俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第1話 お嬢様、世界を征服したがる。(前編)

「世界征服がしたい」
「は?」


 陽だまり降り注ぐ午後の庭園、俺の主であるエリザベート・エレオノール・ブリュンスタッドがまたとんでもない事を言い出しやがった。
 俺は危うく持っていたティーポッドを落として割りそうになったが床スレスレでキャッチして事無きを得る。


「失礼お嬢様、どうも最近難聴気味でして。もう一度仰って頂いてもよろしいですか?」
「なんじゃミコト、お前まだ20歳だと言うのにもう老化が進行しておるのか? 仕様のない奴じゃ、その小汚い耳をかっぽじってよく聞くがよい」


 エリザベートは俺の入れたお気に入りの紅茶をズズッと飲み干すと少しばかり深呼吸して俺の目を見つめ、


「妾は世界征服がしたいと言ったのじゃ」
「えぇ……」


 注釈しておくが俺が仕えているこのエリザベートお嬢様は馬鹿ではない。
 忌々しい事に貴族の娘である彼女はありとあらゆる英才教育を受けており、その頭の良さは帝国軍人の参謀も土下座するレベルとまで称されている、ていうか自分でも称している。


 そんな彼女は悪癖があり、とにかく何でもかんでもに影響を受けやすい。
 好奇心旺盛と言えば聞こえは良いがこの悪癖のせいで俺、周防すおうミコトは死ぬほど苦労してきた。
 学校に行きたいからと突然入学の手続きをさせられたかと思えば、3日で退学。
 騎士団に入りたいといって剣の修行に付き合わされ、全治3ヶ月の怪我を負わされた事もある。
 この前なんか「結婚しようかな~」とか言って俺に王国中の男達の見合い写真を造らせた挙句「全員ブサイク」の一言で破り捨てやがった。
 この女が俺を拾って育ててくれた伯爵の娘でさえなければ軽く100回はぶん殴ってる所だ。


「すみませんお嬢様、仰っている事がよく分からないのですが。世界征服、でしたっけ? 言っておきますけれど別にワールドクラスのプリチーな制服衣装という意味はございませんよ?」
「何を訳の分からない事を言うておる、そうではなく漫画の悪役がよく言っておるアレじゃアレ」


 ああ、そういえば最近は漫画にハマってるんだっけか。成程今回はそれに影響された訳ね。


「しかし何故世界征服なのでしょうか?」


 できれば世界平和の方にもう少し目を向けて貰いたい。


「ほら、妾って完璧じゃん?」
「……」
「顔も良ければスタイルも抜群、美しい金髪はまるで黄金のよう、青い瞳はさながら至高の宝石の如し、おまけに文武両道で帝国三大貴族の当主ときている」


 自画自賛の嵐降り注ぐ中、俺はお嬢様が飲み干したティーカップに紅茶を注ぐ。


「そんな妾が、そんな妾がだよ? この世界の覇権を他人に良しとするなんてこれは最早大罪ではないか?」
「ソウデスネー」
「飢餓に貧困、戦争、そして世界に跋扈ばっこする凶悪なモンスター達。これらの問題を全て解決できるのはもう妾しかおらん、ていうか他にいてたまるか!!」
「ソウデスネー」
「そこでじゃ、妾は決意した。妾の持てる力を全て使いこの世界を手中に収め必ずや……」


 握りこぶしを作りながらお嬢様は世界征服の先にある己の真の目的を口にする。


「必ずやこの世で最も目立つ女になってやるのじゃ!!」
「ああ、結局そこに落ち着くんですね」


 エリザベート・エレオノール・ブリュンスタッドの行動原理、それは有体に言ってしまえば【目立つ】という物に帰結する。
 良かろうが悪かろうがとにかく他人より目立っていないと気が済まない。
 この女の辞書にはどうも悪目立ちという言葉が載っていないのだ。
 故にその目立ちたがり屋加減は最早狂気の域に届いており、勝気な性格も災いして今の高慢ちき+極度の自信過剰な令嬢が誕生した。


「生半可な道程では無い事は承知しておる、しかし妾は天才オブ・ザ天才。やってできぬ事なぞこの世にはない、いやあってはならない」
「はぁ」
「ミコトよ、妾と共にこの修羅の道歩んでくれるか?」


 エリザベートはいつになく真剣な表情でそう聞いてきた。
 なるほど、今回は言う事も大きい分覚悟も大きいという訳か。
 この屋敷、このブリュンスタッド家に仕えて10年。敏腕執事である俺の返事は決まっている。


「丁重にお断りさせて頂きます」

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