俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第18話 お嬢様、何かを企む。

 そんな訳で、エリザベートのお悩み相談はまだまだ続く。
 続いて現れたのは人よりちょ~っとふくよかな女性だった。


「えっと、最近なんだか太ってきちゃって。どうしたらエリザベート様のように美しくなれますか?」
「遺伝じゃ」
「はうッ!?」


 次は結婚して3年になるという専業主婦。


「夫が浮気しているんです、でも問いただす勇気がなくて……」
「殺せ」
「……いえ流石にそれは……」
「ならば妾が今すぐ魔法で粉微塵に――」
「失礼しましたぁー!!」


 そして夢見るニート。


「デュフッ! じ、実は拙者、小説家になりたくて、自作に対しての率直な意見が伺いたく馳せ参じた次第でありましてコポォ」
「文法が壊滅的、キャラも他の作品の劣化コピー、話も絶望的につまらん、その癖主人公に自己投影が過ぎて吐き気がする、逆にどうしたらこんな物が書けるのか知りたいくらいじゃ」
「うわああああああん!!」


 中にはこういう人もいた。


「お金が……欲しいです」
「帰れ」
「……はい」


 こんな感じでエリザベートは訪れる相談者達をバッサバッサと切り捨てていった。
 後半になるにつれて彼女の態度がキツくなっていったのは言うまでも無い。


「だぁ~!! どいつもこいつも下らん事で悩みよってからに! もっと面白い相談者はおらんのか!?」
「一般庶民の悩みなんてあんなもんですよ」


 むしろ今日もこの国は平和だと安堵さえ覚える程の普通っぷりだった。


「はぁ…… 次で最後かの」
「はい、確か最後は小さな女の子だったかと」
「なんじゃ童か、期待できそうもないの~」


 まあよい、入れ。とエリザベートは外で待機しているであろう最後の相談者に呼びかける。
 現れたのはツインテール頭の小柄な少女、歳は10歳程だろうか。
 服装を見るに極普通の街娘といった印象を受ける。


「ご無沙汰しております、お二人共お元気そうでなによりです」


 少女は礼儀正しくスカートの両端をつまんでお辞儀をした。
 ? どこかで会ったっけ?


「ほう、お前あの時の童か。なんとも見違えた物じゃな」
「その説はお世話になりました、それとあの時の無礼な態度お許し下さい」 
「よい、妾も少々大人気なかった。許せ」


 二人はよく分からないやり取りをしていた。


「なんじゃミコト、まだ思い出さんのか? 本当にお前の頭はポンコツじゃのお」
「……」


 そりゃあ、お前に比べれば大抵の人間の脳みそはお粗末だろうよ。


「んだよ、折角恩返しに来たっていうのに覚えてねえのか兄ちゃん?」
「!?」


 少女はいきなりその丁寧だった口調を崩す。
 だがそのお陰で俺は漸く彼女が誰だったのかを思い出した。


「君は、クリス!?」


 そう、彼女は以前エリザベートが魔導書を買う道中で助けた奴隷の少女だった。





 なんでもクリスはあの後俺の上げた金銭を抱えて、とある孤児院に身を寄せたそうだった。
 まあそれなりの額を渡していたとはいえクリスの年齢は12歳程、使い道としては上々だろう。
 しかしお礼をしようにも俺達の素性を知らなかった彼女は街にばら撒かれたポスターを見て、この屋敷に来ること思い至ったのだそうだ。
 まあ金髪の生意気お嬢様なんて生き物はこの国じゃそう多くないからな、見つけるのは然程難しくあるまい。


「これ、アンタが私に貸してくれた金だ。助かったよ」


 クリスは俺に金の入った小袋を手渡す。
 しかし俺はある違和感に気付く。


「あれ? 俺が貸した額より多い気がするんだけど」
「……それは依頼の前金みたいなもんだ」
「?」
「エリザベート様、それと執事の兄ちゃん。お願いだ! 私の孤児院を、仲間達を救ってくれ!!」


 どうやら彼女もお悩み相談に来たらしい。





「私が住んでる所は貧民街にある小さな孤児院なんだけど、最近柄の悪い地上げ屋に目を付けられちまって…… ついに昨日立ち退かないと無理やり取り壊すって言ってきたんだ」


 クリスの言う貧民街というのはどの貴族も統治していない言わば無法地帯のような所だ。
 様々な理由で職に就けず、税金を払えない人間達が寄り添って暮らしてる。
 まあこれは貴族制を採用している帝国の弊害ともいえるだろう。


「エリザベート様はすげえ偉い貴族の1人って聞いた。図々しいってのは分かってる。でもお願いだ、助けてくれ!!」


 クリスは再び深々と頭を下げた。


「……ふむ、話は分かった」
「じゃ、じゃあ!」
「済まぬが妾は力になれそうもないな」
「!? どうしてだよ!?」
「あの貧民街は不可侵領域なのじゃ、王族からあの地域への介入は禁止されておる」


 そう、詳しい理由は定かではないが貧民街への金銭的、権力的干渉は王族から厳しく制限されている。
 そしてそれは御三家も例外ではない。


「そ、そんな……」
「しかしまあ、それは貴族ならの話じゃ。平民が平民に干渉するのであればその限りではない」
「?」


 嫌な予感がする。


「ここにいるミコトを貸してやろう」
「やっぱりそうなりますか……」


 御三家の使用人といっても正確には俺の身分は平民だ。
 その俺が個人的に彼女に助力するのであればルールに抵触しない……のか?
 なんか法の抜け道を潜ってる感が凄い気がするけど。


「私が言うのもなんだけど、兄ちゃんだけで大丈夫なのかよ」


 最もな意見だ。でもちょっと傷つく。


「案ずるな、こう見えて此奴はそれなりに役に立つ」
「でもお嬢様、俺は一体どうしたらいいんですか?」


 漫画なんかだと地上げ屋を指先1つでダウンさせればいいだけかもしれないが生憎現実はそう甘くない。
 俺は一子相伝の暗殺拳使いじゃないのだ。
 金で解決するという手もあるが、俺の所持金は元を辿ればブリュンスタッド家の物なのでややアウトな気もするし。
 ん~ どうしたものか。


「問題ない、お前はただ夜まで時間を稼いでくれればよいのじゃ」


 エリザベートは小声で俺にそう言った。
 その言葉の真意は分からなかったが、少なくとも――


「クックック、これは楽しくなってきたわい」


 何かよからぬ事を企んでるぽかった。

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