異世界人の主人公巡り ~そんなに世界は素晴らしいかい?~
八の世界でカコとの邂逅
筋肉が剥きだしになっているということは何らかの手段で皮を剥ぎ取ったということだ。
そんなおぞましいこと、想像しただけで吐き気がする。実際、勇芽ちゃんは吐いた。
「誰がこんな酷いことを……」
わたしは思わず口に出してしまった。
「はぁはぁはぁげぶでふぉ、『ゼカラクサ』」
勇芽ちゃんが吐きながら答えてくれた。ゴーグルを手に持っている。筋肉むき出しの体が水槽ごと闇に消えてまた異界テントに戻った。
「なにから聞きたい?なんでも答えるから」
勇芽ちゃんが悪い顔色でへたりこみながら言った。
「コノ世界にナニがオこったんだ?Ms.勇芽」
マガリさんが最初の質問をぶつけた。
「異世界からやってきた邪神が四大究極エネルギー体の黒き巨人に滅ぼされたので四大究極エネルギーの共鳴現象で再構築しようとして失敗したの」
勇芽ちゃんが辛そうに言った。
でも初めて聞く用語が多すぎてチンプンカンプンだ。
「ちなみに、邪神とは世界を滅ぼそうとする悪い旅人のことで、四大究極エネルギー体は四体揃うと何でも願いが叶うが一体だけだと世界を滅ぼしてしまう禁忌の力のことだ」
カタリーナさんが分からない用語を補足してくれた。
なんでも願いが叶う力とか、世界を滅ぼす異世界人とかいまいちピンとこないな。
「ナゼこんなバショにアンナイした?Ms.勇芽」
マガリさんが微妙に気になっていたことを聞いてくれた。
「マガリ、あんたの復讐の旅に真弓をつきあわせないため」
勇芽ちゃんがとても気になることを言った。
そしていつの間にか手に空の時みたく紙を持っている。
紙が紫に光ってほろほろと崩れた。するとゲロに汚れた服とかが綺麗になった。
「コタえになっていない。Ms.勇芽。ボクのフクシュウとコノ世界といったいナンのカンケイがあるんだ?」
「ワタシからお答えしようマガリ。少なくとも真弓には旅人としての最低限の知識がない。それを教えるついでにハザマがどれほど理に反しているか吹き込みハザマを嫌いになってほしかったのさ」
カタリーナさんの言っていることは理解できるけど、わたしこの世界で何度か死にかけたような気がする。勇芽ちゃんが、わたしを殺す寸前まで追い込むほどハザマを嫌いになってほしいとは思えなかった。
「はいはい、カタリーナさんに質問があります」
ミーヨンさんが鼻先を撫でながら言った。
「どうした?ミーヨン」
「カタリーナさん、ここってハザマなんですか?」
「ああ6だ」
「ハザマの玄関口である1、ハザマの一次産業を担う2、黒小人の隔離所3、暴力の無法地帯4、性の無法地帯5。この五つにハザマは分けられるのだけれども、まことしやかに囁かれていた禁断の6がここなの!?」
ミーヨンさん、6がなんなのか分かっていないわたしのためにそれと無く説明してくれるだなんてありがとう。
おそらく、1、2、3、4、5、6はハザマのそれぞれの場所の通称なんだろう。おそらくわたしは1と、ここ6しか訪れていない。
あと黒小人って何者だろう?ちょっと気になる。
「そういえば勇芽。あんたのゴーグル何なのよ?」
「私は目で見た範囲の幻想領域を無力化してしまう特異体質なの。これはその制御装置」
勇芽がゴーグルを指さしながらそう言った。
「ソレとMs.高槻。アタマのソレはナンだ?」
わたしはフードに触れた瞬間マガリさんへの思いが噴出した。
「マガリさん、そんなことより人造人間って本当なの?復讐って何?」
わたしはかなり強い語調でマガリさんを問い詰めた。
「Ms.高槻。マエにイったようにボクはウまれたヒから旅人だったんだ」
マガリさんはわたしに自分の過去を話し出した。
「培養管のナカでサマザマなチシキをウえツけられて世界にオとされたんだ。オナじキョウグウのソウセイジ、イヌア、バータとサンニンでチカラをアわせてイきてきた。あるヒ、バータがボクをコロそうとしてきた。そしたらイヌアがボクをカバってシんだんだ。ボクはバータにフクシュウするためにイきているんだ」
マガリさんの話を要約すると、生まれたときからイヌア、バータ、マガリさんの人造人間の三つ子三人で世界を越えて旅していたんだけどイヌアがバータに殺されたからマガリさんは仇を討ちたいってことかな。
「ちなみに、バータはその日以来世界を越えて殺戮を繰り返している。現在ハザマで最大のおたずね物だ」
世界を越えて殺戮。カタリーナさんの補足を聞いてもいまいちピンとこない。
「Ms.高槻ボクのコトはハナした。ツギはキミのバンだ」
マガリさんがわたしのフードを見ながら言った。
「このフードはそのいつのまにかついてたの。目も鼻も口もない人に出会った時だったかな」
勇芽ちゃんがわたしの言葉を聞いた瞬間耳をピクピク動かしてわたしを睨んだ。
「真弓。今なんて言った?」
「えっと、勇芽ちゃん……」
「どんな動物?」
勇芽ちゃんの声は冷たい。
「確かcat?」
動物って言えば猫だよね。猫の耳生えてたしキャットフードとか言ってたし。
「我が輩は猫である。名前はもうない。というわけで猫の神成戦士です」
さっきののっぺらぼうさんがどこからともなく現れた。
「ワガハイ良いな。今度から私はワガハイだ」
猫ののっぺらぼうさんは訳の分からないことを口走った。
「まあワガハイがお主らに語るとしよう。この世界で起こった惨劇を」
猫ののっぺらぼうさんが何か語り始めた。
「世界反発作用は知っているな?」
猫ののっぺらぼうさんが訳の分からないことを言った。
「幻想領域で世界に干渉しすぎると世界から弾かれて別の世界へ行ってしまう現象」
勇芽ちゃんが淀みなさそうに説明するけどさっきからちょいちょい出てくる幻想領域がなんなのか分からない。
「すいません、幻想領域って何ですか?」
こういうときは素直に聞くに限る。
「幻想領域とは物理法則より想いが優先される空間のことだ。まあ展開すればなんでもありだ。ハザマの運営、四大究極エネルギーや神成戦士の力の根元だったりな」
なるほどカタリーナさんの解説で大体分かった。世界を滅ぼしたり、異界テントと町並みを切り替えたりとか、万能の力だけど使いすぎると世界から弾かれるってことかな。
あと、カタリーナさんは神成戦士が何か知っているみたいだ。
「そういうことだな。幻想領域にしか実体を持っていない絆を何より重んじる奴らがいた」
猫ののっぺらぼうさんが溜めた瞬間間髪入れず勇芽ちゃんが口を開いた。
「邪神」
この勇芽ちゃんの世界を滅ぼした存在。
「そう、奴らは十二人で永遠に同じ世界で存在し続けるのが目的なのだ」
なんでそんな絆第一主義の連中が世界を?
でも、世界反発作用で別々の世界へ行ってしまうんじゃ?
「なにもしなければ弾かれて永遠に巡り会えないのだけれども、弾かれる前に世界の方を壊せばどうなる?」
そうすれば世界を壊しながら一緒に進める。
でも、壊された方はたまったもんじゃない。
「そう、半永久的に同じ世界で生きられる。まあ、そういうわけだからあまり奴らを責められないの。奴らはワガハイたちの常識が通用しない異世界人なのだから排除するしかない。害獣と一緒だ。飢えて人里に降りた熊を誰が責められようか?」
「異世界人は害獣と一緒……」
思わず声が出た。
「まあ、ましな異世界人もいたがな。郷に入る気があれば受け入れてもいいけど。本来別の世界からの人間なんてトラブルしか起こさないの」
ねこののっぺらぼうさんはなにか迷いながら話しているようだ。というよりも、口を開くたび彼女の中の何かが変わっているような。
「そんなハナシはイいからナゼ邪神とやらはこんなことをしたのだ?」
「邪神は自分へ関心を持たれることで力を増す特性を持っているのだ。だからハイパーインフレとか薬物蔓延とかで世間を不安にして、奇跡とか地上波進出とかで自分たちへの関心を集めて力を増やして黒き巨人を呼ぼうとしたんだ」
なるほど、不安にするためにあんな酷いことを。他人の事を仲間と一緒にいるためならいくらでも傷つけられる。ちょっとキュンとくるかもしれないけどされた側はたまったもんじゃないな。
「それに立ち向かうのがワガハイたち神衛戦士だな。幻想領域で動物への信仰が実体化した存在である精霊たちと契約して戦ったのだがワガハイの予知では世界の滅びを回避する方法がなく諦めたのだが、今回は違う。近い将来全ての人が住む世界は崩壊するやもしれぬ。それを阻止する鍵になるのが真弓お主の存在だ。というわけで、真弓の旅を止めさせるなどワガハイが許さん」
えっと、猫ののっぺらぼうさんはわたしが世界崩壊を阻止する鍵だから旅人になれと言いたいのかな?
「でも、真弓は何にも知らない。なにも持ってない。そんな彼女を旅人にだなんて危険すぎる」
勇芽ちゃんが怒った口調でそう言った。
「ワガハイが真弓を命懸けで護らせてもらう。もう捨てた命だ怖くなどない」
「あー、もう。ああ言えばこう言う。これだから死にたがりの神成戦士は」
「ならば、勇芽よ。お前が真弓を傍で護ればいいのではないか」
カタリーナさんが言いたいのはつまりわたしとマガリさんの旅に勇芽とねこののっぺらぼうさんを加えろってことかな?
「分かった。真弓、マガリ。あんたらの旅に付き合ってやる」
勇芽ちゃんは不本意そうに言った。
「ちょっと待って勇芽。さっきまで真弓が旅人になるのあんなに反対していたのにそんな簡単に引き下がって良いの?」
ミーヨンさんが不満げに言いました。
「ミーヨン。勇芽は神成戦士の強さを知っている。神成戦士が世界全体の危機を予知したらそれは真実なのだ」
カタリーナさんが強い口調で言った。
「えっと、神成戦士と神衞戦士の違いって何なんですか?」
さっきから気になっていたことをこの際だから聞いてみた。
「『呪うは己。望むは力。贄は存在。今ここにナステを行う。』この呪文を神衞戦士が唱えるとナステが成立し神成戦士になれる。神成戦士になると完全に精霊そのものになり莫大な力が手に入るの」
猫ののっぺらぼうさんの言葉を聞いて少しだけ引っかかることがあった。
精霊の力を借りた状態で自分を呪う呪文なんて唱えたらろくな目に遭わないだろうにデメリットの話が出なかったことだ。
「ナステの代償は自分自身の存在。これまでの人生全てが記録や記憶から消滅し名も顔も記憶も失う。それがナステ」
勇芽ちゃんの言葉ではっとした。
猫ののっぺらぼうさんが名乗った覚えはあるのにあの呪文を聞いた直後から名前や顔を思い出せなくなって猫ののっぺらぼうさんも名前はまだ無いと名乗った。
その辺の違和感が解消された。でも悲しくなった。
「まあ、ワガハイは未来という名だったらしいのだがな。同じ名を名乗るのは気が引けるのでカコと名乗らせてもらうのだ。真弓、敬称略で頼むのだ」
「どうして、名前を?」
勇芽ちゃんが眉間にしわ寄せていった。
「ああ、この世界を記憶している幻想領域はナステの影響を受けないようで、ナステを行ったら脱ぎ捨てた未来という存在が復活してな。真弓の記憶を覗こうとしたからついでに未来の記憶を読みとったのだ」
「あのぉ、カコさん。なのだって?」
気に入ったのかな?
「気に入ったのだ。ナステを行うとうすっぺらくてもキャラを確立したくなるのだ。あと真弓、敬称略で良いと言ったはずなのだ」
気に入ったようだ。
「それはそうと勇芽。ワガハイはお主に文句と質問があるのだ」
「なんですか」
勇芽ちゃんはカコちゃんに対して少し投げやりなふいん、じゃなかった雰囲気を放っている。
「まずは文句だがこの世界は貧弱な真弓には早すぎたと思うのだ。車のフロントに触れて運動エネルギーだけ受け取って死にかけたり、ガラスで首を締め付けられたりしたのだ」
「えっ」
カコちゃんの言うことはピンとこないが勇芽ちゃんの顔が青くなったことだけは理解できた。
「次に聞きたいことだが、他の神成戦士は今どうしているのだ?生きているとは思えんのだが」
「死んだが、とある方法で復活した。その後この世界を創るための生け贄となり物言わぬ姿になった」
カコちゃんの顔がカタリーナさんの言葉で険しくなった。
死者を蘇らせる手段があるということは覚えておこう。
「なあカコ。真弓を旅人にするなら基本知識を教えてからだ。まずは世界越境理論からだ」
カタリーナさんが胸を張っていった。
「魔王のコウギか」
マガリさん。あれっ、カタリーナさんって魔王さんだったの。すごく良い演奏を図書館でしていたあの魔性の元女王さんなの!?
ビックリして開いた口が塞がらなくなった。
そんなおぞましいこと、想像しただけで吐き気がする。実際、勇芽ちゃんは吐いた。
「誰がこんな酷いことを……」
わたしは思わず口に出してしまった。
「はぁはぁはぁげぶでふぉ、『ゼカラクサ』」
勇芽ちゃんが吐きながら答えてくれた。ゴーグルを手に持っている。筋肉むき出しの体が水槽ごと闇に消えてまた異界テントに戻った。
「なにから聞きたい?なんでも答えるから」
勇芽ちゃんが悪い顔色でへたりこみながら言った。
「コノ世界にナニがオこったんだ?Ms.勇芽」
マガリさんが最初の質問をぶつけた。
「異世界からやってきた邪神が四大究極エネルギー体の黒き巨人に滅ぼされたので四大究極エネルギーの共鳴現象で再構築しようとして失敗したの」
勇芽ちゃんが辛そうに言った。
でも初めて聞く用語が多すぎてチンプンカンプンだ。
「ちなみに、邪神とは世界を滅ぼそうとする悪い旅人のことで、四大究極エネルギー体は四体揃うと何でも願いが叶うが一体だけだと世界を滅ぼしてしまう禁忌の力のことだ」
カタリーナさんが分からない用語を補足してくれた。
なんでも願いが叶う力とか、世界を滅ぼす異世界人とかいまいちピンとこないな。
「ナゼこんなバショにアンナイした?Ms.勇芽」
マガリさんが微妙に気になっていたことを聞いてくれた。
「マガリ、あんたの復讐の旅に真弓をつきあわせないため」
勇芽ちゃんがとても気になることを言った。
そしていつの間にか手に空の時みたく紙を持っている。
紙が紫に光ってほろほろと崩れた。するとゲロに汚れた服とかが綺麗になった。
「コタえになっていない。Ms.勇芽。ボクのフクシュウとコノ世界といったいナンのカンケイがあるんだ?」
「ワタシからお答えしようマガリ。少なくとも真弓には旅人としての最低限の知識がない。それを教えるついでにハザマがどれほど理に反しているか吹き込みハザマを嫌いになってほしかったのさ」
カタリーナさんの言っていることは理解できるけど、わたしこの世界で何度か死にかけたような気がする。勇芽ちゃんが、わたしを殺す寸前まで追い込むほどハザマを嫌いになってほしいとは思えなかった。
「はいはい、カタリーナさんに質問があります」
ミーヨンさんが鼻先を撫でながら言った。
「どうした?ミーヨン」
「カタリーナさん、ここってハザマなんですか?」
「ああ6だ」
「ハザマの玄関口である1、ハザマの一次産業を担う2、黒小人の隔離所3、暴力の無法地帯4、性の無法地帯5。この五つにハザマは分けられるのだけれども、まことしやかに囁かれていた禁断の6がここなの!?」
ミーヨンさん、6がなんなのか分かっていないわたしのためにそれと無く説明してくれるだなんてありがとう。
おそらく、1、2、3、4、5、6はハザマのそれぞれの場所の通称なんだろう。おそらくわたしは1と、ここ6しか訪れていない。
あと黒小人って何者だろう?ちょっと気になる。
「そういえば勇芽。あんたのゴーグル何なのよ?」
「私は目で見た範囲の幻想領域を無力化してしまう特異体質なの。これはその制御装置」
勇芽がゴーグルを指さしながらそう言った。
「ソレとMs.高槻。アタマのソレはナンだ?」
わたしはフードに触れた瞬間マガリさんへの思いが噴出した。
「マガリさん、そんなことより人造人間って本当なの?復讐って何?」
わたしはかなり強い語調でマガリさんを問い詰めた。
「Ms.高槻。マエにイったようにボクはウまれたヒから旅人だったんだ」
マガリさんはわたしに自分の過去を話し出した。
「培養管のナカでサマザマなチシキをウえツけられて世界にオとされたんだ。オナじキョウグウのソウセイジ、イヌア、バータとサンニンでチカラをアわせてイきてきた。あるヒ、バータがボクをコロそうとしてきた。そしたらイヌアがボクをカバってシんだんだ。ボクはバータにフクシュウするためにイきているんだ」
マガリさんの話を要約すると、生まれたときからイヌア、バータ、マガリさんの人造人間の三つ子三人で世界を越えて旅していたんだけどイヌアがバータに殺されたからマガリさんは仇を討ちたいってことかな。
「ちなみに、バータはその日以来世界を越えて殺戮を繰り返している。現在ハザマで最大のおたずね物だ」
世界を越えて殺戮。カタリーナさんの補足を聞いてもいまいちピンとこない。
「Ms.高槻ボクのコトはハナした。ツギはキミのバンだ」
マガリさんがわたしのフードを見ながら言った。
「このフードはそのいつのまにかついてたの。目も鼻も口もない人に出会った時だったかな」
勇芽ちゃんがわたしの言葉を聞いた瞬間耳をピクピク動かしてわたしを睨んだ。
「真弓。今なんて言った?」
「えっと、勇芽ちゃん……」
「どんな動物?」
勇芽ちゃんの声は冷たい。
「確かcat?」
動物って言えば猫だよね。猫の耳生えてたしキャットフードとか言ってたし。
「我が輩は猫である。名前はもうない。というわけで猫の神成戦士です」
さっきののっぺらぼうさんがどこからともなく現れた。
「ワガハイ良いな。今度から私はワガハイだ」
猫ののっぺらぼうさんは訳の分からないことを口走った。
「まあワガハイがお主らに語るとしよう。この世界で起こった惨劇を」
猫ののっぺらぼうさんが何か語り始めた。
「世界反発作用は知っているな?」
猫ののっぺらぼうさんが訳の分からないことを言った。
「幻想領域で世界に干渉しすぎると世界から弾かれて別の世界へ行ってしまう現象」
勇芽ちゃんが淀みなさそうに説明するけどさっきからちょいちょい出てくる幻想領域がなんなのか分からない。
「すいません、幻想領域って何ですか?」
こういうときは素直に聞くに限る。
「幻想領域とは物理法則より想いが優先される空間のことだ。まあ展開すればなんでもありだ。ハザマの運営、四大究極エネルギーや神成戦士の力の根元だったりな」
なるほどカタリーナさんの解説で大体分かった。世界を滅ぼしたり、異界テントと町並みを切り替えたりとか、万能の力だけど使いすぎると世界から弾かれるってことかな。
あと、カタリーナさんは神成戦士が何か知っているみたいだ。
「そういうことだな。幻想領域にしか実体を持っていない絆を何より重んじる奴らがいた」
猫ののっぺらぼうさんが溜めた瞬間間髪入れず勇芽ちゃんが口を開いた。
「邪神」
この勇芽ちゃんの世界を滅ぼした存在。
「そう、奴らは十二人で永遠に同じ世界で存在し続けるのが目的なのだ」
なんでそんな絆第一主義の連中が世界を?
でも、世界反発作用で別々の世界へ行ってしまうんじゃ?
「なにもしなければ弾かれて永遠に巡り会えないのだけれども、弾かれる前に世界の方を壊せばどうなる?」
そうすれば世界を壊しながら一緒に進める。
でも、壊された方はたまったもんじゃない。
「そう、半永久的に同じ世界で生きられる。まあ、そういうわけだからあまり奴らを責められないの。奴らはワガハイたちの常識が通用しない異世界人なのだから排除するしかない。害獣と一緒だ。飢えて人里に降りた熊を誰が責められようか?」
「異世界人は害獣と一緒……」
思わず声が出た。
「まあ、ましな異世界人もいたがな。郷に入る気があれば受け入れてもいいけど。本来別の世界からの人間なんてトラブルしか起こさないの」
ねこののっぺらぼうさんはなにか迷いながら話しているようだ。というよりも、口を開くたび彼女の中の何かが変わっているような。
「そんなハナシはイいからナゼ邪神とやらはこんなことをしたのだ?」
「邪神は自分へ関心を持たれることで力を増す特性を持っているのだ。だからハイパーインフレとか薬物蔓延とかで世間を不安にして、奇跡とか地上波進出とかで自分たちへの関心を集めて力を増やして黒き巨人を呼ぼうとしたんだ」
なるほど、不安にするためにあんな酷いことを。他人の事を仲間と一緒にいるためならいくらでも傷つけられる。ちょっとキュンとくるかもしれないけどされた側はたまったもんじゃないな。
「それに立ち向かうのがワガハイたち神衛戦士だな。幻想領域で動物への信仰が実体化した存在である精霊たちと契約して戦ったのだがワガハイの予知では世界の滅びを回避する方法がなく諦めたのだが、今回は違う。近い将来全ての人が住む世界は崩壊するやもしれぬ。それを阻止する鍵になるのが真弓お主の存在だ。というわけで、真弓の旅を止めさせるなどワガハイが許さん」
えっと、猫ののっぺらぼうさんはわたしが世界崩壊を阻止する鍵だから旅人になれと言いたいのかな?
「でも、真弓は何にも知らない。なにも持ってない。そんな彼女を旅人にだなんて危険すぎる」
勇芽ちゃんが怒った口調でそう言った。
「ワガハイが真弓を命懸けで護らせてもらう。もう捨てた命だ怖くなどない」
「あー、もう。ああ言えばこう言う。これだから死にたがりの神成戦士は」
「ならば、勇芽よ。お前が真弓を傍で護ればいいのではないか」
カタリーナさんが言いたいのはつまりわたしとマガリさんの旅に勇芽とねこののっぺらぼうさんを加えろってことかな?
「分かった。真弓、マガリ。あんたらの旅に付き合ってやる」
勇芽ちゃんは不本意そうに言った。
「ちょっと待って勇芽。さっきまで真弓が旅人になるのあんなに反対していたのにそんな簡単に引き下がって良いの?」
ミーヨンさんが不満げに言いました。
「ミーヨン。勇芽は神成戦士の強さを知っている。神成戦士が世界全体の危機を予知したらそれは真実なのだ」
カタリーナさんが強い口調で言った。
「えっと、神成戦士と神衞戦士の違いって何なんですか?」
さっきから気になっていたことをこの際だから聞いてみた。
「『呪うは己。望むは力。贄は存在。今ここにナステを行う。』この呪文を神衞戦士が唱えるとナステが成立し神成戦士になれる。神成戦士になると完全に精霊そのものになり莫大な力が手に入るの」
猫ののっぺらぼうさんの言葉を聞いて少しだけ引っかかることがあった。
精霊の力を借りた状態で自分を呪う呪文なんて唱えたらろくな目に遭わないだろうにデメリットの話が出なかったことだ。
「ナステの代償は自分自身の存在。これまでの人生全てが記録や記憶から消滅し名も顔も記憶も失う。それがナステ」
勇芽ちゃんの言葉ではっとした。
猫ののっぺらぼうさんが名乗った覚えはあるのにあの呪文を聞いた直後から名前や顔を思い出せなくなって猫ののっぺらぼうさんも名前はまだ無いと名乗った。
その辺の違和感が解消された。でも悲しくなった。
「まあ、ワガハイは未来という名だったらしいのだがな。同じ名を名乗るのは気が引けるのでカコと名乗らせてもらうのだ。真弓、敬称略で頼むのだ」
「どうして、名前を?」
勇芽ちゃんが眉間にしわ寄せていった。
「ああ、この世界を記憶している幻想領域はナステの影響を受けないようで、ナステを行ったら脱ぎ捨てた未来という存在が復活してな。真弓の記憶を覗こうとしたからついでに未来の記憶を読みとったのだ」
「あのぉ、カコさん。なのだって?」
気に入ったのかな?
「気に入ったのだ。ナステを行うとうすっぺらくてもキャラを確立したくなるのだ。あと真弓、敬称略で良いと言ったはずなのだ」
気に入ったようだ。
「それはそうと勇芽。ワガハイはお主に文句と質問があるのだ」
「なんですか」
勇芽ちゃんはカコちゃんに対して少し投げやりなふいん、じゃなかった雰囲気を放っている。
「まずは文句だがこの世界は貧弱な真弓には早すぎたと思うのだ。車のフロントに触れて運動エネルギーだけ受け取って死にかけたり、ガラスで首を締め付けられたりしたのだ」
「えっ」
カコちゃんの言うことはピンとこないが勇芽ちゃんの顔が青くなったことだけは理解できた。
「次に聞きたいことだが、他の神成戦士は今どうしているのだ?生きているとは思えんのだが」
「死んだが、とある方法で復活した。その後この世界を創るための生け贄となり物言わぬ姿になった」
カコちゃんの顔がカタリーナさんの言葉で険しくなった。
死者を蘇らせる手段があるということは覚えておこう。
「なあカコ。真弓を旅人にするなら基本知識を教えてからだ。まずは世界越境理論からだ」
カタリーナさんが胸を張っていった。
「魔王のコウギか」
マガリさん。あれっ、カタリーナさんって魔王さんだったの。すごく良い演奏を図書館でしていたあの魔性の元女王さんなの!?
ビックリして開いた口が塞がらなくなった。
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