俺がこの世に生まれた意味
魔法って難しいものなんだ
魔法の術式とは、文字を描いたり、魔法陣を描いたりすることではない。
脳内で己にあった魔法の成り立ちを想像し、言葉を紡ぐことによって魔法が生み出される。
その数は幾重にもあり、人それぞれが固有の、特有の魔法を持っている。
まさに千差万別。
誰一人として全く同じものというのを持っていない。
術式の組み立て方も定石が存在せず、各々の才能に委ねることがほとんど。
故に魔法の指導とは、研究とは、訓練とは、難しいものなのだ。
更に今、指導する人が急用で呼び出しを食らってしまった。
三人は自主練の最中だ。
「くそっ、上手くいかねぇ、なんでなんだよ。」
ここに、魔法について悩むものが一人。
己が纏う部分強化魔法も、全身強化魔法にも威力の増幅が感じられない。
何度やっても変わらない。
量をこなしていてもなんの変化も訪れない。
いつもの光り輝く武装なだけ。
彼には今、焦りが生まれている。
「またダメかしら、私にこの魔法は向いていないの?」
ここにも一人、悩んでいるものがいる。
言葉を紡ぎ、魔法を使用しようとする度に、ボスっと黒い煙が生まれ、鎮火する。
イメージが固まらない、自分の無力さに嘆息が溢れる。
彼女は今、産みの苦しみに苛まれている。
「御霊を守りし精霊よ、ヒリル。」
だが、二人を差し置いて、彼女だけは例外だった。
天賦の才、生まれながらに持っていた才能が、存分に発揮されていた。
「やった、出来た!」
自然と浮かび上がってきた言葉を紡ぐと、その細くしなやかな手から放たれる緑暖光から生命力が迸り、可視化できるほどに具現化されている。
実験として、自身の指先を軽く切ると、針で刺されたような痛みとともに、血が溢れてくる。
試しにそこに自分の魔法を当ててみる、するとたちまち傷は元どおり、血は止まり、痛みもなくなった。
成功した。
レレだけが、目に見える成果を得ることができた。
そんな彼女が上げた喜色の声に、アースカティアとララの視線が集まり、二人はレレの元へと足早に近づいてきた。
「まじかよ!?すっげーなレレ!」
「当たり前かしら、ララの妹なんだから。」
「それほどでもないよ〜。」
レレは二人に賞賛され、自分の成果を肯定され、ふやけ顔だ。
「なあ、レレ、その魔法、俺に使ってくれよ。」
「うん、いいよ。」
レレはアースカティアに頼まれた通り、彼に生まれたばかりの魔法を使った。
この魔法が癒すのは傷だけではない。
人の心、病、疲れ、生命に関わる負の産物、これらをデメリット無しに取り除くことができる。
アースカティアはそんな奇跡の力に当てられ、今までやった訓練の疲れが吹き飛んだかのように綺麗さっぱり無くなった。
更に、効率の妨げになっていた焦燥も取り除いてくれた。
レレ様、魔法様、万々歳。
アースカティアはレレに一言礼を告げると、すぐに自分の持ち場に戻っていった。
「ララにもお願いできるかしら。」
「もちろん。」
アースカティアの機嫌の変わりように触発され、ララも懇願してきた。
それをレレはなんの躊躇いもなく了承し、姉の体を光が包み込んだ。
赤と緑、ララと魔法は互いが互いの色を主張し、何とも美しい空間を作り出している。
そこで、ふと、ララは口を開いた。
「今のはディグルにとってプラスだったはずかしら、良かったね。」
「そうかな、本当に私なんかが役に立ててるのかな?」
「そんな、あまり卑屈になりすぎるなかしら。レレはもっと自信を持っていい。なんたって私の妹、役に立たないはずがないかしら。」
ララの言う通り、レレはもっと自信を持っていいはずだ。
家事はできるし、戦うこともできるし、社交性も高い。
それなのに大事なところでは奥手になっている。
いつも元気に振舞っているのも、それを少しでも紛らすためだったりする。
「ありがとう、ララ。でも珍しいね。ララが私に慰めるようなことを言ってくるのは、何か裏があるんでしょう?」
「そ、そんなことはないかしら。」
「図星だね。いいよ言いたいことがあるならいってよ。」
曲がりなりにも双子の妹、姉の考えていることくらい何となくわかる。
どうせ魔法のことだろう。
「その、魔法のイメージが思いつかなくて、レレはどうやったのかなって。」
やっぱり、本当に素直じゃない。最初からそう聞いてくれればいいのに。
それに、いつもの口調とちょっと違う。そんなに素直になるのが嫌、恥ずかしかったのだったのだろうか。
身をモジモジとし、いつもの切れ長の目を上目使い、頬を自身の赤髪と同じ色に染めている。
自分の姉ながら可愛いと思う。
でも、姉が恥を忍んで聞いてきたんだ。こちらも嘘偽りなく伝えるのが道理だ。
「私はね。誰かが傷つけられるのを想像したの。切られて、血が出て、痛めつけられてるの。そんなのは嫌、絶対に嫌、だから癒してあげたい。そう思ったら魔法を具現化できたの。」
「うーん、つまりは自分が嫌なことを払拭することとか、望みを叶えることとか、そう言うことを想像すればいいのかしら。」
「多分そう、ララも自分の望むものを想像すればきっとうまくいくよ、何たって、レレの自慢のお姉ちゃんなんだから。」
レレは姉の助けとなるために、自分が魔法を発言するまでの思考経過を詳細に伝えた。
そこからはどう発展していくかはララの問題。
答えを教えてしまってはララの為にならない。
物事とは教えられて身につけるより、自分で学んで、自分なりの解釈を持って習得する方がはるかに効率も効果もいい。
だからレレは、あえて抽象的な言葉を使い、少しのヒントと励ましの言葉を与えるだけだ。
「ありがとうかしら。ララもこの状況を打破して早く2人の役に立てるようにする。」
「うん、応援するよ。頑張ってね。」
ララもアースカティアと同じく、自分の陣地に戻り、訓練を再開させた。
彼女も二人の迷惑にならないように一生懸命なのだ。
このマイヤ主催魔法実習訓練は吉と出るのか凶と出るのか、それは明日の魔窟冒険で分かる。
脳内で己にあった魔法の成り立ちを想像し、言葉を紡ぐことによって魔法が生み出される。
その数は幾重にもあり、人それぞれが固有の、特有の魔法を持っている。
まさに千差万別。
誰一人として全く同じものというのを持っていない。
術式の組み立て方も定石が存在せず、各々の才能に委ねることがほとんど。
故に魔法の指導とは、研究とは、訓練とは、難しいものなのだ。
更に今、指導する人が急用で呼び出しを食らってしまった。
三人は自主練の最中だ。
「くそっ、上手くいかねぇ、なんでなんだよ。」
ここに、魔法について悩むものが一人。
己が纏う部分強化魔法も、全身強化魔法にも威力の増幅が感じられない。
何度やっても変わらない。
量をこなしていてもなんの変化も訪れない。
いつもの光り輝く武装なだけ。
彼には今、焦りが生まれている。
「またダメかしら、私にこの魔法は向いていないの?」
ここにも一人、悩んでいるものがいる。
言葉を紡ぎ、魔法を使用しようとする度に、ボスっと黒い煙が生まれ、鎮火する。
イメージが固まらない、自分の無力さに嘆息が溢れる。
彼女は今、産みの苦しみに苛まれている。
「御霊を守りし精霊よ、ヒリル。」
だが、二人を差し置いて、彼女だけは例外だった。
天賦の才、生まれながらに持っていた才能が、存分に発揮されていた。
「やった、出来た!」
自然と浮かび上がってきた言葉を紡ぐと、その細くしなやかな手から放たれる緑暖光から生命力が迸り、可視化できるほどに具現化されている。
実験として、自身の指先を軽く切ると、針で刺されたような痛みとともに、血が溢れてくる。
試しにそこに自分の魔法を当ててみる、するとたちまち傷は元どおり、血は止まり、痛みもなくなった。
成功した。
レレだけが、目に見える成果を得ることができた。
そんな彼女が上げた喜色の声に、アースカティアとララの視線が集まり、二人はレレの元へと足早に近づいてきた。
「まじかよ!?すっげーなレレ!」
「当たり前かしら、ララの妹なんだから。」
「それほどでもないよ〜。」
レレは二人に賞賛され、自分の成果を肯定され、ふやけ顔だ。
「なあ、レレ、その魔法、俺に使ってくれよ。」
「うん、いいよ。」
レレはアースカティアに頼まれた通り、彼に生まれたばかりの魔法を使った。
この魔法が癒すのは傷だけではない。
人の心、病、疲れ、生命に関わる負の産物、これらをデメリット無しに取り除くことができる。
アースカティアはそんな奇跡の力に当てられ、今までやった訓練の疲れが吹き飛んだかのように綺麗さっぱり無くなった。
更に、効率の妨げになっていた焦燥も取り除いてくれた。
レレ様、魔法様、万々歳。
アースカティアはレレに一言礼を告げると、すぐに自分の持ち場に戻っていった。
「ララにもお願いできるかしら。」
「もちろん。」
アースカティアの機嫌の変わりように触発され、ララも懇願してきた。
それをレレはなんの躊躇いもなく了承し、姉の体を光が包み込んだ。
赤と緑、ララと魔法は互いが互いの色を主張し、何とも美しい空間を作り出している。
そこで、ふと、ララは口を開いた。
「今のはディグルにとってプラスだったはずかしら、良かったね。」
「そうかな、本当に私なんかが役に立ててるのかな?」
「そんな、あまり卑屈になりすぎるなかしら。レレはもっと自信を持っていい。なんたって私の妹、役に立たないはずがないかしら。」
ララの言う通り、レレはもっと自信を持っていいはずだ。
家事はできるし、戦うこともできるし、社交性も高い。
それなのに大事なところでは奥手になっている。
いつも元気に振舞っているのも、それを少しでも紛らすためだったりする。
「ありがとう、ララ。でも珍しいね。ララが私に慰めるようなことを言ってくるのは、何か裏があるんでしょう?」
「そ、そんなことはないかしら。」
「図星だね。いいよ言いたいことがあるならいってよ。」
曲がりなりにも双子の妹、姉の考えていることくらい何となくわかる。
どうせ魔法のことだろう。
「その、魔法のイメージが思いつかなくて、レレはどうやったのかなって。」
やっぱり、本当に素直じゃない。最初からそう聞いてくれればいいのに。
それに、いつもの口調とちょっと違う。そんなに素直になるのが嫌、恥ずかしかったのだったのだろうか。
身をモジモジとし、いつもの切れ長の目を上目使い、頬を自身の赤髪と同じ色に染めている。
自分の姉ながら可愛いと思う。
でも、姉が恥を忍んで聞いてきたんだ。こちらも嘘偽りなく伝えるのが道理だ。
「私はね。誰かが傷つけられるのを想像したの。切られて、血が出て、痛めつけられてるの。そんなのは嫌、絶対に嫌、だから癒してあげたい。そう思ったら魔法を具現化できたの。」
「うーん、つまりは自分が嫌なことを払拭することとか、望みを叶えることとか、そう言うことを想像すればいいのかしら。」
「多分そう、ララも自分の望むものを想像すればきっとうまくいくよ、何たって、レレの自慢のお姉ちゃんなんだから。」
レレは姉の助けとなるために、自分が魔法を発言するまでの思考経過を詳細に伝えた。
そこからはどう発展していくかはララの問題。
答えを教えてしまってはララの為にならない。
物事とは教えられて身につけるより、自分で学んで、自分なりの解釈を持って習得する方がはるかに効率も効果もいい。
だからレレは、あえて抽象的な言葉を使い、少しのヒントと励ましの言葉を与えるだけだ。
「ありがとうかしら。ララもこの状況を打破して早く2人の役に立てるようにする。」
「うん、応援するよ。頑張ってね。」
ララもアースカティアと同じく、自分の陣地に戻り、訓練を再開させた。
彼女も二人の迷惑にならないように一生懸命なのだ。
このマイヤ主催魔法実習訓練は吉と出るのか凶と出るのか、それは明日の魔窟冒険で分かる。
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