悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する
035★前世で飼っていた子のことを思い出しました
どこか嫌そうに言うコウちゃんに、私は肩を竦めて言う。
「うん、そのつもりよ
こんな寂しいところに
置いて行くなんて
可哀想じゃない
まして、どう見ても
子供に見えるし
独り立ちするぐらいまでは
面倒見てあげようかな
って思っているわよ」
私の言葉に、コウちゃんは何故かちょっと遠い目をする。
なんか変なコトいったかな、私?
「まっ…もっとも
この子が付いて来て
くれるならだけどね
無理やり、ここから
連れて行く事は
しないつもりよ
でも、コウちゃんみたいに
意思疎通が出来て
テイムできるならば
一緒に旅をしたいわねぇ~………」
前世じゃ、馬なんて手が届かない生物だったもの………。
なんと言ったって、広い敷地に専属の獣医さんは必須だし、必ず運動が必要だったし、なにより掛かる費用が半端なかったから………。
犬猫のように、簡単に引き取りなんて出来ない動物よ、馬は。
その馬…いや、一角天馬だけど…を、連れて歩けるなんて楽しそうよねぇ………。
いや、コウちゃんのように懐いてくれればだけどね。
『ふぅ~ん……連れて行くんだ』
どこかどころか、はっきりと拗ねてます状態のコウちゃんに、私はクスッと笑う。
前世・アラフィフ喪女の時に飼っていた、黒猫に性格が似ているわねぇ~………。
他の子(猫や犬その他)を優先して構うと、部屋の隅とかで拗ねて………。
私が抱き上げに行くまで、動かない可愛い子だったわぁ~…トラちゃんて。
色は………あらっ…こうして思い出すと、コウちゃんてば、トラちゃんを反転したような感じねぇ………。
あの子は、黒地にうっすらと光り加減で虎縞が浮かぶ子だったものねぇ………。
じゃなくて、さっさと進まないとね。
「くすくす………
勿論、コウちゃんが
一番可愛いわよ
このもふもふ感は最高よ」
そう私が言うと、コウちゃんはちょっと胸張りする。
保護幕のように作った光りの繭は、何時の間にか消えていた。
それは、コウちゃんがかなり復帰したことを意味していた。
『しょうがないなぁ~……
…ますたぁーは
動物全般好きだもんねぇ……
あぁ~あ…独り占めできると
思ったのになぁ~………』
そう本音を漏らすコウちゃんに、私はその豊かなもふもふを撫でながら言う。
「それじゃ
コウちゃんだけ、特別に
ますたぁーじゃなくて
ママって呼ばせてあげようか?
ほら、コウちゃんだけ特別よ」
私の言葉に、きょとんとしたコウちゃんは、その言葉の意味を理解して、モジモジする。
『ま…ますたぁー……
あぅぅぅ~……ま…ま………』
恥ずかしそうなコウちゃんに、私はくすくすと笑いながら言う。
「ママよ、コウちゃん
コウちゃんだけが
そう呼び掛けて良いのよ」
『嬉しいぃ~…ママ…
俺だけのママ……』
グリグリと頭を胸に擦り付けて、興奮した子猫のようにうにゃうにゃするコウちゃんを抱き締めながら、私はその背中を撫で撫でする。
やぁーねぇー…本当に、トラちゃんそっくりだわぁ~………。
私に転生があるなら、コウちゃんにも…いや、あのトラちゃんにも、転生ってあっておかしくないわよねぇ………。
そんなコトを考えつつも、とにかく、このダンジョンのイベントを何とかして、外にる為の方法を忙しなく考える。
とにかく、あの腕輪を回収しないと………。
でも、この菱形の立方体ってどうやって解除すれば良いのかしら?
ご機嫌が戻ったらしいコウちゃんに、聞いた方が早そうね。
「コウちゃん
この腕輪付きの一角天馬が
入っている立方体は
どうやって解除したら
良いのかしら?」
コウちゃんは、私の言葉に、顔を上げて小首をこてんっと傾げて言う。
『たぶん…両手を当てて
ます…ママの…魔力注げば
封印の解除されると思う』
「そう…それじゃ……
ちょっとだけ肩に
移って居てね」
コウちゃんの言葉に、私は頷いて、その身体を再び肩へと移動させる。
素直に肩へと移動したコウちゃんは、菱形の立方体の中にいる一角天馬を見上げ、嘆息していた。
それを見ないフリして、私は立方体に両方の手のひらをペタッと着ける。
硬質な感じの感触に、私は目をぱちくりさせる。
えっとぉ………ガラスか水晶みたいになっているのね。
とにかく、コウちゃんが言ったように、魔力を通してみましょう。
両手に魔力を集中させて、中にいる一角天馬と腕輪に届けと思いながら注ぐ。
すぅーっと何かが大きく抜け出るのを感じつつ、私は魔力を注ぎ続ける。
あうぅぅぅ~………なんか、膝というか両足全体に力が入らなくなってきたんですけどぉ………でも、ここで止めるわけにいかないし………。
もしかして、魔力枯渇が近いのかなぁ………。
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