はぶられ勇者の冒険譚

雪村 和人

異世界召喚

 今日も特に目立った問題もなく一日が過ぎていった。帰りのHRが終わり、帰路に着こうと遥が立ち上がると1人の女子生徒が近づいてきた。
誰であろう、奴である。

「あ!遥くん。今帰り?ちょっと待てて!すぐに準備するから。」

 それだけ言うと時音は、準備をするために自分のロッカーに向かって走り去っていた。それを言われた遥はと言うと、

「・・・・・」

 固まっていた。ひきつった笑みで。それはそれは濃厚な殺気を向けられて。

(おいおいおい待て待て待て!なんで気付かずに爆弾発言していくんだ!いやマジで。気付いて!そしてもう関わらないで!お願いだから!)

 殺気を向けられた遥は表面上は固まったまま内心ものすごい叫びをあげていた。

 そんな感じでしばらく遥が固まっていると、支度を終えたのか時音が荷物をもって近づいてきた。

「お待たせ。準備出来たよ!」

 そんな想いに露ほども気付いていない彼女は笑顔でもどってきた。

 遥はそんな彼女を前にどうやったら穏便に断れるかを考えながら必死に言葉を紡ごうとした。その瞬間、教室の床に幾何学模様のようなものが浮かび上がった。

「な、なんだ!?」

 そんな声を誰かが上げた。模様はその声に反応したかのように光りを増していく。

「みんな!今すぐ教室から
そう先生が叫んだ瞬間、教室は光に飲み込まれた。

 光が収まった教室は静まりかえっていた。その中には散乱した机や教科書、投げ出された鞄しか残っておらず、生徒、教員の姿はきれいさっぱり跡形もなく消え去っていた。






 光が収まり遥達の視界が回復すると、そこは見慣れた教室ではなく、石の壁に囲われた部屋だった。いや部屋と言うより、大聖堂という感じの場所にいた。
 周りを確認すると遥達の方向かって5人ほどの人がアニメに出てくる教会の神父のような格好をしてひざまづいていた。大半の人間が自分たちに気付くのを待ち、神父のような男は

「ようこそお越しくださいました。勇者様方。」

そう言い放った。


 いきなり勇者などと言われた生徒達は、自分達の身突然起こった状況の変化に戸惑い、どよめいていた。その中でいち早く立ち上がったのは彼らの担任である川原 千子だった。

「な、何を言っているのか分かりませんが、これは誘拐ですよ!い、今すぐ帰してください。じゃないと警察に、う、訴えますよ!?」

 と、プクプクと頬を膨らませながら怒っていた。だが、もともとの容姿の可愛さと、その慌てようを見て場の空気は張りつめるどころか、和んでいった。そんな千子の発言を聞いた神父のような男は、少し思い詰めたような表情になって言葉を返した。

「大変申し上げにくいのですが、今現在、あなた方をお帰しする方法はございません。」

 その言葉を聞いて生徒達が動揺し、多くの質問が飛び交う。
ここは何処だ、お前は誰だ、帰れないとはどういうことだ、など。それを聞き、神父のような男は優しげな笑顔で頷いた。

「皆様のご質問には順番に答えさせていただきます。まずはこの国ですね。この国の名はアルファーム神国。この世界をお作りになった神、アルへイム様を信仰している国であります。」

 聞いたこともない国名に生徒達は、再びざわめき出す。生徒達の声を気にもとめず男は話しを続けた。

「私は一神教、アルファーム神国、王都に所属しているアルト・ルクス・カーデミア。階級は、一応枢機教をさせてもらっています。ちなみに一神教はアルへイム様を絶対神として崇めている宗教で、この国の国教です。」

 長々とした説明をするアルト。その長い説明を聞き流している間に生徒達は落ち着きを取り戻した。千子だけはアルトの勢いに気圧されておるようだったが・・・。

「そ、そんなことはいいので今すぐ解放してください。じゃないと本当に警察に」

 と、千子が頑張ってアルトを脅そうとしていると、1人の女子生徒が声を上げた。

「ウソ。携帯使えないんだけど。」

 その一言で千子を含め生徒達は絶句した。現代人に必要不可欠と言っても過言ではないスマートフォンが使えないのだ。千子もそれを頼りにしていたようで、予想外の事態に理解が追いついていないのか、口をぱくぱくしている。

「その携帯と言うものがどのようなものか私は存じませんが、この世界はあなた方がいた世界とは理が異なると文献に記してありましたので、それが関係しているのかもしれません。」

 と、アルトが発した事で生徒達は何を言っているのか分からないと言った様子で目を細めていた。

「皆様の気持ちも分かります。ですがどうか私共の願いを聞き届けていただけないでしょうか。」

 それをきいた生徒達は憤慨した。よく分からないところにつれてこられた挙げ句、元興である自分達を手伝えと言っているのだ。当然である。その中で1人立ち上がり周りを身ながら言った。

「みんな。話しだけでも聞いてみないかな。彼らも困っているようだし。彼らが本当に困っていて、僕がそれを助ける事ができるのなら僕は彼らを助けたいと思うんだ。」

 彼の名前は、柊 光輝。学年1のイケメンと言われている時音の幼なじみだ。常にクラスの中心にいてまとめ役をやっている、純粋で人一倍正義感の強い人間だ。

「ま、まぁ。話しだけなら、聞いてやらなくもないけど・・・」

 光輝の言葉に生徒達は落ち着きを取り戻し話しを聞こうと姿勢を正した。

「では、この世界の現状から話させてもらいます。」

 そう言ってアルトは、この世界が置かれている状況について説明し出した。

 アルトが話した内容をまとめるとこうだ。
・この世界には魔族と言うものが存在していて、人間と敵対している。
・魔族の突然変異で生まれる魔王と呼ばれる強敵が生まれ、本格的に魔族が動き出した。
・魔王が生まれた事により魔族の基礎能力が上がり、自分達では押さえきれなくなった。
・魔族の侵略により人間側に多大な被害がでた。
・魔王を倒せば、この世界の神に元の世界に戻れる。

と言うことであった。
人間側にでた被害などの話しを聞いている内に光輝の顔が真剣になっていった。話しを全て聞き終わったとき光輝には怒りの表情が見えた。

「そんなこと言われたって俺たちには関係無いんだろ?てか、いきなり呼び出して戦えとかふざけんじゃねーぞ。」

 1人の男子生徒がそう言った。彼の、周りる怯えた顔をしている生徒達もその意見に同調している。

「みんな。俺は助けたいと思うんだが、ダメかな。」

 そう言いだしたのは光輝である。そんな彼を他の生徒達は訝しげな目で見た。周りを見ながら皆を説得するように言った。

「どっちにしろ魔王を倒さないと帰れないんだよ?なら、この世界の為に闘ったって僕たちに損なんてないし、この現状を見過ごすなんて事僕には出来ないから。頼む!」

 そう言って光輝は、生徒達に向かって頭を下げた。

「ま、まぁ、光輝がそこまで言うなら手伝わなくもない、かな?」

 その光輝行動に先ほどまで反対していた生徒達も頷き出す。

「ありがとうございます。では早速隣の部屋に行ってもらいまして、冒険者カードに能力値やスキル、職業、そして神より与えられた祝福を記入していきますので、移動をお願いします。」

 冒険者。その単語を聞いて今まで成り行きを見守っていた遥は心を踊らせ、他の生徒に続いて部屋を移動した。

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