俺がこの世に生まれた意味

高木礼六

脅威的な成長

三人で合同訓練をすることになった。
それだけなら何の問題もない。

そう、それだけなら何の問題がないのだ。

けれども、


「あー無理かしらー。」


少女の諦めが早すぎる。


「くっそー、またダメだー。」


少年の進歩が無さすぎる。

二人揃って地面を背にし、大の字になって寝っ転がっているが、三人で訓練を始めてからまだ数十分しか経っていない。

そんな二人の怠惰な様子にレレは嘆息する。


「もお、もっと強くなりたいんなら一生懸命やってよね。教えてるこっちの身にもなってみてよ。」

「そうは言ってもよ、レレの言う通りにやっても俺、何にも成長した気がしねえんだよ。イメージだって完璧なのにだぜ。」

「確かに、そうだよね。もしかしてディグルには魔法の才能が無いのかもね。」

「はあ、やっぱりそうなのかな。でも、直接そう言われると流石に傷つく。」

「ごめんごめん。」


アースカティア自身が言った通り、彼のイメージはちゃんとしている。

隠された真実、繁栄してしまった虚構、それらを全て照らし出す光が欲しい。

それがアースカティアのイメージだ。

望みも想像も上手くいっているのに、上手くいっていない。

頭に思い描く理想は現実に具現化することがない。

お先真っ暗。


「なあ、レレ、俺と戦わないか?俺にとって魔法の訓練は無駄だって分かった。お前だって新しい魔法を試してみたいだろ?どちらにとってもメリットがあると思うぜ。な、いいだろ?」


そこでアースカティアは発想を展開させた。

お先真っ暗な道なら、通らなければいい。

今ある力を伸ばして、できるものをさらにできるようにすればいい。

アースカティアはそれらしい口実をつけ、レレに手合わせを願った。

あとはレレの返事を待つだけ、といっても返ってくる返事は分かっている。

心優しく、自分を必要としている依り代を求める彼女だ、答えはその一つしかない。


「分かった。やろう、ディグル。」


微笑み、迷いのない言葉を聞いたら、二人は早速準備に取り掛かった。

といってもそんな大それたことはしない。

ただ二人が向かい合って、戦う前の心構えと姿勢を整えるだけだ。

その準備が終了すると、早速二人は動き始めた。


「光よ、俺を照らし出せ、ラクス!」

「水の精霊よ、雷の精霊よ、この身に激流と一閃を交え、轟く大渦となれ!ラギアクルス!」


二人の快活な声に呼応し、それぞれの魔法が大気を震わせる。

アースカティアはいつも通り、闇を照らし切り裂く極光の白光を呼び出し、今回はその光を武器のみではなく、体全体に覆わせ、対人戦において有利な部分強化魔法を完成させた。

一方レレは、この訓練で得た成果を出していた、いや、出ていた。

意図したものではない。

偶然生まれた産物。しかし、それは確かにレレが出したもの。

魔法を、魔力を増大させる不思議な文様。


「な!?魔法陣だと!?」


それは魔法陣。

限られたものしか使えない魔法強化術、その効果は絶大で、現に今、レレを見れば分かる。

魔法陣から荒ぶる激流が流れ出し、一匹の龍の如くうねり出す、上空からは突き抜ける雷が飛雷し龍に鉄槌を下す、その二つが合わさり、雷光を放つ大渦となる。

その圧倒的魔法は勢いを弱めることなく、収縮し、凝縮され、一つの雷水鎧となった。


「何だろうこれ、初めてなのに妙に落ち着く、不思議だな。」


レレにとってもこの魔法陣の発動は予想外、内心ではとても驚いている。なのに頭はそれを受け入れて、異様なほど落ち着いている。

全能感に満ち溢れ、今なら何でもやれそうな気がする。

目の前の相手、今までなら一度も勝てなかったあの少年に、勝てそうな気がする。


「凄え、凄えぜレレ!お前すげぇよ!何だよ魔法陣なんて出せたのかよ!ああ、ちくしょう、何だこの気持ち、ぜんっぜん勝てる気がしねえのに楽しくなってきたぜ、全力で行くぞレレ!手加減なんてすんじゃねえよ!」

「そんなことするわけないじゃん。かかって来てディグル!」


アースカティアは負けるかもしれないという恐怖より、レレの力量を知りたいという好奇心の方が優った。

だからこそ、笑って、全力で、その大剣を振るうことができた、が、その渾身の一撃はレレの双剣に難なく受け止められてしまった。

その攻撃を受け止めた時のレレの顔、彼女もまた笑っていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品