聞いてきた。


「君たち、先生やマイヤから話は聞いていないのか?」


いまいち状況を理解できていない三人はグランバイトの質問に言葉がでない。


「その様子だとなにも知らないみたいだね。...あの人たちは何を考えてるんだ。これじゃあただの無謀じゃないか。はあ、仕方ない。」


グランバイトは一息嘆息すると、ようやく三人に向き合った。


「君たち、この魔窟に入った以上油断は禁物だ。ここの悪魔は地上の個体よりも少なくても十倍の力を持っている。」

「マジかよ。」


さっきのゴブリンの動きを見る限り、誇張でもなんでもないのだろう。確かに地上のゴブリンの常軌を逸した早さだった。

ゴブリンであれならば、他のものはもっと強いはず、先が思いやられる。

けれども、魔窟の恐ろしさはこれだけではない。


「そしてもうひとつ注意点がある。魔窟内では、魔法が制限される。」

「制限?」

「ああ、言葉の通りだよ。ここでは魔法を永遠と使うことができない。大気中で魔力を供給してくれていた精霊がいないんだ。だから自分が元々持っている魔力量しか使えない。分かるかい?」


三人はグランバイトの質問に首を横に振ったが、理解できる部分もあった、マイヤとの魔法講座の時に聞いた覚えがある。

自分達は基本的に魔力を消耗しない、精霊によってその力を借り受けているのだと、だからこそ永続的に魔法を使用でき、途切れることがないのだと。

でも、魔窟に入ったらそれが出来なくなるなんて聞いていない。

悪魔の強さにしても、魔法の使用制限にしてもなにも聞いていない。

マイヤはこの事をただ言い忘れただけなのだろうか、それとも何らかの意図があってのことなのだろうか。

本人がいない以上、真意はわからない。

それに、本当にこれはマイヤ一人によって引き起こされたものだと言えるのだろうか、もっと違う誰か、上の立場の、権力を持つものの策略ではないのだろうか、アースカティアの脳内を、そんな思考が巡り回るも、グランバイトの声にその思考は断たれた。


「...やはり、この話はやめよう。マイヤや先生がこんな大事な話を言い忘れるわけがない。彼女は優秀だ、きっとなにか考えがあってのことだと思う。それに、その調子だと魔窟の本質も知らないのだろうね。」


淡々と述べられる英雄の言葉を三人はただじっと、聞いていた。

魔窟とはなにか、ユパが少しだけ言っていたのを覚えている、魔窟とは未知の洞窟、謎が一身に詰まった宝物庫も同義だと。

だが、グランバイトの様子を見るとそれだけではないようだ。


「そこで僕から臨時のクエストを出そう。」

「え、こんないきなり?」

「ああ、といっても簡単なものだよ。君たちに魔窟とはなにかを考えてほしい。答えはこの魔窟を攻略した後で大丈夫だ。気長に考えてくれ。」


グランバイトは柔らかな口調で少々強引にクエストを押し付けてきたが、アースカティアは彼の言葉に頷いた。別に断る理由がない。

そしてグランバイトは微笑むと、もと来た階段のある方、いや、その階段とはまた別に、新しく現れた階段を指差している。

どうやらそこからが、本当の魔窟の始まりのようだ。


「それじゃ、ここからは別行動だ。君たちの答え楽しみにしているよ。」


グランバイトはその言葉を残して、風のように颯爽と次の道へと進んでいった。


「ここで考えてもなにも始まらない。俺たちも行こうぜ。」


アースカティアの呼び掛けに双子の姉妹は頷き、三人も次のステージへと進んだ。

と言いたいところだが、ゴブリンが落としたアイテムはしっかりと回収を済ませた。

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