異世界人の主人公巡り ~そんなに世界は素晴らしいかい?~
十二の世界で温泉へ
「えっともうこの世界の今の主人公の位置は把握していて瞬間移動のマーカーも近くに付けているから移動しよう」
勇芽ちゃんはそう言って左手に持っているハサミを開いた。
「待つのだ、勇芽。その頭のを取って置いた方が良いと思うのだ」
ああ、まあ言われてみれば。
勇芽ちゃんがアレスの兜を付けたままほっぺの辺りを撫でた。
「あっ、アレスの兜をつけているの忘れてた。つけ心地いいのよね」
勇芽ちゃんがそう言うとアレスの兜が消えた。
『アレスの兜は封印されました』
サンキュー、ヘスティアさん。
「ワガハイもいるだけで目立つからな。猫かぶり《キャットフード》」
カコちゃんがそう言うと姿が消えた。
なんとなく自分の頭の上を触るとまた毛皮のフードが出来ていた。
「ワガハイは誰かの体を乗っ取ることが出来るのだ。今は真弓の体を借りているのだ。これで真弓を大抵の危険から守れるのだ」
わたしの口が勝手に動いて、わたしの声で勝手にカコちゃんがしゃべった。
「じゃあ行くよ」
勇芽ちゃんはそう言って左手の開いたハサミを閉じた。
またベルファと不気味に鳴ってこの世界で最初に見た一面の花畑に戻ってきた。
『瞬間移動する際の余剰エネルギーが音になっています』
サンキュー、ヘスティアさん。
ああ、ベルファって勇芽ちゃんがハサミで瞬間移動する時の音だったんだ。でもマガリさんが瞬間移動する時は無音だったような。
「この花畑の管理人のおじいちゃんが今のこの世界の主人公よ」
勇芽ちゃんがそう言った直後から急に空腹と睡魔がわたしを襲った。
あれっ、わたし、どれくらい前に何を食べたっけ?
えっとガランさんのアンコ抹茶お茶が怖いシュークリームことハザマンジュウを少し前に食べて、その前がレトランさんのあの肉まんパスタで……いや、その後学食を食べた記憶があるような無いような。
世界を越えると時間感覚がおかしくなるな。
あの恵鯉香ちゃんと行って閉館まで粘ったあそこの図書館の閉館時間は二十時でその後家に帰って父さんに思いの丈をぶつけて界穴を開いた。そしてこの世界にやってきて勇芽ちゃんに出会った時、この世界のお日さまは高かった。
それからノンストップの展開に圧倒されて眠気や空腹が麻痺していたけど、勇芽ちゃんが世界を救ったとかで緊張が和らいで空腹や眠気が戻ってきたのかな。
「お腹減った」
わたしは不満をもらしました。
勇芽ちゃんがブレザーのポケットから銀紙にくるまれたスティック状の何かを取り出しました。
「神樹の実。食べる?」
勇芽ちゃんがそう言って差し出した物を受け取って銀紙を剥がした。
銀紙の中には白い消しゴムみたいな触感のなにかが入っていた。
恐る恐る口に入れるとモッサリでネチャーでプルンな食感がしたけど、味が全くしなかった。
苦いとか辛いとかがなくてお月見団子みたいに無味無臭だった。そして食感がとにかく変だった。
『神樹の実。一つで人が一日に必要な栄養素の半分が取れる』
サンキュー、ヘスティアさん。
すごいのは分かったけどまた食べたいとは思わない味だな。
「ソレはハザマでもゲテモノでユウメイなアレじゃないか」
マガリさんがそう言った。これってやっぱりゲテモノなんだ。
「何言ってるのよマガリ。ガランの世界の豊かな大地を奪い合う争いを無くしたすごい実なのよ」
なんて勇芽ちゃんが熱く語っていたけどお腹が満たされて急に眠くなった。
おやすみなさい。
「おやすみなのだ」
カコちゃんがわたしの口を通じてそう言った。
夢を見た。なぜかこれがすぐに夢だと分かった。
立派なお城にわたしが誰か着物を着た美人な人と一緒にいた。そしてお城から一望できる城下町は蹂躙されていた。
ざっと百を超える人数で蹂躙していたのは、まるでおとぎ話に出てくる鬼みたいに角が生えた2mぐらいの巨漢たち。
巨漢たちを操っているぼろ切れを着た金髪の少女がいた。
彼女がどうやって巨漢を操っているかは分からないけど彼女が操っていると確信できた。
彼女は宙に浮いていた。マガリさんも宙に浮いていた。彼女はマガリさんにかぶりついた。
マガリさんが必死に抵抗するけど彼女はマガリさんを喰らうのをやめなかった。
わたしの息づかいが荒くなった。
マガリさん。マガリさん。マガリさん。マガリさん。マガリさん。マガリさん。
頭が回らなくなった。
「マガリさん」
わたしは叫んだ。
目の前にはマガリさん、勇芽ちゃんがいた。
今わたしたちは石造りの建物にいるようだ。
夢の途中から現実と区別が付かなくなっていた。
呼吸がさだまらず息を吸う度肩が上がる。
「Ms.高槻。どんなユメをミたんだい?」
マガリさんの声は優しかった。でも、正直にマガリさんが食べられそうでしたなんて言うのは躊躇われた。
『ワガハイが取り憑いている影響で予知夢を見たのだろう』
カコちゃんの声が頭に響いた。
「なんでもない」
わたしは深呼吸して言った。
「十時間も寝てたけどどれくらい寝てないんだ?」
と、勇芽ちゃんが言った。
えっ、わたしそんなに寝てたの!
まあ、そんなものか。
「えっと、どれくらいだろう」
わたしはそんな風に濁して答えました。
「まあ、世界を超えると時間の感覚が狂うからな」
まあ、時差とかすごいもんね。
『ちなみにワガハイは太陽の位置と日没や日の出までの時間や方角を完璧に把握できるのだ』
カコちゃんのその力が役に立つのか立たないのかいまいち分からなかった。
「で、ここどこ?」
わたしは気になった。
『ハザマの農業区画です』
「ハザマの農業区画だ」
ヘスティアさんと勇芽ちゃんが同時に教えてくれた。
「まあ、この間は私たちも寝てたね」
勇芽ちゃんも寝てたらしい。
「おー、起きたか」
赤青緑白黒黄桃紫橙などの原色で染まった布に身を包んだ見てるだけで目が痛くなる男の人がそんなことを言った。
「あなたが神成戦士が予言した世界を救う鍵なまゆみっちね」
その後ろから現れた全身の服の色がうごめいているこれまた見てるだけで目が痛くなる女の人がわたしにそんなことを言った。
まあ、まったくもって状況はその通りなのでうなずいた。
見てるだけで目が痛くなる二人は性別が違うのに瓜二つだった。兄弟や双子なのかな。
「こいつはニジ。俺はスケ」
「こいつはスケっち。あたいはニジ」
二人は互いを親指で指しながら言った。息ぴったりだ。
女の人がニジさんで、男の人がスケさんか。紛らわしいから気をつけないと。
「飯にするか?」
男の方のスケさんがわたしに聞いた。
「ねえ、まゆみっち。起きてから食事までになにかする習慣はある?」
女の方のニジさんがわたしに聞いた。
「あっ、お風呂に入りたいです」
わたしは昨日というかマガリさんと会った日の朝からお風呂に入っていなかったのでお願いすることにした。
「寝起きすぐに?ああうん、分かったまゆみっち」
ニジさんが複雑な顔をした。
どこからともなくニジさんの右手に紙が握られていた。
紙をニジさんが掲げるとニジさんの後ろに扉が出てきた。
「それって勇芽ちゃんと同じ」
今のニジさんの紙が勇芽ちゃんやガランさんがたまに使っていた不思議な紙にそっくりだった。
「ああ、ニジとスケが作ったの。この装置」
勇芽ちゃんから、さらっと意外な情報が出てきた。
あれって装置を使う物だったんだ。
『はい』
サンキュー、ヘスティアさん。
そしてニジさん、スケさんはすごい人なんだ。
『すごい人なのだ』
頭の中で聞こえたカコちゃんの声は無視した。
ニジさんが扉を開けてわたしに入るよう促した。
扉の先は浴場であることだけは確かな空間でした。
真夜中の暗さに満月と提灯で照らされた満開の桜。
たくさんのマーライオンから湯が注がれる小さな家ぐらいのサイズの大理石の露天風呂。遠くで光っている30mはある巨大な人形。
「なにこれ!?」
統一感のなさにわたしは思わず叫んでしまった。
『破戒神。二十体建造されて五日で人類の総人口を八割まで減らした忌むべき兵器。全長80mで周囲を毒素で汚染する』
サンキュー、……ヘスティアさん。
なんでそんな危険な物がハザマにあるの?ねえ、間違って暴れたりとかしないよね。
『コアパイロット不在の為、破戒神は作動しません』
ヘスティアさん、コアパイロットって何?
『コアパイロット。全身に薬物を投与し処理速度を限界まで上げられたパイロット。精神が汚染され数秒で廃人になる』
怖いよ、ヘスティアさん。
「まさか。いや、なるほどなのだ」
カコちゃんがわたしから離れて意味深な事を言った。
「どうでしょうか?まゆみっち」
ニジさんが風呂場で背泳ぎしながら言った。
隅っこにあった二つの竹の籠にあのカラフルな服が入れてあった。ニジさん脱ぐの早いな。
「なるほど、寝起き直後に湯に浸かることで血が速くなり頭が冴えるという知恵なのか」
スケさんがニジさんの横で背泳ぎしながら言った。
大事なところとかは幸いなことに湯と湯気で見られなかった。
あれっ、なんで男の人が入って……
ここ男湯?いやニジさんは女性。つまり……
この浴場は混浴だ。
「ちょっと聞きたいことがあるのだ」
カコちゃんもスケさん、ニジさんと背泳ぎで併走?じゃなくて併泳し始めた。
三人でなにやら泳ぎながら話していたが聞き取れなかった。
「どうした?入らないのか?」
勇芽ちゃんもしれっと湯に浸かっていた。
ゴーグルをつけた全裸ってなんか変な感じ。
「ここ混浴なんですね」
わたしは風呂に入る気が完全に削がれてしまった。
わたしが思ってたお風呂は一畳ぐらいのサイズのもので、どこの学校だか知らないけど全校生徒が浸かれるようなものじゃないし、混浴だということは想定さえしていなかった。
「あっ、言われてみればそうね」
勇芽ちゃん、なにそのリアクション。
「ここに客を入れるのは初めてだったから意識したことなかったの」
う~ん、どんな顔すればいいのかな。
「まあ真弓、入った入った」
でも、なあ。
「Ms.高槻。ハイらないのかい?」
マガリさんも入ってる!!
えっ、マガリさんも全裸!
えっ、マガリさんって男?女?
マガリさんはどっちなの?確か、人造人間だったっけ。
「そういえばマガリさんって男なの?女なの?」
そんな言葉が、つい口を出た。
「ああ、Ms.高槻。ボクには性別というモノがナいのサ」
えっ、マガリさんが無性別ってどういうことなの?
「ボクのウみのオヤが生殖機能をツけてくれなかったのサ」
なんか、この浴場に入ってから重い話がポンポン出てくるな。
まあ、いいか。
あっ、そういえばこのお風呂に入る前に体洗わなくていいのかな?
「あのー、入る前に体を洗ったりとかはしなくていいんですか?」
「ああ、えっと、ここのお水は特別だから」
えっ、勇芽ちゃんどういうこと?
『不浄の水。異物が混ざると結晶化して沈殿させることで正常な状態を保つ』
サンキュー、ヘスティアさん。
やっぱりハザマの技術はすごいな。
で、お風呂に入ると言うことはマガリさんの前で全裸になるということだ。マガリさんが男の人じゃないというのは分かったけどそれでもマガリさんの前で服を脱いで柔肌を露わにするのは抵抗がある。
マガリさんに生殖機能がないということは肉欲もないのだろうか?
でも、いくら考えても恥ずかしさは消えない。
「ああ、マガリの前で着替えるのが恥ずかしいのか」
勇芽ちゃんのゴーグルから青の光が出てわたしの周りをぐるぐる包んだ。
どこからともなくなにかが落ちてきた。
「ヘスティアに真弓の体型を調べさせて水着を作らせたの」
「ありがとうございます」
と青の光越しにお辞儀して服を脱いで畳んで水着に着替えた。
紺の地味な水着だった。極上の肌触りとフィット感で初めて着たとは思えないほど肌に馴染んだ。
ヘスティアさんを外すのは少々心細いけれど風呂だし外していいかな。
バイバイ、ヘスティアさん。
『また会いましょう』
着替え終わったので青い光に触れると指がすり抜けた。
わたしは目を閉じて青い光を通り抜けた。
「なにそのアザ。大丈夫?痛くない?」
わたしの水着を見るなり勇芽ちゃんがそんな事を言った。
「は、はぁ」
なんて相づちを打った。
「これはそうとう長い間、日常的に暴力を受けてきた感じだから、虐待?もしそうなら最低ね」
勇芽ちゃんがそういうので改めて全身を見てみる。
ああ、父さんに叩かれた痕か。腹部とか肩とかふくらはぎとか青くなってる。
まあ、いいか。考えても仕方ないし。
「ああ、酷い傷。まゆみっち。治したげる」
ニジさん、スケさん、カコちゃんがクロールでこっちに戻って来た。
ニジさんの口から黄色い煙が出てわたしにまとわりついた。
全身がこそばゆい。体中を掻き毟りたい。でも、少し気持ちいい。
痒みはほどなくして収まった。
「どうだい?まゆみっち。これがあたいのチ・カ・ラ」
ニジさんのしたり顔に少しモヤモヤしつつ自分の体を改めて見下ろした。わたしの体から青いアザは跡形もなく消え失せていた。
「あははは。ありがとうございます。ニジさん」
わたしは笑いながら入浴した。
このお風呂。天然の水を利用してなさそうだから温泉ではなく客人を入れたことがないらしいから銭湯でもない。
つまりものすごく豪華なお風呂という事だ。
「良い湯だ」
目を瞑って脱力した。
ちょっとばかし深いことを除けばこのお風呂に不満はない。
少し尻を浮かせてもあごまで湯が当たるのだ。
まあ、大した問題ではなく極楽極楽。
ちょっとお風呂の底が不思議な触感をしている。
まるで厚くてすべすべのゴムで出来ているみたいだ。
ちなみにお風呂の側面は普通に石だった。
「ねえ、この底」
「ああ、汚れが固まってそうなってるの」
ああ、ヘスティアさんが言ってたな。
汚くないのかな?まあ、いいや。
カコちゃんたちみたいに泳ぐ気は起きなかった。
このお風呂はあまりに大きすぎて目を瞑らないとリラックスできない。
まぶたを閉じてゆっくり息を吐く。
極楽極楽。
「まゆみっち。まがりっち。ご飯作ってるね」
そんなニジさんの声がした。ちゃっぷちゃっぷとお風呂からあがる音も聞こえた。
なんとなく目を開けてみた。
マガリさんと勇芽ちゃんが並んでいた。
二人は言葉を交わさずとも親密そうに見えた。
「マガリさんと勇芽ちゃんって前にも会ったことあるんですか?」
胸が少し痛くなってそんな言葉が口から出た。
「ニドな」
マガリさんがそう言った。
「ああ、あの頃のマガリたちは小さくて可愛かったな」
勇芽ちゃんの言葉を聞いていると頭が絞られるように感じた。
その感覚に耐えられずわたしは立ち上がり浴槽から出た。
不満をどう表せばいいのか分からないまま水着から着替えた。
いつの間にか体は乾いていた。
ヘスティアさんを付けるのが何となく嫌だった。
だから付けなかった。
「猫被り」
カコちゃんがわたしの中に入ろうとしたが何となく不快なので心を閉ざした。具体的にいうと全身の筋肉を引き締めた。
「弾かれたのだ」
カコちゃんはそう言いながら全裸で床の上で横になった。
わたしは扉から元の石造の部屋に戻った。
戻って気が付いたことが一つある。
自然に、ナチュラルに、わたしの全裸をマガリさんに見せてしまったという事だ。
考えても仕方のないこととはいえ
恥ずかしい
恥ずかしすぎる
恥ずかしい
五七五できた!
わーい、わーい……
恥ずかしい
現実逃避で
消えないな
五七五じゃないけど出来た……
「まゆみっち。どうしたの?」
ニジさんがわたしの顔をのぞき込みながら額に手を当てた。
「なんでもないですよ」
どうしても言葉が重くなってしまう。
ちょっと今は会話したくないな。
「そっか。ならいいけど。あっ、そうだまゆみっち串物平気?なにか体質宗教その他で食べられないものないよね?」
わたしは首を縦に振った。
「ごめんね。ジェスチャーは翻訳魔法にまだ対応してないの」
「あっ、そうなんですか。串物なんでも大丈夫です」
なぜだか、さっきまで意味も分からず怒っていたことが急に馬鹿らしくなった。
「そっか、よかった」
ニジさんはそう言って奥に戻った。
わたしは何となく着いていった。
そこには丸い木のテーブルに串が七本置いてあった。
「ああ真弓。そういえば別の世界に行こうとするとはなにがあったんだ?」
スケさんがテーブルの前に座りながら聞いてきた。
なんて答えればいいのか分からなかった。
「私たちみたいに絶対にその世界では叶わない恋でもしたのか?それともシマイやヌナさんみたいに世界最後の生き残りなのか?異世界人に故郷を焼かれたから仇討ちしようってのか?」
スケさんが例として挙げた例のどれとも違うちっぽけな理由。
わたしはなんとなく言語化できない理由で世界から出た。
父さんが心配してるか、とかどうでもよかった。
ただマガリさんと一緒にいると居心地がいいから別の世界に行った。
カコちゃんにわたしが世界を救う鍵だとか言われたのは正直ピンときていない。嬉しいとか誇らしいとか重圧を感じているとかそれ以前の問題だ。
まあ、でも今までのことは全部夢で実は異世界なんてなくて今自分の体は病院のベッドで意識不明みたいなものでもいいかななんて思っている。
「ちょっと、すけっち。そういうデリケートなことは聞いちゃ駄目でしょ。そういう質問で嫌なこと思い出して会話もままならない状態になっちゃうかもしれないでしょ」
ニジさんの台詞は妙に生々しかった。
そして大したことのない理由で世界を越えたわたしが罪深く感じられた。
「串にしたんだ」
声をした方を向くとカコちゃんと勇芽ちゃん、マガリさんがいた。
「さあさ座った座った」
ニジさんに促されるままわたしたちは丸テーブルに座った。
「いただきます」
マガリさん以外の人はそう言ってから食べ始めた。
マガリさんはなにも言わずに食べ始めた。
一番上は謎のお肉。脂身押さえ目の塩味。
その次はプルプルしたゼリーでシャキシャキした野菜を固めたもの。
この辺りで串を上から貪るのは出来なくなった。なので横からかじりついて上へ持ち上げた。
次は練り物。味はよく分からない。
最後はパンみたいな食感の甘いなにかだった。
「ごちそうさま」
周りを見るとわたしが食べ終わるのが一番最後だったみたいだ。
「星のご加護を」
ニジさんとスケさんがわたしたちを見てそんな事を言った。
「じゃあ、行くわ。星のご加護を」
勇芽ちゃんがそう言うと勇芽ちゃんのゴーグルから界欠が作られた。
わたしたちは世界を越えてニジさん、スケさんと離れた。
「真弓。もう被ってはくれないのか?」
カコちゃんがそんな事を聞いてきた。
満腹になって不思議なことに怒りも晴れたので首を横に振ろうとした。
でも、ジェスチャーは翻訳できないので止めた。
「別にいいよ。さっきはごめんね」
わたしがそう言葉にするとカコちゃんは笑った。
「猫被り」
カコちゃんがわたしに取り憑いた。
そうだヘスティアさんも付けよう。
『またお会いしましたね』
勇芽ちゃんはそう言って左手に持っているハサミを開いた。
「待つのだ、勇芽。その頭のを取って置いた方が良いと思うのだ」
ああ、まあ言われてみれば。
勇芽ちゃんがアレスの兜を付けたままほっぺの辺りを撫でた。
「あっ、アレスの兜をつけているの忘れてた。つけ心地いいのよね」
勇芽ちゃんがそう言うとアレスの兜が消えた。
『アレスの兜は封印されました』
サンキュー、ヘスティアさん。
「ワガハイもいるだけで目立つからな。猫かぶり《キャットフード》」
カコちゃんがそう言うと姿が消えた。
なんとなく自分の頭の上を触るとまた毛皮のフードが出来ていた。
「ワガハイは誰かの体を乗っ取ることが出来るのだ。今は真弓の体を借りているのだ。これで真弓を大抵の危険から守れるのだ」
わたしの口が勝手に動いて、わたしの声で勝手にカコちゃんがしゃべった。
「じゃあ行くよ」
勇芽ちゃんはそう言って左手の開いたハサミを閉じた。
またベルファと不気味に鳴ってこの世界で最初に見た一面の花畑に戻ってきた。
『瞬間移動する際の余剰エネルギーが音になっています』
サンキュー、ヘスティアさん。
ああ、ベルファって勇芽ちゃんがハサミで瞬間移動する時の音だったんだ。でもマガリさんが瞬間移動する時は無音だったような。
「この花畑の管理人のおじいちゃんが今のこの世界の主人公よ」
勇芽ちゃんがそう言った直後から急に空腹と睡魔がわたしを襲った。
あれっ、わたし、どれくらい前に何を食べたっけ?
えっとガランさんのアンコ抹茶お茶が怖いシュークリームことハザマンジュウを少し前に食べて、その前がレトランさんのあの肉まんパスタで……いや、その後学食を食べた記憶があるような無いような。
世界を越えると時間感覚がおかしくなるな。
あの恵鯉香ちゃんと行って閉館まで粘ったあそこの図書館の閉館時間は二十時でその後家に帰って父さんに思いの丈をぶつけて界穴を開いた。そしてこの世界にやってきて勇芽ちゃんに出会った時、この世界のお日さまは高かった。
それからノンストップの展開に圧倒されて眠気や空腹が麻痺していたけど、勇芽ちゃんが世界を救ったとかで緊張が和らいで空腹や眠気が戻ってきたのかな。
「お腹減った」
わたしは不満をもらしました。
勇芽ちゃんがブレザーのポケットから銀紙にくるまれたスティック状の何かを取り出しました。
「神樹の実。食べる?」
勇芽ちゃんがそう言って差し出した物を受け取って銀紙を剥がした。
銀紙の中には白い消しゴムみたいな触感のなにかが入っていた。
恐る恐る口に入れるとモッサリでネチャーでプルンな食感がしたけど、味が全くしなかった。
苦いとか辛いとかがなくてお月見団子みたいに無味無臭だった。そして食感がとにかく変だった。
『神樹の実。一つで人が一日に必要な栄養素の半分が取れる』
サンキュー、ヘスティアさん。
すごいのは分かったけどまた食べたいとは思わない味だな。
「ソレはハザマでもゲテモノでユウメイなアレじゃないか」
マガリさんがそう言った。これってやっぱりゲテモノなんだ。
「何言ってるのよマガリ。ガランの世界の豊かな大地を奪い合う争いを無くしたすごい実なのよ」
なんて勇芽ちゃんが熱く語っていたけどお腹が満たされて急に眠くなった。
おやすみなさい。
「おやすみなのだ」
カコちゃんがわたしの口を通じてそう言った。
夢を見た。なぜかこれがすぐに夢だと分かった。
立派なお城にわたしが誰か着物を着た美人な人と一緒にいた。そしてお城から一望できる城下町は蹂躙されていた。
ざっと百を超える人数で蹂躙していたのは、まるでおとぎ話に出てくる鬼みたいに角が生えた2mぐらいの巨漢たち。
巨漢たちを操っているぼろ切れを着た金髪の少女がいた。
彼女がどうやって巨漢を操っているかは分からないけど彼女が操っていると確信できた。
彼女は宙に浮いていた。マガリさんも宙に浮いていた。彼女はマガリさんにかぶりついた。
マガリさんが必死に抵抗するけど彼女はマガリさんを喰らうのをやめなかった。
わたしの息づかいが荒くなった。
マガリさん。マガリさん。マガリさん。マガリさん。マガリさん。マガリさん。
頭が回らなくなった。
「マガリさん」
わたしは叫んだ。
目の前にはマガリさん、勇芽ちゃんがいた。
今わたしたちは石造りの建物にいるようだ。
夢の途中から現実と区別が付かなくなっていた。
呼吸がさだまらず息を吸う度肩が上がる。
「Ms.高槻。どんなユメをミたんだい?」
マガリさんの声は優しかった。でも、正直にマガリさんが食べられそうでしたなんて言うのは躊躇われた。
『ワガハイが取り憑いている影響で予知夢を見たのだろう』
カコちゃんの声が頭に響いた。
「なんでもない」
わたしは深呼吸して言った。
「十時間も寝てたけどどれくらい寝てないんだ?」
と、勇芽ちゃんが言った。
えっ、わたしそんなに寝てたの!
まあ、そんなものか。
「えっと、どれくらいだろう」
わたしはそんな風に濁して答えました。
「まあ、世界を超えると時間の感覚が狂うからな」
まあ、時差とかすごいもんね。
『ちなみにワガハイは太陽の位置と日没や日の出までの時間や方角を完璧に把握できるのだ』
カコちゃんのその力が役に立つのか立たないのかいまいち分からなかった。
「で、ここどこ?」
わたしは気になった。
『ハザマの農業区画です』
「ハザマの農業区画だ」
ヘスティアさんと勇芽ちゃんが同時に教えてくれた。
「まあ、この間は私たちも寝てたね」
勇芽ちゃんも寝てたらしい。
「おー、起きたか」
赤青緑白黒黄桃紫橙などの原色で染まった布に身を包んだ見てるだけで目が痛くなる男の人がそんなことを言った。
「あなたが神成戦士が予言した世界を救う鍵なまゆみっちね」
その後ろから現れた全身の服の色がうごめいているこれまた見てるだけで目が痛くなる女の人がわたしにそんなことを言った。
まあ、まったくもって状況はその通りなのでうなずいた。
見てるだけで目が痛くなる二人は性別が違うのに瓜二つだった。兄弟や双子なのかな。
「こいつはニジ。俺はスケ」
「こいつはスケっち。あたいはニジ」
二人は互いを親指で指しながら言った。息ぴったりだ。
女の人がニジさんで、男の人がスケさんか。紛らわしいから気をつけないと。
「飯にするか?」
男の方のスケさんがわたしに聞いた。
「ねえ、まゆみっち。起きてから食事までになにかする習慣はある?」
女の方のニジさんがわたしに聞いた。
「あっ、お風呂に入りたいです」
わたしは昨日というかマガリさんと会った日の朝からお風呂に入っていなかったのでお願いすることにした。
「寝起きすぐに?ああうん、分かったまゆみっち」
ニジさんが複雑な顔をした。
どこからともなくニジさんの右手に紙が握られていた。
紙をニジさんが掲げるとニジさんの後ろに扉が出てきた。
「それって勇芽ちゃんと同じ」
今のニジさんの紙が勇芽ちゃんやガランさんがたまに使っていた不思議な紙にそっくりだった。
「ああ、ニジとスケが作ったの。この装置」
勇芽ちゃんから、さらっと意外な情報が出てきた。
あれって装置を使う物だったんだ。
『はい』
サンキュー、ヘスティアさん。
そしてニジさん、スケさんはすごい人なんだ。
『すごい人なのだ』
頭の中で聞こえたカコちゃんの声は無視した。
ニジさんが扉を開けてわたしに入るよう促した。
扉の先は浴場であることだけは確かな空間でした。
真夜中の暗さに満月と提灯で照らされた満開の桜。
たくさんのマーライオンから湯が注がれる小さな家ぐらいのサイズの大理石の露天風呂。遠くで光っている30mはある巨大な人形。
「なにこれ!?」
統一感のなさにわたしは思わず叫んでしまった。
『破戒神。二十体建造されて五日で人類の総人口を八割まで減らした忌むべき兵器。全長80mで周囲を毒素で汚染する』
サンキュー、……ヘスティアさん。
なんでそんな危険な物がハザマにあるの?ねえ、間違って暴れたりとかしないよね。
『コアパイロット不在の為、破戒神は作動しません』
ヘスティアさん、コアパイロットって何?
『コアパイロット。全身に薬物を投与し処理速度を限界まで上げられたパイロット。精神が汚染され数秒で廃人になる』
怖いよ、ヘスティアさん。
「まさか。いや、なるほどなのだ」
カコちゃんがわたしから離れて意味深な事を言った。
「どうでしょうか?まゆみっち」
ニジさんが風呂場で背泳ぎしながら言った。
隅っこにあった二つの竹の籠にあのカラフルな服が入れてあった。ニジさん脱ぐの早いな。
「なるほど、寝起き直後に湯に浸かることで血が速くなり頭が冴えるという知恵なのか」
スケさんがニジさんの横で背泳ぎしながら言った。
大事なところとかは幸いなことに湯と湯気で見られなかった。
あれっ、なんで男の人が入って……
ここ男湯?いやニジさんは女性。つまり……
この浴場は混浴だ。
「ちょっと聞きたいことがあるのだ」
カコちゃんもスケさん、ニジさんと背泳ぎで併走?じゃなくて併泳し始めた。
三人でなにやら泳ぎながら話していたが聞き取れなかった。
「どうした?入らないのか?」
勇芽ちゃんもしれっと湯に浸かっていた。
ゴーグルをつけた全裸ってなんか変な感じ。
「ここ混浴なんですね」
わたしは風呂に入る気が完全に削がれてしまった。
わたしが思ってたお風呂は一畳ぐらいのサイズのもので、どこの学校だか知らないけど全校生徒が浸かれるようなものじゃないし、混浴だということは想定さえしていなかった。
「あっ、言われてみればそうね」
勇芽ちゃん、なにそのリアクション。
「ここに客を入れるのは初めてだったから意識したことなかったの」
う~ん、どんな顔すればいいのかな。
「まあ真弓、入った入った」
でも、なあ。
「Ms.高槻。ハイらないのかい?」
マガリさんも入ってる!!
えっ、マガリさんも全裸!
えっ、マガリさんって男?女?
マガリさんはどっちなの?確か、人造人間だったっけ。
「そういえばマガリさんって男なの?女なの?」
そんな言葉が、つい口を出た。
「ああ、Ms.高槻。ボクには性別というモノがナいのサ」
えっ、マガリさんが無性別ってどういうことなの?
「ボクのウみのオヤが生殖機能をツけてくれなかったのサ」
なんか、この浴場に入ってから重い話がポンポン出てくるな。
まあ、いいか。
あっ、そういえばこのお風呂に入る前に体洗わなくていいのかな?
「あのー、入る前に体を洗ったりとかはしなくていいんですか?」
「ああ、えっと、ここのお水は特別だから」
えっ、勇芽ちゃんどういうこと?
『不浄の水。異物が混ざると結晶化して沈殿させることで正常な状態を保つ』
サンキュー、ヘスティアさん。
やっぱりハザマの技術はすごいな。
で、お風呂に入ると言うことはマガリさんの前で全裸になるということだ。マガリさんが男の人じゃないというのは分かったけどそれでもマガリさんの前で服を脱いで柔肌を露わにするのは抵抗がある。
マガリさんに生殖機能がないということは肉欲もないのだろうか?
でも、いくら考えても恥ずかしさは消えない。
「ああ、マガリの前で着替えるのが恥ずかしいのか」
勇芽ちゃんのゴーグルから青の光が出てわたしの周りをぐるぐる包んだ。
どこからともなくなにかが落ちてきた。
「ヘスティアに真弓の体型を調べさせて水着を作らせたの」
「ありがとうございます」
と青の光越しにお辞儀して服を脱いで畳んで水着に着替えた。
紺の地味な水着だった。極上の肌触りとフィット感で初めて着たとは思えないほど肌に馴染んだ。
ヘスティアさんを外すのは少々心細いけれど風呂だし外していいかな。
バイバイ、ヘスティアさん。
『また会いましょう』
着替え終わったので青い光に触れると指がすり抜けた。
わたしは目を閉じて青い光を通り抜けた。
「なにそのアザ。大丈夫?痛くない?」
わたしの水着を見るなり勇芽ちゃんがそんな事を言った。
「は、はぁ」
なんて相づちを打った。
「これはそうとう長い間、日常的に暴力を受けてきた感じだから、虐待?もしそうなら最低ね」
勇芽ちゃんがそういうので改めて全身を見てみる。
ああ、父さんに叩かれた痕か。腹部とか肩とかふくらはぎとか青くなってる。
まあ、いいか。考えても仕方ないし。
「ああ、酷い傷。まゆみっち。治したげる」
ニジさん、スケさん、カコちゃんがクロールでこっちに戻って来た。
ニジさんの口から黄色い煙が出てわたしにまとわりついた。
全身がこそばゆい。体中を掻き毟りたい。でも、少し気持ちいい。
痒みはほどなくして収まった。
「どうだい?まゆみっち。これがあたいのチ・カ・ラ」
ニジさんのしたり顔に少しモヤモヤしつつ自分の体を改めて見下ろした。わたしの体から青いアザは跡形もなく消え失せていた。
「あははは。ありがとうございます。ニジさん」
わたしは笑いながら入浴した。
このお風呂。天然の水を利用してなさそうだから温泉ではなく客人を入れたことがないらしいから銭湯でもない。
つまりものすごく豪華なお風呂という事だ。
「良い湯だ」
目を瞑って脱力した。
ちょっとばかし深いことを除けばこのお風呂に不満はない。
少し尻を浮かせてもあごまで湯が当たるのだ。
まあ、大した問題ではなく極楽極楽。
ちょっとお風呂の底が不思議な触感をしている。
まるで厚くてすべすべのゴムで出来ているみたいだ。
ちなみにお風呂の側面は普通に石だった。
「ねえ、この底」
「ああ、汚れが固まってそうなってるの」
ああ、ヘスティアさんが言ってたな。
汚くないのかな?まあ、いいや。
カコちゃんたちみたいに泳ぐ気は起きなかった。
このお風呂はあまりに大きすぎて目を瞑らないとリラックスできない。
まぶたを閉じてゆっくり息を吐く。
極楽極楽。
「まゆみっち。まがりっち。ご飯作ってるね」
そんなニジさんの声がした。ちゃっぷちゃっぷとお風呂からあがる音も聞こえた。
なんとなく目を開けてみた。
マガリさんと勇芽ちゃんが並んでいた。
二人は言葉を交わさずとも親密そうに見えた。
「マガリさんと勇芽ちゃんって前にも会ったことあるんですか?」
胸が少し痛くなってそんな言葉が口から出た。
「ニドな」
マガリさんがそう言った。
「ああ、あの頃のマガリたちは小さくて可愛かったな」
勇芽ちゃんの言葉を聞いていると頭が絞られるように感じた。
その感覚に耐えられずわたしは立ち上がり浴槽から出た。
不満をどう表せばいいのか分からないまま水着から着替えた。
いつの間にか体は乾いていた。
ヘスティアさんを付けるのが何となく嫌だった。
だから付けなかった。
「猫被り」
カコちゃんがわたしの中に入ろうとしたが何となく不快なので心を閉ざした。具体的にいうと全身の筋肉を引き締めた。
「弾かれたのだ」
カコちゃんはそう言いながら全裸で床の上で横になった。
わたしは扉から元の石造の部屋に戻った。
戻って気が付いたことが一つある。
自然に、ナチュラルに、わたしの全裸をマガリさんに見せてしまったという事だ。
考えても仕方のないこととはいえ
恥ずかしい
恥ずかしすぎる
恥ずかしい
五七五できた!
わーい、わーい……
恥ずかしい
現実逃避で
消えないな
五七五じゃないけど出来た……
「まゆみっち。どうしたの?」
ニジさんがわたしの顔をのぞき込みながら額に手を当てた。
「なんでもないですよ」
どうしても言葉が重くなってしまう。
ちょっと今は会話したくないな。
「そっか。ならいいけど。あっ、そうだまゆみっち串物平気?なにか体質宗教その他で食べられないものないよね?」
わたしは首を縦に振った。
「ごめんね。ジェスチャーは翻訳魔法にまだ対応してないの」
「あっ、そうなんですか。串物なんでも大丈夫です」
なぜだか、さっきまで意味も分からず怒っていたことが急に馬鹿らしくなった。
「そっか、よかった」
ニジさんはそう言って奥に戻った。
わたしは何となく着いていった。
そこには丸い木のテーブルに串が七本置いてあった。
「ああ真弓。そういえば別の世界に行こうとするとはなにがあったんだ?」
スケさんがテーブルの前に座りながら聞いてきた。
なんて答えればいいのか分からなかった。
「私たちみたいに絶対にその世界では叶わない恋でもしたのか?それともシマイやヌナさんみたいに世界最後の生き残りなのか?異世界人に故郷を焼かれたから仇討ちしようってのか?」
スケさんが例として挙げた例のどれとも違うちっぽけな理由。
わたしはなんとなく言語化できない理由で世界から出た。
父さんが心配してるか、とかどうでもよかった。
ただマガリさんと一緒にいると居心地がいいから別の世界に行った。
カコちゃんにわたしが世界を救う鍵だとか言われたのは正直ピンときていない。嬉しいとか誇らしいとか重圧を感じているとかそれ以前の問題だ。
まあ、でも今までのことは全部夢で実は異世界なんてなくて今自分の体は病院のベッドで意識不明みたいなものでもいいかななんて思っている。
「ちょっと、すけっち。そういうデリケートなことは聞いちゃ駄目でしょ。そういう質問で嫌なこと思い出して会話もままならない状態になっちゃうかもしれないでしょ」
ニジさんの台詞は妙に生々しかった。
そして大したことのない理由で世界を越えたわたしが罪深く感じられた。
「串にしたんだ」
声をした方を向くとカコちゃんと勇芽ちゃん、マガリさんがいた。
「さあさ座った座った」
ニジさんに促されるままわたしたちは丸テーブルに座った。
「いただきます」
マガリさん以外の人はそう言ってから食べ始めた。
マガリさんはなにも言わずに食べ始めた。
一番上は謎のお肉。脂身押さえ目の塩味。
その次はプルプルしたゼリーでシャキシャキした野菜を固めたもの。
この辺りで串を上から貪るのは出来なくなった。なので横からかじりついて上へ持ち上げた。
次は練り物。味はよく分からない。
最後はパンみたいな食感の甘いなにかだった。
「ごちそうさま」
周りを見るとわたしが食べ終わるのが一番最後だったみたいだ。
「星のご加護を」
ニジさんとスケさんがわたしたちを見てそんな事を言った。
「じゃあ、行くわ。星のご加護を」
勇芽ちゃんがそう言うと勇芽ちゃんのゴーグルから界欠が作られた。
わたしたちは世界を越えてニジさん、スケさんと離れた。
「真弓。もう被ってはくれないのか?」
カコちゃんがそんな事を聞いてきた。
満腹になって不思議なことに怒りも晴れたので首を横に振ろうとした。
でも、ジェスチャーは翻訳できないので止めた。
「別にいいよ。さっきはごめんね」
わたしがそう言葉にするとカコちゃんは笑った。
「猫被り」
カコちゃんがわたしに取り憑いた。
そうだヘスティアさんも付けよう。
『またお会いしましたね』
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