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はぶられ勇者の冒険譚

雪村 和人

世界の真実

説明回です。


<神というよりも管理者って言った方が正しいかもだけど>

 そう言ってステイスは肩を竦めた。

「お前が神っていう証拠は?」

 遥は警戒をしつつステイスに問いかける。

<証拠って言われても困るな。さっきも言った通り元管理者だからね。>

 その答えを聞き、遥は再び口を開こうとする。

<因みに君たちを連れてきたのは僕じゃないし、元の世界に戻す事も出来ない。そんな力ももうないしな。>

 自分の思考が読まれたかのような反応に遥は多少のいらだちを覚えるが顔に出す事なく、違う質問を投げかける。

「もう管理者じゃないならなんでここにいるんだ?」

 遥の問いを聞いたステイスは待ってましたと言ったような笑顔になった。

<それはね、僕がこの世界の住人だからだよ?>

「「・・・・・は?」」

 疑問符を浮かべる遥達に向かってステイスは説明を始めた。

<まず大前提として、君達のいる世界は僕達が暇つぶしの為に作ったものなんだ。君達に分かりやすいように言うと国づくりシュミレーションゲームってところだね。

 ただ規模は段違いだし、NPCは適当な容量を持った勝手に育つAIを使ってるから結構大変なんだけどね。>

 ステイスから語られたものは遥達の想像の遙か上を行っていた。二人の反応も気にせず話し続ける。

<んで、僕はこの世界を作って管理してたんだけど、しばらく前にね?いきなり彼が襲ってきたんだよ。なんの前触れもなく、ね。

 どうやら狙いは僕の作ったこの世界らしかった。まぁその時は逃げ切ったんだけど、その後も何度も襲われてね。

 ある時、そろそろヤバイと思って自分の脳をデータ上にコピ−して、僕の存在が消えたら、この世界にこれるようにしてあったんだ。

 目的は、彼への対策手段をこの世界へ持ち込むため。理由は、特別な能力がある彼に対抗出来るのはこの世界で能力を培った人間だけだと思ったからだ。

 ただ、生半可な能力では彼に対抗出来ない。だから外の世界から干渉出来ないように僕自身が恩恵と言う14の能力を持ち込んだ。>

 遥と玲奈が恩恵という言葉に反応したが、ステイスは無視して話しを続ける。

<恩恵を持ち込んだ僕は、この世界に入る時に力のほとんどを使ってしまった。弱った僕は静かにこの世界の成り行きを見守った。それ以外にできる事がなかったからね。

 見守っていると、ある異変が起こった。

 彼の世界がこの世界と合併したんだ。それと同時にこの世界のAI達の価値観なども変わった。

 人族は、亜人族を迫害し、魔物の大半は彼の世界のAI、魔族の傘下になった。

 そして、一番の変化は「勇者召喚」だ。これは、元々この世界に存在していないはずの物、というよりもしてはいけない物なんだ。

 僕達の世界では、勝手に他人の領域に干渉する事は禁忌とされているからね。ただ、彼はなぜかその制約に引っかからないらしんだよ。

 で、勇者召喚は彼が違う世界からAIを強制的に連れてきて、祝福と呼ばれる能力を与え、魔族の王、魔王と対になる存在を作る為に制作した物なんだ。

 そして、AI達は戦争を始めた。何百年も続く戦いを。

 その戦いに僕も巻き込まれちゃってね。自己防衛の為に力を使ってしまってね。そのせいで元の世界に戻るのに必要な力が残ってないんだ。そう言う経緯で僕は仕方なくこの世界の住人になっているんだ。>

 そんな現実味のない話しに遥達は呆然としていた。いち早く立ち直った遥がステイスに話しかける。

「いくつか聞きたい事があるんだが良いか?」

<僕に答えられる事ならね。>

 未だに自分を怪しむような遥の目に仕方がない、と言ったような表情をしながら答える。その返答を聞き、少し悩むような顔をしてから、遥は口を開いた。

「恩恵が他の人間に見えないのは何でだ?」

<恩恵とはいわゆる神格だ。つまり、普通のAIとは次元が上の存在、ということなんだ。生き物は自身と違う次元にいるものを認識することは出来ない。だから、恩恵の存在を認識する事出来ないんだ。

 ただ、恩恵の所有者だけは別だ。所有者だけは恩恵が強制的に存在の次元を引き上げる。そのおかげで恩恵を認識する事が出来るんだ。>

 遥はゲームなどの知識のおかげで、何となくではあるが理解できていた。問題は玲奈である。なんの予備知識もなく多くの情報を押し込まれた為、もうなにがなんだか分からなくなってしまたのだ。最終的に彼女は、理解することをあきらめ、遥のバックから本を漁って読んでいた。

 そんな玲奈を見て、ため息をついた遥は簡単にまとめて後で説明しようと決意し、ステイスに向き直る。

「次の質問だ。召喚された中で、俺達のステータスだけ低かったのは何故だ?」

<それはね、恩恵が存在の次元を上げる時に所有者の力を大量に使うからだよ。そのせいで、恩恵の所有者はすぐに死んじゃうんだよ。>

 遥は納得出来ない、といった表情でステイスを見るが、ステイスが顔の前で手を合わせると曇った表情のまま口を開く。

「俺達に祝福が無いのは何故だ?」

<それは恩恵と祝福が対をなす存在だからだ。そのせいで片方しか宿ることが無い。宿る速度で言えば恩恵の方が早いしね。>

「じゃぁ・・・

「わぁっ!」

 遥とステイスが話していると、後ろの方から声が聞こえた。声の元の玲奈は丁度本を読み終わった所らしく閉じようとしていた。声に反応した二人が話しを中断し玲奈の方を向くと玲奈は目を見開いて、

「また声が聞こえた・・・。」

 と、言った。

 それを見た遥は額を押さえ、ステイスは苦笑いで返した。

<それは、レベルアップ時といくつかの恩恵の発動時に聞こえるようになってるんだ。良い機会だから君達の持ってる恩恵の効果について話そうか。>

 先ほどまで興味なさげだった玲奈もこの話しは気になるのか、姿勢を整える。

<まず、玲奈君の知識の恵みについて。その恩恵は、知識を得ると手にした知識に応じたステータスを上昇させ、スキルを得る能力だ。>

 話しを聞いた遥は玲奈のステータスの変化を思いだし、なるほどと言った顔をしていたが、肝心の玲奈はよく分かって無い様子だ。玲奈への説明を後周しにしてステイスは遥を見る。

<そんで君。遥君の持ってる恩恵の一つ、暴食の恵みは自分が殺した相手のステータスとスキルを奪う能力。で、もう一つの恩恵、博愛の恵みは他のAIに自分のステータスやスキルの一部を譲渡する能力だ。>

 恩恵の能力を聞いた遥は自分のステータスの異常な上がり方納得したが、すぐに疑問符を浮かべ、口を開いた。

「なぁ。今の話しを聞く限り、博愛に関しては良いことない気がするんだが・・・。」

<ああ。一見そう見えるが実は相手の許可があれば、相手のステータスを奪う事も出来るんだよ。この世界だとステータスを奪うなんて普通は出来ないからふざけてOKを出してくれる人も多いから、結構使える方法なんだよねー。>

 この世界の人間はそれで大丈夫なのかと遥は疑問に思った。

<ねぇ。今度はこっちから質問して良い?>

 ステイスは自分の番だとでも言うように、遥を見る。

「良いぞ。」

<さっき言った通り、恩恵持ちはステータスが低いからまともに戦えないはずなんだ。なのに君は普通にゴブリン達を圧倒出来たのは何故?>

 そう言って遥を見るステイスは目を細め、真実を見極めようとしていた。

「俺は昔、剣術道場に通っててな。短剣やら長剣やら剣と名の付く武器は大体使えるんだ。」

「えっ!そうだったの!もしかして橘さんと同じ?」

 今まで、ステイスと遥のやりとりを静かに聞いていた玲奈は剣術道場という言葉が出たところで反応した。

 因みに橘というのは、遥達と同じクラスにいる女子である。本名を橘 鈴音という。実家が剣術道場で小さいころから祖父に剣術を習っている道場のエースだ。因みに、光輝もこの剣術道場に通っている。

 話を戻す。

 玲奈の反応を聞いた遥は、いきなりかけられた声に少々引きながらも答える。

「あぁ。最後は同じ所だったぞ。ほんの一年くらいだけど。」

 そう言って遥はステイスに向き直る。ステイスは納得行かないのか、遥を訝しげな表情で見ていた。

「何だ?」

 自分からは口を開こうとしないステイスに遥は訪ねた。

<えっと、君達の世界って命を大事に、が普通の世界だよね?精神異常耐性があったとしても、平然としているのはおかしいと思うんだけど?>

 ステイスから出た質問に遥は顔をしかめる。

「言わなきゃダメか?」

 そう言ってステイスを見る遥の目はこれ以上話したくない、と訴えかけていた。ステイスは聞きたい衝動に駆られたがさすがに相手の内情まで聞くのは・・・と考え、話を変えた。

<いや。別に話したくないなら良いよ。じゃあ最後に君達に力をあげようかな。>

「いいのか?力なんてもらったら、お前が帰るのが遅れるんじゃないのか?」

 遥な問いに苦笑いをしながら答えた。

<言ってなかったけど、僕はこの世界に無理矢理割り込んできたせいで、この世界で力を回復させる事が出来ないんだ。それどころか、存在をたもつ為に常時力を使っているんだ。そして、その力ももう尽きる。だから、残ってる力だけでも君達に託そうってわけ。>

 ステイスの話しを聞き、遥は顔をしかめる。

「俺達に託しても、彼とやらに挑まないかもしれんぞ?」

 遥は鎌を掛けるかのように話しかける。

<それについては多分問題無い。君達が元の世界に帰るにはこの世界の管理権限が必要だ。それを持っているのは彼だけだからね。君達が帰りたいなら彼に挑むしかない。まぁ、帰らないって言うなら別だけどね。>

 ステイスはそう言って遥を見る。その目には疑うような素振りは無く、遥達を信じているようだった。

「分かったよ。俺も戻りたいしな。そのために彼ってのを倒せってんならやってやるよ。」

 遥の言葉にステイスは胸をなで下ろす。

<ありがとう。君ならそう言ってくれると思ったよ。じゃあ早速。>

 そう言ってステイスは胸の前で手を組んだ。すると、ステイスの胸が光だし、そこから、三つの輝く球体が出現した。三つの球体はステイスの元を離れると、一つは玲奈の、後の二つは遥の中へ入っていった。

<僕はそろそろ消える。後は頼んだよ。>

 そう言い残し、ステイスは光の粒子となって消えていった。

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