異世界人の主人公巡り ~そんなに世界は素晴らしいかい?~
十一の世界でサンキュー、ヘスティアさん。
「じゃあガラン。暇?」
勇芽ちゃんがカコちゃんに予知の内容を聞き終わるとガランさんに話を振った。
「ああ、準備は済んだのか。待てよ、カコ様がいれば俺がいなくてもいいんじゃないか?」
ガランさんも来るみたいだ。
「ガラン。言い忘れていたが敬称略でいいのだ。ワガハイは真弓に憑くからガランは勇芽に着くのだ」
カコちゃんはわたしに憑くみたいだ。
そういえばなんて言ってるか漢字まで分かるけどどうなってるの?
『翻訳魔法の機能の一つです』
サンキュー、ヘスティアさん。
「神様に敬称略ってのもな。信心深いので」
へー、カコちゃんって神様なんだ。
『神成戦士。人の動物への信仰から生まれた精霊と契約して一体化した存在』
サンキュー、ヘスティアさん。
精霊と神様は大体同じってことかな?
「まあ、好きに呼べばいいのだ」
「分かったカコ様」
ガランのカコちゃんへの呼び方が決まったようだ。
「じゃあ、行くわ」
「ああ、勇芽。元気でね」
勇芽ちゃんがそう言うとミーヨンさんが名残惜しそうにそう言った。
「ミーヨンもね」
勇芽ちゃんは笑顔でミーヨンさんにそう言い残すとスタスタと旧礼拝堂に向かった。
勇芽ちゃん、ガランさんに続いて旧礼拝堂の界穴に入って牢屋に戻った。
「さてと、私とガランが世界を救いに行ってくる。ヘスティアに中継させるからここで見ていろ」
ヘスティアさん経由で見せてくれるんだ。
あれでも、伝え曲げって……
「待って、勇芽ちゃん」
わたしの口が意識せず動いた。
「真弓?どうしたの」
勇芽ちゃんの表情が険しくなった。
「いっそ究極エネルギーを全部集めて願いを叶えちゃうとか駄目なんですか?」
そう、これが疑問だったのだ。なぜかヘスティアさんは答えてくれなかったし。
「不確定要素が多すぎる」
勇芽ちゃんの言葉で分かったような分からないような……
「究極エネルギーの制御はとても危険で取り返しが付かないから駄目なんだ」
ガランさんの説明分かりやすい。なるほど究極エネルギーは異世界人にとっての原子力みたいに制御不能の物なんだ。
勇芽ちゃんは左手の長くて白い手袋のチャックを開けた。
『呪い道具。主人公の幻想領域が独立して物に取り憑いた物』
ヘスティアさんが勇芽ちゃんの白い手袋をそう説明してくれた。
『チャックの先は幻想領域で構築された異空間に繋がっています』
サンキュー、ヘスティアさん。
勇芽ちゃんがチャックの先から杖を取り出して壁にすりすりした。
すると壁の杖が触れた部分に不気味な穴が開いた。
『幻想領域で空間をねじ曲げている』
サンキュー、ヘスティアさん。やっぱり幻想領域って万能だな。
穴の先は外に通じている。勇芽ちゃんはその穴から飛び降りた。
勇芽ちゃんを心配しようとしたらしたから勇芽ちゃんが下から上がっていった。
『浮煙の効果で浮遊しています』
サンキュー、ヘスティアさん。
すると蝙蝠さんが穴から出て勇芽ちゃんに着いていった。
『神衛戦士の能力で姿を変えています』
ヘスティアさん、どういうこと?確か神衛戦士ってガランさんのことだよね。あれっ、ガランさんが部屋にいない!
ヘスティアさんが視界の中央に映像を映してくれた。
その映像ではガランさんが蝙蝠さんに変わる瞬間が映っていた。
なるほど、理屈は分からないけどとにかくガランさんは蝙蝠さんに姿を変えられるという事かな?
ヘスティアさんが映像を切り替えた。
ローアングルから浮遊する勇芽ちゃんを映している映像だ。
リアルタイムかな?
『はい』
サンキュー、ヘスティアさん。
ヘスティアさんに中継させるってこういうことか。
たぶん、ガランさん目線だろうな。なんて目星をつけてみる。
この世界に来てすぐわたしと勇芽ちゃんを捕まえた青くて丸いのが出てきて勇芽ちゃんの道を塞いだ。
『捕縛用ドローン』
サンキュー、ヘスティアさん。へー、あの青くて丸いのは捕縛用ドローンっていうんだ。
勇芽ちゃんの頭が赤黒いなにかで覆われた。耳の辺りで細く短い触手がうねっていて気持ち悪い。
『アレスの兜。レーザービームを発射できるヘルメット』
サンキュー、ヘスティアさん。確かアレスってヘスティアの甥っ子だよね。絡み無いけど。
アレスの兜の耳の辺りに生えている短い触手と捕縛用ドローンの間に白い線が出来た。
そして捕縛用ドローンごと白い線は消えた。
何が起こったの?
『アレスの兜からビームが発射されました』
サンキュー、ヘスティアさん。
なるほど、ビームだもんね。光の速度で飛んでいくよね。
「異常を・確認・した」
なんて思っていたら勇芽ちゃんがあけた穴から捕縛用ドローンが一機出てきた。
ヘスティアさんが勇芽ちゃんの映っている画面を端に置いた。
そういえばなんで捕縛用ドローンの音声だけは元の音が聞こえるんだろう。教えてヘスティアさん。
『人間種以外が発する音は翻訳にラグが発生するためです』
サンキュー、ヘスティアさん。つまりオウム返しとか機会音声とか山彦とかは元の音も聞こえるって事かな。
ヘスティアさんが否定しないって事はそういうことなのだろう。
「こういうチョコマカしたのは苦手なのだ」
カコちゃんがそう言いながら捕縛用ドローンを両手に持った二つの三つ叉のなにかで突き刺した。
「カコちゃん、なにそれ?」
純粋に気になった。
「ああ、これはワガハイの武器の猫の爪なのだ」
カコちゃんはそう言うと両手の三つ叉を伸び縮みさせた。
「この通り伸ばしたり縮めたり自在に出し入れできるカコのメインウェポンなのだ」
カコちゃんがそう言うと猫の爪は跡形もなく消えた。
ヘスティアさんが勇芽ちゃんの画面を大きくした。
勇芽ちゃんはさっきの杖で壁にまた穴を開けていた。
壁の先には大きな銀のクワガタムシさんが二匹、いや三匹いた。
さすがに小学生ぐらいの大きさの虫は見ていて気持ち悪いな。
『虫型機兵。ビームを受け流す装甲と俊敏さが特徴。二本の角の中央から放たれるビームは強力』
サンキュー、ヘスティアさん。
勇芽ちゃんの体が段々と太くなった。上背が格段に大きくなり手を床に着いた。茶色い太い毛が全身に生えた。勇芽ちゃんの耳から白い何かが生えた。それは頭の先に延びた。
まるで牛さんみたいな姿に勇芽ちゃんは変わった。
『幻想具現化しました』
サンキュー、ヘスティアさん。
この牛さんが勇芽ちゃんの幻想具現化した姿なんだ。
ところでヘスティアさん、幻想具現化したら服とかはどこへ消えるのかな?
『幻想具現化は本人の衣服含む肉体を一時的に置き換えるのでその間、幻想領域内に保存されます』
サンキュー、ヘスティアさん。
牛さんの姿のまま勇芽ちゃんは虫型機兵に身を当てて粉砕した。
勇芽ちゃん、強いな。
その勢いのまま壁を壊して、勇芽ちゃんは牛の姿から人の姿に戻った。アレスの兜がじゃまで勇芽ちゃんの表情は見えない。
そのまま滑るように移動して女の人が眠る箱を勇芽ちゃんは刀で刺した。
勇芽ちゃんが刺した箱の上半分はガラスになっていた。
眠っていた人が蒼と黒の火に包まれた。
『幻想領域の痕跡そのものを消しています』
サンキュー、ヘスティアさん。あの人がこの世界の元主人公で、あの人が蘇るとみんな「いぇい」しか言えなくなるから、あの蒼い火であの人が蘇れなくして世界を救ったという事かな。
『一つだけ違います。伝え曲げが言わせる言葉は毎回違います』
サンキュー、ヘスティアさん。まあ、大体合ってて良かった。
「俺は必要なかったな」
ガランさんが蝙蝠さんのままそう言いました。
あれっ、ガランさんと勇芽ちゃんが同時に映っているということは少なくとも今はどっちも撮影していないということだ。
どういうことなの?
『撮影用小型ドローンを今は使っています』
サンキュー、ヘスティアさん。
さっきまではガランさんが撮っていたのかな。
『はい』
「私は冥界の管理人。死人をみだりに蘇らせて現世が乱れ終末が訪れぬよう監視する者」
勇芽ちゃんが刀を引き抜き納刀しながらそんな物騒なことを言った。
勇芽ちゃんの手元にはいつの間にか前も持っていたハサミがあった。
ベルファと前も聞いた不気味な音が鳴った。
ヘスティアの映像が消えた。
「修復」
そんな声が聞こえた。
声の方には勇芽ちゃんと蝙蝠から人間に戻っているガランさんがいた。
勇芽ちゃんはまだアレスの兜をつけていた。
するとアレスの兜から光が溢れて光ってる勇芽ちゃんが出てきた。
光っている勇芽ちゃんはアレスの兜やゴーグル、手袋、刀などを持っていなかった。
「影の私よ。ご苦労だった」
光ってる勇芽ちゃんがアレスの兜をつけている勇芽ちゃんにそう言った。
「えっ、勇芽ちゃんが二人!?」
わたしはそう言ってから開いた口が塞がらなかった。
「私は本当の池田勇芽。こっちの私は私の影」
勇芽ちゃんの名字って池田なんだ。なんか意外だな。
勇芽ちゃんが普段名字を名乗らないのはハザマでは名字がない人もいるからかな?
『はい』
サンキュー、ヘスティアさん。でも、だとしたら高槻って名乗るのやめた方がいいのかな。まあでも、これまで咎められなかったし、マガリさんはMs.高槻呼びだし今まで通りで大丈夫かな。
「ガラン。私の影がこんな茶番に付き合わせてゴメンね。今回のことは影の私に必ず埋め合わさせるから」
光っている勇芽ちゃんがガランに手を合わせて上目遣いで言った。
確かにガランさんはカメラマン以上の役割がなかったな。
「次にカコ様。影の私は世界の危機にどれくらい関わっているか知りたがっているの。教えてくれるなら教えてください」
光ってる勇芽ちゃんはガランさんに無視されつつ次はカコちゃんにこう話しかけた。
光ってない勇芽ちゃんの顔を覆っているアレスの兜の真ん中がおでこからあごまで割れた。頬骨の辺りにモーターがあったらしい。
ゴーグル越しの光ってない勇芽ちゃんの顔は疲れていた。
光ってない勇芽ちゃんがゴーグルを外すと光ってる勇芽ちゃんが光ってない勇芽ちゃんに吸い込まれた。
吸い込まれる直前、光ってる勇芽ちゃんが光ってない勇芽ちゃんに何かを言っていたように見えた。
「一体なんだったの?」
わたしは正直な感想を述べた。
「コホン、勇芽は消えた世界でただ一人生き残った関係で元主人公なんだ」
ガランさんがその辺りで言い淀んだ。
勇芽ちゃんは元主人公だったんだ。あと、自分より大きな魔力を持つ人間が全員死ねばどんな人間でも主人公になれるのか。
「さっきカタリーナさんが言っていたように主人公や元主人公は幻想領域を独立させることがある。あれは私の想いが独立した物」
あれが池田勇芽ちゃんの想いだったのか。
あれっ、でも勇芽ちゃんって……
「自分の迷いや悩み本心を赤裸々に語られると恥ずかしいから勇芽は消したんだ。悪い奴じゃないから気にすんな」
ガランさんの言葉で何となく納得できた。
まあ、確かに自分と同じ姿、同じ声で自分と同じ悩みをぶちまけられたら嫌だよね。
「Ms.勇芽は幻想領域をムリョクカするハズなのに幻想具現化がデキたのはナゼなんだ」
そう、引っかかっていたのはそこだと胸の中でマガリさんに同調する。というよりも幻想領域を無力化する人間の幻想領域ってなんなのさ。
「あいつが手伝ったから」
勇芽ちゃん曰く光ってる勇芽ちゃんが手伝うと色々出来るらしい。
でも、少し引っかかる。
『主人公及び元主人公が強い感情によって独立させる幻想領域は物を媒体にするものともう一人の自分に大別できます。もう一人の自分は幻想領域に未知数の干渉が可能です』
サンキュー、ヘスティアさん。つまり今はよく分からないからとりあえずそういうものだと納得しろということだね。
「というわけで俺は帰るぞ。無事をハザマで祈ってるぞ」
ガランさんがそう言った。えっ、どういうわけなの?
ヘスティアさんとの会話でなにか聞き逃しちゃったかな?
『再生しますか?』
ノー、サンキュー、ヘスティアさん。
わたしはそう念じて断った。
どうでもいいけどノー、サンキューなんて日常の語彙で初めて使ったぞ。
「じゃあ、主人公巡りとイこうか」
マガリさんがそうまとめた。
主人公巡りって主人公に界穴を開かせる事かな?
『はい』
サンキュー、ヘスティアさん。
勇芽ちゃんがカコちゃんに予知の内容を聞き終わるとガランさんに話を振った。
「ああ、準備は済んだのか。待てよ、カコ様がいれば俺がいなくてもいいんじゃないか?」
ガランさんも来るみたいだ。
「ガラン。言い忘れていたが敬称略でいいのだ。ワガハイは真弓に憑くからガランは勇芽に着くのだ」
カコちゃんはわたしに憑くみたいだ。
そういえばなんて言ってるか漢字まで分かるけどどうなってるの?
『翻訳魔法の機能の一つです』
サンキュー、ヘスティアさん。
「神様に敬称略ってのもな。信心深いので」
へー、カコちゃんって神様なんだ。
『神成戦士。人の動物への信仰から生まれた精霊と契約して一体化した存在』
サンキュー、ヘスティアさん。
精霊と神様は大体同じってことかな?
「まあ、好きに呼べばいいのだ」
「分かったカコ様」
ガランのカコちゃんへの呼び方が決まったようだ。
「じゃあ、行くわ」
「ああ、勇芽。元気でね」
勇芽ちゃんがそう言うとミーヨンさんが名残惜しそうにそう言った。
「ミーヨンもね」
勇芽ちゃんは笑顔でミーヨンさんにそう言い残すとスタスタと旧礼拝堂に向かった。
勇芽ちゃん、ガランさんに続いて旧礼拝堂の界穴に入って牢屋に戻った。
「さてと、私とガランが世界を救いに行ってくる。ヘスティアに中継させるからここで見ていろ」
ヘスティアさん経由で見せてくれるんだ。
あれでも、伝え曲げって……
「待って、勇芽ちゃん」
わたしの口が意識せず動いた。
「真弓?どうしたの」
勇芽ちゃんの表情が険しくなった。
「いっそ究極エネルギーを全部集めて願いを叶えちゃうとか駄目なんですか?」
そう、これが疑問だったのだ。なぜかヘスティアさんは答えてくれなかったし。
「不確定要素が多すぎる」
勇芽ちゃんの言葉で分かったような分からないような……
「究極エネルギーの制御はとても危険で取り返しが付かないから駄目なんだ」
ガランさんの説明分かりやすい。なるほど究極エネルギーは異世界人にとっての原子力みたいに制御不能の物なんだ。
勇芽ちゃんは左手の長くて白い手袋のチャックを開けた。
『呪い道具。主人公の幻想領域が独立して物に取り憑いた物』
ヘスティアさんが勇芽ちゃんの白い手袋をそう説明してくれた。
『チャックの先は幻想領域で構築された異空間に繋がっています』
サンキュー、ヘスティアさん。
勇芽ちゃんがチャックの先から杖を取り出して壁にすりすりした。
すると壁の杖が触れた部分に不気味な穴が開いた。
『幻想領域で空間をねじ曲げている』
サンキュー、ヘスティアさん。やっぱり幻想領域って万能だな。
穴の先は外に通じている。勇芽ちゃんはその穴から飛び降りた。
勇芽ちゃんを心配しようとしたらしたから勇芽ちゃんが下から上がっていった。
『浮煙の効果で浮遊しています』
サンキュー、ヘスティアさん。
すると蝙蝠さんが穴から出て勇芽ちゃんに着いていった。
『神衛戦士の能力で姿を変えています』
ヘスティアさん、どういうこと?確か神衛戦士ってガランさんのことだよね。あれっ、ガランさんが部屋にいない!
ヘスティアさんが視界の中央に映像を映してくれた。
その映像ではガランさんが蝙蝠さんに変わる瞬間が映っていた。
なるほど、理屈は分からないけどとにかくガランさんは蝙蝠さんに姿を変えられるという事かな?
ヘスティアさんが映像を切り替えた。
ローアングルから浮遊する勇芽ちゃんを映している映像だ。
リアルタイムかな?
『はい』
サンキュー、ヘスティアさん。
ヘスティアさんに中継させるってこういうことか。
たぶん、ガランさん目線だろうな。なんて目星をつけてみる。
この世界に来てすぐわたしと勇芽ちゃんを捕まえた青くて丸いのが出てきて勇芽ちゃんの道を塞いだ。
『捕縛用ドローン』
サンキュー、ヘスティアさん。へー、あの青くて丸いのは捕縛用ドローンっていうんだ。
勇芽ちゃんの頭が赤黒いなにかで覆われた。耳の辺りで細く短い触手がうねっていて気持ち悪い。
『アレスの兜。レーザービームを発射できるヘルメット』
サンキュー、ヘスティアさん。確かアレスってヘスティアの甥っ子だよね。絡み無いけど。
アレスの兜の耳の辺りに生えている短い触手と捕縛用ドローンの間に白い線が出来た。
そして捕縛用ドローンごと白い線は消えた。
何が起こったの?
『アレスの兜からビームが発射されました』
サンキュー、ヘスティアさん。
なるほど、ビームだもんね。光の速度で飛んでいくよね。
「異常を・確認・した」
なんて思っていたら勇芽ちゃんがあけた穴から捕縛用ドローンが一機出てきた。
ヘスティアさんが勇芽ちゃんの映っている画面を端に置いた。
そういえばなんで捕縛用ドローンの音声だけは元の音が聞こえるんだろう。教えてヘスティアさん。
『人間種以外が発する音は翻訳にラグが発生するためです』
サンキュー、ヘスティアさん。つまりオウム返しとか機会音声とか山彦とかは元の音も聞こえるって事かな。
ヘスティアさんが否定しないって事はそういうことなのだろう。
「こういうチョコマカしたのは苦手なのだ」
カコちゃんがそう言いながら捕縛用ドローンを両手に持った二つの三つ叉のなにかで突き刺した。
「カコちゃん、なにそれ?」
純粋に気になった。
「ああ、これはワガハイの武器の猫の爪なのだ」
カコちゃんはそう言うと両手の三つ叉を伸び縮みさせた。
「この通り伸ばしたり縮めたり自在に出し入れできるカコのメインウェポンなのだ」
カコちゃんがそう言うと猫の爪は跡形もなく消えた。
ヘスティアさんが勇芽ちゃんの画面を大きくした。
勇芽ちゃんはさっきの杖で壁にまた穴を開けていた。
壁の先には大きな銀のクワガタムシさんが二匹、いや三匹いた。
さすがに小学生ぐらいの大きさの虫は見ていて気持ち悪いな。
『虫型機兵。ビームを受け流す装甲と俊敏さが特徴。二本の角の中央から放たれるビームは強力』
サンキュー、ヘスティアさん。
勇芽ちゃんの体が段々と太くなった。上背が格段に大きくなり手を床に着いた。茶色い太い毛が全身に生えた。勇芽ちゃんの耳から白い何かが生えた。それは頭の先に延びた。
まるで牛さんみたいな姿に勇芽ちゃんは変わった。
『幻想具現化しました』
サンキュー、ヘスティアさん。
この牛さんが勇芽ちゃんの幻想具現化した姿なんだ。
ところでヘスティアさん、幻想具現化したら服とかはどこへ消えるのかな?
『幻想具現化は本人の衣服含む肉体を一時的に置き換えるのでその間、幻想領域内に保存されます』
サンキュー、ヘスティアさん。
牛さんの姿のまま勇芽ちゃんは虫型機兵に身を当てて粉砕した。
勇芽ちゃん、強いな。
その勢いのまま壁を壊して、勇芽ちゃんは牛の姿から人の姿に戻った。アレスの兜がじゃまで勇芽ちゃんの表情は見えない。
そのまま滑るように移動して女の人が眠る箱を勇芽ちゃんは刀で刺した。
勇芽ちゃんが刺した箱の上半分はガラスになっていた。
眠っていた人が蒼と黒の火に包まれた。
『幻想領域の痕跡そのものを消しています』
サンキュー、ヘスティアさん。あの人がこの世界の元主人公で、あの人が蘇るとみんな「いぇい」しか言えなくなるから、あの蒼い火であの人が蘇れなくして世界を救ったという事かな。
『一つだけ違います。伝え曲げが言わせる言葉は毎回違います』
サンキュー、ヘスティアさん。まあ、大体合ってて良かった。
「俺は必要なかったな」
ガランさんが蝙蝠さんのままそう言いました。
あれっ、ガランさんと勇芽ちゃんが同時に映っているということは少なくとも今はどっちも撮影していないということだ。
どういうことなの?
『撮影用小型ドローンを今は使っています』
サンキュー、ヘスティアさん。
さっきまではガランさんが撮っていたのかな。
『はい』
「私は冥界の管理人。死人をみだりに蘇らせて現世が乱れ終末が訪れぬよう監視する者」
勇芽ちゃんが刀を引き抜き納刀しながらそんな物騒なことを言った。
勇芽ちゃんの手元にはいつの間にか前も持っていたハサミがあった。
ベルファと前も聞いた不気味な音が鳴った。
ヘスティアの映像が消えた。
「修復」
そんな声が聞こえた。
声の方には勇芽ちゃんと蝙蝠から人間に戻っているガランさんがいた。
勇芽ちゃんはまだアレスの兜をつけていた。
するとアレスの兜から光が溢れて光ってる勇芽ちゃんが出てきた。
光っている勇芽ちゃんはアレスの兜やゴーグル、手袋、刀などを持っていなかった。
「影の私よ。ご苦労だった」
光ってる勇芽ちゃんがアレスの兜をつけている勇芽ちゃんにそう言った。
「えっ、勇芽ちゃんが二人!?」
わたしはそう言ってから開いた口が塞がらなかった。
「私は本当の池田勇芽。こっちの私は私の影」
勇芽ちゃんの名字って池田なんだ。なんか意外だな。
勇芽ちゃんが普段名字を名乗らないのはハザマでは名字がない人もいるからかな?
『はい』
サンキュー、ヘスティアさん。でも、だとしたら高槻って名乗るのやめた方がいいのかな。まあでも、これまで咎められなかったし、マガリさんはMs.高槻呼びだし今まで通りで大丈夫かな。
「ガラン。私の影がこんな茶番に付き合わせてゴメンね。今回のことは影の私に必ず埋め合わさせるから」
光っている勇芽ちゃんがガランに手を合わせて上目遣いで言った。
確かにガランさんはカメラマン以上の役割がなかったな。
「次にカコ様。影の私は世界の危機にどれくらい関わっているか知りたがっているの。教えてくれるなら教えてください」
光ってる勇芽ちゃんはガランさんに無視されつつ次はカコちゃんにこう話しかけた。
光ってない勇芽ちゃんの顔を覆っているアレスの兜の真ん中がおでこからあごまで割れた。頬骨の辺りにモーターがあったらしい。
ゴーグル越しの光ってない勇芽ちゃんの顔は疲れていた。
光ってない勇芽ちゃんがゴーグルを外すと光ってる勇芽ちゃんが光ってない勇芽ちゃんに吸い込まれた。
吸い込まれる直前、光ってる勇芽ちゃんが光ってない勇芽ちゃんに何かを言っていたように見えた。
「一体なんだったの?」
わたしは正直な感想を述べた。
「コホン、勇芽は消えた世界でただ一人生き残った関係で元主人公なんだ」
ガランさんがその辺りで言い淀んだ。
勇芽ちゃんは元主人公だったんだ。あと、自分より大きな魔力を持つ人間が全員死ねばどんな人間でも主人公になれるのか。
「さっきカタリーナさんが言っていたように主人公や元主人公は幻想領域を独立させることがある。あれは私の想いが独立した物」
あれが池田勇芽ちゃんの想いだったのか。
あれっ、でも勇芽ちゃんって……
「自分の迷いや悩み本心を赤裸々に語られると恥ずかしいから勇芽は消したんだ。悪い奴じゃないから気にすんな」
ガランさんの言葉で何となく納得できた。
まあ、確かに自分と同じ姿、同じ声で自分と同じ悩みをぶちまけられたら嫌だよね。
「Ms.勇芽は幻想領域をムリョクカするハズなのに幻想具現化がデキたのはナゼなんだ」
そう、引っかかっていたのはそこだと胸の中でマガリさんに同調する。というよりも幻想領域を無力化する人間の幻想領域ってなんなのさ。
「あいつが手伝ったから」
勇芽ちゃん曰く光ってる勇芽ちゃんが手伝うと色々出来るらしい。
でも、少し引っかかる。
『主人公及び元主人公が強い感情によって独立させる幻想領域は物を媒体にするものともう一人の自分に大別できます。もう一人の自分は幻想領域に未知数の干渉が可能です』
サンキュー、ヘスティアさん。つまり今はよく分からないからとりあえずそういうものだと納得しろということだね。
「というわけで俺は帰るぞ。無事をハザマで祈ってるぞ」
ガランさんがそう言った。えっ、どういうわけなの?
ヘスティアさんとの会話でなにか聞き逃しちゃったかな?
『再生しますか?』
ノー、サンキュー、ヘスティアさん。
わたしはそう念じて断った。
どうでもいいけどノー、サンキューなんて日常の語彙で初めて使ったぞ。
「じゃあ、主人公巡りとイこうか」
マガリさんがそうまとめた。
主人公巡りって主人公に界穴を開かせる事かな?
『はい』
サンキュー、ヘスティアさん。
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