悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する

ブラックベリィ

057★パーティー会場にて・そして茶番がはじまる4


 あと少しだと思ったのに………。

 「侍従長…貴様も許さないからな
  家族を奪われる苦しみを、与えてやろう

  一族郎党……覚悟しておけっ……
  どけっ…下郎がっ……」

 そう言って、私の邪魔をした侍従長を薙ぎ倒すが、近衛達は私の怒りの波動を感じて、立ち竦むだけだった。

 魔術師コリウス、キサマは、絶対に許さん。
 私のシルビアーナをどこに転移させた。

 怒りに目が眩み、立ちすくんでしまった。
 そんな私の前では、茶番劇の第2幕が始まっていた。
 
 確かに、馬鹿が呪具を娼婦に手渡し、シルビアーナとの婚約破棄を宣言したのは喜ばしいコトだったのに………。
 何故、シルビアーナを転移させる必要があるのだ。
 それも、どこぞのダンジョンへと………。

 王族と皇族の血を引くシルビアーナは、男爵令嬢程度を殺そうと、どこかのダンジョンに転移されるほどの罪に問われることはない。
 せいぜいが、罪を重くしても、離宮に幽閉されるか?程度なのに………。

 あのお花畑な馬鹿には、その程度の知識も無いのか?
 それ以前に、私を馬鹿にしているのか?
 いっそ、この場で………。

 などと考えている間に、皇帝ブランデルが、皇妃と側室、愛妾を引き連れて現れた。
 それに向かって、お花畑の馬鹿は、自分がしでかしたコトの重大さも知らずに、誇らしげに話しかけている。

 なにが誇らしい?
 お前のようなクズの為に………。

 護身術を習わず、お前に魔力を呪具によって奪われ、護衛としての従者を排除されて、抵抗するすべをすべて奪われたシルビアーナを貶め、堂々と殺すことを目的とした転移をさせるなど………。

 自由の全てを奪ったシルビアーナを、近衛団長の馬鹿息子に抑えさせ、皇太子妃を表すと言われていた呪具を奪い、魔術師長の馬鹿息子コリウスに転移させるという、卑怯極まりないその行いの何処が誇らしいのだ。

 その汚らわしい行為を止められなかった、私は情けない親だ。
 苦悩しているだけでは、シルビアーナを救えないと気を取り直し、私は命令する。

 「シルビアーナが
  あの愚か者に転移された先がわかるか?」

 私の問いかけに、2人は顔を見合わせ、とても気まずそうに声を揃えて言う。
 
 「「……魔法陣に描かれた、あの紋章は
  かの神苑かと思われます」」

 2人の答えに、私は一瞬言葉を失った。
 あんな危険な場所に………。

 神苑とは遥か昔、神代の呼び名で、今は深淵とよばれる……今は我が領地の奥にあるという………北の大樹海のダンジョン。

 ダンジョンの出入り口すら封じられている場所に………。
 魔力の使い方も、魔法も知らないシルビアーナが………。
 護衛兵もいない、護身具も防具も無いシルビアーナが………。

 私は、その絶望的な状況に眩暈を感じた。
 が、私には、力ある魔術師がいるし、優秀な護衛兵もいる。
 そして、神苑の場所も知っている。

 ならば、神苑に転移してやると思ったときに………。
 皇帝ブランデルが、馬鹿を殴ったのだった。

 それでハッとした私は、愚かで浅ましい親子の会話へと意識を向けた。
 そこでは………。






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