俺の悪役令嬢が世界征服するらしい 番外編

ヤマト00

スーパー同人誌大戦 破

「とある遺跡で発見された世界最古の同人誌が引き起こした第一次同人誌大戦から二百年。サークルは東館の『イザヨイ家』。西館の『TYPE-DOLL』に分かれ混迷を極めていた……」
「待て待て待て待て」


 俺は勝手にモノログってるサクラさんにツッコミを入れる。


「なにミコトちゃん。人の地の分に入ってこないでよ」
「いやいや、おかしいでしょ。それは俺のポジションなんですから」
「え、でも番外編は担当ヒロインの語りが入るって聞いてたんだけど」
「早いよ、まだ二話目だよ。どんだけフライング気味なんですか」


 あと誰から聞いたんだよそんなメタな事。


「どうでもいいから手を動かして下さいよ、あと二時間で全部仕上げないといけないんですから」
「そう言いつつもミコトちゃんは私のおっぱいから目が離せない様子だった。やれやれ、やっぱりミコトちゃんも男の子のようだ」
「挿絵がないのを良い事に人の行動を捏造しないで」


 あとその地の分口調は紛らわしいからもうやめて!!


「あ~ もう辞めたい。寝たい、お腹空いた」
「サクラさん」
「エリちゃんのおっぱいが触りたい。アーちゃんの太股が舐めたい。あ~ ミコトちゃんがマッチョの男に〇されたらいいのに……」
「サクラさん、恐ろしい願望が漏れてますよ」


 まあ無理もないか、全員丸二日は寝ていないからな。
 俺もそろそろ意識が朧気だ。


「あれ、ツバキさんはどこにいったんですか?」
「ツバキちゃんはちょっと休憩中。あの子はもう二週間くらい寝てなかったから」
「そ、そうですか……」


 人間ってそんなに起きてられるものなのか?
 エリザベートもそうだが、本当にあの人も規格外の人だな。


「でも誤算だったわ。まさかエリちゃんがあそこまで役に立たないなんて……」
「すみません……」


 当初の予定では俺とエリザベート、サクラさんとツバキさんで作業にあたる予定だったのだが試しに仕上げをエリザベートに任せたらとんでもない事になってしまったのだ。


「気が付いたらストーリーが恋愛物からバトル物に書き換わってるし、ヒロインの顔はエリちゃんそっくりにデザイン変更されてるし、挙句の果てには同人誌が魔道書化して常人が見ると発狂しちゃう始末…… とんだ伏兵だったわ」
「いや本当にすみません。俺もまさかあそこまでとは……」


 エリザベートの万能超人っぷりは有名だが今回はそれが空回りして足を引っ張る形になってしまった。
 何故アイツは肝心な時に使えないのか……


「そういえばエリちゃんは?」
「ああ、うるさいんでアリシアさんの所に遊びにいかせました」
「そんな子供みたいな……」
「似たようなもんですから」


 まあ子供の方が幾分マシな気もするがな。


「上手くいってるみたいね恋人関係は」
「まあ、お陰様で」
「世界征服の方はどうなの? 順調?」
「そっちは正直エリザベートが一人でやってるようなものですよ。最近はフレデリカさんと何か作ってるみたいですし」
「へ~ それは楽しみだね~」


 サクラさんはニヤニヤしながらサラサラとペンを動かす。


「うし! こっちは終わり。ミコトちゃんの方は?」
「俺もこのページで最後です」


 一時はどうなる事かと思ったがなんとかなるもんだな。
 まあ《神室》の方ではまだ使用人さん達が四苦八苦しているらしいが。
 まったく変わり者の主を持つと大変である。


「サクラさん終わったのでチェックお願いします」
「はいはーい。じゃあちょろっと休憩してていいよ」
「分かりました、じゃあお手洗いお借りしますね」


 俺はサクラさんに原稿を渡し、チェックしてもらっている間に手洗いに行く事にした。
 座りっぱなしの作業しっぱなしはやはり結構こたえるぜ。


「あれ? そういえばトイレってどこだっけ?」


 朦朧とした意識の中で適当に歩いていたら迷ってしまった(適当に歩くな)。
 いやでも本当に武家屋敷って迷路みたいで分からなくない?
 どこの通路も似たような作りしてるしさ!!
 なんて、逆ギレしても仕方ない。ここは道を教えてくれる人を探すか。


「ん? あの部屋灯りがついてるな。よし」


 俺はなにやら暖簾のれんのかかっている部屋を発見。突入を試みる。
 なにやら湯気が出ているような気がするけれど、もしかして厨房とかだろうか。


「あの~ すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが――ってあれ?」
「ッ!!?」


 しかし俺の目の前に現れたのはお残しは許さない感じの調理オバさんではなく、タオル一枚だけに身を包んだ黒髪の女性だった。
 どうやらここは厨房ではなく露天風呂の類だったらしい。
 つまり俺は間違えて脱衣所に入ってしまったという訳で、そうなると必然中に入っていた人間とエンカウントする事になる。
 ああでも安心してくれ、その女性は後ろ向きでタオルを巻いていたため何も見えてはいない。


「す、すみません!! 俺迷子になっちゃって!!」


 俺はすぐさま後ろを向き初心な童貞系主人公を演出する。
 古今東西こうしておけば命だけは助かるのだ、たぶん。


「……見た?」


 鋭い女性の声。やばいチビりそう。


「いえ何も見てません!!」
「……そう」
「本当にすみません、すぐに出ていきますので……」


 しかしそれ以降女性から返事が返ってくる事はなかった。
 すると俺は背後にあった女性の気配が消えている事に気付く。
 さっきまで聞こえていた雫のこぼれる音や息使いが聞こえない。
 俺は意を決して振り向き女性の姿を探す(裸がみたい訳ではない)。


「おかしいな、入り口一つしかないのにどこに行っちゃったんだろう」


 浴室に戻った訳でもないようだし、むむむ。
 まさか俺の願望が作り出した幻覚…… な訳ないよな。





「あ~ それはミコトちゃん見ちゃったね。偶に出るのよ、昔この屋敷で死んだ女中の霊がね」
「ば、ばんなそかな」


 あの後、なんとか根性でトイレを見つけた俺は道中出会ったツバキさんに道を案内してもらって部屋に戻る事ができた。


「ゆゆゆ幽霊なんて、そんな非科学的な存在いるわけないじゃないですか」
「いやいや、魔法やモンスターがいるんだからいてもおかしくないでしょ?」
「た、確かに……」


 そうでした、この異世界はファンタジーな設定でしたね。おのれ忌々しい。
 今からでもSFにジャンル変えしたらいいのに。


「まあ別に害はないから気にしないで、でも確認しておくけど後姿しか見てないんだよね?」
「ええ、顔も見えませんでした。黒髪の女性だったって事くらいしか分かりません」
「そう。ならいいわ」
「? 何がですか?」
「あ、ううん。こっちの話、それより疲れたでしょミコトちゃん。後は製本するだけだからご飯でも食べようよ」
「ああはい。分かりました、そういう事ならご馳走になります」


 何かを誤魔化された気がするが、確かに空腹だ。
 ここは久しぶりの和食を堪能するとしよう。





「いやあ。よかったね~ バレなくて」
「……ホンマ危なかったわ。ちゃんと見ててもらわな困るで」
「ごめんごめん。でも仮面外してたんなら逆にバレないんじゃない?」
「そういう問題やあらへんし、この顔見られたらお嬢やて困るやろ」
「まあね~ でもまあ私はミコトちゃんなら受け入れてくれると思うけどなぁ」
「あきまへん。この事は外部の人間には絶対バレたらいかへんのやから……」



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