俺の悪役令嬢が世界征服するらしい 番外編
デッド・オア・アイドル
ついにライブ当日だよ!! ん? 日数を飛ばした? 知らん!! 一日くらいで細かい事言わないの!!
現在俺はアリシアさんと一緒に巨大なドーム状のコンサートホール、その楽屋にいるよ!!
「開演まで後二時間、ついに来ましたね!! フゥウッ!!」
「なんでそんなにテンション高いのよ・・・・・・」
若干引き気味のアリシアさん。まあ気持ちは分かる。
気持ちがせいてつい地の分のテンションまであがってしまっていた。
「イケないイケない。クールキャラのイメージが崩れる所でした」
「アンタってそんなキャラだっけ?」
むむ。どうやらあまり浸透していないらしい。
まあ元より俺にキャラなんてアイデンティティが備わっている事自体怪しいものである。
「で、なんでそんな気持ち悪いテンションな訳?」
「いや~ 俺こういうイベント初めてですし、この一週間の苦労が報われるかと思うとテンション上げずにはいられませんって!!」
なにせ地球でもライブに行った事がないからな。
今回はマネージャーなので裏方としての参加にはなるがそれでも楽しみなのには変わりない。
「ふ、ふ~ん。そう、楽しみなんだ…… ふ~ん」
アリシアさんがちょっと嬉しそうにしていた。可愛い。
しかし、同時にあまりウカウカしていられないのも事実である。
俺の役目はキャスカさんがライブ終了までに来る事を信じて、アルライド王子が仕掛けてくるであろう妨害行為を防ぐこと。
集中してライブが見られないのは少しというか非常に残念だが、上手くいけばまたアリシアさんのライブも開かれるだろうし問題ないだろう。
「王子はもう会場に来てるんだっけ?」
「はい、今はVIPルームという名の監視部屋に隔離してます。本人が直接動くことはないとは思いますが一応保険の為に」
ステージが一望できる大部屋にシャワールームも付いているし居心地に対して文句を言われる事はないだろう。まあ『精々お遊戯を見学させてもらおう』みたいな小言は言われたが……
しかし問題は王子本人よりも客に紛れているかもしれない外からの刺客である。
この前のふざけたアイドルグループ(もう名前忘れた)と違って一般市民に紛れられるとこちらでも対処が後手に回る可能性がある。
会場を警備している騎士達にもう一度注意を促しておく必要があるだろうな。
「さて、じゃあ私は衣装に着替えて精神統一するからアンタは休憩がてら会場周りでもしてきたら?」
「え!? 一人になって大丈夫ですか? 王族の妨害工作があるかもしれないのに……」
「ここまでの警備は万全だし大丈夫よ、それに襲われても私一人なら全然問題ないわ。どこかの虚弱貧弱な足手まといさえいなければね」
「うぅッ 酷いけど否定できない……」
「冗談よ。これはいつも私がしてるルーティーンみたな物なの。だからアンタにとっても私を1人にするのは仕事の内よ」
「……分かりました。でも何かあったらちゃんとインカムで呼んでくださいね」
「はいはい、分かったからさっさと行きなさいな」
まあ会場の身回りも充分必要な事だ、爆弾でも仕掛けられたらたまったものではない。
それにキャスカさんのメモにも『ライブの前は極力一人にしてあげてください』って書いてあったしここはアリシアさんの指示に従っておこう。
「じゃあ一時間したら戻ってきますね」
「ええ、雰囲気だけでも楽しんできなさい」
そして俺は微笑むアリシアさんを残して楽屋を後にした。
◇
「なッ!!!??」
会場を見回っていた俺は己の目を疑った。
何故? それは俺が今目にしている光景を見てもらえればきっと理解して貰えるだろう。
「へーい、らっしゃいらっしゃい安いよ安いよ~ アリシア・フローレンス・スタンフィールドの限定抱き枕カバーだよ~ 誰とでも寝る女だよ~ 安いよ安いよ~ エロカワだよ~」
場所は一階にある中央エントランス。そこは既に大勢の観客で賑わっており食べ物や飲み物、ペンライトやら団扇、それに限定タオル等の様々な物品が売っている。
しかしひと際めを引いたのは隅っこにあるとある露店。
そこでは怪しいサングラスとマスクをした女性と狐のお面を付けた和装の人物がアリシアさんの抱き枕カバーを叩き売りしていたのだ。
「って思いっきりサクラさんとツバキさんじゃん!!?」
俺はついその怪しい二人組、サクラさんとツバキさんにツッコミを入れてしまった。
なにやってんだよこの人達は……
「わ、ビックリした~ なんだミコトちゃんかオッハー」
サクラさんはサングラスとマスクを外して時代遅れ(俺の世界では)の挨拶をする。
というかメガネの上からサングラスかけてたのか。
「オッハーじゃないですよ、なんですかコレは……」
俺は並べられているアリシアさんの抱き枕カバーを指差す。
「ああコレ? 凄いでしょう、アーちゃんの抱き枕カバー。私が作ったんだよ!!」
サクラさんは見本の抱き枕カバーを俺に渡してきた。
確かにとてつもないクオリティではある。言われるまで俺はこれがイラストではなく写真プリントだと勘違いしていたくらいだ。しかもリバーシブルタイプ。
表面はいつもの水色ドレスがはだけて胸の辺りを両手で隠しながら頬を赤らめているアリシアさん絵。
裏面は何故かスクール水着を着てなんとも扇情的なポーズをとるアリシアさんが描かれている。
少女のあどけなさと女性としての魅力が最大限に引き出されている一品。
流石は超カリスマ同人作家であるサクラさんの仕事だ。
しかし売り文句が酷すぎないか?『誰とでも寝る女』って……
いや枕カバーなんだから間違ってはいないけどさ。
「ええ出来でっしゃろ? 本当は3ゴールドやけど友人のよしみでミコトはんは色つけて1ゴールドでええで」
ツバキさんが算盤を弾きながら言う。
たぶん仮面の下はとてつもなく邪悪な笑みを浮かべている事だろう。
「ぐへへへ、今日も商売繁盛。いやあ~ 持つべき物は美少女アイドルの友達だよねぇ~」
 
偉く限定的な友達ラインを持っているサクラさんだった。この上なく友達甲斐のない人である。
「こんな物売ってアリシアさんに怒られないんですか?」
下手したら命の危機すら感じるレベルだ。
「あ〜 大丈夫大丈夫、これはちゃんと許可取ってるから」
「マジすか」
こんなR指定物の販売に許可を出すとは、アリシアさんも結構寛大なところが――
「まあ販売内容を記載する時に寝室用具ってだけ書いて出したんだけどね~」
「おぅい!!」
滅茶苦茶騙してんじゃん!! この悪徳商人共め!!
「さっさと片付けないと、どの道騎士団に見つかっちゃいますよ?」
捕まったら例え三大貴族といえど只ではすむまい。
知り合いから犯罪者が出るところとか俺は見たくないぞ。
「ああそれなら大丈夫、たぶんもうすぐ来るから」
とサクラさんが言って数秒後、周りが急にざわつき始めた。
俺は不審に思って振り返る。
すると少し離れたと所から大柄で屈強な騎士達が綺麗に列を成してこちらへと向かってきていた。
どうやらサクラさんの悪事もここまでのようだな。
悲しい事だが、二日おきくらいに面会にいってあげよう。
「サクラ様困りますね……」
リーダーと思われる男が眉を寄せながら低い声で言う。
しかしサクラさんはニコニコと余裕の表情を浮かべる。
ちょっと言ってやって下さいよ騎士さん、こんなモラルに欠ける物を販売してはいけないってね。
「このようなエチエチでけしからん物は我々騎士団、もといアリシア親衛隊が全て回収致します」
「え?」
「はーい毎度あり~ 領収書は親衛隊名義でいいんだっけ?」
「はい、騎士団と書かれるとアリシア様にバレてしまいますから。あとキャスカさんの分は後日匿名郵送にして頂けると助かります」
「了解了解」
騎士達はアリシアさんの抱き枕カバーを全て買い占めるとその場を後にしていった。
「ふぅ、これで今回も完売だね。ツバキちゃん撤収ぅ~」
「あいよ、お嬢」
「もう突っ込みが追い付かねぇよ……」
悲しい事にどうやら愛の前では正義も秩序も大して意味はないようだった。
◇
唐突だが、ここで少しサクラさんとツバキさんの説明をしておこうと思う。
まあ番外編から読むような変わっている人はそういないとは思うが久しぶりの出番だからね。少しくらいは気を使ってあげよう。
「それにしても一時はどうなる事かと思ったよ~ ギリギリで間に合ってよかった~」
そう言いながらポップコーンをつまんでアリシアさんのライブパンフレットを読んでいる黒髪眼鏡の美少女はイザヨイ・ヒスイ・サクラノヒメ。
エリザベートやアリシアさんと同じ帝国三大貴族の一つであるイザヨイ家の当主様だ。
見た目は先祖の関係で日本人に限りなく近い大和撫子。長い髪は三つ編みで結んでおり、服装は黒い巫女服。
服の上からでも分かる抜群のスタイルを持ち、同性愛をこよなく愛するカリスマ同人作家だ。
そしてその隣には白い狐面を付けた和装の人物、サクラさんの付き人であるツバキさんがいる。
正直この人に関しては詳細なプロフィールをしらないのであんまり語る事がない。
正体不明、それがツバキさんの最大の特徴である。
「二人共ライブに間に合ったんですね、同人誌は完成したんですか?」
「ギクッ」
「ギクッて……」
「い、いやもうほぼ完成みたいな物なの! ラストのページさえ終わればもう脱稿できるんだから。でも今日はほら、アーちゃんの晴れ舞台だし? 気晴らしも必要ですしおすし?」
明らかにアタフタとするサクラさんを横目に俺はツバキさんに話しかける。
「で、結局進捗はどうなんですか?」
「お嬢の言った通り最後のページ以外は大体形になったで、まあ問題はそのページなんやけど」
「というと?」
「お嬢、まだ落ちを考えてへんねん」
「えぇ……」
「違うもん!! 考えてるもん!! 構想が二つあってどっちにするか決めてないだけだもん!!」
とソファの上で暴れるサクラさん。
俺はよく分からないがそういうのって先に決めてから作業するものじゃないのか?
長期連載の漫画じゃるまいし。
「本当はそうなんやけど、今回はお嬢がいつまでも渋るもんやから作業せざる負えなかったんよ」
「そうだったんですか」
「だってだって~ どっちのラストも滅茶苦茶気に入ってるんだもん!!」
どうやらサクラさん達も色々大変なご様子だ。
「果たして私達は無事に同人誌を完成させる事ができるのか!? サクラ篇、乞うご期待!!」
「ちゃっかり宣伝しないで下さい」
後その私達っていうのはまさか俺も含まれていたりしませんよね?
「あ、そうだ。サクラさんツバキさんちょっとお話したい事が……」
俺は一応二人にもアリシアさんの現状を把握してもらおうと思い、ざっくりとしたここまでのあらすじを話した。
「ふ~ん。あの変態親父がついに動きだした訳ね」
「ええ、サクラさんの眼でどうにかできませんか?」
サクラさんの眼には《神眼》と言ってイザヨイ家の当主が代々受け継ぐ特殊な能力が備わっている。
その能力は『見たいものを見る力』であり、透視や読心術、果ては未来視まで可能というとんでもないものだ。
以前はその力のお陰で世界の崩壊を未然に防ぐことができた。
「ごめんミコトちゃん! 実はしばらく未来視使えそうもないのよ」
「え、それはまたどうしてですか?」
「前もちょっと話したやろ、未来視は体力の消耗がかなり激しいんや。医者からは少なくとも半月は使用しないようにって言われとるんよ」
「そうだったんですか」
「ごめんね〜 でも未来視は使えないけど他の事ならできるから」
「他の事?」
ちょっと待っててね~ とサクラさんは眼鏡を外すと紙とペンを取り出した。
そして何かをスラスラと描き始め、
「ほい完成ッと」
ものの数分で描きあがったのは四人の男の似顔絵。
サクラさんはそれを俺に手渡す。
「これは?」
「アルライド王子に頼まれて会場に紛れてるスパイの人達、東西南北のエリアに一人ずついるみたいだよ」
「え!?」
エリザベートやアリシアさんもだけど、やっぱりこの人も存在がデタラメすぎるな。
「ライブが始まる頃にそれぞれ裏で悪戯する気みたいだね」
「そうですか、ならすぐに捕らえます!!」
「ううん、今は泳がせておいた方がいいかも。下手に騒がれたらライブ自体が台無しになりかねないでしょ?」
「た、確かに・・・・・・」
そうなると今下手に手を出さないで人気のいない裏に回った所を押さえた方が得策か。
「とりあえず今は騎士の人達にこの人相絵を渡して監視させておくといいよ」
「分かりました、ありがとうございます」
それにしても本当に頼りになる人だ一家に一人貴方が欲しいぜ。
「いやん! ミコトちゃんったら。浮気は駄目だぞ?」
「心を読まないで下さい」
やっぱいらね。迂闊に妄想もできないもん。
「あ~ん、ひーどーいー」
「もし連中をシバく時はワイも呼んでや、お手伝いするさかい」
「ありがとうございます、ツバキさんがいれば百人力ですよ」
これで後の問題はキャスカさんとエリザベートの帰還だけか。
「あ、俺そろそろアリシアさんの所に戻らないと。二人共ありがとうございました」
「はーい、タイミング見て楽屋にいくからアーちゃんによろしく言っておいて~」
「分かりました」
そして俺は二人と別れ、アリシアさんのいる楽屋へと戻る事にした。
――ライブ開催まで後一時間。
現在俺はアリシアさんと一緒に巨大なドーム状のコンサートホール、その楽屋にいるよ!!
「開演まで後二時間、ついに来ましたね!! フゥウッ!!」
「なんでそんなにテンション高いのよ・・・・・・」
若干引き気味のアリシアさん。まあ気持ちは分かる。
気持ちがせいてつい地の分のテンションまであがってしまっていた。
「イケないイケない。クールキャラのイメージが崩れる所でした」
「アンタってそんなキャラだっけ?」
むむ。どうやらあまり浸透していないらしい。
まあ元より俺にキャラなんてアイデンティティが備わっている事自体怪しいものである。
「で、なんでそんな気持ち悪いテンションな訳?」
「いや~ 俺こういうイベント初めてですし、この一週間の苦労が報われるかと思うとテンション上げずにはいられませんって!!」
なにせ地球でもライブに行った事がないからな。
今回はマネージャーなので裏方としての参加にはなるがそれでも楽しみなのには変わりない。
「ふ、ふ~ん。そう、楽しみなんだ…… ふ~ん」
アリシアさんがちょっと嬉しそうにしていた。可愛い。
しかし、同時にあまりウカウカしていられないのも事実である。
俺の役目はキャスカさんがライブ終了までに来る事を信じて、アルライド王子が仕掛けてくるであろう妨害行為を防ぐこと。
集中してライブが見られないのは少しというか非常に残念だが、上手くいけばまたアリシアさんのライブも開かれるだろうし問題ないだろう。
「王子はもう会場に来てるんだっけ?」
「はい、今はVIPルームという名の監視部屋に隔離してます。本人が直接動くことはないとは思いますが一応保険の為に」
ステージが一望できる大部屋にシャワールームも付いているし居心地に対して文句を言われる事はないだろう。まあ『精々お遊戯を見学させてもらおう』みたいな小言は言われたが……
しかし問題は王子本人よりも客に紛れているかもしれない外からの刺客である。
この前のふざけたアイドルグループ(もう名前忘れた)と違って一般市民に紛れられるとこちらでも対処が後手に回る可能性がある。
会場を警備している騎士達にもう一度注意を促しておく必要があるだろうな。
「さて、じゃあ私は衣装に着替えて精神統一するからアンタは休憩がてら会場周りでもしてきたら?」
「え!? 一人になって大丈夫ですか? 王族の妨害工作があるかもしれないのに……」
「ここまでの警備は万全だし大丈夫よ、それに襲われても私一人なら全然問題ないわ。どこかの虚弱貧弱な足手まといさえいなければね」
「うぅッ 酷いけど否定できない……」
「冗談よ。これはいつも私がしてるルーティーンみたな物なの。だからアンタにとっても私を1人にするのは仕事の内よ」
「……分かりました。でも何かあったらちゃんとインカムで呼んでくださいね」
「はいはい、分かったからさっさと行きなさいな」
まあ会場の身回りも充分必要な事だ、爆弾でも仕掛けられたらたまったものではない。
それにキャスカさんのメモにも『ライブの前は極力一人にしてあげてください』って書いてあったしここはアリシアさんの指示に従っておこう。
「じゃあ一時間したら戻ってきますね」
「ええ、雰囲気だけでも楽しんできなさい」
そして俺は微笑むアリシアさんを残して楽屋を後にした。
◇
「なッ!!!??」
会場を見回っていた俺は己の目を疑った。
何故? それは俺が今目にしている光景を見てもらえればきっと理解して貰えるだろう。
「へーい、らっしゃいらっしゃい安いよ安いよ~ アリシア・フローレンス・スタンフィールドの限定抱き枕カバーだよ~ 誰とでも寝る女だよ~ 安いよ安いよ~ エロカワだよ~」
場所は一階にある中央エントランス。そこは既に大勢の観客で賑わっており食べ物や飲み物、ペンライトやら団扇、それに限定タオル等の様々な物品が売っている。
しかしひと際めを引いたのは隅っこにあるとある露店。
そこでは怪しいサングラスとマスクをした女性と狐のお面を付けた和装の人物がアリシアさんの抱き枕カバーを叩き売りしていたのだ。
「って思いっきりサクラさんとツバキさんじゃん!!?」
俺はついその怪しい二人組、サクラさんとツバキさんにツッコミを入れてしまった。
なにやってんだよこの人達は……
「わ、ビックリした~ なんだミコトちゃんかオッハー」
サクラさんはサングラスとマスクを外して時代遅れ(俺の世界では)の挨拶をする。
というかメガネの上からサングラスかけてたのか。
「オッハーじゃないですよ、なんですかコレは……」
俺は並べられているアリシアさんの抱き枕カバーを指差す。
「ああコレ? 凄いでしょう、アーちゃんの抱き枕カバー。私が作ったんだよ!!」
サクラさんは見本の抱き枕カバーを俺に渡してきた。
確かにとてつもないクオリティではある。言われるまで俺はこれがイラストではなく写真プリントだと勘違いしていたくらいだ。しかもリバーシブルタイプ。
表面はいつもの水色ドレスがはだけて胸の辺りを両手で隠しながら頬を赤らめているアリシアさん絵。
裏面は何故かスクール水着を着てなんとも扇情的なポーズをとるアリシアさんが描かれている。
少女のあどけなさと女性としての魅力が最大限に引き出されている一品。
流石は超カリスマ同人作家であるサクラさんの仕事だ。
しかし売り文句が酷すぎないか?『誰とでも寝る女』って……
いや枕カバーなんだから間違ってはいないけどさ。
「ええ出来でっしゃろ? 本当は3ゴールドやけど友人のよしみでミコトはんは色つけて1ゴールドでええで」
ツバキさんが算盤を弾きながら言う。
たぶん仮面の下はとてつもなく邪悪な笑みを浮かべている事だろう。
「ぐへへへ、今日も商売繁盛。いやあ~ 持つべき物は美少女アイドルの友達だよねぇ~」
 
偉く限定的な友達ラインを持っているサクラさんだった。この上なく友達甲斐のない人である。
「こんな物売ってアリシアさんに怒られないんですか?」
下手したら命の危機すら感じるレベルだ。
「あ〜 大丈夫大丈夫、これはちゃんと許可取ってるから」
「マジすか」
こんなR指定物の販売に許可を出すとは、アリシアさんも結構寛大なところが――
「まあ販売内容を記載する時に寝室用具ってだけ書いて出したんだけどね~」
「おぅい!!」
滅茶苦茶騙してんじゃん!! この悪徳商人共め!!
「さっさと片付けないと、どの道騎士団に見つかっちゃいますよ?」
捕まったら例え三大貴族といえど只ではすむまい。
知り合いから犯罪者が出るところとか俺は見たくないぞ。
「ああそれなら大丈夫、たぶんもうすぐ来るから」
とサクラさんが言って数秒後、周りが急にざわつき始めた。
俺は不審に思って振り返る。
すると少し離れたと所から大柄で屈強な騎士達が綺麗に列を成してこちらへと向かってきていた。
どうやらサクラさんの悪事もここまでのようだな。
悲しい事だが、二日おきくらいに面会にいってあげよう。
「サクラ様困りますね……」
リーダーと思われる男が眉を寄せながら低い声で言う。
しかしサクラさんはニコニコと余裕の表情を浮かべる。
ちょっと言ってやって下さいよ騎士さん、こんなモラルに欠ける物を販売してはいけないってね。
「このようなエチエチでけしからん物は我々騎士団、もといアリシア親衛隊が全て回収致します」
「え?」
「はーい毎度あり~ 領収書は親衛隊名義でいいんだっけ?」
「はい、騎士団と書かれるとアリシア様にバレてしまいますから。あとキャスカさんの分は後日匿名郵送にして頂けると助かります」
「了解了解」
騎士達はアリシアさんの抱き枕カバーを全て買い占めるとその場を後にしていった。
「ふぅ、これで今回も完売だね。ツバキちゃん撤収ぅ~」
「あいよ、お嬢」
「もう突っ込みが追い付かねぇよ……」
悲しい事にどうやら愛の前では正義も秩序も大して意味はないようだった。
◇
唐突だが、ここで少しサクラさんとツバキさんの説明をしておこうと思う。
まあ番外編から読むような変わっている人はそういないとは思うが久しぶりの出番だからね。少しくらいは気を使ってあげよう。
「それにしても一時はどうなる事かと思ったよ~ ギリギリで間に合ってよかった~」
そう言いながらポップコーンをつまんでアリシアさんのライブパンフレットを読んでいる黒髪眼鏡の美少女はイザヨイ・ヒスイ・サクラノヒメ。
エリザベートやアリシアさんと同じ帝国三大貴族の一つであるイザヨイ家の当主様だ。
見た目は先祖の関係で日本人に限りなく近い大和撫子。長い髪は三つ編みで結んでおり、服装は黒い巫女服。
服の上からでも分かる抜群のスタイルを持ち、同性愛をこよなく愛するカリスマ同人作家だ。
そしてその隣には白い狐面を付けた和装の人物、サクラさんの付き人であるツバキさんがいる。
正直この人に関しては詳細なプロフィールをしらないのであんまり語る事がない。
正体不明、それがツバキさんの最大の特徴である。
「二人共ライブに間に合ったんですね、同人誌は完成したんですか?」
「ギクッ」
「ギクッて……」
「い、いやもうほぼ完成みたいな物なの! ラストのページさえ終わればもう脱稿できるんだから。でも今日はほら、アーちゃんの晴れ舞台だし? 気晴らしも必要ですしおすし?」
明らかにアタフタとするサクラさんを横目に俺はツバキさんに話しかける。
「で、結局進捗はどうなんですか?」
「お嬢の言った通り最後のページ以外は大体形になったで、まあ問題はそのページなんやけど」
「というと?」
「お嬢、まだ落ちを考えてへんねん」
「えぇ……」
「違うもん!! 考えてるもん!! 構想が二つあってどっちにするか決めてないだけだもん!!」
とソファの上で暴れるサクラさん。
俺はよく分からないがそういうのって先に決めてから作業するものじゃないのか?
長期連載の漫画じゃるまいし。
「本当はそうなんやけど、今回はお嬢がいつまでも渋るもんやから作業せざる負えなかったんよ」
「そうだったんですか」
「だってだって~ どっちのラストも滅茶苦茶気に入ってるんだもん!!」
どうやらサクラさん達も色々大変なご様子だ。
「果たして私達は無事に同人誌を完成させる事ができるのか!? サクラ篇、乞うご期待!!」
「ちゃっかり宣伝しないで下さい」
後その私達っていうのはまさか俺も含まれていたりしませんよね?
「あ、そうだ。サクラさんツバキさんちょっとお話したい事が……」
俺は一応二人にもアリシアさんの現状を把握してもらおうと思い、ざっくりとしたここまでのあらすじを話した。
「ふ~ん。あの変態親父がついに動きだした訳ね」
「ええ、サクラさんの眼でどうにかできませんか?」
サクラさんの眼には《神眼》と言ってイザヨイ家の当主が代々受け継ぐ特殊な能力が備わっている。
その能力は『見たいものを見る力』であり、透視や読心術、果ては未来視まで可能というとんでもないものだ。
以前はその力のお陰で世界の崩壊を未然に防ぐことができた。
「ごめんミコトちゃん! 実はしばらく未来視使えそうもないのよ」
「え、それはまたどうしてですか?」
「前もちょっと話したやろ、未来視は体力の消耗がかなり激しいんや。医者からは少なくとも半月は使用しないようにって言われとるんよ」
「そうだったんですか」
「ごめんね〜 でも未来視は使えないけど他の事ならできるから」
「他の事?」
ちょっと待っててね~ とサクラさんは眼鏡を外すと紙とペンを取り出した。
そして何かをスラスラと描き始め、
「ほい完成ッと」
ものの数分で描きあがったのは四人の男の似顔絵。
サクラさんはそれを俺に手渡す。
「これは?」
「アルライド王子に頼まれて会場に紛れてるスパイの人達、東西南北のエリアに一人ずついるみたいだよ」
「え!?」
エリザベートやアリシアさんもだけど、やっぱりこの人も存在がデタラメすぎるな。
「ライブが始まる頃にそれぞれ裏で悪戯する気みたいだね」
「そうですか、ならすぐに捕らえます!!」
「ううん、今は泳がせておいた方がいいかも。下手に騒がれたらライブ自体が台無しになりかねないでしょ?」
「た、確かに・・・・・・」
そうなると今下手に手を出さないで人気のいない裏に回った所を押さえた方が得策か。
「とりあえず今は騎士の人達にこの人相絵を渡して監視させておくといいよ」
「分かりました、ありがとうございます」
それにしても本当に頼りになる人だ一家に一人貴方が欲しいぜ。
「いやん! ミコトちゃんったら。浮気は駄目だぞ?」
「心を読まないで下さい」
やっぱいらね。迂闊に妄想もできないもん。
「あ~ん、ひーどーいー」
「もし連中をシバく時はワイも呼んでや、お手伝いするさかい」
「ありがとうございます、ツバキさんがいれば百人力ですよ」
これで後の問題はキャスカさんとエリザベートの帰還だけか。
「あ、俺そろそろアリシアさんの所に戻らないと。二人共ありがとうございました」
「はーい、タイミング見て楽屋にいくからアーちゃんによろしく言っておいて~」
「分かりました」
そして俺は二人と別れ、アリシアさんのいる楽屋へと戻る事にした。
――ライブ開催まで後一時間。
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