俺がこの世に生まれた意味

高木礼六

初出発

「なあ、なんで急にこの人を俺たちのクエストに連れて行くなんてなったんだ?」

「うん、君たちには当然教える必要があるね。」

「ああ、その事については私から話そう。」


アースカティアがこの呼び出しの核心をついた質問に、ギルド本部長が直々に答えてくれるようだ。

瞬間、ユパの周りに重苦しい雰囲気が蔓延した。


「君たち、何故今このギルド内に冒険者が少ないのかわかるかな?」

「ああ、魔窟の攻略に行ってるんだろ?」

「突然現れたって言う大きな魔窟だったかしら。」

「そうそう、その魔窟を攻略するために遠征隊を組んで、みんなで行っちゃったんでしょ?」


三人はマイヤに聞いた情報を思い出していた。

ここギルド本部が誇る屈強な冒険者たち総出でとある魔窟を攻略しに行ったと、マイヤはそう言っていた。


「その通り、そして、ギルド本部が派遣したその遠征隊が、とある魔窟の攻略に失敗したのだ。」

「は!?」
「「え!?」」


三人の叫喚が部屋に響き渡る。

遠征隊にはグランバイトを始め、下級、中級、上級、特級の冒険者が総勢二百人は優に超える数がいたらしい。

その遠征隊が、力を結集させても攻略出来ないなんて、想像できないし、信じられない。

一体全体、何があったと言うんだ?


「正確には、挑む権利すらなかったと言うべきか。」

「それってつまり、どう言うこと?」


三人は三人とも、ユパが言っていることを理解出来ない。

遠征隊が攻略不可だったと言うことですら想像に難かったのに、挑む権利がなかったと言うのはどう言うことなのだ。

異端児三人は頭を抱えて考えている。


「それはだね、僕たち冒険者の誰一人も、あの魔窟に入ることができなかったんだ。」


ユパに変わり、グランバイトがその美声を震わせ、悩む三人に当時の様子を伝え始めた。


「入り口は確かにあった。その中に入れば出口らしい光もあった。僕たちはその光を目指して進んでいたのだけれども、気づけば元いた場所に戻されているんだ。なんの前触れもなく、全く不思議な気分だったよ。」


侵入不可能な魔窟、そんなものが存在していいのだろうか。


「氾濫してくる悪魔も強敵揃い、このままだと世界に特異点を永遠に残してしまう。」


攻略出来ない魔窟、そこから生み出される上位種の悪魔、グランバイトの言っていることが本当だとすれば、これは間違いなく世界を脅かす脅威になる。

早々に断ち切る方法を模索する必要がある。


「そこで君たちの出番だ。君たちには今からグランバイトとともに魔窟の攻略に向かってもらう。」

「今から!?.....でも、それが妥当か、とある魔窟を攻略するにはまず他の魔窟がどうなってるか知る必要があるよな。」

「ああ、そう言うことだ。聞き分けが良くて助かるよ。」


突発的ではあるが、急遽、クエストの出発時間を早めることになった。

けれども、遅かれ早かれ、どの道通らなくてはいけない道、反論することはない。

異端児三人は了承した。


「マイヤ、荷物の準備は終わらせているか?」

「はい、既に滞りなく。ここに準備できております。」

「流石だ。」


三人の意思を確認した後、ユパはマイヤに準備の進捗状況を聞く。

その言葉に、マイヤはそれをどこに隠し持っていたのか、昨日揃えたクエストのアイテムを詰めたバックパックを足元に置いていた。

準備は万端。これならばいつでも出発できる。


「さあ、アースカティアくん、ララくん、レレくん、あと、グランバイト、こちらに来なさい。」


ユパは四人を自分の元に呼び、手をかざしてきた。


「事態は君たちが思っているよりも深刻だ。私たち人類にとっての僥倖を期待しているよ。では、神のご加護があらんことを。」


ユパの手に光がともり、アースカティアたちを優しく包み込む。

この光、初めて見る光じゃない。

この街、パールシアに来る時にも一度味わった転移魔法の光だ。

アースカティアは後ろに麗しく佇んでいる女性に向き直ると、彼女はにっこりと微笑み、こう言った。


「行ってらっしゃい。」

「おう!行ってくるぜ!


これは意思表明だ。クエストを達成すると言うアースカティアなりの決意の表れだ。

やがて四人を包み込む光は視界をも奪い、異空間へと飛ばした。

光が消えると、そこにいたはずの人、もの、空気、何もかもがなくなっていた。

そこに何かがあったと言う余韻すら残さず、跡形もなくなっていた。


「行ってしまいましたね。」

「ふっ、彼らのことが心配か?」

「もちろん。私が初めて受け持つ専属の冒険者ですもの。心配の一つや二つはします。」

「そうか、それもそうだな。だが大丈夫。きっと彼らなら受け止めて帰ってこれるはずだよ。魔窟というものがなんなのか。異端児というものがなんなのか。彼らなら分かるはずだ。」

「はい。私も、彼らを信じます。彼らがこの世界を救う、鍵なのですから。」

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コメント

  • 姉川京

    あ〜続きが気になる

    0
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