奴隷市場

北きつね

第二章 第二話 契約


 今、僕は落札が成立したとして部屋に通された。
 部屋の中にいる執事風の男性がいて、これからの手続きを説明して貰った。

 目の前にある端末には、僕が落札した本人が希望をつけた奴隷契約書がある。
 内容の説明を聞いた。

--- 奴隷契約書

 法規で定められた云々から始まっている。
 ん?条件が何も書かれていない。

 執事風の男性に質問する事にした。

「これでいいのですか?条件が書かれていません。通常、解放の条件や待遇が書かれていると先程お聞きしました」
「はい。通常ではそうです。18番からの条件は口頭のみにしたいという事です」
「口頭?」
「無いことではありません。通常の契約は、奴隷を守る物ですが、条件によっては奴隷を縛る枷になる場合があります」
「それは良いのですが、僕がそれを守らなくても、”問題がない”ことになりませんか?」
「なりますので、当市場では推奨しておりません。18番にも注意したのですが、本人の強い希望です」

 もう一度書面を見る。
 どこかに抜け道や落とし穴があるかも知れない。

 深く考えてもダメな時にはダメだと考える事にしよう。5,000万円程度なら勉強代だと思って諦めればいい。

「わかりました。僕も、それで大丈夫です」
「本当に、問題はありませんか?」

 二度目の意思確認をされると、不安になってしまいそうになる。

「はい。大丈夫です」

 そう答えるしか、僕が目の前にいる子を手に入れる方法はない。

 透明な仕切りが開けられる。

「18番。こちらの方が、お前を買われるご主人様です。跪いて挨拶をしなさい。そして、口頭で条件を伝えなさい」
「はい」

 18番が、男性を見てから僕を見た。

 18番と呼ばれた少女?が椅子立ち上がって、跪いて
「ご主人様。これからよろしくお願いいたします」

 本で読んだ限りではこんな儀式はなかったはずだ。
 それに、まだ契約を交わす前にご主人様呼ばわり・・・。そうか、名前を呼ばないのはマナーだとか言われている。そして、ご主人様となるときには、言葉遣いにも注意する必要と言われていた。

「わかった。これから頼む」

 これでいいのかわからないが。少女が微笑んだので良かったと思う事にしよう。

「私がご説明するのは、”ここまで”です。お話が終わりましたら、ボタンを押してください。お手続きのご説明に参ります」

 男性は、僕に頭を下げてから、18番に目配せをした。

 男性が部屋から出た。少女を椅子に座るように命令した。

「ご主人様。本当によろしいのですか?今でしたら」
「問題ない」
「でも、私には問題があります」
「大丈夫だ」
「・・・。ありがとうございます」
「それで?」
「・・・。ご主人様。ご主人様が書かれた、”僕のやりたい事”とはどの様な事ですか?」
「僕から、君以外と金なんてくだらない物を残してすべてを奪っていった奴らを殺す事だ」
「私以外?」
「そうだ。僕は、君を手に入れる」
「はい」
「僕は、君を使って、僕からすべてを奪っていった奴らにたどり着きたい」
「可能なのですか?」
「わからない」
「私が手伝えば可能なのですか?」
「わからない。でも、君にワケがあるように、僕もワケがある。同じ糸だとは思えないが、君の糸から手繰り寄せられる情報も欲しい」
「・・・」
「僕には、何もない」
「かなりの財産をお持ちでは無いのですか?」
「数字になんの意味がある?」
「意味はありませんが、その数字を巡って人は人を殺します」
「そうだな。でも、数字は数字だ。僕にはそれ以上でもそれ以下でもない」
「私が、その数字を要求するとは考えないのですか?」
「ほしければ全部上げる。そのかわり、僕が望むを持ってきてもらうよ」
「・・・。ご主人様。私の望みは、ご主人様のご希望を叶えた後で私をご主人様に殺される事です」

「死にたいのなら自分で死ねばいい。なぜそうしない」
「私は、私を殺せません。自殺になってしまいます。私は、殺されたいのです」

 なにかあるのだろう。
 殺される事と自殺のち外を感じているのかも知れない。

「わかった。君が必要なくなったら、僕が君を殺してあげる」
「いいのですか?」
「あぁ」
「奴隷でも殺したら、ご主人様が罪に問われますよ?」
「構わない。僕がやりたい事が終わった、僕はどうなってもいい」
「ありがとうございます。私からは、衣食住は、ご主人様のやりたい事に支障がない状況にしていただければ十分です」
「そうか?身体を要求するかも知れないぞ?」
「構いません。初めてなので、うまくできるかわかりませんが、よろしくお願いします」

 性奴隷になる事を承諾していないが、構わないのか?

「わかった。君を買おう」
「よろしくお願いします。まずは、私の名前をお決めください」
「まえ・・・。いや、いい。君の名前は、文月フミヅキ夕花ユウカだ」
「ありがとうございます。ご主人様のご名字を名乗らせていただけるのですか?」
「違う。僕の名字は違うが、僕も今日から、文月フミヅキを名乗る。僕の母が名乗っていた名字だ」
「よろしいのですか?」
「大丈夫だ。夕花は、今日から妻の様に振る舞ってもらう。それが条件だ」
「かしこまりました」
「設定やキャラクター作りはおいおいやっていこう。他になにかあるか?」
「私が・・・。いえ、何もありません」

 話し合いが終わったと判断してボタンを押した。
 音がなった気配はないが、先程の男性が部屋に入ってきた。

「お話は終わりましたか?」
「あぁ彼女を買う」
「ありがとうございます。生体チップはどうされますか?」
「生体チップ?」

 男性が説明してくれた話では、生体チップを埋め込む場所の事を言っているようだ。

「どこがいい?」
「ご主人様のお好きな場所に」

 夕花の答えはわかっていた。夕花に答えさせてから

「一般的にはどこが多い?」
「効率がいいのは首筋ですが、傷跡は大丈夫なのですが、奴隷紋が出てしまうので、奴隷である事をわかりにくくするのには向きません」
「そうか?わかりにくい場所だと?」

 男性が説明してくれた所だと、女性の奴隷で多いのは臀部か内腿のようだ。
 露出が多い服などを着た場合でも目立たなくするためのようだ。

「足首の内側とかは?」
「大丈夫でございます」
「靴下で隠れる部分で、サポーターを巻いていても不自然ではない位置にしてくれ」
「かしこまりました。右足と左足?どちらにいたしましょうか?」

「夕花。利き足はどっちだ?」
「左です」
「それなら、右の内側にしよう。それでいいか?」
「はい。問題ありません」

 男性に生体チップの位置を告げた。
 僕のDNAと指紋と声紋と網膜データと虹彩データを登録する。これらのデータから識別子が生成され、生体チップに登録される。

 夕花のデータは後で渡されると説明された。入金と交換になるのだろう。

 夕花に生体チップを埋め込んでいる間に、僕は手続きを続ける事になる。

「ご入金は?」
「引き落としでもいいのか?」
「お振込でもチェックでも構いません」
「わかった。端末を貸してくれ」
「はい」

 端末を操作して、表示されている金額を振り込む。
 5,505万

 奴隷夕花の代金と手数料と紹介料となっていて、入札を行った事で、入場料が全体からひかれている。

「六条様。着金の確認ができました」

 名前呼びになったのは、奴隷を買い上げた事が確認されたからか?
 それとも、なにかタイミングがあるのか?

 気にしてもしょうがないのかも知れないけど、気になってしまう。

「ん?」
「お買い上げありがとうございます。18番をよろしくお願いいたします」

 もしかしたら、なにか事情を知っているのかも知れないが、ここで尋ねるのはマナー違反だし、奴隷市場この場所にはふさわしくない。夕花が自分から話してくれるまでは、夕花の事は気にしない事にしよう。
 僕は、僕のためだけに夕花を必要としたのだから・・・。

「ありがとう。夕花を必要としたのは僕だ」
「はい。六条様。18番」「文月夕花だ」
「文月夕花様の服装ですがどういたしましょうか?今の格好では目立ってしまいますし、六条様は何も準備をされていません」
「そうか、服装まで考えていなかった。靴も必要だな」
「はい。下着なども必要です」
「どうしたらいい?」

 端末が渡される。
 うまい商売をしているな。

 全身コーディネートコースまで存在している。
 ケチってもしょうがないよな。

「下着や服を、夕花に選ばせる事はできるのか?」
「もちろんできます。ご予算をおうがいいたしますが、文月夕花様に予算内で選んでいただく事ができます」


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