俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第4話 お嬢様、買い物に行きたがる。

「え~ 昨晩の被害報告ですが。お嬢様の自室は全壊、客室が10室全壊、通路が多数半壊、庭園が3分の1更地に、池が2つ程蒸発致しました」


 次の日、俺は憤怒の表情を浮かべながら屋敷の中にある庭園で損壊状況レポートを読み上げていた。
 何がちょっと強い豆鉄砲だ、ナパーム並みの威力じゃねえか!
 お陰で俺の『お嬢様にされた絶対に許さないこと手帳』に新しいエピソードが増えたわ!!
 しかも屋敷を破壊した張本人であるエリザベートはというと、


「うわっ……妾の魔力高すぎ……?」


 と、わざとらしく口元を両手で押さえて驚いた表情を浮かべていた。
 マジでぶん殴りてえなこの女……


「大体どこの世界に自分の屋敷を半分吹っ飛ばす令嬢がいるんですか……」
「ここにおるではないか」
「古典的な返しはやめて下さい、修繕費とか諸々どうするんですか!?」


 これは結構な額になるぞ…… まあ金なんて掃いて捨てるほどあるんだけどさ。


「案ずるな、何も妾は嫌がらせでお前に損壊状況を読み上げさせた訳ではない」


 そう言うとエリザベートは徐に立ち上がり、


「《修復リカバリー》」と唱えた。


 すると屋敷の損壊部分、粉々になった壁や家具や抉れた地面、へし折られた木々等がまるでテープを逆再生するかのように見る見る直っていく。


「す、すごい……」


 つい素直な感想が口から出てしまった。
 この世界にきて10年になるがここまで大仰な魔法は初めて見る。
 この魔法でこの女の壊れた頭も修復できないものだろうか?


「ふむ、初めてにしては上出来じゃな。流石は妾じゃ」
「これも魔導書に書いてあった魔法なんですか?」
「そうじゃ、壊れた物体を元の形に修復する魔法でな、ある程度効果範囲を指定する為にどこが壊れているのか情報が欲しかったのじゃ」


 くどいようだがこの世界における魔法は決して誰もが使えるという訳ではない、尋常ならざる精神力、生まれ持った魔力、そして長い年月を掛けて要約その奇跡を発揮する事ができるのだ。
 それをこの女は魔導書をサラ読みしただけで習得してしまった。
 それはつまりこのエリザベート・エレオノール・ブリュンスタッドが余りにも規格外の人物であるという事の証明に他ならない。
 おいおい、もしかしなくても本当に世界を征服しちゃうんじゃないのかコレ?


「何を呆けておる。お前も早く支度をせぬか」
「え? 何のですか?」
「戯け、昨日の夜に街へ出ると申したであろう」
「あ、そういえばそうでしたね」


 すっかり忘れていた。 


「部下を探しにいくんでしたっけ?」
「いやそれはまだじゃ、今日はちと買いたい物があってな。故に金をたんまりと用意しておけ」
「それはいいですけど、買い物ってどこで何を買うのですか?」


 大体の物は屋敷内の揃っているし、服も宝石も腐るほどある。
 今更何を買うつもりなのだろうか?


「それは着いてからのお楽しみじゃ」
「……」


 なんだか嫌な予感しかしない笑顔を浮かべるお嬢様だった。





 ブリュンスタッド家の屋敷は街から少し離れた山に位置している為、移動は馬車になる。
 巷の噂では自動車の実用化が視野に入っているらしいが、まあこれも風情があって俺は嫌いじゃない。
 颯爽と走る馬は格好良いし、それを乗りこなすなんて何とも男のロマンだ。
 後はその馬車に乗せる女性がもっとまともな人物だったら言う事はないのだが……


「これミコト、もそっと静かにできぬのか? お尻が痛くてかなわん」
「我慢して下さい、これでも結構緩やかな道を通ってるんですから」


 本当ならショートカットもできるのだが、結構なデコボコ道なので後ろのスピーカー女がハウリングしないように平らなルートを選択した次第だ。
 最悪「もう我慢ならん、お前がおぶれ」とか言い出しそうだ。
 どうもこのお嬢様の足は他人を蹴ったり踏みつけたりする事に特化しているらしく、歩いたり走ったりするという機能はお飾りのようだからな。


「あ、お嬢様。街が見えてきましたよ」
「ふむ、適当な所で下ろすがいい」


 俺は言われた通り街の適当な部分に馬車を止め、エリザベートの手を引いて籠から下ろす。


「おい、アレってエリザベート様じゃないか?」
「え、あのブリュンスタッド家の!?」
「綺麗・・・・・・」


 街のあちこちからそんな声が聞こえてきた。
 まあ、当然と言えば当然だろう。何せエリザベートは滅多に屋敷から出ないからな。
 精々王族主催のパーティーに顔を出す時くらいだ。
 そういえばもうすぐそのパーティーの招待状が届く時期か。
 気が重いなぁ……


「それにしても相も変わらず人が多いの。どれ魔法でまとめて吹き飛ばしてしまおうか」
「それだけは止めて下さい」
「ちッ!」


 魔法を覚えた事で危険人物としてのレベルが上がっているエリザベートはドレスと同じ色の赤い日傘を差すと、街の裏路地へと入った。


「お嬢様、いい加減どこに行くのかくらい教えて下さいよ」
「ん」


 エリザベートは歩きながら俺に1枚の紙を渡す。
 どうやら何かしらのメモのようだが。


「なになに? 『愛しのエリーへ。お前がこのメモを読んでいるという事は魔法に興味が芽生えたという事だな。ならば街の古い魔道具店に行くといい、きっとお前の目当ての物が見つかるだろう。 父より』」


 それは紛れもなくエリザベートの父君であるアルタイル様が書いたメモだった。
 筆跡も完全に一致している。


「どうもお父様は妾がいずれ魔法に興味を抱くだろうとよんでおったようじゃな。ふッ 我が父ながら食えぬお人じゃ」
「じゃあ今向かっているのはその古い魔道具店って事ですね」


 よく見るとメモの裏には魔道具店の場所を示す地図が描かれていた。
 こんな入り組んだ裏路地の先に店なんてあったのか、知らなかった。


「でもお嬢様のお目当ての品って何なんですか?」


 よもや聖剣とか魔剣とか物騒な代物じゃないだろうな……


「昨晩妾が読んだ魔導書は言わば初級レベルじゃ。しかし世界を征服するとなればもっと上を目指さなければならん」
「上、ですか……」
「そうじゃ、故に妾が所望するのは世界最高の魔導書である《ハイエンシェント・グリモアール》じゃ」


 何か聖剣や魔剣より恐ろしそうな予感がするのは気のせいだろうか。
 いや絶対気のせいじゃない、今からでも気絶させて家に引き返した方がいいかもしれないな。


「ん?」


 突然お嬢様がその歩みを止めた。


「如何なされましたか?」
「ミコトよ、あの者達は何をしておるのじゃ?」


 お嬢様が指差す方向には3人の人物がいた。
 1人は強面の大男。腕の太さが俺の胴体くらいあり、まるでゴリラが服を着てるみたいだ。
 もう1人は鼠みたいな卑しい顔をした小柄な男、右手にはナイフが握られている。
 そしてもう1人、それは雑巾のような布を1枚羽織っただけの小さな子供だった。


「テメエこの野郎、さっさと歩きやがれッ!!」


 小柄の男の蹴りが子供の腹部にめり込んだ。
 当然子供は倒れ込み。胃の中の内容物を吐き出しながら蹲る。


「おい、あんまり身体に傷をつけるな。値打ちが下がる」


 大柄の男が小柄の男に注意を促す。
 会話から察するにコイツ等は奴隷売買を生業としているごろつきと言った所か。


「えっとですね、お嬢様。あの者達は――ってあれ?」


 折角説明しようとしたのにエリザベートは1人でごろつき達の方へと歩いて行ってしまっていた。
 おいおい、まさか……


「コレ、そこの愚民共。通行の邪魔じゃ、下らん揉め事なら他所でせよ」


 トラブル確定の瞬間だった。

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