SUPEL_night

ルゲ野。

第一話


私、疑心針今日子は3月の下旬に引っ越しをした。正直に言うと転校したくなかった。仲の良い友達が沢山いたし、せっかく頑張って勉強して高校の推薦貰ったのに、その頑張りも水の泡になってしまったから。この春から私は引っ越し先の新しい街、夜百々の「夜百々学園高等部」の新一年生、高校デビューだ。
……うん。高校生だ、高校デビューだ。まだ身長が148cm しかないけど、高校生だ。ちょっと新居の周りを散歩してたら
「あら、引っ越してきたの?初等部?」
と、隣のおばちゃんに言われたけど。高校生です。私。
そんなこんなで。慌ただしく入学準備していたら、いつの間にか入学式が明日に迫っていた。期待と不安が入り交じった気分で就寝した。寝る直前、母に
「そんな気持ちで寝たら怖い夢見ちゃうわよ?」
と言われたが、とても眠かったので寝てしまった。
そして、母がエスパーなのでは無いかと疑った。恐ろしい夢を見たのだ。
ふと私が目を覚ますと、真っ暗な世界にいたのだ。そして目の前には少女が。反転した赤目、銀髪で少し変わった雰囲気を持つ少女だった。そしてこう言った………………あれ?
「な、なんて言ったっけ……?」
まるで音声にもやがかかったように思い出せない。
「……小説みたいにカッコよく思い出したかったのに…」
がっくりと肩を落としてベッドから出る。時刻は6時を少し過ぎたくらい。珍しく早起きできた。…まぁ、緊張で寝れなかったって事が…なきにしもあらず…
部屋にはまだダンボールの山が沢山ある。
「山だけに…沢山っ!なんちゃって!あははははっ!」
ヤバい、自分で言った事にツボった。まだ両親が寝てる事を思い出して慌てて口を押さえる。今日は共働きの両親が二人ともが休みだから、1日寝ると言っていた事を思い出したのだ。
「危ない危ない……静かにしなきゃね…」
そろそろと部屋を出て洗面所に入る。タオルなどの必要最低限のものは、母が出してくれていたようだ。髪を緩く一つに結って、洗顔する。鏡をみると、知らない人の顔がっ!…って事もなく、いつも通りの私がいた。
あひゃー…ひょっとくまができひゃってふなーあちゃー…ちょっと隈が出来ちゃってるなー
歯を磨きながら目元を見る。少しショックだったけど、あまり目立たないからいいか。
「よっし、せーふく着よっ!」
もう一度部屋に戻って、壁にかけてある制服に袖を通す。ブレザーで、紺色を基調とした少し暗い赤のリボンが可愛い制服だ。中学校の制服はセーラータイプだったから、初めてのブレザーですごく気に入っている。
「うんうん、やっぱブレザーの方が良い!おねーさんって感じがするねぇ!」
全身鏡の前でクルクル回りながら、制服のデザインに惚れ惚れする。いかにも高校生!って感じがしてテンションがあがる。髪をいつものように二つに束ね、前髪をピンでとめる。そして新しいリュックサックに荷物を詰めながら、通学路を思い出す。
「家の近くのコンビニを右に曲がってー、そこから駅前の信号を斜め右に…あれ?左だっけか?」
この街は人口の割には、なかなかの都会だ。そして大きい。……一瞬の沈黙。そして導きだした答えは…
「……まぁ!歩けばわかるでしょう!!!」
己のポジティブに頼る事にした。
「あっ、お腹すいてるから頭回らないのか!ご飯食べよう!」
うんきっとそうだ。決して頭が悪いとか、記憶力がないとかじゃなくて。
ちょっと重くなったリュックサックを肩にかけてリビングへ向かった。
テーブルの上には朝御飯のおにぎりが置いてあった。具材は辛子明太子、辛いのが大好きだから嬉しかった。勿論美味しかった。
「……じゃあ行こっ!行ってきまーす!」
小声だけど、元気よく挨拶をして玄関から出た。

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