俺の悪役令嬢が世界征服するらしい 番外編
せめてアイドルと共に
アリシアさんと王子の結婚を破綻させる――どうやらこれが今回俺達がこなすミッションのようだ。
ん~ 結構インポッシブルな気もするがまあなんとかなるだろう。
なにせエリザベートには魔法がある、あのとんでもチート能力なら大抵の厄介事は解決できる筈だ。
……エリザベートがさらなる厄介事を引き起こしかねないというリスクはあるが、それはそうなった時に考える事にしよう。
「うわーん。お嬢様ー 番外編の理不尽な展開が俺を虐めるよー」
スタンフィールド邸からブリュンスタッド邸に戻った俺はエリザベートにアリシアさんの問題を解決してもらう為に棒読みで泣きつこうと部屋に飛び込んだ。
しかし、
「あれ?」
そこにはエリザベートの姿は影も形もなかった。どうやらまだ帰ってきていないらしい。
「ん?」
俺はふと床に置かれていた手紙に気が付いた。
「え~と何々?『愛しのミコトへ。一週間程屋敷を留守にするが心配はいらぬ。屋敷の事はスカーレッドに任せてある故、お前も偶には羽を伸ばすがよかろう』ってぇえええええええええ!?」
え、マジ!? エリザベートちゃんいないの!?
そして何でこんな時に限ってデレたメッセージ付きでいなくなるんの!? 普段からデレとけよ!!
しかしまさかの二章にも渡ってメインヒロイン不在とは流石番外編だな。結構な変化球を投げてくる。
「むむむ、仕方ない。おーい、スカーレッド~」
俺の声に呼応するかのように床に赤い魔法陣が展開され、そこから赤い鎧を着た騎士が召喚される。
注釈しておくとこれは俺がいきなりスーパーマジカルパワーに覚醒して鎧騎士を召喚した訳ではない。
これはエリザベートが独自に生み出した使い魔であり、俺とエリザベートの命令に従うようプログラムされているだけだ。
通常は非実体のまま屋敷中を警備しているがこうやって実体化させる事もできる。
「やあスカーレッド、今日も中二心をくすぐる見た目をしているね」
「……っ」
俺の下らない挨拶にスカーレッドは無言のまま一礼をした。
あー、まだ言葉は話せないんだっけ。無理もないか、つい先日生まれた赤ん坊みたいな物だからな。
まあこちらの言葉は理解しているようなので意思疎通はできる筈。
「スカーレッド、エリザベートがどこに行ったか知らない?」
「……」
スカーレッドは首を横に振った。
あいつめ自分の使い魔にまで行先を告げないなんて、なんてフリーダムなんだ。
ここ最近丸一日留守にする事も増えてはいたがついに外泊するまでになったか。これは執事として、いや恋人として帰ってきたら会議をせねばならんな。
「ありがとうスカーレッド、もう警備に戻っていいよ」
「……」
スカーレッドは小さく頷くと赤い粒子になってその場から消えた。
「とりあえずキャスカさんに連絡しておくか」
俺はキャスカさんに状況を報告すべく固定電話で連絡を取ることにした。
おのれ異世界人め、サブカル文明を発展させてる暇があるなら携帯電話くらい開発しろってんだ。
そうすればエリザベートに括りつけていつでも連絡とれるようにできるっていうのによ!!
後早くエアコンとかそういうのも作って下さいね!!
「……俺も異世界人だったわ」
最近独り言が増えてきたな俺。
◇
『そうですか、困りましたね』
俺は広間に置かれた黒電話でキャスカさんにエリザベートがしばらく帰ってこない事を連絡していた。
頼みの綱が切れたというよりは綱ごと何処かに行ってしまったカンダタのような気分だ。
悪い事なにもしてないのに意地悪な釈迦もいたものである。
「すみませんキャスカさん…… 俺の考えが甘かったです」
「そんな、ミコトさんが謝る事はありません。これはきっと私自ら王子を抹殺せよとのお告げです」
「待って待って! 一緒に他の方法考えましょ!? ね?」
とは言ったもののどうしたらいいものか……
「そうだ! サクラさんとツバキさんに相談するっていうのはどうですか?」
あの二人なら頼りになるし、何よりサクラさんの神眼ならアリシアさんが結婚しなくても済むグッドエンディングが視えるかもしれない。
『……たぶんそれは無理ですね』
「? どうしてですか?」
『お二人は今《神室》に籠って同人誌の新刊作業に入ってる時期です。たぶん一週間くらいは外に出てこないかと』
「タイミング悪ゥ!?」
まるで神の見えざる手が働いているのかと疑いたくなるレベルの八方塞がりだ。
ていうか本当にあの部屋を同人誌製作に使ってるのかあの人達は……
「ちきしょうッ! このままじゃアリシアさんがコンプライアンス的にマズい事に!!」
※以下は周防ミコトによる勝手なイメージにつき、実際の人物、団体、事件とは何の関係もありません。
『ぐへへへ、今日からお前はこの紐ビキニを着て俺様に一生奉仕するんだぁ』
『くッ 殺しなさい……』
『へへへ、くッころしていられるのも今の内だぜぇ~ ほらほら、早くお着替えしましょうね~』
『そ、そんな…… い、いやああああああああああああああッ!!』
・
・
・
・
・
「くそ!! 許せねえ!!! 年齢制限をかけていない健全な作品でなんて事をしやがる!!」
『ミコトさん今物凄く卑猥な事考えてません?』
さてと、現実逃避はこれくらいにして本題に戻ろう。
後たぶん俺コンプライアンスの意味を微妙に間違えている気がする。
馬鹿が頭の良い振りなんてするもんじゃない。
『こうなったら結構な賭けですがエリザベート様に事情を話して一旦戻ってきて頂くしかありませんね』
「え、でもお嬢様がどこに行ったかなんて俺分からないですよ?」
『ご心配いりません、そこにはエリザベート様が書かれたメモがあるんですよね?』
「ええありますけど――」
俺の手元にある手紙にはエリザベートの居場所を示すような情報は書かれていない、かといって透かしとか変なトリックがある訳でもないようだ。
『今からそちらに参りますので、少々お待ちになってください』
「え、こっちにですか? でももう陽も暮れてますし――」
「着きました」
「はや!?」
いつの間にかキャスカさんは広間の天井から舞い降りてきた。
せめてもう少し行間を跨いできてくれ、心臓に悪いから。
「あの、スタンフィールド邸からここまでは馬を使っても30分以上は掛かる距離だと思うんですけど……」
「私の速力は時速10.8億km/hですから」
「光か何かなんですか貴方は?」
「冗談です、普通にジャンプしてきました」
「いや全然普通じゃないでしょ、主に貴方の身体能力が」
もうそっちの方が気になってキャスカさんの番外編を希望したいくらいだ。
それにスカーレッドの警備をいとも簡単に掻い潜ってきたようだし、ほんと何者だよ。
「ミコトさん、早速エリザベート様の置手紙を見せてもらってもいいですか?」
「ああ、はい」
俺は客用の広間に案内したキャスカさんにエリザベートが残した置き手紙を渡す。
本当にこれで居場所が分かるのだろうか?
「これはッ!?」
「どうしたんですかキャスカさん!?」
「愛しの……ミコト!? あのエリザベート様が僅か数日でここまでデレるだなんて…… 信じられません」
「そっちかーい」
ご意見はごもっともだが、今は本筋に集中してくれ。
言われたこっちも恥ずかしくなってくる。
「ふむふむ」
キャスカさんは少し手紙を検分すると「なるほど」と納得し、
「エリザベート様は今ガリア鉱山付近にいらっしゃいますね」
「どうして分かるんですか?」
「それは僅かに手紙の端に付着した黒い砂です」
「砂?」
俺は再びキャスカさんから手紙を受け取り、言われた通り端を確認する。
確かに手紙には極小の砂粒らしき物が付いていた。
「それはオリハルコンの原料となる鉱石の物です。この世界でそれが採掘できるのはガリア鉱山だけですから」
オリハルコンとはこの世界で最も硬度の高い金属であり、強力な武器や帝国の外周部を囲む巨大な壁等にも使われている非常に希少且つ高価な代物だ。
「なるほど…… 凄いですねキャスカさん。メイドになる前に探偵でもやってたんですか?」
「ウフフ、まあ当たらずしも遠からずと言っておきましょう」
人差し指を唇に当てながら不敵に笑うキャスカさん、恐るべしスタンフィールド家のメイド……
「さてと、居場所も分かった事ですし。早速エリザベート様を呼びに行きましょう」
「行きましょうって。確かガリア鉱山ってここから馬で二週間以上掛かる場所にありませんでしたっけ?」
普通に一週間後のライブには間に合わないと思うのだが。
「問題ありません、私の足ならば三日もあれば着くでしょう」
「もう面倒くさいのでキャスカさんの身体能力に関してはツッコミませんけど、俺はそんなに早く走れませんよ?」
「ああご心配なく、行くのは私だけですから。ミコトさんには代わりにお願いしたい事がありますので」
「え?」
そう言うとキャスカさんはメイド服のロングスカートの中から(!?)一冊の手帳を取り出し、
「はいこれ」と俺に手渡してきた。
手帳の表面にはこう書かれている『アリシア様の華麗なるスケジュール帳』と――
「えっと、これは……」
冷や汗をかく俺を他所にキャスカさんは妙にニコニコしながらこう言った。
「今日からしばらくアリシア様の執事兼マネージャーをお願いしますね」
ん~ 結構インポッシブルな気もするがまあなんとかなるだろう。
なにせエリザベートには魔法がある、あのとんでもチート能力なら大抵の厄介事は解決できる筈だ。
……エリザベートがさらなる厄介事を引き起こしかねないというリスクはあるが、それはそうなった時に考える事にしよう。
「うわーん。お嬢様ー 番外編の理不尽な展開が俺を虐めるよー」
スタンフィールド邸からブリュンスタッド邸に戻った俺はエリザベートにアリシアさんの問題を解決してもらう為に棒読みで泣きつこうと部屋に飛び込んだ。
しかし、
「あれ?」
そこにはエリザベートの姿は影も形もなかった。どうやらまだ帰ってきていないらしい。
「ん?」
俺はふと床に置かれていた手紙に気が付いた。
「え~と何々?『愛しのミコトへ。一週間程屋敷を留守にするが心配はいらぬ。屋敷の事はスカーレッドに任せてある故、お前も偶には羽を伸ばすがよかろう』ってぇえええええええええ!?」
え、マジ!? エリザベートちゃんいないの!?
そして何でこんな時に限ってデレたメッセージ付きでいなくなるんの!? 普段からデレとけよ!!
しかしまさかの二章にも渡ってメインヒロイン不在とは流石番外編だな。結構な変化球を投げてくる。
「むむむ、仕方ない。おーい、スカーレッド~」
俺の声に呼応するかのように床に赤い魔法陣が展開され、そこから赤い鎧を着た騎士が召喚される。
注釈しておくとこれは俺がいきなりスーパーマジカルパワーに覚醒して鎧騎士を召喚した訳ではない。
これはエリザベートが独自に生み出した使い魔であり、俺とエリザベートの命令に従うようプログラムされているだけだ。
通常は非実体のまま屋敷中を警備しているがこうやって実体化させる事もできる。
「やあスカーレッド、今日も中二心をくすぐる見た目をしているね」
「……っ」
俺の下らない挨拶にスカーレッドは無言のまま一礼をした。
あー、まだ言葉は話せないんだっけ。無理もないか、つい先日生まれた赤ん坊みたいな物だからな。
まあこちらの言葉は理解しているようなので意思疎通はできる筈。
「スカーレッド、エリザベートがどこに行ったか知らない?」
「……」
スカーレッドは首を横に振った。
あいつめ自分の使い魔にまで行先を告げないなんて、なんてフリーダムなんだ。
ここ最近丸一日留守にする事も増えてはいたがついに外泊するまでになったか。これは執事として、いや恋人として帰ってきたら会議をせねばならんな。
「ありがとうスカーレッド、もう警備に戻っていいよ」
「……」
スカーレッドは小さく頷くと赤い粒子になってその場から消えた。
「とりあえずキャスカさんに連絡しておくか」
俺はキャスカさんに状況を報告すべく固定電話で連絡を取ることにした。
おのれ異世界人め、サブカル文明を発展させてる暇があるなら携帯電話くらい開発しろってんだ。
そうすればエリザベートに括りつけていつでも連絡とれるようにできるっていうのによ!!
後早くエアコンとかそういうのも作って下さいね!!
「……俺も異世界人だったわ」
最近独り言が増えてきたな俺。
◇
『そうですか、困りましたね』
俺は広間に置かれた黒電話でキャスカさんにエリザベートがしばらく帰ってこない事を連絡していた。
頼みの綱が切れたというよりは綱ごと何処かに行ってしまったカンダタのような気分だ。
悪い事なにもしてないのに意地悪な釈迦もいたものである。
「すみませんキャスカさん…… 俺の考えが甘かったです」
「そんな、ミコトさんが謝る事はありません。これはきっと私自ら王子を抹殺せよとのお告げです」
「待って待って! 一緒に他の方法考えましょ!? ね?」
とは言ったもののどうしたらいいものか……
「そうだ! サクラさんとツバキさんに相談するっていうのはどうですか?」
あの二人なら頼りになるし、何よりサクラさんの神眼ならアリシアさんが結婚しなくても済むグッドエンディングが視えるかもしれない。
『……たぶんそれは無理ですね』
「? どうしてですか?」
『お二人は今《神室》に籠って同人誌の新刊作業に入ってる時期です。たぶん一週間くらいは外に出てこないかと』
「タイミング悪ゥ!?」
まるで神の見えざる手が働いているのかと疑いたくなるレベルの八方塞がりだ。
ていうか本当にあの部屋を同人誌製作に使ってるのかあの人達は……
「ちきしょうッ! このままじゃアリシアさんがコンプライアンス的にマズい事に!!」
※以下は周防ミコトによる勝手なイメージにつき、実際の人物、団体、事件とは何の関係もありません。
『ぐへへへ、今日からお前はこの紐ビキニを着て俺様に一生奉仕するんだぁ』
『くッ 殺しなさい……』
『へへへ、くッころしていられるのも今の内だぜぇ~ ほらほら、早くお着替えしましょうね~』
『そ、そんな…… い、いやああああああああああああああッ!!』
・
・
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・
・
「くそ!! 許せねえ!!! 年齢制限をかけていない健全な作品でなんて事をしやがる!!」
『ミコトさん今物凄く卑猥な事考えてません?』
さてと、現実逃避はこれくらいにして本題に戻ろう。
後たぶん俺コンプライアンスの意味を微妙に間違えている気がする。
馬鹿が頭の良い振りなんてするもんじゃない。
『こうなったら結構な賭けですがエリザベート様に事情を話して一旦戻ってきて頂くしかありませんね』
「え、でもお嬢様がどこに行ったかなんて俺分からないですよ?」
『ご心配いりません、そこにはエリザベート様が書かれたメモがあるんですよね?』
「ええありますけど――」
俺の手元にある手紙にはエリザベートの居場所を示すような情報は書かれていない、かといって透かしとか変なトリックがある訳でもないようだ。
『今からそちらに参りますので、少々お待ちになってください』
「え、こっちにですか? でももう陽も暮れてますし――」
「着きました」
「はや!?」
いつの間にかキャスカさんは広間の天井から舞い降りてきた。
せめてもう少し行間を跨いできてくれ、心臓に悪いから。
「あの、スタンフィールド邸からここまでは馬を使っても30分以上は掛かる距離だと思うんですけど……」
「私の速力は時速10.8億km/hですから」
「光か何かなんですか貴方は?」
「冗談です、普通にジャンプしてきました」
「いや全然普通じゃないでしょ、主に貴方の身体能力が」
もうそっちの方が気になってキャスカさんの番外編を希望したいくらいだ。
それにスカーレッドの警備をいとも簡単に掻い潜ってきたようだし、ほんと何者だよ。
「ミコトさん、早速エリザベート様の置手紙を見せてもらってもいいですか?」
「ああ、はい」
俺は客用の広間に案内したキャスカさんにエリザベートが残した置き手紙を渡す。
本当にこれで居場所が分かるのだろうか?
「これはッ!?」
「どうしたんですかキャスカさん!?」
「愛しの……ミコト!? あのエリザベート様が僅か数日でここまでデレるだなんて…… 信じられません」
「そっちかーい」
ご意見はごもっともだが、今は本筋に集中してくれ。
言われたこっちも恥ずかしくなってくる。
「ふむふむ」
キャスカさんは少し手紙を検分すると「なるほど」と納得し、
「エリザベート様は今ガリア鉱山付近にいらっしゃいますね」
「どうして分かるんですか?」
「それは僅かに手紙の端に付着した黒い砂です」
「砂?」
俺は再びキャスカさんから手紙を受け取り、言われた通り端を確認する。
確かに手紙には極小の砂粒らしき物が付いていた。
「それはオリハルコンの原料となる鉱石の物です。この世界でそれが採掘できるのはガリア鉱山だけですから」
オリハルコンとはこの世界で最も硬度の高い金属であり、強力な武器や帝国の外周部を囲む巨大な壁等にも使われている非常に希少且つ高価な代物だ。
「なるほど…… 凄いですねキャスカさん。メイドになる前に探偵でもやってたんですか?」
「ウフフ、まあ当たらずしも遠からずと言っておきましょう」
人差し指を唇に当てながら不敵に笑うキャスカさん、恐るべしスタンフィールド家のメイド……
「さてと、居場所も分かった事ですし。早速エリザベート様を呼びに行きましょう」
「行きましょうって。確かガリア鉱山ってここから馬で二週間以上掛かる場所にありませんでしたっけ?」
普通に一週間後のライブには間に合わないと思うのだが。
「問題ありません、私の足ならば三日もあれば着くでしょう」
「もう面倒くさいのでキャスカさんの身体能力に関してはツッコミませんけど、俺はそんなに早く走れませんよ?」
「ああご心配なく、行くのは私だけですから。ミコトさんには代わりにお願いしたい事がありますので」
「え?」
そう言うとキャスカさんはメイド服のロングスカートの中から(!?)一冊の手帳を取り出し、
「はいこれ」と俺に手渡してきた。
手帳の表面にはこう書かれている『アリシア様の華麗なるスケジュール帳』と――
「えっと、これは……」
冷や汗をかく俺を他所にキャスカさんは妙にニコニコしながらこう言った。
「今日からしばらくアリシア様の執事兼マネージャーをお願いしますね」
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