俺の悪役令嬢が世界征服するらしい 番外編
アリシアナイトラブル ライジング
「アダムス・ガルフード。貴方に決闘を申し込むわ」
アリシアさんは剣の切っ先をアダムスに向けたまま決闘を申し込む。
アダムスは一瞬、驚いたような表情を浮かべたがすぐに口元に笑みを張り付ける。
「あは、あはは…… 何を言い出すかと思えば団長もお戯れが過ぎますね」
「あら、私が冗談を言う女に見えるかしら?」
「……」
アダムスはその一言で黙り込んだ。
大丈夫、俺にも見えないから安心しろ。
「噂に名高い騎士団長様に決闘を申し込まれるなんて光栄至極ではありますが、丁重にお断りしますよ」
「どうして?」
「メリットがないからですよ」
「……確かにそうね。ならこうしましょう、貴方が勝ったら今回のサボりについては不問に処すわ。それどころか団長の椅子を譲ってあげてもよくてよ」
「なッ―― アリシアさん!?」
俺はサラッととんでもない事を言いだしたアリシアさんに抗議する。
「しかも勝負は貴方が私にかすり傷一つ付けた時点で貴方の勝ち。そうだ、サービスとして目隠し有りってのはどうかしら」
しかしアリシアさんは俺を無視してさらに条件を追加してきた。
いくらなんでも目隠しはやりすぎだって……
「まさかここまで言われて《神速の加護》を持つアダムス・ガルフード卿が逃げ出すなんて事ないわよね?」
これでもかというくらい挑発的な態度をとるアリシアさん。
アダムスは少し黙り込むとすぐにニヤリと笑い、
「本当にその条件でよろしいんですね?」
「勿論、騎士とアイドルに二言はないわ」
こうしてここにアリシアさんとアダムスの決闘が成立したのだった。
◇
「あ~ どうしてこんな事に……」
俺は演習場の中央で睨み合っている二人の人物を見て頭を抱えていた。
一方は小柄な銀髪銀眼の美少女。騎士団長であろうアリシア・フローレンス・スタンフィールド。
もう一方は金髪碧眼の美青年。上級貴族出身の天才騎士、アダムス・ガルフード。
まさに今からこの二人の決闘が始まろうとしていた。
「やばいって…… 本当にやばいって……」
「落ち着けよ執事のあんちゃん」
俺の隣に座る観戦ギャラリーのおっさん騎士が俺の肩を叩きながらそう言った。
「いやでも本当にまずいですって……」
「確かに目隠し有り、鎧無しの丸腰ってのはやりすぎかもしれねえな」
おっさんの言うとおり、アリシアさんは現在両目を布で覆って武器も鎧も装着していない丸腰のドレス姿だった(絵面的に犯罪臭がする)。
対して相手のアダムスは鎧も着ているし剣も本物ときている。
これはアリシアさんが直前でハンデを上乗せしたのが原因である。
彼女曰く「ハンデとしてはこれでも足りないくらいよ」との事だ。
確かに彼女の《無剣の加護》は手にした武器を全て聖剣や魔剣クラスの武器に変えてしまう。
それを考慮するなら丸腰は妥当なハンデと言えなくも無い。
「しかもアダムスには超高速移動スキル《神速の加護》がある。いくら団長でももしかするかもしれねえ、だが安心してくれ、その時は他の騎士全員で団長を守る事になってるからよ!!」
なんとも頼もしいおっさんだった。アリシアさんは良い部下達に囲まれているらしい。
しかしながら俺の心配事はそれだけでは無かった。
「もう既にスケジュールが10分押し…… このままだとキャスカさんに何を言われるか……」
そう、俺の心配は押しているスケジュールの方にあった。
アリシアさんの超過密スケジュールにおいて10分という遅れは致命傷になりかねない。
「アリシアさんがアダムを瞬殺してくれますようにアリシアさんがアダムを瞬殺してくれますようにアリシアさんがアダムを瞬殺してくれますように……」
「……あんちゃんも大変だな」
懇願する俺を横目におっさんは少し呆れ気味だった。
「お、始まるみたいだぞ」
という周りの騎士達の声と共に辺りが少しずつ静まりかえり、皆の視線は中央に佇む二人へと集まっていく。
「本当にいいんですか団長、僕が勝ったら騎士団のトップを譲るだなんて」
「ええ、私にかすり傷一つ付けられたらの話だけど」
「視界を塞ぎ、剣も持っていない貴方が僕の剣を躱せるとでも?」
「もしかして丸腰の女性を切るのは気が進まないかしら?」
「ふッ」
アダムスは不適に笑うと剣を構え、
「……まさか」の一言の後にその場から姿を消した。
いや違う、移動したのだ。ほんの一瞬でアリシアさんの背後に――
「あっけない……」
そう言いながらアダムスは剣を容赦なくアリシアさんの背中へと振るった。
「!!?」
しかしアリシアさんはアダムスの剣をいとも簡単に右手の人差し指と中指で挟んで受け止める。
「速度はまあまあだけど太刀筋に性格が出すぎね、背後から襲ってくるって見え見えよ?」
「くッ」
アダムスは瞬時にアリシアさんから距離をとる。
「流石はスタンフィールド家の当主。最低速度では小手調べにもなりませんか。なら――」
次の瞬間、またしてもアダムスはその場から姿を消した。
だが少しして彼の移動した痕跡は事象として遅れて現れはじめる。
それはアダムスの脚力で踏み砕かれた地面だったり、音速を超えた事で発生するソニックブームだったり、微かに見える残像だったりと目を疑うような光景のオンパレードだ。
これがアダムスの持つ超高速移動スキル《神速の加護》の真の力という事らしい。
「どうですか団長、これが僕の最高速度です!! 降参するのなら今の内ですよ!!」
「……」
アダムスの言葉に対してアリシアさんはゆっくりと右手を挙げる。
まさか本当に降参するのか?
「――ッ!!!」
しかしアリシアさんのとった行動は「参りました!」という敗北宣言ではなく、ただ思いっきり振り上げた拳で地面を殴りつけるという物だった。
その時は冗談抜きで星が震えた気がした。
爆撃、そう錯覚してしまう程の轟音と衝撃波がアリシアさんを中心に周囲を蹂躙していく。
観戦していた騎士達は瞬時に身を屈め、俺もなんとかそれを真似して事なきを得た。
「む、無茶苦茶だー!!!」
頭を抑えて蹲りながら俺は地面に叫び散らす。
普通地面を殴っただけでこんな事になるか?
いや、これはアリシア・フローレンス・スタンフィールドという少女が普通ではないという事を証明するなによりの証拠だ。
身体能力が向上する《豪腕の加護》があるにしてもあまりに異常な破壊力。
やはり三大貴族の令嬢ってどこかおかしい。
パラパラと空中に巻き上げられた小石が頭に当たりつつも俺は砂塵の奥に佇むアリシアさんに目を向ける。
すると彼女は目隠しを外して俺を手で呼んでいる感じだった。
口でも「こっちに来なさい」と言っているようだが生憎今は耳がキンキンして上手く聞き取れない。
俺はクレーターと化した演習場、その中央にいるアリシアさんの下へと馳せ参じた。
「やり過ぎですよ…… 貴方の前世は隕石か何かなんですか?」
「チョロチョロ動いて面倒だったから仕方ないじゃない。それよりスケジュールは何分押してるの?」
「既に13分オーバーです」
俺としてはもう次の段落から場面転換してほしいくらいだ。
「あっそう。ならさっさと済ませましょうか」
そう言ったアリシアさんの足元には白目を向いて倒れているアダムス青年の姿があった。
どうもさっきの衝撃波やら飛散した地面の破片やらが直撃してのびているらしい。
いくら高速で動けても全体的に攻撃されては逃げ場が無かったようだ。
「情けないわねえ~ ほらさっさと起きなさい!!」
そう言ってアリシアさんは倒れているアダムスの胸倉を掴んで往復ビンタをかます。
そのまま永眠してしまうのでは? とも思ったがなんとかアダムスの意識を浮上させる事に成功した。
「はッ!? ぼ、僕は一体……」
「覚えてないの? アンタ負けたのよ」
記憶が混乱していたアダムスは周囲の惨状を自分の目で見渡すと、やっと何が起こったのか思いだしたようだった。
「あははは、上には上がいるもんですね…… まさかかすり傷一つ付けられないなんて」
今までの態度が嘘のように傷心するアダムス。
才ある者程壁に当たると崩れやすいというのはどこの世界でも同じらしい。
「あーあ、騎士団をクビになったなんて言ったら父上に何を言われる事やら。いや逆にいい機会だったかもしれませんね、やはり僕には騎士なんて向いてな――ブベッ!?」
アリシアさんのビンタが再び炸裂した。
「な、何をする――ップギャ!?」
何故かもう一度ビンタするアリシアさん。
ただ殴りたいだけのようにも見える。
「馬鹿ね、誰が騎士団をクビにするなんて言ったのよ」
「え?」
「貴方の才能は本物よ。ちゃんと努力すればきっと立派な騎士になれるわ、性格はゴミ屑だけど」
「ゴ、ゴミ屑!?」
「よく聞きなさい。これからは自分を天才なんて軽々しく口にするんじゃないわよ、私の知る限りそんな言葉を口にしていいのはたった一人だけなの」
いつか私に倒される哀れな女だけなんだから――とアリシアさんは最後にそう付け加えた。
それはたぶん俺もよく知っている金髪令嬢の事を言っているのだろう。
「貴方に必要なのは直向さ、才能に胡坐をかく暇があったら努力をしなさい。じゃなきゃ剣と一緒でいつか錆びるだけよ」
「……はい」
すっかりしおらしくなってしまったアダムス青年を見てアリシアさんは大きな声で呼びかける。
「アダムス・ガルフード!!」
「は、はい!」
背筋を伸ばして正座に座りなおすアダムス。もうすっかり従順である。
「貴方には今回の件に関しての罰を与えます」
「はッ! 謹んでお受け致します」
「一つはこれからは真面目に訓練に励む事、二つ目はカルロスをはじめ馬鹿にしてきた騎士達に謝罪する事、そして最後は――」
そしてアリシアさんは恐らく彼にとって最も重い罰を言い渡した。
その気になる罰の内容とは、
「このクレーターと演習場を一人で元通り綺麗にしなさい」
という責任転嫁の重労働だった。
アリシアさんは剣の切っ先をアダムスに向けたまま決闘を申し込む。
アダムスは一瞬、驚いたような表情を浮かべたがすぐに口元に笑みを張り付ける。
「あは、あはは…… 何を言い出すかと思えば団長もお戯れが過ぎますね」
「あら、私が冗談を言う女に見えるかしら?」
「……」
アダムスはその一言で黙り込んだ。
大丈夫、俺にも見えないから安心しろ。
「噂に名高い騎士団長様に決闘を申し込まれるなんて光栄至極ではありますが、丁重にお断りしますよ」
「どうして?」
「メリットがないからですよ」
「……確かにそうね。ならこうしましょう、貴方が勝ったら今回のサボりについては不問に処すわ。それどころか団長の椅子を譲ってあげてもよくてよ」
「なッ―― アリシアさん!?」
俺はサラッととんでもない事を言いだしたアリシアさんに抗議する。
「しかも勝負は貴方が私にかすり傷一つ付けた時点で貴方の勝ち。そうだ、サービスとして目隠し有りってのはどうかしら」
しかしアリシアさんは俺を無視してさらに条件を追加してきた。
いくらなんでも目隠しはやりすぎだって……
「まさかここまで言われて《神速の加護》を持つアダムス・ガルフード卿が逃げ出すなんて事ないわよね?」
これでもかというくらい挑発的な態度をとるアリシアさん。
アダムスは少し黙り込むとすぐにニヤリと笑い、
「本当にその条件でよろしいんですね?」
「勿論、騎士とアイドルに二言はないわ」
こうしてここにアリシアさんとアダムスの決闘が成立したのだった。
◇
「あ~ どうしてこんな事に……」
俺は演習場の中央で睨み合っている二人の人物を見て頭を抱えていた。
一方は小柄な銀髪銀眼の美少女。騎士団長であろうアリシア・フローレンス・スタンフィールド。
もう一方は金髪碧眼の美青年。上級貴族出身の天才騎士、アダムス・ガルフード。
まさに今からこの二人の決闘が始まろうとしていた。
「やばいって…… 本当にやばいって……」
「落ち着けよ執事のあんちゃん」
俺の隣に座る観戦ギャラリーのおっさん騎士が俺の肩を叩きながらそう言った。
「いやでも本当にまずいですって……」
「確かに目隠し有り、鎧無しの丸腰ってのはやりすぎかもしれねえな」
おっさんの言うとおり、アリシアさんは現在両目を布で覆って武器も鎧も装着していない丸腰のドレス姿だった(絵面的に犯罪臭がする)。
対して相手のアダムスは鎧も着ているし剣も本物ときている。
これはアリシアさんが直前でハンデを上乗せしたのが原因である。
彼女曰く「ハンデとしてはこれでも足りないくらいよ」との事だ。
確かに彼女の《無剣の加護》は手にした武器を全て聖剣や魔剣クラスの武器に変えてしまう。
それを考慮するなら丸腰は妥当なハンデと言えなくも無い。
「しかもアダムスには超高速移動スキル《神速の加護》がある。いくら団長でももしかするかもしれねえ、だが安心してくれ、その時は他の騎士全員で団長を守る事になってるからよ!!」
なんとも頼もしいおっさんだった。アリシアさんは良い部下達に囲まれているらしい。
しかしながら俺の心配事はそれだけでは無かった。
「もう既にスケジュールが10分押し…… このままだとキャスカさんに何を言われるか……」
そう、俺の心配は押しているスケジュールの方にあった。
アリシアさんの超過密スケジュールにおいて10分という遅れは致命傷になりかねない。
「アリシアさんがアダムを瞬殺してくれますようにアリシアさんがアダムを瞬殺してくれますようにアリシアさんがアダムを瞬殺してくれますように……」
「……あんちゃんも大変だな」
懇願する俺を横目におっさんは少し呆れ気味だった。
「お、始まるみたいだぞ」
という周りの騎士達の声と共に辺りが少しずつ静まりかえり、皆の視線は中央に佇む二人へと集まっていく。
「本当にいいんですか団長、僕が勝ったら騎士団のトップを譲るだなんて」
「ええ、私にかすり傷一つ付けられたらの話だけど」
「視界を塞ぎ、剣も持っていない貴方が僕の剣を躱せるとでも?」
「もしかして丸腰の女性を切るのは気が進まないかしら?」
「ふッ」
アダムスは不適に笑うと剣を構え、
「……まさか」の一言の後にその場から姿を消した。
いや違う、移動したのだ。ほんの一瞬でアリシアさんの背後に――
「あっけない……」
そう言いながらアダムスは剣を容赦なくアリシアさんの背中へと振るった。
「!!?」
しかしアリシアさんはアダムスの剣をいとも簡単に右手の人差し指と中指で挟んで受け止める。
「速度はまあまあだけど太刀筋に性格が出すぎね、背後から襲ってくるって見え見えよ?」
「くッ」
アダムスは瞬時にアリシアさんから距離をとる。
「流石はスタンフィールド家の当主。最低速度では小手調べにもなりませんか。なら――」
次の瞬間、またしてもアダムスはその場から姿を消した。
だが少しして彼の移動した痕跡は事象として遅れて現れはじめる。
それはアダムスの脚力で踏み砕かれた地面だったり、音速を超えた事で発生するソニックブームだったり、微かに見える残像だったりと目を疑うような光景のオンパレードだ。
これがアダムスの持つ超高速移動スキル《神速の加護》の真の力という事らしい。
「どうですか団長、これが僕の最高速度です!! 降参するのなら今の内ですよ!!」
「……」
アダムスの言葉に対してアリシアさんはゆっくりと右手を挙げる。
まさか本当に降参するのか?
「――ッ!!!」
しかしアリシアさんのとった行動は「参りました!」という敗北宣言ではなく、ただ思いっきり振り上げた拳で地面を殴りつけるという物だった。
その時は冗談抜きで星が震えた気がした。
爆撃、そう錯覚してしまう程の轟音と衝撃波がアリシアさんを中心に周囲を蹂躙していく。
観戦していた騎士達は瞬時に身を屈め、俺もなんとかそれを真似して事なきを得た。
「む、無茶苦茶だー!!!」
頭を抑えて蹲りながら俺は地面に叫び散らす。
普通地面を殴っただけでこんな事になるか?
いや、これはアリシア・フローレンス・スタンフィールドという少女が普通ではないという事を証明するなによりの証拠だ。
身体能力が向上する《豪腕の加護》があるにしてもあまりに異常な破壊力。
やはり三大貴族の令嬢ってどこかおかしい。
パラパラと空中に巻き上げられた小石が頭に当たりつつも俺は砂塵の奥に佇むアリシアさんに目を向ける。
すると彼女は目隠しを外して俺を手で呼んでいる感じだった。
口でも「こっちに来なさい」と言っているようだが生憎今は耳がキンキンして上手く聞き取れない。
俺はクレーターと化した演習場、その中央にいるアリシアさんの下へと馳せ参じた。
「やり過ぎですよ…… 貴方の前世は隕石か何かなんですか?」
「チョロチョロ動いて面倒だったから仕方ないじゃない。それよりスケジュールは何分押してるの?」
「既に13分オーバーです」
俺としてはもう次の段落から場面転換してほしいくらいだ。
「あっそう。ならさっさと済ませましょうか」
そう言ったアリシアさんの足元には白目を向いて倒れているアダムス青年の姿があった。
どうもさっきの衝撃波やら飛散した地面の破片やらが直撃してのびているらしい。
いくら高速で動けても全体的に攻撃されては逃げ場が無かったようだ。
「情けないわねえ~ ほらさっさと起きなさい!!」
そう言ってアリシアさんは倒れているアダムスの胸倉を掴んで往復ビンタをかます。
そのまま永眠してしまうのでは? とも思ったがなんとかアダムスの意識を浮上させる事に成功した。
「はッ!? ぼ、僕は一体……」
「覚えてないの? アンタ負けたのよ」
記憶が混乱していたアダムスは周囲の惨状を自分の目で見渡すと、やっと何が起こったのか思いだしたようだった。
「あははは、上には上がいるもんですね…… まさかかすり傷一つ付けられないなんて」
今までの態度が嘘のように傷心するアダムス。
才ある者程壁に当たると崩れやすいというのはどこの世界でも同じらしい。
「あーあ、騎士団をクビになったなんて言ったら父上に何を言われる事やら。いや逆にいい機会だったかもしれませんね、やはり僕には騎士なんて向いてな――ブベッ!?」
アリシアさんのビンタが再び炸裂した。
「な、何をする――ップギャ!?」
何故かもう一度ビンタするアリシアさん。
ただ殴りたいだけのようにも見える。
「馬鹿ね、誰が騎士団をクビにするなんて言ったのよ」
「え?」
「貴方の才能は本物よ。ちゃんと努力すればきっと立派な騎士になれるわ、性格はゴミ屑だけど」
「ゴ、ゴミ屑!?」
「よく聞きなさい。これからは自分を天才なんて軽々しく口にするんじゃないわよ、私の知る限りそんな言葉を口にしていいのはたった一人だけなの」
いつか私に倒される哀れな女だけなんだから――とアリシアさんは最後にそう付け加えた。
それはたぶん俺もよく知っている金髪令嬢の事を言っているのだろう。
「貴方に必要なのは直向さ、才能に胡坐をかく暇があったら努力をしなさい。じゃなきゃ剣と一緒でいつか錆びるだけよ」
「……はい」
すっかりしおらしくなってしまったアダムス青年を見てアリシアさんは大きな声で呼びかける。
「アダムス・ガルフード!!」
「は、はい!」
背筋を伸ばして正座に座りなおすアダムス。もうすっかり従順である。
「貴方には今回の件に関しての罰を与えます」
「はッ! 謹んでお受け致します」
「一つはこれからは真面目に訓練に励む事、二つ目はカルロスをはじめ馬鹿にしてきた騎士達に謝罪する事、そして最後は――」
そしてアリシアさんは恐らく彼にとって最も重い罰を言い渡した。
その気になる罰の内容とは、
「このクレーターと演習場を一人で元通り綺麗にしなさい」
という責任転嫁の重労働だった。
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