俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第2話 お嬢様、世界を征服したがる。(後編)

「そうかそうか、お前ならそう言ってくれると思っておッ――ってええ!? 断る!? WHY? 何故?」


 俺の言葉に意表を突かれたのかエリザベートお嬢様はドラゴンが大砲食らったような顔で驚く。


「だってお嬢様すぐに飽きるんですもん、それに俺には貴方を立派な人間にするという前当主様との大切なお約束がですね」
「あー! あー! それはもう聞き飽きた。お前はそれを一日に一体何度聞かせるつもりじゃ? 耳にオクトパスができてしまう」


 自分で耳を塞ぎながら俺の説教を遮断するお嬢様、まるで幼い子供だ。


「ミコトよ、確かに妾には飽きっぽい時代もあった。しかしな、それは過去の話じゃ。今回ばかりは本気も本気、亡き父上に誓って妾は世界を征服する」
「そんな事を亡き父君に誓わないで下さい」


 そんな事を娘から誓われてはあっちも迷惑極まりないだろう。


「大体お嬢様、世界征服なんてそんな軽々しく出来る事じゃありませんよ?」
「だからそれは妾も承知しておる、なればこそお前に協力を仰いでおるのではないか」
「と申しますと?」
「まあなんじゃ、いくら妾が全知全能の完璧超人といっても世俗については些か疎い部分もある」


 些かなんてもんじゃない、ついこの間まで捌かれた魚がそのまんま海を泳いでいると思っていた人だ。


「そこでじゃ異世界人であるお前の知識を使い、妾をこの世界の支配者にせよ!!」
「テーブルの上に立つのはお行儀が悪いですよ」


 まったく、と俺はお嬢様が汚したテーブルに台拭きを走らせる。


 異世界人、それは『地球』と呼ばれる星から何らかの形で『こちらの世界』へと流れてきた者達の総称だ。
 何百年だが何千年だかに一度そんな連中が現れるらしい。
 転生者とか転移者とか漂流者とか色々呼び方はあるけれどまあそれは大した問題じゃない。


 俺は10歳の時にこの屋敷の近くで瀕死の状態で発見された。何がどうなってこっちの世界に来てしまったかは今でも思い出せない。
 そして瀕死の俺を助けたのがこのエリザベートの父君であるアルタイル・エレオノール・ブリュンスタッド様だった。
 アルタイル様は行く当ての無い俺を住み込みの執事として召し抱えてくれた。
 それから10年、アルタイル様が病気で亡くなってからも俺はこの屋敷で働いている。
 まあ恩人であるアルタイル様の遺言に『娘を頼む』と書かれちゃ無下にはできまい。
 問題はその1人娘が、超がつくほど性格が悪い困ったちゃんだった事だ。


「お前のその怠惰に浪費されるだけの人生を妾の為に使えるのだぞ? これ以上の褒美があるか? いや、ない」


 そう断言するお嬢様、これを冗談で言っていないってんだからすこぶるたちが悪い。
 この女にとって自分以外の存在は【その他】くらいにしかカテゴライズされていないのだ。


「残念ながら俺の知識なんてそんなに大した事ありませんよ、なんたって10年間しか向こうにいなかったんですから」
「謙遜するな、この広い世界でも異世界人は希少じゃ。些細な事でもお前の知識には黄金以上の価値がある」
「そうなんですかねぇ……」


 時たま現れる異世界人達は皆が一様に地球での技術や知識をこの世界に与えてきた。
 それは農作物の効率的な育て方だったり建造物の建築方法だったり、はたまた漫画やボードゲーム等といった娯楽文化だったりと様々だ。
 全体的な文明レベルは俺の世界で言う所の中世に近いが、細部を見ると割かし新しい技術が使われていたりするのはそのせいだ。


「先日お前が教えてくれたオセロやら将棋とかいうゲームは中々に面白かったぞ」
「際ですか」


 三日三晩人をボコり続けてよくそんな澄まし顔でいられる物だ。
 ルールを教えてやったのにボロ負けした俺のプライドを返してほしいね。


「少し話が逸れてしまったが。どうじゃ、妾と共に世界を取らぬか?」
「……」


 俺は少し考える。
 今までこのお嬢様に真面に付き合ってきてロクな目に会った事がない。
 かと言って頭ごなしに否定したり叱りつけても逆上して大惨事を招きかねない。
 扱いづらいったらありゃしない、あーあ、病気で一ヶ月くらい寝込めばいいのに。
 まあこの女は生まれてこの方風邪すら引いた事がないのでそれは期待できそうもないか……


 俺としては世界征服なんて馬鹿な夢はすっぱり諦めて貰って、どこぞの貴族と結婚して円満な家庭を築き、幸せな人生を歩んで欲しい所なのだけれど。
 ん~


「なんじゃ、決め倦ねておるのか? 何とも卑しい奴じゃの。そこまでして褒美が欲しいのか?」
「いや、一言もそんな事言ってないじゃないですか」
「よいよい、お前のような下賤の輩の考えなど聞かずとも手に取るように分かる。そうじゃな、もし妾が世界を征服できた暁には何でも好きな物をくれてやろう」


 この女、マジで馬にでも蹴られないだろうか。
 いや待て、これはチャンスなのではないか? ここで無理難題な注文をつければお嬢様は諦めてくれるかもしれない。
 何故ならエリザベートはできもしない事は決して言わないからだ、まあそこが問題な部分もあるが今回ばかりはそれを逆手にとれるかもしれない。
 ハッハハハ!! 愚かな女だ。策に溺れるとはまさにこの事よ!!
 俺は心の中で高笑いを繰り返し、そして思いつく。
 そう、まさにこれぞ神の一手だ。


「今なんでもって言いましたね、お嬢様」
「そう申したであろう、なんじゃ何が欲しい? 金か? 名誉か? それとも性奴隷か? はッ!! どれも死ぬほど詰まらぬが妾の力を持ってすればどれも簡単に手に入る。ほれ言うてみ言うてみ?」
「俺が欲しい物それは……」


 そして俺はエリザベートが絶対に用意できない物を口にする。


「貴方です、お嬢様」
「は?」 


 お嬢様は口をマーライオンみたいに開けながら顔をしかめた。


「すまんミコト、どうも最近耳が遠くての今一度お前の欲しい物を聞かせてくれるか?」
「なんですかお嬢様。18歳でもう老化が進んでいるんですか? 仕方ないですね、その小奇麗な耳をおかっぽじりになってよくお聞きください」


 そして俺はよく聞こえるようにエリザベートの耳元でさっきの言葉を繰り返す。


「俺が欲しいのはお嬢様ですよ」
「!!?」


 唐突に立ち上がるお嬢様、しめしめどうやら理解したようだな。
 プライドが大気圏外まで出ているエリザベートの事だ、一介の執事に我が身を差し出すなんて真似は100回死んでもしないだろう。


「……本気で言っておるのか?」
「ええ勿論」
「……その条件で無ければ手伝ってくれぬのか?」
「そうですね、それ以外ですと諦めて頂く他ありません」
「……」


 これはかなり効いてるな。俯いてスッカリ塞ぎこんでやんの、しかも耳まで赤くしているのを見ると怒りのボルテージもアゲアゲだな。ははっ 気分がいいぜ!!
 こちとらお前の世話だけでも手一杯なんだ、世界征服? そんなの仮面を付けたよく分からない集団にでも任せておけばいいんだよ。
 さあ諦めると言え!! 言ってしまえ!!


「……よ、よかろう」
「そうですか諦めて下さいまッえええ!!?」


 予想外過ぎる返答に思わず変な声をあげてしまう俺。


「世界征服に成功したら、お前の物になってやろう」
「ちょっと待って下さいお嬢様!! 自分で何を言っているのか理解しておられますか?」
「むむむ無論じゃ、ブリュンスタッド家の女に二言はない!!」
「いやいやいや、今回はあってもいいんじゃないですか? だって僕平民ですよ、お嬢様がこの世で3番目くらいに嫌いな平民ですよ?」


 5番目くらいだったかな? いや今はそんな事どうでもいい!!
 この馬鹿女、何を言っているんだ? そこまでして世界征服したいのか?
 どんだけだよ。


「ええい黙れこの蛆虫執事!! 妾がよいと言えばよいのじゃ!! そうと決まれば今後の方針について纏めねばならんな。今晩妾の部屋に来い、作戦会議じゃ」
「……」


 何故だ、俺はどこで間違えたんだ? 
 こうなったら今からでも冗談だったって白状するしか、


「よもや先程の言葉冗談だったとは言うまいな?」


 エリザベートの目が急に鋭くなる。コイツ絶対2,3人殺してるだろ。


「妾にあそこまで言わせておいて今更冗談だった等と言うてみ、■■■■■■■の刑じゃぞ」
「ハッハハハ!! 俺がお嬢様に対して冗談? それこそ悪い冗談ですよ。ブリュンスタッド家の執事に二言はありませんとも!!」
「ならよい、妾は部屋に戻って少し寝る。また夕食時になったら起こせ」
「畏まりましたお嬢様」


 エリザベートはそのままフラフラした足取りで庭園を後にした。
 そして1人取り残された俺は空を仰ぐ。


「あれ、可笑しいな。今日、雨降ってったっけ……」


 上を向いて歩こう、涙がこぼれないように。確か地球にそんな歌詞の歌があったよな……


「どうしよう……」


 こうして、エリザベートお嬢様と執事である周防ミコトの世界征服計画は静かに幕を開けたのだった。
 お願いだから早く閉じて欲しい。

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