俺の悪役令嬢が世界征服するらしい 番外編

ヤマト00

アイドルナイト・エターナル

「わ、私の楽屋が突如としてバイオレンス空間に!? 一体何事!?」


 休憩時間に差し掛かり、一旦楽屋に戻ってきたアリシアさんは入り口の前で内部の状況に驚愕していた。
 無理もない。
 もし俺が逆の立場だったらあまりの恐怖にその場で卒倒するか、回れ右してその場を後にするかのどっちかだろう。
 まあ、とにもかくにも状況説明。
 現在、楽屋には俺を含めて八人の人間が集っている。
 転移魔法でダイナミックに登場したエリザベートとキャスカさん。
 そしてそこに居合わせて俺とツバキさん。
 そしてそして、愚かにも楽屋に侵入した狼藉者の二人(魔法で空中に宙吊り状態)。
 後は今しがた楽屋に到着したアリシアさんとサクラさんだ。


 それなりの広さを誇るアリシアさんの楽屋も流石にこれだけの人数が揃うと狭く感じる。
 いや、そう感じるのは人数にプラスして部屋に置かれている多種多様な拷問器具のせいもあるだろう。
 これらは全てエリザベートが収納魔法で取り出したものだ。
 一体全体どこでこんな物騒な物を手に入れたのかは怖くて聞けていない、というか聞きたくない。


「さてさて。ゴムパッチンはどこにやったかの~」


 そして俺達は今、楽屋に侵入した二人から情報を聞き出す為に王様ゲームを取り入れた変則的拷問の最中である。
 ルールは簡単。まず王様を決めて、二人に下す拷問を決める。後はそれを全員で実行、先に情報を吐かせた人間の勝ち、というものだ。
 無論殺してしまっては聞き出すもクソもないのでそこらへんはいい塩梅に調整している。
 まあそれでも俺以外の面々(エリザベート、キャスカさん、ツバキさん)は結構グレーというかアウトな拷問で攻め立てたので何回かエリザベートが回復魔法で不審者二人を治療したのは言うまでもない。


「お~ あったあった。では特大ゴムパッチンいってみよ~」
「「「「お~」」」」
「待ーて待て待て待ていィ!!」


 不審者二人に特大ゴムパッチンを仕掛けようとしていた俺達をアリシアさんが止めた。
 江戸っ子かな?


「ゴメン、頭の中がパニックなの。誰でもいいから説明して……」


 アリシアさんは眉間を押さえながら椅子に座りこむ。
 だが彼女の問いに答えたのはその椅子――もとい四つん這いになったキャスカさんだった。


「それは私がご説明致しましょう」
「!? い、いつの間に私の椅子に!!?」
「ふふッ お久しぶりですアリシア様。どうやら疲れておられるようですね、よもや私が椅子になる事を許されるとは」


 屈辱的な構図なのに何故か上から目線のキャスカさん――強い。
 そこからキャスカさんはこれまでのあらましをアリシアさんに話しはじめた…… アリシアさんにお尻を叩かれながら。


「ふ~ん。この私に黙って裏でコソコソするなんていい度胸じゃない。ねえキャスカ?」
「アヒィッ!! す、すみません。私はアリシア様の事を思ってッ あんッ!!」


 この人はもしかしてアリシアさんに怒られるのが目的で秘密裏に事を進めていたのではないか? そう思える程の喜びようだった。あり得るから怖い。


「まったく。エリザベートに頼ったりしたら後から何を要求されるか分かったもんじゃないのに!!」
「なあミコトよ。ちょっと妾の信用無さすぎではないか?」
「日頃の行いでしょ……」


 あるいは今までの禍根か。


「それに私は別に助けて欲しいだなんて一言も言ってないし……」


 フンッ! とそっぽを向くアリシアさん。しかしその背後にはある人物が忍び寄っていた。


「だーかーら。それが問題なんでしょ~」
「ちょッ!? サクラ。どこ触ってんのよ!!」


 突如アリシアさんの背後をとったサクラさんは彼女の慎ましい胸をホールドし手慣れた手付きで揉みしだく。
 帝国最強の騎士であるアリシアさんの背後をとるとはサクラさんも結構デキる人だ。


「もうー。こ~んな可愛いおっぱいしてる癖に意地っ張りなんだから~」
「ひゃんッ!!」


 果たしてこの場合胸の大きさは関係があるのだろうか。二人の美少女の百合百合した光景を見ながら疑問に思っているとエリザベートが、


「ふふん、安心するがいいミコトよ。妾の胸はアリシアと違って我儘おっぱいじゃから」


 と訳の分からない勝ち誇りを見せていた。我儘なのは性格だけで充分である。


「わ、私はただ。誰にも迷惑をかけないように…… 誰も不幸にならないようにって……」


 サクラさんに胸を触られているからなのか、はたまた友人達の行為に感動したのか、どちらかは判別できないがアリシアさんの目には涙らしきものが溜まっていた。


「私が結婚すれば全部丸く収まるのに…… どうしてアンタ達はそこまでするのよ……」
「戯け、勘違いするなこの自意識過剰ペチャパイ。妾はお前がどこの豚と結婚しようがどうでもよいわ」


 じゃがな――とエリザベートはアリシアさんの泣き顔を両手で押さえて強引に目を合わせる。


「妾を負かした歌を辞める事だけはゆるさん。妾を負かしたあの日からお前は死ぬまで歌い続ける運命さだめなのじゃ。妾以外にお前を負かす者はないと知れ」


 アリシアさんはその言葉を聞いて少し驚いたような表情を浮かべる。
 そして朗らかに微笑むと、


「なによソレ意味分かない……」


 と呟いた。





「あの~偉い盛り上がっている所悪いんやけど、このお兄はん達が話したい事があるみたいやで?」


 騒いでいる俺達をツバキさんが本筋に戻してくれた。
 閑話休題である。


「なあ交換条件といかないか? 最後の刺客がどこにいるのか話すから俺達を解放してくれ」
「ほほう、仲間を売るという事か?」


 男の言葉にエリザベートが答える。


「俺達も魔法使いの端くれだ。だからアンタがどれだけヤバイ存在かくらいは分かるさ」
「それに他の二人は同業者ってだけで仲間じゃねえ。自分の命とは釣りあわねえさ」


 どうやら男二人はこちらに情報を提供してくれる様子だった。


「残念じゃのう。今から魔法スゴロクで拷問しようかと思うておったのに・・・・・・」


 とエリザベート。持ってきたのかあの恐ろしい精神攻撃道具を・・・・・・


「「スゴロク・・・・・・ うッ! 頭がッ!!」」


 忌まわしい過去の記憶が蘇ったのかアリシアさんとサクラさんが二人して頭を抑えていた。


「まあよかろう。お前達の条件飲んでやる、だが虚偽の類は寿命を縮める事は覚えておけ」
「ああ」


 そして男は語りはじめた。残る最後の刺客、その目的を――


「最後の刺客の目的、それはラストの一曲。その伴奏者達さ、たぶん今頃はそいつ等を連れて会場の外に行ってる頃だろうぜ」





「ん~」
「どうですかサクラさん?」


 眼鏡を外したサクラさんは神眼を使い伴奏者達の居場所を探してくれていた。
 どうやら両目を閉じる事で視覚を大幅に拡張できるらしい。


「見つけた。ここから東に50kmの地点。宿の寝室に二人気絶させられてるね」
「気絶…… どこか怪我でも?」
「ううん、たぶん特殊な薬で眠らされてるんだと思う。たぶん半日は起きそうにないね」


 サクラさん曰く周辺に刺客の姿はなく、伴奏者達自身の安全については問題ないらしい。
 どうやら相手の仕事は伴奏者達を連れ出して演奏不可能な状況に追い込む事だったようだ。 


「すみませんアリシアさん。俺がもっと上手くやっていればこんな事には……」
「バカね、別にいいわよ。最後の曲はアカペラで歌うからアンタ達はその二人を助けにいってきなさい」
「でも…… 最後の歌はアリシアさんとお母さんの思い出の曲なんですよね……」
「いいのよ。王子との結婚さえどうにかできればまた歌う機会なんていくらでもあるんだから」


 でも、これじゃあまるで試合に勝って勝負に負けたみたいじゃないか。


「俺は、あの豚王子にアリシアさんの歌をバカにした事を謝らせたいのに……」
「平民……」
「だぁあああああ!!! 正妻メインヒロインキックゥ!!」
「ぶべら」


 エリザベート容赦ない飛び蹴りが俺に炸裂した。


「戯け共め。方法ならばもう一つあるではないか」
「うぅ…… な、なんですかその方法って」


 伴奏者を助けていたら曲に間に合わず、助けなければライブは成功しない。
 このジレンマをどうやって解消するんだ?


「フンッ! ようはアリシアの曲を弾ける人間を見繕えばよいだけではないか」


 ?? 誰かが伴奏者の代わりを務めるという事か? でも一体誰が……まさか。


「最後の曲、その伴奏。このエリザベート・エレオノール・ブリュンスタッドが引き受けよう」


 やっぱりか。


「は!? アンタなに言ってんのよ」


 当然最初に声を荒げたのはアリシアさんだった。
 すると今度はサクラさんが、


「あ、じゃあじゃあ私もやる~」
「ちょ、サクラまで!?」
「元よりそのつもりじゃ。妾はピアノ、サクラがヴァイオリンで問題ないな」
「おっけー」
「そうと決まれば早速楽器の調整にいくかの」
「ふぁーい」
「待って待って!! アンタ達正気?」


 アリシアさんは楽屋から出ていこうとする二人を両手を広げてとうせんぼする。


「いくらなんでも無茶よ、練習も無しにいきなり演奏するだなんて。それこそ失敗したらどうするの!?」


 もっともな意見、だがエリザベートとサクラさんは首を傾げる。


「問題ないじゃろ、この十余年でお前の曲は全て頭に入っておるし。なあサクラ」
「そうだね。楽譜なんて一回見れば充分だし、後はフィーリングでどうにでもなるでしょ」


 聞きようによってはピアノ演奏とヴァイオリン演奏を軽くみているように聞こえるかもしれない。
 しかしこの二人は違う。
 超絶ハイスペック、凡人では決して到達しえない場所に身を置く者達。
 それこそが帝国三代貴族の令嬢達なのだ。


「アリシア。よもや貴様、妾達の実力を過小に評価しておるのか?」
「……」
「アーちゃん、これは私達にしかできない事なの。お願い、やらせて?」
「……分かったわよ。その代わり、失敗したら只じゃ置かないからね」


 アリシアさんの言葉受けてエリザベートとサクラさんも不敵に笑う。


「誰に向かっていっておる」
「誰に向かっていってるの」


 そして計らずも彼女達が同時に発した言葉は以前アリシアさんがボイスレッスンの時に言った言葉と同じ物だった。
 さあ、ラスト一曲いってみよう。

「コメディー」の人気作品

コメント

コメントを書く