俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第29話 お嬢様と鎧の騎士(後編)

 今回の対戦カードを紹介しよう。
 まずは名門ブリュンスタッド家の執事――周防ミコト。
 そしてその相棒は魔道具屋を経営する謎の魔法幼女――フレデリカ。
 相対するはエリザベートの魔力暴走により誕生した召喚獣――真紅のフルプレートアーマーに身を包んだ鎧騎士。
 どうもこの鎧騎士を倒さなければ奴の背後にある茨のドーム、つまりエリザベートの元へはたどり着けないらしい。
 そんな訳で俺とフレデリカさんは木陰を出て鎧騎士が襲ってこないギリギリの範囲まで近づいていく。
 間合いはさっきフレデリカさんが石を投げてくれたお陰で大体把握できているので問題ない。
 しかし鎧騎士は近くでみると随分と大きかった。とても人間が入れるようなサイズじゃないなこれは。
 まあフレデリカさん曰く中身はほとんど空っぽらしいが。


「いいですか執事さん、私の魔法はあの鎧騎士には通用しません。ですから貴方だけが頼りです、身体強化の魔法をかけますから心臓を狙って下さい。あのタイプの召喚獣はコアさえ破壊すれば止まる筈ですから
「分かりました」


 身体強化魔法か、いつぞやエリザベートが掛けてくれた以来だな。
 あの時は筋肉痛が酷かったり、胸に銃弾を受けたりで散々だったのをよく覚えている。
 しかし流石にいつまでも見た目幼女におんぶに抱っこというのも気が引ける。
 たまには男らしい活躍もしなければなるまい。


「■■■■■■ 《身体強化フィジカル・ブースト》」


 聞き取れない呪文の後に俺の身体へフレデリカさんの魔法が付与される。
 決して上半身の服が筋肉とか気とかで破けたりはしないが、五感が研ぎ澄まされ身体中に力が漲ってくる感覚だ。


「フッ まさかまたこの感覚を味わう事になるなんてな。やれやれだぜ……」
「格好つけているところ申し訳ありませんが、正直今の状態でも鎧騎士との実力差には天と地程の開きがありますからね?」


 せめて気持ちだけでも主人公気分になりたかったのだが出鼻を挫かれてしまった。


「作戦はどうします?」
「長期戦は不利、となれば奇策を弄する他ないでしょう」
「ほう、奇策ですか」
「まず執事さんが特攻を仕掛け、切り刻まれている隙に私がドームの内部に侵入。荷物を届けてハッピーエンドです」
「なるほど完璧ですね――って! 俺死んでるじゃん!?」


 不覚にもノリツッコミをしてしまった。
 なに自分の目的だけ果たそうとしてるんだよ、奇策すぎんだろ。


「冗談です。イッツフレデリカちゃんジョーク」
「無表情で冗談言うの止めてもらっていいですか?」


 案外余裕なんだなこの人は。


「私が奴の注意を引きます。執事さんはその隙に背後へと周り込み後ろから心臓部分を一突きにして下さい。今の貴方の身体能力とその剣の強度を考えればイケる筈です」


 奇策と言う割には結構単純な作戦だった。
 いや状況的に見てかなり有効的だとは思うが、


「注意を引くって大丈夫なんですか? 役割を逆にした方がいいんじゃ――」
「貴方にもしもの事があれば誰がエリザベートの元にいくと言うのですか、生存率を考えればこれが最善です」
「……」


 フレデリカさんの言う通り、ここで俺が死ぬような事があればここまでの道のりが無意味になってしまう。
 あの世で皆に文句を言われるのは御免だ。


「分かりました。それで行きましょう」


 年長者の意見を尊重する事にした俺は脳内でイメージトレーニングをしながらフレデリカさんと鎧騎士の間合いへと足を踏み入れていく。


『――ッ』


 鎧騎士はまるで電源の入ったロボットのように動きはじめ、身の丈程の大剣を上段へと構えた。
 俺とフレデリカさんは互いに目配せをし、それぞれが左右別の方向へと跳ぶ事で振り下ろされた大剣を回避する。
 フレデリカさんは回避行動を取りながら呪文を唱え、自らの周りに紫色の光弾を複数出現させる。
 一つ収めるのに人生の大半を費やさなければならない魔法を複数使用できる辺り、やはりこの人も只者ではない。


「《紫電衝波ヴァイオレット・ショット》」


 放たれた複数の光弾が鎧騎士へと直撃する。
 当然無傷だったが今の攻撃で奴の優先順位がフレデリカさんへと切り替わり丁度俺に背を向ける形となる。


「執事さん、今です」
「はい!!」


 フレデリカさんの合図で俺は両足を力一杯踏みしめて一気に鎧騎士の背後へと跳ぶ。
 地面は俺の踏みしめの反動で派手に抉れ、俺自身は砲弾の如きスピードで鎧騎士へと飛んでいく。
 後は心臓部分を背後から刺すだけだ。
 なんだ、案外簡単じゃないか。
 流石はフレデリカさん、もしかして前世は諸葛孔明とかなのかもしれないな。


「ッ!!?」


 しかし世の中そんなに甘くはなかった。
 結論から言って俺の刺突は鎧騎士に届かなかった。
 何故?――防がれたのだ。鎧騎士が虚空から出現させたもう一本の大剣によって。
 しかもこちらを見向きもしないまま器用に背中を覆う形で剣を盾にしやがった。
 反則!! インチキ!! スカポンタン!!
 やーい! お前の想像主我儘娘!!


『―――――!!』


 そして攻撃対象を俺に切り替えた鎧騎士は振り向きざまに大剣を横薙ぎに振るう。
 辛うじて剣で受けたが、俺の身体はまるでバットで打たれた野球ボールのように後方へと飛んでいった。


「がはッ!?――」


 俺は大きな木にぶち当たり、肺の中に入っていた空気が僅かな血と共に吐き出される。
 もし身体を魔法で強化されていなかったら確実に死んでいただろう。


「執事さん、大丈夫ですか!?」


 急いで俺に駆け寄ってきたフレデリカさんに対して俺は「ええなんとか……」と強がりを言う。
 本当は死ぬほど痛いがなんとか生きているし、まだ動ける。問題ない。


「まさか魔法を使ってくるだなんて、想定外でし――」


 それは一瞬の出来事だった――
 フレデリカさんの首から上が消失した。彼女の背後にはいつの間にか間合いをつめていた鎧騎士がいる。
 横薙ぎの一閃、それがフレデリカさんの首を綺麗に切断したのだ。
 胴体はそのまま無残に倒れ伏し、俺の横にフレデリカさんの頭部が転がる。


「お前ェ!!」


 俺はフレデリカさんを殺された事で頭に血が上り、怒りに任せて剣を振るった。
 両腕の筋肉が悲鳴を上げているのが分かる、骨も軋んで今にも折れてしまいそうだ。
 しかし俺の決死の連撃も鎧騎士は二本の大剣で軽くいなす。
 どうも人の形を模しているだけあってコイツには技術と知恵があるようだ。
 あのエリザベートが作り出したともなれば然程驚く事でもないけれど、これはかなりピンチである。


『――――――』


 そして鎧騎士はいとも簡単に俺の剣を弾き飛ばし、その大きな足で俺の胴を蹴り上げる。


「うッ――」


 あばら骨が確実に折れたのが分かった。たぶんこれはフレデリカさんのあばら骨を弄んだ罰なのだろう。


「く……そ……」


 蹲る俺に鎧騎士は剣の切っ先を向ける、どうやら止めを刺すつもりらしい。
 しかし、


「なーんちゃって」


 なんとも軽い声の直後――鎧騎士の胸から剣が飛び出してきた。
 何者かによる背後からの一撃、それが鎧騎士を襲ったのだ。


『……』


 鎧騎士は糸の切れた人形のように崩れ落ち、そのまま赤い粒子となってゆっくり消えていく。
 残ったのは鎧騎士を背後から奇襲した人物――それはフレデリカさんの胴体部分だった。


「なんとか上手くいきましたね」


 さっきの声と同じ声色が俺の後方から聞こえてきた。
 俺はまさかと思い振り返る。
 そこには未だに地面へと転がるフレデリカさんの頭部があった。
 それが目を開け、口を動かして話している。まるで一種のホラー映画だ。


「これぞ肉を切らせて骨を断つ。いえ首を切らせてと言った方がいいでしょうか」


 と冗談を言うくらいには元気なフレデリカさん。
 俺はとりあえず彼女の頭部を持ち上げ、土汚れを拭く。
 うわ~ なんか頭部だけなのに目とか口とか動いてて気持ち悪ィ~


「生きてたんですねフレデリカさん……」
「敵を騙すにはまず味方からといいますからね」


 フレデリカさんの作戦、それは自らを死んだと思わせて俺に注意を逸らし背後から奇襲するという物だったようだ。
 捕食者は獲物を狩る時が一番油断する、そこを付いた見事な奇策。
 なまじ知性がある鎧騎士に対しては有効な作戦だった。
 でも人が悪い。本気で死んだと思ったんだぞ俺は!?
 とういうかコレ一周回って結局俺が囮になってるし!
 いや、結果オーライだからいいけどさ……


「それにしても魔法っていうのは何でもありなんですね」
「魔法といえばそうなんですけれど、単純にこの身体が人形という事が大きいです」
「人形?」
「ええ、魔道具屋の老婆もこの美幼女も全部私が作った人形です。魂だけ移してるんです、なのでいくら壊されても問題ありません」


 美幼女と言うワードに突っ込むべきか迷ったが寸前で飲み込んだ。
 なるほど人形ね、通りで体重が軽い訳だ。 
 フレデリカさん(頭部)を抱えた俺はとりあえずフレデリカさん(胴体)の元へと近づく。


「これってくっつくんですか?」
「完全に切断されているので店に戻らないと修復は無理ですね、それに遠隔操作もそろそろ限界です」


 ドサリッとフレデリカさん(胴体)は地面に崩れ落ちた。


「こうなってしまえば致し方ありません。執事さん私の服のポケットにある荷物を取り出して下さい」
「荷物ってお嬢様に届ける筈だった奴ですか?」
「ええ、この際中身を見なければいいでしょう」


 俺はフレデリカさん(頭部)をハンカチを敷いた地面へと起き、彼女の服のポケットを探る。


「ちょっと、どさくさに紛れて変な所触らないで下さい。くすぐったいじゃないですか」
「変な所なんて触ってないですよ!?」


 謂れの無い言いがかりだ、何度も言うが俺にそんな趣味は無い。
 しかもそれが頭部が切断された人形なら尚更である。


「えっと、これですか?」
「はいそれです」


 俺が取り出したのは小さな小箱だった。
 よくアクセサリーとかが入っている奴ね。


「いいですか、絶対開けちゃ駄目ですよ」
「そう言われてると開けろと言う振りに聞こえてきますね」
「いえ、セキリティとしてエリザベート様以外の物が開けると爆発する仕組みになっていますので」
「それを先に言って!!」


 危うく開けそうだったわ!!
 そうまでして見られたくない物を造らせたのか? まあ後でエリザベート本人に聞けばいいか。
 俺は小箱を懐にしまって立ち上がる。


「あーあ。今回の戦闘イベントもあまり役に立てなかったな~」
「そう悲観する事もないでしょう、なにせ――」


 戦闘よりずっと難易度の高いイベントが待っているのですから――とフレデリカさんは生首のままそう言った。

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