俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第7話 お嬢様、襲われる。

「へっへっへ。聞いたぜ、あんたらこの国じゃ三大貴族って言われてるらしいじゃねえか。だったら屋敷にたんまり金持ってんだろ? 案内してくれよ」


 鼠顔の男がナイフをチラつかせながら気色の悪い笑みを浮かべる。
 お嬢様にやられた喉元の傷のせいか少し声が掠れているのが何とも痛々しい。
 周りの男達もニヤニヤしながら、ゆっくりと包囲の範囲を狭めてきている。
 これは、どうも話し合いができるような感じじゃないよなぁ……


 まあ俺だって曲がりなりにもブリュンスタッド家の執事なので、それなりの戦闘訓練を積んではいるのだが流石にこの人数相手となると命がけになってしまう。
 ここはやはりエリザベートの魔法で何とかして貰った方がいいか。


「お嬢様、すみませんが出てきてコイツ等やっちゃって下さいよ」


 何か自分で言っててすんごい情けなくなってきた。


「戯け、このような野良犬達の前に出てはそれだけで妊娠してしまうわ」


 またそれか、お前はどれだけ妊娠しやすい身体してんだよ。
 ほんと肝心な時に役に立たねえなコイツはよォ!
 いや、しかしここで引いてはダメだ。
 エリザベートお嬢様の取り扱いその23【押してダメならもっと押せ】だ。


「でも流石にこの人数はキツイですよ。俺お嬢様の魔法みたいな~」
「はぁ~ 本当に仕方の無い奴じゃ。まあよい、丁度試したい魔法もあったでな」
「じゃあ俺の変わりに一生戦ってくれるんですか?」
「一生?」
「失礼、今のは冗談です」


 危ない危ない、願望が垂れ流される所だった。


「勘違いするなミコトよ。妾はあくまで手を貸すだけ、野良犬共の相手はお前がせよ」
「?」


 どういう意味だ? ゲームのサポートキャラみたいに後方支援魔法でも唱えてくれるのか?


「《身体強化フィジカルブースト》」
「うおっ!?」


 エリザベートが呪文を唱えた瞬間、俺の身体に変化が起きた。
 まるで血が沸騰したように身体が熱くなり、力が漲ってくる。
 よもやこれが噂に名高い身体強化魔法って奴か!!


「早々に終わらせるがよい、その魔法恐らく副作用が――」
「よっしゃあ!! 負ける気がしねえぜぇええええ!!」
「聞いちゃおらんの……」


 俺は何か言いかけたエリザベートを無視して暴漢達の群れに突撃していく。


「!? な、なんだアイツ。急に雰囲気が変わって――ぐえッ!?」


 俺は鼠顔の男の顔面にストレートを喰らわせる。
 男は面白いくらいに吹っ飛び、地面を少し低空飛行した後に落下し動かなくなる。


「ふ、ふふふ。ふはははははは!!」


 完全に悪役みたいな笑い声をあげる俺。力とは時に人間を簡単に変えてしまうものなのだ。


「ちッ! 何びびってやがる。相手は1人だ。全員でやっちまえ!!」


「うおォおおおお!!」と声を荒げ俺に突撃してくる暴漢達。
 しかし俺はそんな暴漢達をそれはもうバッタバッタと薙ぎ倒していく。


「あいたッ!」「おえッ!」「はふッ!!」「ひでぶッ!」


 男達はそれぞれ個性的な悲鳴を上げつつ、1人また1人と俺の拳の餌食になっていく。
 すまない、本当にすまない。
 俺だって本当は争いなんてしたくないんだ、でも執事たるもの主を守る為には身を挺して戦わなければならない時もあるんだ。


「だから俺のストレス発散に付き合ってくれ……」
「ひぃッ!!」


 たぶん彼等にはその時の俺の姿が悪魔のように写っていただろう。


~数分後~


「ミコトよ、妾が言うのもなんじゃが。ちとやり過ぎなのではないか?」


 事が済んだ後、エリザベートは馬車から降りてその凄惨な光景を見て呆れていた。


「すいませんつい……」


 これは俺も反省せざるおえない。
 いくら魔法で気が大きくなっていたとはいえ、全員が失禁するまで殴り続けるなんてどうかしていた。


「普段から相当抑圧されておったのじゃのお。牛乳を飲め牛乳を」
「……」


 誰のせいでストレスが溜まってると思ってんだこの野郎。


「そうじゃ、ミコト。お前身体に何か変わった事はないか?」
「? いえ別にこれと言っ――テッテエエエエ!! い、痛い!! 身体中が痛い!!」


 俺は全身を駆け巡る激痛に耐え切れず地面に倒れ付し、その場をのたうち回る。
 な、なんだこの身に覚えのある痛みは!?
 まるで落雷にでも撃たれたみたいだ、いや撃たれた事ないけど。


「それは筋肉痛じゃな」
「き、筋肉痛!?」
「限界を超える出力で身体を動かしたのじゃ、当然じゃろう」
「あだだだだだ!! なんでもっと早く教えてくれないんですか!?」
「妾が言おうとしたらお前が聞かずに突撃しに行ったのではないか」


 そうか、あの時言おうとしていたのはこの事か!
 くそ!! 人の話は最後まで聞くようにって親から教わっていたのに何たる不覚!!


「あああああ!! 痛い痛い痛い!! お、お嬢様。これ、どうにかならないんですか!?」
「治癒魔法でどうにかなるとは思うが、面白いから少しこのままにしておいてもよいか?」
「よいわけないでしょ!? 早くしてくださいだだだだ!!」
「はぁ~ 詰まらんが致し方あるまい。屋敷にもはよう戻りたいしの」


 エリザベートは両手を前に出して俺に治癒魔法を掛けようとする。
 しかし、その時地面をのたうち回る俺が目撃したのは――どこかに隠れていたであろう銃を構える男の姿だった。


「ば、化け物め。くたばりやがれ……」


 男は躊躇無く引き金を引き、凶弾が俺達の方へと向かってくる。


「お嬢様!!」
「!?」


 丁度俺に治癒魔法をかけようとしていたお嬢様は銃弾への反応が一瞬遅れてしまう。
 しかし銃弾がお嬢様に当たる事はなかった。
 そう、エリザベートには――


「……ん。!? ミ、ミコト!?」


 銃弾はエリザベートを庇った俺の胴体に命中していた。
 なにやってんだ俺…… やばい、意識が…… 


「ミコトッ! しっかりせえミコト!!」


 エリザベートが泣いている。何年ぶりだろうかコイツが泣いてるのを見るのは……


 少しずつ視界が暗くなるのを感じる、ああこれ死ぬかもな。
 くそ、心残りがありすぎて泣きそうだ。


 ――そして俺の意識は唐突に途絶える。

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