俺がこの世に生まれた意味

高木礼六

クラスとクエスト

「はあ、やっと着いた。ごめんね、マイヤさん、迷惑かけて。」

「いえいえ、これぐらい当たり前ですから。」


アースカティアはマイヤの案内の元、ようやくユパの元へと辿り着いた。

あの時、医務室を慌てて飛び出したまでは良いものの、その後は、広大なギルド本部内で迷ってしまい、途方に暮れていた彼をマイヤが見つけた事で今に至る。

異端児トリオのリーダーとしての顔が丸つぶれだ。


「あっ、ディグル、遅かったね。何してたの?もしかしてずっと眠ってた?ディグルったら可愛いんだから、もおっ。」

「ち、ちげぇよ!勝手な妄想に浸ってんじゃねえ!俺には他にやることがあったんだよ。お前らには別に関係ないさ。」

「ムキになるところが怪しい。そう言って、本当は迷子になってただけなんじゃないかしら。」

「な!?そ、そんな訳...」

「まあ!よく分かりましたね、ララ様。」

「ちょっと、マイヤさん!?」


そんな遅れて登場したアースカティアに、レレが何をしていたのか妄想混じりで聞くと、迷子になっていたことを隠したい少年はそれを否定した。

けれども長年一緒にいたもの同士、分かり合ってしまうもの。

ララに迷子になっていたことを言い当てられ、咄嗟に否定するが、マイヤの確信をついた発言により撃沈してしまった。

アースカティアは顔を真っ赤に染め、顔を伏せてしまっている。


「お楽しみ中悪いのだけれども、こちらの話を聞いてくれ。早速君たちとは話しておかないといけないことがある。」


わいわい、キャピキャピと騒いでいる若者四人の元に、初老の男性のちょっと重たい声が投げかけられた。

彼は真剣な眼差しで、話があると言った。


「まずは、測定お疲れ様。君たちに結果を伝えようと思う。」


測定の結果。気になる、けど、結果ってなんだろう。

ここでは合否が問われるのだろうか、それともランク付けがされるのだろうか、はたまた別の何かなのか、それすら分からない。

けど、取り敢えず、結果は気になる。


「君たちをパールシアギルド本部の中級クラス冒険者として正式に認めよう。喜びたまえ。」

「...」

「あれ?喜ばないのか?」

「え、だって、中級クラスとか言われてもよくわかんねぇし、喜べねぇよ。」

「な、なるほど。君たちはそこからか。」


何度目かは分からないが敢えて言おう、この三人は今まで山奥で過ごしてきたため、この都市についても、この世界についても、知識や常識に乏しい奴らだ。

だから中級クラスなんて知らない。聞いたことない。言われたところで分からない。

だけどやっぱり、新しいことは知っておきたい。

それが異端児。

ユパは頭を抱えて少し困り顔だ。


「最初から説明してやろう。まずはクラスについてだ。」


ユパはそう言うと、何か呟き、右手を開いた。

そこから光が飛び出し、ひとつの大きなピラミット状の板が出てきた。

よく見れば五つに区分されているみたいだ。


「これを見て貰えば分かるように、下から順に、初級、下級、中級、上級、特級となっている。」

「なるほどなるほど、と言うことはだ、俺たちの実力はちょうど真ん中ってことなのか?」

「その通りだ。察しが良くて助かるよ。」


クラスとは上に行けば行くほど冒険者としての力が高いことを示し、下に行けば行くほど冒険者としての力が低いと言うことを示す。

その中でアースカティアたちは中級。ちょうど真ん中だ。

村では負けなしだった無敵の掃除屋もここに来れば真ん中なのだ。

ユパは察しがいいと言っているが、なんだか疲れているみたい。


「クラスにはそれに見合ったクエストとその報酬が用意されている。君たちにも既にクエストが来ているんだよ。クラスなんてものは自然と過ごしていればわかってくる。今からはこのクエストの話をしようじゃないか。そう、そっちの方がいいに決まっている。」


ユパは冒険者クラスの説明に飽きたのか、半ば強引に話を切り替えた。

三人もなんとなく理解出来ていたので、これはこれで別に問題はない。

むしろクエストというのがどんなものなのかの方が気になる。


「と言っても、話をするのは私じゃない。私とてギルドの本部長。多忙な身なのだ。今からはそのマイヤが君たちの専属の使用人になるから、別室で話を進めてくれ。後は任せたぞ、マイヤ。」

「はい。任されました。ユナン様。」


ユパは残りの仕事を丸投げしたみたいにマイヤへと押し付けた。

マイヤ本人は嫌な顔一つせず、むしろちょっと喜ばしそうな表情で返答していた。

三人はマイヤに連れられ、別室へと移動した。


「さあ、アースカティア様、ララ様、レレ様座って下さい。」


案内された部屋で、支持されたまま三人は用意されていたふかふかのソファーに腰掛けた。

クエストの話をするのだから、もっと小さい部屋かと思ったら、そうじゃなかった。

意外と広い。

しかも、なんだかホテルみたいな感じがする。泊まれそう。


「ねえ、マイヤ、その喋り方どうかならないかしら。気持ち悪い。変えて。」

「そうそう。なんか距離を作られてる感じがする。」

「なっ!?お前らいきなり失礼だろ!?マイヤさんは俺たちに...」

「ディグルはちょっと静かにしててかしら。」


部屋に移動して来て早々に発揮したララの傲岸不遜な態度に、双子の妹であるレレが乗っかると、失礼だとアースカティアが説教をしようとしたが、ララの鋭い眼光に気圧されてしまった。

マイヤは話の最中、口を開き、驚いたような表情でフリーズしていた。

けれども、その凍った表情を柔らかく溶かし、鋭い目元を優しくすると、天使のように微笑んだ。


「そうでしたか。知らず知らずのうちに不快感を与えてしまっていましたか。すみません。ならばこれはどうでしょう。」


あー、あー、とマイヤは発声練習をしたのちに、再び三人に向き直った。


「ララちゃん、レレちゃん、こんな感じでどお?」

「...ま、まあいいんじゃないかしら。レレはどう思う?」

「う、うん。私もいいと思うよ。」


発声練習の意味があったのかは分からないが、マイヤはさっきとは全然違う言葉遣いになっていた。

その変わりようにララとレレ、そしてアースカティアは一瞬世界が停止し、言葉に詰まった。

どっちが素なのか全く分からないほど、どちらも不自然なほどに自然だ。

マイヤは依然として微笑んでいる。

これからは三人にだけずっとこの喋り方にするらしい。

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