俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第12話 お嬢様、パーティーに行く。(後編)

 御三家の令嬢が一堂に会する、この状況を表すとしたら高級食材を使った闇鍋といった感じだろうか。
 三者とも見た目は紛うことなき美少女なのだが、その中身は目立ちたがり屋の我儘魔女、ウルトラ脳筋女騎士、超雑食系腐女子巫女と聞くだけで胸焼けしてしまう品揃えだ。
 こんな連中が巨大帝国の未来を担っていくのかと思うと何とも言えない気持ちになる。


 そして最も留意すべきは、エリザベート・エレオノール・ブリュンスタッド、アリシア・フローレンス・スタンフィールド、イザヨイ・ヒスイ・サクラノヒメ、この無駄に名前の長い3人が集まると必ず何かしらトラブルが起こるという事だ。





「……」
「……」
「どうした2人共。妾の崇高な目的、世界征服計画を聞いて言葉も出ないか? フッ まあ無理も無い、俗物には到底理解できん内容じゃからな。しかし我が軍門に下れば自ずと分かるはずじゃ、この世の支配者に相応しいのが一体誰なのかという事にな!!」


 まるでオペラ歌手のような身振り手振りでアリシアさんとサクラさんへ世界征服の手伝いを申し出るエリザベート。
 恐らくこの女の脳内にはありったけの拍手喝采が鳴り響いている事だろう。


「はぁ…… 前々からヤバイ女だとは思ってたけどまさかここまで末期だったとはね……」
「引くわ~ エリちゃん。もうパーティーとかいいから病院にいった方がよくない?」


 呆れ果てるアリシアさんとサクラさん。まあ当然の反応である。


「大体アンタ、本当に魔法使えるわけ?」
「おうとも、昨日の時点で大抵の魔法は覚えておる。最早妾にはできる事よりもできない事の方が少ないくらいじゃ」
「じゃあ、試しにあそこにいる太った男の人とミコトちゃんを恋人同士にしてみてよ」
「いやサクラさん、さらっとおぞましい事言うの止めて貰っていいですか!?」


 流れのまにまに何を口走ってくれてんだコラ。


「いやぁ~ 去年出した『ドキッ!? ミコトノスケのくんずほぐれつ男湯地獄!!』が好評だったからつい」
「その明らかに特定の人物をモデルにしたであろう同人誌については肖像権的観点から後ほど正式に抗議をさせて頂きます」


 侮辱罪もセットでな! 法廷で会おう!!


「済まぬがサクラ、妾もそのような汚物劇場は見るに耐えん故もっと別の要望をしてもらってよいかの?」
「内のサークスじゃ結構人気ジャンルなのにな~ まあいいや、じゃあアーちゃんの今日のパンツの柄を当てて見てよ」
「はぁ!?」
「お安い御用じゃ」
「いやいやちょっと待ちなさいよ!? 本人の許可は!?」
「《透視クレアボイアンス》」
「お願いだから人の話を聞いて!!」


 アリシアさんは赤面しながら水色の綺麗なスカートを抑える。
 しかしエリザベートの魔力のこもった眼力はその布地を的確に捉えたようだった。


「見えた!! 今日は熊さんがプリントされておるぞ!!」


「やめて~ 見ないでェ~」と涙目になるアリシアさん。


 一方サクラさんは、


「嘘!? 前はウサギさんだったのに!! アーちゃんが成長してる!?」


 エリザベートが実際に魔法を使った事よりもアリシアさんの趣味がランクアップ? している事に驚いていた。
 そうなんだ、熊さん柄なんだ。可愛いな……


「うゥ…… もうお嫁にいけない……」
「それにしてもサクラ、お前は相変わらず下着を着けておらぬのだな」
「あれま、本当に見えてるんだね」


 まさかのサクラさん下着無着用事実が発覚。
 詳しくは知らないが浴衣なんかは下着を着けない事があると聞く、巫女服もそうなのだろうか?
 因みにサクラさんのバストは噂によると3人の中で一番大きいらしい。


「ふむむ、どうやらエリちゃんが魔法を使えるのは本当のようだね」
「もっといい確かめ方があったと思うのは私だけかしら……」
「さて、信じて貰えた所で改めて問うとしよう。お前達、この妾と共に世界を征服して見る気はないか?」
「……」
「……」


 アリシアさんとサクラさんはお互い顔を見合わせたかと思うと頷き合い、エリザベートの目を真っ直ぐ見つめる。
 そして、


「「丁重にお断りさせて頂きます」」


 それは以前、俺がエリザベートに言ったセリフとまったく同じ物だった。





「そうかそうか、お前達ならそう言ってくれると思っておッ――ってええ!? 断る!? WHY? 何故?」


 そして例の如く同じ反応をするエリザベート、既視感が半端ない。


「だって今までアンタのそういう思い付きに付き合ってロクな目にあった事がないもの」
「そうだねぇ~ それに私締め切り近いからさ~ 今回はパスする~」
「ぐぬぬ、おのれ小娘共。言わせておけば…… フッ しかし此度の妾は一味も二味も違うぞよ? お前達が断る事なぞ既に想定済みじゃ!!」


 そう言うとエリザベートは右の手のひらに魔方陣を展開させ、手を突っ込む。
 どうやら収納保管系の魔法らしい。


「これを見よ!!」


 エリザベートが魔方陣から取り出したのは一冊の本。一瞬、魔導書かとも思ったがどうやら違うようだ。


「!!? そ、それは……」
「ほう流石はサクラじゃ、この書物の価値に気付いたようじゃな」
「え、なに? なんなの?」
「アレは『ライトGenjiストーリーズ』!! 現物がまだ残っていただなんて……」


 何とも胡散臭いタイトルの同人誌だな。


「ツバキさんあれってそんなに凄い物なんですか?」


 俺はとりあえずツバキさんに聞いてみる事にした。


「『ライトGenjiストーリーズ』っちゅうのはこの世界で異世界人が書いた最も古い同人誌の事や、内容はBLを主軸にした貴族達の半生を描いた一大巨編になっちょる。まあお嬢からしたら喉から手が出るほど欲しい一冊やな」
「はぁ……」


 なんでそんな物がブリュンスッド家にあるんだよ…… それが一番気になるわ。


「その通りじゃ、我が屋敷に眠っていたのを偶然発見しての。どうじゃサクラ、これが欲しくはないか?」 
「ほ、ほじいィ……」
「そうじゃろそうじゃろ。なら、これより先は言わずとも分かっておるな?」
「ぐッ……」


 同人誌を盾に友人を脅すお嬢様。えげつねえ。
 貴方少し前、『妾が求めるは真に我が覇道に賛同する仲間じゃ。上辺だけの命令で従わせたのでは意味がない』とか格好いい事言ってませんでしたか~?


「サクラ、 あの女のいいなりになんかなっちゃダメよ!! 気をしっかり持って!!」


 サクラさんの肩を揺さぶりながら必死に呼びかけるアリシアさん。


「わ、私は……」
「妾は別にこのような書物に用はないからのぉ、サクラがいらぬと申すのなら灰にするまでじゃ?」
「そ、そんな!? 何も燃やさなくたって!!」 
「ならば、返答を聞こうではないか。イザヨイ・ヒスイ・サクラノヒメよ」
「……わ、分かったわ。協力する」
「ちょっとサクラ!?」
「ごめんアーちゃん。でも私にはたとえ命に代えても守らなければならない物があるの…… たとえそれが腐っていてもね」


 なんか格好いい事言っているがこの人はただ同人誌が欲しいだけである。


「ふッ 落ちたな。さてと後はアリシア、お前だけじゃ」
「ふふん、私は別に欲しい物はないし。アンタに弱みを握られている訳でもない、残念だけどそんなお馬鹿計画に賛同する理由は――」
「世界征服できたら魔法でお前の胸を大きくしてやろう」
「のったわ」


 もはやお前本当はやる気満々だったんじゃないのか? と言いたくなるほどの即決即断だった。
 それでいいのかスタンフィールド家当主よ……
 しかしこれに異を唱えたのはいつの間にか戻ってきていたキャスカさんだった。


「アリシア様いけません!! アリシア様から貧乳というステータスをとったら後は脳筋しか残らな――」
「黙りなさいキャスカ、これは当主命令よ」
「ああん、もっと踏んでくださいまし~」


 駄目だこのメイド……早くなんとかしないと……


「なんか偉いけったいな事になってしまいましたな~」
「いいんですかツバキさん、たぶん僕達使用人の方が色々苦労する事になりますよ?」
「まあ主が決めた事なら仕方ないんとちゃいます? それにあの3人が協力して何かをするだなんて滅多にある事じゃありまへんし、しばらくは生暖かい目で見守ってあげようや」
「まあ確かに楽しそうではありますけど……」


 3人にはある共通点がある。
 それは皆両親が既に他界しているという所だ。
 エリザベートの母親は彼女を産んですぐに他界、父君も病気でこの世を去った。
 アリシアさんのご両親は事故で、サクラさんのご両親は心無き者に暗殺されたと聞く。
 そして男子が生まれなかった御三家はその家督を長女である3人が継ぐ事となった。
 言わずもがな、その重圧や責任は俺のようなごく普通の一般人には想像もつかない物だろう。


 だからこそ俺はお嬢様に…… エリザベートに幸せになってほしいと思った、まあ本人には恥ずかしくてとても言えないが……
 きっとキャスカさんやツバキさんも同じような感情を抱いていると思う。
 よって俺達御三家の使用人は基本的に『主が望むのならとりあえず従う』というスタンスなのだ。


「まあこれからよろしゅう頼みますわ、ワイも内心楽しんでますさかい。ご贔屓にしておくれやす」
「いえいえ、こちらこそうちのお嬢様がご迷惑おかけします」
「気にしないで下さい、私達使用人仲間じゃないですか」


 気が付くとアリシアさんに踏まれて喜んでいたキャスカさんが隣にいた。
 びっくりするから気配くらい出してくれ。


「あ、やばい。そろそろ御三家挨拶と出し物の準備しなくっちゃ」
「あら、もうそんな時間ですか」
「毎回恒例とはいえ、ヒーコラするウチ等の身にもなってほしいもんやな」


 このパーティーにおいて、御三家の令嬢達は毎回1人1人挨拶と何かしらの出し物をしなければならない事になっている。
 アリシアさんは美しい歌声を――
 サクラさんは華麗な日本舞踊を――
 そしてどうやら俺のお嬢様は今回、魔法を使った過激なショーを披露するつもりらしい。
 これで明日からエリザベートは帝国で一番有名な魔女として名を轟かせる事になるだろう。


 先が思いやられる事この上ないが、まずはいつの間にか取っ組み合いの喧嘩(原因不明)をしている3人のご令嬢を引き剥がして挨拶の原稿を暗記しているかどうか確かめる必要があるようだ。

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