悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する

ブラックベリィ

104★勇者と聖女が残したモノ



 その記録は、始祖国を良くする為に、特に勇者が聖女と共に力を入れていたモノだったな………。

 『貴族や平民、男や女なんて考えずに、国民全てに義務教育という無償で読み書きを教える』

 『勿論、教科書や制服、ノートとか文房具、昼食も無償よ』

 『国庫にかなりの負担ですよ』

 『構わないわよ。これは、終わりの無い産業なんですもの』

 『産業ですか?』

 『学校という建物を作る。その材料を調達する者達、建築する者達は仕事にありつく。補修も必要だから。教師は絶対に必要だし、教師を教える学校も必要だ』

 『それに、教科書や制服、文房具や机やイスを作る者達も仕事は無くならないわ』

 『学校によって習う内容と卒業した後の就職先が変わる。それを理解すれば、人より優れる必要を感じて余分に勉強する』

 『そして、その為に塾や家庭教師が必要になる。これも無くならない仕事だわ』

 『また、本を読むことが…読書が趣味になる。その為に色々な本が発行される。本を書く作家と本を作る出版という仕事が出来る。それを流通させる仕事もな』

 『給食を与えるということは、調理する場所と材料と調理器具、料理をする人間が必要よ。ほら、これもなくならない仕事よ』

 この会話が、魔力のある者達が通う学園の元になった。

 当時、勇者と聖女の側近になった者達は、きっと理解することに苦労しただろうな。

 だが、今の私達があるのは、召喚された勇者と聖女、そして、それを支えたこちらの世界の者達のお陰だろう。

 平民は、読み書きと算術を習い、優秀だったら、書記官や兵士などの学校に通うという道が開かれるようになった。

 また、どの村にも学校と図書館があるので、みな無償で読める本を楽しむ。

 きっと、始祖の指示に従う為に、当時の者達は財政の捻出に苦しんだことだろう。

 おかげで、我が帝国は、他国との戦争が起きた時、常雇いの兵士や騎士が足りなくなった時に、平民を招集すると文句も言わずに直ぐに集まる。

 我が帝国以外では、平民の出世は難しいし、読み書きを覚えることすら出来ないことを民達はみんな知っているからな。

 だから、我が帝国の民は他国の支配を嫌がる、その先に待つモノが理解(わか)っているだけに………。

 知識を与えることで、自分達の国が豊かで安全で、自分達に優しい国であることを知っているからこそ、護る為の戦いを厭わない。

 始祖の言う通り、教育は国を根底から豊かにする。

 そんな始祖の残した不文律を、我らは破ったり破棄したりしない。

 故に、シルビアーナは他国者と婚姻できないのだが………。

 絶大な《魔力》と美貌と高貴な2つの血筋に目がくらんだ者達は、その不文律の大切さを理解する気がないようだ。

 ちょっとイライラしながらも、私は始祖から伝わる教訓の説明を続ける。

 「ヤムートでは
  国民全てが

  読み書きできるように
  教育したそうだ

  その知識を元に
  優秀な人材を育成し

  2度の世界大戦に参戦し
  1度負けたが………

  その後復興し
  世界第2位の経済大国に
  なったそうだ

  海軍力でも
  世界第2位だったと
  誇らしげに書いてあった

  そして
  1600年を越えて

  存続する皇室は
  ヤムートしかなかったとな」

 私達は、その始祖からの知識と教訓から来る、不文律を護っていると言う意味でいったのだが………。

 「確かに
  異世界の話しですね

  でも、それが
  他国の王族との婚姻を拒む
  理由にならないと思います」

 やっぱり、不文律の意味を理解していないようだな。

 いや、自分達のあさましい要求を否定するモノ(不文律)を認める気がないだけか………。

 もう、その部分で既に、シルビアーナの夫候補から選定外に弾かれるのだがなぁ。

 彼らは、何としても難癖つけてでも、皇位継承権を持ったシルビアーナと婚姻したいんだな。

 我が帝国は、強力な魔法………異世界召喚を古代帝国の末裔アルディア王国より継承している。

 この召喚魔法は、我が帝国以外に伝わってはいない。

 召喚魔法は、創造主の直接の子である、古太陽神ソレストの作った魔法だったから………。

 ソレを伝えたのは《狂いし神子》を封じてある《難攻不落の深淵の絶望のダンジョン》が、ここにあるからだった。

 確実に、ダンジョンから、魔物のスタンピートと大量発生、そして魔王の出現があるから与えられた、召喚魔法だ。

 そして、元々ここは、アルディア王国という、古い王家だった。









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