悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する
067★やっと、声を届けて、娘の姿を見ることができたが………
第2皇子と、その側近を見送った私は、出来の良い我が部下に視線を向ける。
彼らは、ひっそりとあの娼婦と馬鹿の側近達を拘束していたのだった。
勿論、コリウスは、言葉を奪われ、魔力封じの首輪と、魔力封じの手錠をつけられていた。
まぁ、当然の処置だな………どいつも、野放しにしたら何をやらかすかわからんからな。
シルビアーナを拘束し、その背を蹴った近衛の馬鹿息子の顔は、右側のみぼこぼこになり色が変わっていた。
私が殴る分として、左側を綺麗にしてあるのだろう。
うん、その気持ちは嬉しいぞ、後でたぁ~っぷりと殴ってやる。
馬鹿の側近達は、みな顔の半分をぼこぼこにされ、魔力封じの首輪と手錠をつけられていた。
娼婦も魔力封じの首輪を嵌め、両手に手錠状の魔力封じを着けられていた。
首輪と手錠に付いている鎖を、嫌そうに部下が握っていた。
うん、そんな穢れた娼婦に直接触りたくないよな………すまん。
だが、流石私の有能な部下だな。
私は、会場内を一通り見てみた。
ソコには、居て欲しくない存在が多数………。
なぜ? こんな場所に、あいつ等が居るんだ?
貴様らは、皇子(=王子)だろう?
いや、下手をしたら、皇太子(=王太子)じゃないのか?
それが、何故、国を離れ非公式に、我が国に僅かな側近と共に滞在しているんだ。
馬鹿なのか? 他国に非公式で入国していて死んだらどうする気だ?
まったく、我が国にどれだけの迷惑がかかると思っているんだ。
ったく、ああいう面倒なやつ等は、さっさと元の場所に、お戻りいただくしかないな。
このくそ面倒くさい状況で、お前らのコトまでかまっていられるか。
思わずイライラしていたら、アーダベルトが、私の肩をぽんっと叩いてくれた。
「レギオン、落ち着け、俺達もここに居る
それに、面倒くさいブランデルの口を封じているんだ
俺達で対処出来る………なっ、落ち着けよ」
アーダベルトの言葉に、私は、溜めていた息をそっと吐き出した。
「そうだな、ルト
彼らに全員ここに集まってもらい
我が国に来た理由を聞いてみるか
なんか、イヤだけど」
「ソレが良いぞ………
ただ、お前の嫌な予感通りシルビアーナ姫に
婚姻を申し込みに来ただけかもしれないけどな」
私は、聞きたくなかったコトをヘロリと口にした、ルトをじっと見詰める。
それになのに、ルトは私を無視して、あの憎たらしい侍従長に声を掛ける。
「侍従長、外務大臣を呼び出せ
いくら、非公式でも
大使からの連絡はあったはずだろう?
それとも、お前も知っていたのか?」
淡々とした問いかけに、ちょっと困ったような表情で、言い訳がましく答える。
「私は、外務大臣のロシフォール閣下より
丁寧に案内する人物リストを頂いて
この会場に案内しただけです
仮の名前を教えられていただけなので………」
「そうか、誰が誰かはわからないんだな?」
「はい。私どもが知るべきでは無い情報ですので………」
「だとよ、レギオン
あのいけ好かないロシフォールを
呼び出すしか無いようだぜ」
はぁ~私、ローって幼馴染って言っても………。
ロー達は、ルト達と違って、裏がメインのヤツラだから、苦手なんだよなぁ~……。
あーめんどくせー………なんで、私が………。
なんて、腐っていたら、もっといや~んなコトに………。
表面上はにこやかに笑っているが、実際は煮詰まっているロー達が、呼んでいないのにやってきた。
自分から私のところに来るってコトは、収拾不能寸前だからか………。
嗚呼懐かしき日々だなぁ………こういうパターンって、今は亡き皇帝陛下である叔父上の裁定が欲しいんで、宜しくって時ばっかりだったよな?
あの頃は、海千山千の叔父上が、しっかりと裁定してくれたけど………。
ここに居るのは、私とアーダベルト、バルドゥル、ユリシーズ、ギルダールという脳筋に近い者達のみ………。
いや、師匠イグナシオ殿が居る。
師匠に聞けばなんとかなるはず。
私が、ほっと息を抜くと、ルトが視線で聞いてくるので、思いついたコトを口にした。
「ルト、ここは、経験豊な師匠に丸投げしよう」
「おお……その手があったか」
「だろう」
私とルトが盛り上がっていると、近寄って来たバル、シーズ、ギルが不思議そうな顔で私達を見ていた。
そんな私達に、ロー達が、ボソッと酷いコトを言う。
「レギー、良いのか?
師匠に頼みごとをすると
倍の仕事を押し付けられるぞ
下手したら、シルビアーナ姫の婚約者に
我が息子イルバインを………
なんて言うかもしれないぞ」
「うっ嫌なコトを言うなよ
私個人の話じゃなくて、国交に関わるんだ
引き換えに何かを要求するってのは
いくら師匠でも………」
なんて会話をしていたら、空気を読まない侍従長が、他国の皇子(=王子)達一行を、私達の前に案内してくれた。
どおぉぉぉーして、お前ら侍従達は、余計な仕事は速いんだよぉぉ。
なんて思いは、皇族のプライドでねじ伏せて、私は静かに微笑んでみせる。
その間に、ブランデルはそっと私達の後ろに隠れやがった。
後でしばき倒すぞ、ブランデル。
そんなイラついた状態の私に、魔法使いのアストリスが話しかけてきた。
「レギオン殿
他国の皇族様達との会話は長引くと思いますので
せめて、シルビアーナ姫と会話だけでも
先にしてはいかがでしょうか?」
「繋がったのか?」
「はい、完全に繋がりました
こちらのミスリル銀の鏡に話しかけてください
繋がるとお互いの姿が映ります
幸いなことに姫様のいらっしゃる空間に
強力な力を宿した水晶の存在がありましたので………」
「そうか………シルビアーナ、父の声が聞こえるか?」
その呼びかけに………。
『えっ?』
驚く娘の声が響く、そして、誰かとのやりとりらしい声が少しの間続いた、その後に………。
色が違うだけで、我が愛しきディアとそっくりな娘の姿が、ミスリル銀の鏡に映った。
コメント