悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する

ブラックベリィ

052★パーティー会場にて・そして茶番がはじまる1

 私がパーティー会場内を、シルビアーナを求めて見回していると………。
 生来の色を失った灰色の髪のふくよかな少女が、パートナー役の従者と共に入ってきた。

 その姿にとうとう婚約者であるシルビアーナを、あの馬鹿はエスコートすることすらしなくなったか。
 私は、一瞬だが、間違いなく今日、あの馬鹿は、婚約破棄を宣言するだろうと思い暗く笑ってしまった。

 が、すぐにそんな瑣末なことよりも、やっと見付けた娘の姿に、私は詰めていた息をそっと吐き出した。

 忌々しい馬鹿の瞳のである、極上のサファイアを嵌めたサークレットとチョーカーとブレスレットを、合いも変わらず着けている可哀想な、私のシルビアーナ。

 嗚呼、愛しき我が娘よ。
 その呪具を着けていなければ、月の光を集めたような銀髪と、けぶるような紫の瞳をしていたものを………。

 今は、ふくよかな為に、目鼻立ちもはっきりとしていないが、本来なら月の女神の化身と謳われたディアーナと同じように、美しい容姿をしていたものを………。

 愛らしい幼子の時代も花の蕾みが綻ぶような少女時代も、あの呪具のセイで、人に笑われるような容姿で過ごすしか無かった、お前が不憫でならない。
 皇族や王族、上位貴族の血を引く者達は、その血ゆえに美しいものなのに………。

 お前は、生来の姿と色を封じられ、偽りの姿になっている為に、お前の魂はその違和感で苦しんでいる。
 その結果が、そのふくよか過ぎる姿なのだ。

 私達の元に取り戻したなら、本来の色と姿と魔力を取り戻し、おしゃれを楽しむ普通の少女に………。

 家族と一緒に過ごす、心穏やかな生活をお前に与えよう。
 お前に求婚者が群がるのは業腹だが、その群れを視線ひとつで操る姿を見てみたいとも思う。

 親の愛情と庇護を受けることが出来ずに、お前が心の中に育ててしまった寂しい思い、切ない思い、悲しい思い、悔しい思いを晴らしてやりたい。

 呪具の為に、感情の大半を封じられ、色々な感情を口にすることも出来なくなっているお前に、笑って泣くを自由を取り戻してやりたい。

 何よりも、シルビアーナ、我が愛しき娘よ、お前をこの腕に抱きしめたい。
 お前の母であるディアーナと、弟であるラインハルトと一緒に………。

 今は、亡き母エカテリーナアントニオも、お前を抱きしめたかったと言って、逝ってしまったことを伝えたい。

 お前は、愛されていたんだと………。

 お前に、皇太子妃としての教育を与えると言っておきながら、蓋を開けてみると皇妃アデリーヌは何の世話もしていないというコトを………。
 どこまで、シルビアーナを蔑ろにすれば気が済むのだ。

 それでも、昨年に亡くなった皇太后陛下セレナーデ様が、お前を皇太后宮に引き取り、皇妃教育を与えてくれていただけマシだったと思うしかないのだろうな。

 私達が付けていた乳母は、戻されてしまったが………。
 その手に、こっそりと貴女皇太后セレナーデの手紙を持って戻ってきたから………。

 私は、その手紙の内容を思い出す。
 悔しい時、哀しい時、心折れそうな時、何度も読み返しただけに、暗記してしまった手紙の内容を………。







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