俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第14話 お嬢様、ゲームをする。(前編)

「どうして、こんな事になってしまったんだ……」


 ブリュンスタッド家の大広間、そこには見るも無残な光景が広がっていた。
 いや最早その場所は大広間と呼んでいいのかすら分からない異空間と化していた。


 天井があるのに何故か室内には雲が出現しているし、端っこには木々が生い茂り森のようなスペースがある。
 辺りには巨大モンスターの死体や散乱し、無数の武器が突き刺さっていたりもする。


 そんな中、部屋の中央には天使の羽が生えた銅像になってしまったアリシアさん。
 彼女はクマさんパンツを被りながら聖母マリアばりの慈愛に満ちた表情を浮かべていた。


 一方サクラさんは大量の同人誌に押しつぶされ、満足げな表情を浮かべながらうつ伏せで倒れている。
 そしてその指先には血文字で『BL』と書かれている。


 意味が分からない? 安心してくれ、俺も自分で何言っているか分からない。


「どうやら残ったのはお前だけのようじゃな、ミコトよ……」


 俺の背後から聞き覚えのある声がした――そう、エリザベートだ。


「灯台下暗しという奴じゃな、まさか妾の最大の敵がお前だったとは……」


 しかしエリザベートの服装はいつものお気に入りの深紅のドレスでも、ましてや風呂上がりのバスローブ姿でもなかった。


「それが、貴方の望んだ姿なんですか。お嬢様」
「醜いと思うか? この世界支配者になった妾の姿を」
「お嬢様風に言うのなら、趣味じゃありませんね」


 エリザベートの格好は禍々しい魔獣のような鉄仮面を被り、無駄に大きな肩パット付きのマントをなびかせ、何かドス黒いオーラ的なものを出している。
 その姿はまるでお伽噺に出てくる悪の大魔王とでも呼ぶに相応しい風貌だ。


「お嬢様、もう終わりにしましょう」
「はッ! まだ妾に勝つつもりでおるのか? 既に勝敗は決しているというのに」


 どうして俺がこんな訳の分からない状況の真っ只中にいるのか、それを説明するには少しだけ時間を巻き戻さなければならない。


 そう、あれはお泊り会の途中。エリザベートが皆に様々な遊びを持ちかけてきた時の事だ。





「さあ選ぶがいい、トランプ、将棋、オセロ、囲碁、麻雀、ツイスターゲーム、超エキサイティングなドームみたいな奴。なんでもござれじゃ!!」


 屋敷にあった古今東西の遊び道具を広げ、声高らかに仁王立ちをするエリザベート。
 まあどれもこれも異世界人がこの世界に伝来させた物ばかりだけど。


「ん~ どのゲームもアーちゃんの脳みそじゃ厳しそうだね」
「そうじゃな、すまんかったアリシア、妾の配慮が足りんばかりにお前に恥をかかせてしまったの……」
「アンタ達、どうやら私に喧嘩売ってるみたいね?」


 ツイスターゲームなら負けないわよ!! とよく分からない見栄を張るアリシアさん。
 どうやら自分のお頭が弱い事は理解してるっぽい。


「大体わざわざ道具を使う必要なんてないのよ、身体を使った遊びとか色々あるでしょ!!」
「例えばどんなのですか?」


 気になったので一応聞いてみる。


「相撲とか腕相撲とか指相撲とか手押し相撲とか!!」
「とりあえず相撲しか選択肢がないって気付いてます?」


 将来は力士にでもなるつもりなのだろうか。


「ならん、身体を使った遊びじゃとアリシアがかなり有利じゃからな」
「そうだね…… 思い出すよ。昔腕相撲でアーちゃんが私の右手をあらぬ方向に曲げた日の事を……」


 幼き日の記憶を辿ったサクラさんの目には一筋の涙が煌いていた、相当痛かったんだろうな。
 というか幼少期に同年代の腕をへし折るってどんな幼女なんだよ。


「じゃあジェンガとかサイコロ遊びとかどうですか?」
「駄目じゃ、それだと今度はサクラが圧勝してしまうでな」
「そうね、サイコロなんてサクラは百発百中で決まった出目が出せるもの」
「いや~ 手先の器用さだけが取り柄みたいな物でして~」
「……」


 その器用さを同人誌ではなくもっと別の工芸品とかに注げばお嬢様っぽいのにと言わざるおえなかったが一応黙っておく。


「じゃあそれぞれの勝負にハンデをつけて拮抗させてはどうですか?」
「そんな情けない真似をするくらいなら死んだ方がマシじゃ」
「そんな情けない真似をするくらいなら死んだ方がマシね」
「そんな情けない真似をするくらいなら死んだ方がマシかな~」
「……」


 この3人めんどくせえ、お前達はもう一生談笑だけしていろ。
 しかし困った、そうなると運のみが介在する種目を選択しなければならない。


「ねえねえ、コレはどうやって遊ぶ物なの?」とアリシアさんは床に散らばっていた遊び道具の中から1つを手に取った。


「はて? このような物見た事ないがの」
「そうですね、俺もないです」


 それは鎖で雁字搦めがんじがらにされた木箱のような物で10年間この屋敷に暮らす俺やエリザベートも見た事のない代物だった。


「サクラよ、お前のならばコレが何か分かるのではないか?」
「え~ あんまり外じゃ使いたくないんだけどな~」
「夏フェスの融資二割り増し」
「OK」


 エリザベートの賄賂によりサクラさんはゆっくりと眼鏡を外す。
 なんだ? 今視力を下げる必要があるのか?


「あの眼って何の事ですか?」
「あれ、ミコトちゃんは知らなかったっけ? イザヨイ家の当主は代々《神眼しんがん》って目を継承するの、まあアーちゃんの《加護》と同じような物かな」
「すいません、聞き覚えのないワードがちょいちょい出てきて混乱してるのですけど……」
「ん~ 話すと長くなるから詳細は省くけど御三家の当主にはそれぞれ特殊な能力が与えられてるの」


 なんだそのとんでも設定……


「魔法とは違うんですか?」
「そうだね、これは持って生まれた性質みたいな物だから後天的に身に着ける魔法とは違うかな」
「超能力みたいな物でしょうか」
「ニュアンス的にはそれが一番近いかな」


 まあ魔法なんて物があるんだから超能力くらいあってもおかしくはないか。
 なるほど、じゃあアリシアさんの怪力はその《加護》って奴のお陰なわけね。


「ふふんッ 私はね歴代の当主の中でも特別で《無剣の加護》と《神聖力の加護》の2つ持ちなのよ!!」


 無い胸を張って威張るアリシアさん。


「それって凄い事なんですか?」
「原則として《加護》は1人の人間に付き1つなの、でも私は超選ばれし者だから2つ授かってるのよ!」


 聞けば《無剣の加護》というはありとあらゆる聖剣や魔剣を使いこなせる加護。
《剛腕の加護》は文字通り肉体の限界を超えた筋力を発揮できる加護らしい。
 何故神様は知識の加護的な物をこの子に授けなかったのだろうか、残酷な事をしやがるぜ。


「あれ? じゃあお嬢様にも2人と同じような力があるんですか?」
「無論じゃ」


 マジかよ、魔法以外にもまだ得体の知れない能力があるのか? 勘弁してくれよ……


「妾には《万能感覚オールセンス》という能力が与えられておる」
「何ですかそれ?」
「簡単に言えばプロセスさえ理解できれば何でもできるという能力じゃな」
「チート……」


 しかし俺は呆れながらに納得していた、どおりで一度教えた事は完璧以上にこなせる訳だ。
 それなら魔法も一晩で覚えちゃうのも当然か。


「じゃあ速読も瞬間記憶も異常に高い身体能力も能力の副産物って事ですか?」
「いや、それは元より妾がもっていた才能じゃ」
「本人もチートなんすね……」


 ていうか君達はギャグ時空の人間なのにどうしてそんな格好いい能力持ってるの?
 そして異世界人である俺にはどうしてなんの能力も与えられていないんだ!?
 誠に遺憾である。


「しかし3人も性格が――じゃなくて人が悪いですね。そんな大事な設定を今まで黙ってるだなんて」
「今どさくさに紛れて何か言いかけなかった?」


 後設定とか言わないで、とアリシアさんは怪しい木箱をサクラさんに渡しながら言う。
 そして僕の問いにはサクラさんが答えた。


「まあこの事実を知った人間は帝国の最重要人物に指定されちゃって暗殺されかねないからね」
「おおおォい!?」


 とんでもねえ事実をペロッと喋りやがって、遠回しに俺を殺す気か!?


「あははは、ゴメンゴメン。私てっきりエリちゃんが話してると思ってて、それに黙っとけばバレないから平気平気!!」


 笑いながら俺の肩を叩くサクラさん、もし俺が暗殺されたら化けて出てやるから覚悟しておけよ。 


「でもサクラさんの《神眼しんがん》って具体的にどんな能力なんですか?」
「強いて言うのなら【見たいと思った事が全て見える能力】じゃな。透視は当たり前がじゃが、未来視、過去視、情報解析、読心、等その幅は多肢に渡る」
「凄いですねそれ……」


 そんな便利な能力ならもっと使えばいいのに。


「ミコトちゃん今『そんな便利な能力ならもっと使えばいいのに』って思ったでしょ」
「!?」


 既に眼鏡を外したサクラさんの両目は万華鏡のように光り輝いており、微かな黄金と赤い色が絶妙に混じり合ったような何とも不思議な色を放っていた。


「へ~ ミコトちゃんには私の目の色がそういう風に見えるのね」
「?」
「ううん、こっちの話。それじゃあチャチャッと見ちゃうね」


 木箱を凝視するサクラさんは「ふむふむ、なるほどね……」と納得しながらそっとソレを床に置いた。
 そして、


「これはちょっとマズいかも……」


 次の瞬間、当然木箱から謎の光が発生したかと思うと俺達と部屋全体を包み込んでいった。





「ん…… アレ。俺いつの間に寝てたんだ?……」


 気が付くと俺は大広間の床に倒れこんでいた。
 周りには同じように気を失った御三家令嬢達がいる。


「あれ?」


 しかしここで俺はある違和感に気が付いた。
 それは3人の服装である。
 3人は先程まで風呂上りという事もあり、俺が予め用意しておいたバスローブを着ていた筈だ。
 だが今はいつも3人が着ている衣装へと変わっていた。


 エリザベートは薔薇のような深紅のドレス、アリシアさんは雫のような水色のドレス、サクラさんは黒蝶を思わせる漆黒の巫女服に――


「お嬢様、大丈夫ですか?」


 俺はとりあえずエリザベートの身体を揺さぶって意識の覚醒を促す。
 体温から判断するに生きているのは確かなようだ。


「ぅ……ん…… 駄目じゃミコト、まずは順当にAからいかねば。いきなりDはホップステップジャンプすぎるぞ……」
「おぞましい寝言言ってないで起きて下さい!!」


 どんな夢みてんだこのスケベ女。
 しかし揺さぶりの効果でエリザベートは淫夢から浮上してくる。


「ん…… なんじゃ、何がどうなって……」
「俺もよく分かりませんが、あの謎の木箱が急に光出して……」


 そうだ、確かサクラさんが神眼で箱の正体を見て――


『プレイヤー4名の参加を確認。これよりプログラムを起動します』
「!?」


 いきなり聞こえてきた謎の声、俺はすぐさま辺りを見渡すがそこには人影はなかった。
 ――ただそこには不気味に浮遊している木箱があるだけだった。
 どうやら声の主はあの木箱らしい。


「何よ…… うるさいわねえ……」
「ふわあ~ よく寝た」


 アリシアさんとサクラさんも謎の声により意識を取り戻す。


『はじめましてプレイヤーの皆さん、これより魔法スゴロクのルールをご説明致します』


 未だに状況を理解できてはいないがとりあえずこれだけは言える。


(やべえ、クソゲーの予感しかしねえ……)

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