SUPEL_night

ルゲ野。

プロローグ


なんの変哲のないビルの屋上。四方には落下防止なのかわからないがフェンスが張られている。前々から思っていたがこのフェンス、意味があるのだろうか。どうせ我儘で自己中心的な人間は楽々と飛び越えてしまうだろうに。フェンスから目を離し、頭上を見渡すと東の空からは橙色の光が溢れている。そろそろ夜が開けるようだ。この街に、平穏な時が訪れる。

この街は昔からこんな言い伝えがある。

__異形物が人を喰らいに夜この街に訪れる__

異形物というのは、まさしく名の通り。異形である。異形の生物。この世の物とは思えないような、奇々怪々なモノ。素性は謎に包まれている。わかっている事は″人を喰らう″という事。人間は、異形物を酷く恐れているという事。

そしてもう一つ、言い伝えがある。

__守り神様が人を守りに夜この街に訪れる__

守り神様というのも、名の通り。人間を守るのが使命の神様。
この街に暮らさない人間には「ただ都合の良い、異形物の恐怖から逃れるための暗示」だと思うだろう。だが、この街__夜百々に暮らす住民はこの言い伝えを信じた。いや、信じざるを得なかった。″本当に守り神様が現れたから″。
人間が異形物を恐れ、夜間家に引きこもっている間に、守り神様が異形物を殺していった。翌朝怯えながら外に出るとあら不思議。あんなに恐れたいた異形物の死骸が転がっていたのだ。そしてその傍らには青年と少女。呆然としている住民達に、二人は近寄った。
「お兄さん達は守り神として来たんだ。君達を守ってあげるから、これからは安心して暮らすと良いよ」
″兄″がそう言って、″私″は頭を下げた。
住民達は勿論歓喜の声をあげた。若干疑いの目を向ける者もいたが、だんだんと消えていった。喜びのあまり私に握手を求めてきた人間の少女の笑顔は、今でも覚えている。私とは違って、明るい素敵な笑顔だった。 

私達兄妹がこの夜百々に来てから長い月日が経った。今日から″私一人″でこの街を守らなければいけない。中々に緊張する。
「……まぁ、私が直接異形物アイツらを殺るわけじゃ無いんだけどさ」
一人でそう呟いて、向こうの遺体を見た。自らが吐き出した深紅の水溜まりに兄が横たわっている。横向きに倒れたままピクリとも動かないが。
「アンタの事はずっと大嫌いだったよ」
遺体に追い討ちをかけるように罵声を浴びせる。やはり動かない。…もう後戻り出来ないという事をつきつけられた気分だ。
「…別に後悔してないからいいけど」
口に出して、そう思い込む。後悔してない、絶対にしていない。
遺体から目を離す。歯を食い縛る。拳を固く握る。一つ息をつく。…始めよう。下準備は完璧だ。駒も出来ているし、段取りも完璧。
「…始めるか」
綺麗に燃える朝日を背に、戯京は静かに口に弧を描いた。

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