俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第13話 お嬢様、お泊り会をする。

「いや~ それにしてもパーティーは大変だったわね。特に終盤で現れた謎の仮面集団との戦いとか」
「そうじゃな、妾もあのような形で超極大魔法を披露する事になろうとは思わなかったわい」
「まさか敵の逆転が『ライトGenjiストーリーズ』に隠されていたとはね~ やっぱりBL同人って偉大だわ……」


 王族主催のパーティーが終了し、時刻は深夜0時すぎ。
 ブリュンスタッド家の大広間には御三家の令嬢達が円形状のテーブルを囲んで何やらよく分からない事を駄弁っていた。


「あの~ 皆さん。つかぬ事をお伺いしますが、さっきから何の話をしているのでしょうか?」


 俺はまったく記憶にないエピソードについて言及する。
 章とか飛ばしてないよね?


「どうしたのミコトちゃん。まさかあのとんでもないスペクタクルイベントの事を覚えてないの?」
「いや、覚えてるもなにもそんな記憶一切ないのですけど……」


 サクラさんの問いに対して俺は眉間を押さえながら記憶を逆再生する。
 確か俺達は何事もなくパーティーを終えて、そのままエリザベートが『お泊り会じゃ!!』って2人を引っ張って屋敷まで引きずってきた筈……だよな?


「残念だな~ ミコトちゃんのお尻がキーパーソンだった所なんか私ちょっと感動しちゃったのに」
「どこをどう展開したらそんな事態になるんですか、俺のお尻がキーパーソンになる事なんて未来永劫ありませんよ」


 それは貴方の腐った脳内だけの話だろ。


「ちょっとちょっと、じゃあ私が最後の最後で覚醒してこの魔剣デュランダルXから銀色の極太ビームを出した事も覚えてないの?」


 アリシアさんは腰に携えていた剣をブンブンと振り回す。


「もし仮にそれが本当だとしたらそんな物騒な剣を振り回すの止めてもらっていいですか?」


 何だよ銀色の極太ビームって、それにその剣が魔剣デュランダルXとかいう名前だったことも初耳だよ。
 新しい設定を勝手に加えるな。


「大体謎の仮面集団って何なんですか……」


 まさかショッカーとか言わないだろうな。


「ほれサクラが会場に着く前に妙な連中に襲われたといっておったじゃろう、ソレじゃソレ」
「何て、雑な伏線回収なんだ……」


 もしこの世界がバトル漫画だったら速攻でディスカウントショップに売り払っているレベルだ。
 存在がギャグでよかったね君達。


「? そういえばキャスカさんとツバキさんは?」
「……ミコトよ。本当に覚えておらぬのか? あの2人はもう、おらぬのじゃ……」


 エリザベートは視線と声のトーンを落とす。
 俺はアリシアさんとサクラさんに視線を向けるも、彼女達も俯いて黙り込んでしまった。


「えッ…… う、嘘ですよね。まさかあの2人が……死ぬなんて――」


 しかも俺の知らないっていうか覚えていない雑な伏線回収のバトルで死ぬだなんてそんな……
 ディスカウントショップどころじゃない、速攻で燃やしてるわそんな漫画。


「まあお前にアリシアとサクラを任せると言ってそれぞれの屋敷に帰っただけなんじゃけどな」
「なんなんだよ!?」


 なんでそんな思わせぶりな雰囲気作るんだよ!! ちょっと心配しちゃったよ!!


「まあまあミコトちゃん、ツバキちゃんもキャスカさんも君を信頼してるって事だよ」
「そうよ、普通なら男がいる場所になんか泊まらせてくれないんだからね」
「いや完全に押し付けられただけとしか思えないんですが……」


 俺からしたら爆弾を2個預けられたようなものなんだが?
 絶対あの2人今頃屋敷でくつろいでるぞ……


「さて、不要な戦闘で汗も搔いた事じゃし。湯浴びでもしようかの、お前達も入るであろう?」
「そうね」
「賛成~」
「はぁ…… じゃあ浴場へご案内致します」


 とりあえず俺は姦しい女子達を大浴場へとぶち込む事にした。
 そのまま3人まとめて排水溝に流れていけばいいのに……





 ブリュンスタッド家の大浴場は巨大な円形状バスを中心に金色のライオンやら竜やらのオブジェが口からお湯を垂れ流している、まさに装飾華美という言葉が相応しい場所だ。
 このちょっとしたレジャープールくらいの広さがある浴場ならば御三家令嬢であるアリシアさんもサクラさんもきっと満足してくれる事だろう。


「さて、じゃあ入りましょうか」
「そうじゃな」
「ちょっと待ちなさい」「ちょっと待って」


 俺とエリザベートが脱衣所に入ろうとした瞬間、残る2人から同時にストップが掛かった。


「? トイレなら中にもありますよ?」
「そうじゃないわよ、何で平民も自然な流れで一緒に入ろうとしてるの? 馬鹿なの? 死ねば?」
「え、でも俺が入らないとお嬢様が……」
「嘘、もしかしてエリちゃん。まだミコトちゃんに身体洗ってもらってるの?」
「無論じゃ、自慢ではないが妾は生まれてこの方自分で自分の身体を洗った事がない!!」
「「うわぁ……」」


 2人が完全に引いていた。
 おいおいまさか2人は自分で身体を洗えるのか? その若さでそんな高等技術を身につけていると?
 だとしたら驚き桃の木山椒の木だ。


「アンタねぇ…… メイドならともかく執事に洗わせるってどうなのよ…… ていうか恥ずかしくないの?」
「フハハハハ! お前のそのド貧相な体と違って妾の体で見られて恥じる部分等どこにもないわ!!」
「……斬っていいかしら?」
「まあまあアーちゃん、落ち着いて」


 腰に差した魔剣デュランダルXに手を掛けるアリシアさんをサクラさんがなんとか止める。


「仕方ないわね、今回は特別に私とサクラでエリザベートの身体を洗うわ」
「そうだね、ミコトちゃんと一緒にお風呂に入る訳にもいかないし……」


 どうやらこの変人奇人達にも多少の羞恥心はあるようだった。
 ならばここはお言葉に甘えるとしよう。


「そういう事でしたらお2人にお任せ致します、バスローブとタオルは中にある物をご自由にお使い下さい」
「それはいいんだけど、今着てるドレスはどうしたらいいの?」
「ああ、それは俺が洗っておきますから安心して下さい」
「……」


 アリシアさんは急に顔を赤くして俺を睨んできた。


「な、なんですか?」
「いやその…… 下着もアンタが洗うわけ?」
「そりゃあこの屋敷には他に使用人がいませんからね」
「……フンッ! まあいいわ。アンタみたいなゴミ屑に見られたからって別に何とも思わないし」


 銀色の髪の毛をフワリとなびかせ何故か威張るアリシアさん。
 そんな分かりきっている事をわざわざ言わなくてもいいのに。


「安心して下さい、俺は色気の欠片もないクマちゃんパンツなんかに興味はッ――がッ!?」


 俺のみぞおちアリシアさんの世界を狙えるレベルの拳が突き刺さる。


「しばらくそこで寝てなさい」


 アリシアさんは床に倒れている俺をわざと踏んでから脱衣所へと消えていった。
 かなりご立腹のご様子である。


「ホッホッホ。哀れじゃなあミコト、どれ妾も踏んでいくかの」
「じゃあ私も」


 そして何故かエリザベートもサクラさんも俺の背中を踏んでから脱衣所へと向かう。
 いやお前らが踏む必要は皆無だっただろ……





 大浴場でのキャッキャウフフ(?)を終えた3人はバスローブに身を包んで大広間へと戻ってきた。
 湯上りという事もあってエリザベートは髪型を後ろで結んでいる。
 一方アリシアさんは2つのお団子ヘアに、サクラさんは1つ結びにした黒髪を肩に掛けている。
 ふむ、こういった風貌の2人は初めて見るので中々に目の保養だ。


 しかしアリシアさんとサクラさんは戻ってくるやいなやソファへとうつ伏せに倒れこんでしまった。


「ありえない、本当にありえないわ……」
「まさか他人の身体を洗うのがあんなに大変だったなんて、いやこれはエリちゃんだからなのかな……」
「なんじゃ、あれしきの戯れでもうへばってしまったのか? ミコトはアレを毎日しておるのだぞ?」
「嘘でしょ…… 私なら3日で発狂する自信があるわ……」
「ミコトちゃん苦労してるんだね……」


 どうやら2人はエリザベートの身体を洗うのに苦労したらしくかなりグロッキーだった。
 懐かしい、俺も最初の1年はあんな感じだった。


「それにしてもアンタ達、どうやったらそんなに身体が成長するのよ…… そして私の身体はいつになったら成長するのよ……」


 ソファから身体を起こし、胸に両手にあてて俯くアリシアさん。
 まあ無駄にスタイルの良い2人に囲まれれば誰だって自信を無くしてしまうだろう。


「アーちゃん昔は一番身長高かったのにね~、私達がいつの間にか追い越しちゃったね」
「ふむ、アリシアの第二次性徴はどうも永眠しておるようじゃの」
「永眠だったら一生来ないじゃない!!」


 片手でソファをブンブン振り回す銀髪少女、流石の怪力である。


「まあまあ、アーちゃんには歌があるじゃない。アレは胸なんかよりよっぽど価値のある魅力だよ」


 サクラさんが眼鏡を拭きながらフォローを入れる。
 確かにパーティーで聞いたアリシアさんの歌はまさに天使のソレだった。
 流石は帝国一の歌姫、定期的にコンサートを開催するだけの事はある。


「安心せい、胸なんぞ妾が世界征服したら1つでも2つでも増やしてやるわい」
「いや、数じゃなくて大きさをどうにかして欲しいんだけど……」
「まあアリシアの第二次性徴はさておくとして――」


 エリザベートが指を鳴らすと屋敷にあったであろうありとあらゆる遊び道具が魔法でフワフワと浮いて広間へとやってきた。


「今宵は世界征服を志す同士の親睦会!! 泡を吹くまで遊び倒すから覚悟しておけ!!」
「そうですか、ではこの後は女性だけでお楽しみを――」


 広間から逃げようとした俺の足と肩をアリシアさんとサクラさんが同時に掴む。


「逃がすと思ったの平民?」
「ああなったエリちゃんは誰にも止められないの知ってるでしょ? まさか私達に押し付ける気?」
「いえ、別にそのような訳では……」


 どうやらこの3人は俺をそう簡単に寝かせてくれないらしい。

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