異世界人の主人公巡り ~そんなに世界は素晴らしいかい?~
六のハザマで魔王を呼びに
真弓が家出ぐらいの軽い気持ちで別の世界に行った。
勇芽にはそう見えた。
真弓の知能は低くない。
別の世界で法律が違うことをすぐ理解していた。
それを理解できる頭があるならば普通はハザマより奥の世界へ基本知識も身につけずに行こうとは考えない。
ということは考えられる答えは一つだ。
真弓はマガリへの情で何も深く考えないで世界を越えた。
ああ、救えないな。
勇芽は高槻真弓なる少女がマガリとともに世界を越えた理由をそう推測した。
勇芽にしてみれば真弓を元の世界へ送り返すのは簡単だ。
ただ、このまま送り返したらちょっとした物に唆されて自殺でもしてしまいそうな危うさが真弓にはあった。
だから真弓に異世界がどれだけ危険か、真弓がどれほど恵まれているか納得してもらう。
ハザマでマガリと定期的に会えるぐらいを落としどころにしたいと勇芽は考えていた。
だが、勇芽自身が説明するとどうしても感情的になってしまい真弓も納得しないだろうとハザマで一番弁の立つ人を呼びに行った。
✱
どんな世界でも悲劇は生まれる。悲劇の中、人は自分を救ってくれる救世主を求めた。かつて、そこに颯爽と現れ救える全てを救う者達がいた。
ここはハザマの旧礼拝堂。彼らが誰かを救う拠点だった場所。
勇芽は旧礼拝堂のすぐ裏にある図書館に向かった。
「あら勇芽。なにか用?」
図書館に入ると勇芽はメヴィアに声をかけられた。
「カタリーナプロデューサーは?」
勇芽は冷たく言った。
勇芽はメヴィアの事をあまりよく思っていないのだ。
「カタリーナなら上で新曲作っているけど」
「ありがとう」
勇芽は下駄から浮煙を出して階段をすっ飛ばして音楽部屋へ向かった。
音楽部屋ではカタリーナがミーヨンに横笛で演奏を聞かせていた。
「勇芽、ワタシに何のようかな?」
「マガリが真弓という少女を旅人にしたんですが、基本魔術理論、世界越境理論、幻想領域理論も知らないみたいなんです。簡単に基礎知識を教えてそれとなく元の世界へ戻るようよ誘導してください」
「ちょっと、勇芽。そんなの自分でやればいいじゃない。今カタリーナさんは忙しいの」
ミーヨンという少女は永住者でハザマのアイドルグループ『ハディメ』の一員だ。ちなみに『ハディメ』はカタリーナがプロデュースしたグループで勇芽もそのメンバーの一人だ。
「おおかた、自分でやれないからワタシに泣きついて来たのだろう。ミーヨン、すまない演奏はお預けだ」
そう言ってカタリーナは立ち上がった。
「じゃあ、あたしも行きます」
ミーヨンもほっぺたを人差し指と親指で膨らませながら言った。
ミーヨンの世界で軽い不満を表すジェスチャーだ。
「それで、勇芽。真弓とやらはどこにいる?」
「旧礼拝堂の地下で待たせてますけど」
「勇芽らしいな異世界の暗部を最初に見せるとは」
そう言ってカタリーナとミーヨンは勇芽に連れられ旧礼拝堂へ向かった。
「まさか、図書館の裏手にこんな場所があったなんてね」
ミーヨンは礼拝堂を見回した。
「もう、使われていないがな。あの事件以来ここに来るのは数えるほどしかいない」
カタリーナは悲しそうに言った。
「この階段、使いにくくない?」
ミーヨンがピアノの横に開けられた下り階段を指さして言った。
「これね、隠し階段になってるのよ」
勇芽が腰に刺している刀を鞘ごと石畳の床に三度打ち付けた。
すると、ガガガガと轟音が響いた。
「ちょっと、どういうこと!?」
ミーヨンが驚きの声を上げた直後階段が下からせり出て、何もない寂れた床になった。
「階段が消えた!?」
「もともとこの下はハザマ最大の禁忌をヌナに隠れて侵すための場所だったの」
勇芽はそう言うと同じ場所を鞘で三度叩くとまた轟音と共に階段が現れた。
「なにこれ?」
「この下だな」
ミーヨンが手持ちの万能スティックで階段の奥を照らした。
「うわぁ、暗いし何か出そう」
ミーヨンが震えながら言った。
「幸いなことに、ここは鼠一匹近寄らないわ」
「それはそれで怖い」
会話は長くは続かず無言になり三人が階段を下りきるまで無言は続いた。
「この扉の奥に真弓とマガリがいるはずよ」
そう言って勇芽は木の扉を開いた。
その先は木の机が木の床に一面に並んでいる学校の教室だ。
「ここは何の世界?」
「私の生まれた世界」
勇芽はそう言いながらゴーグルに手を当てた。
「そういえば勇芽がゴーグル外すの初めて見たな」
「ワタシは勇芽の事をゴーグルを付ける前から知っているが、ミーヨンは知らないのか」
そしてゴーグルを勇芽が外すと辺りが真っ暗になった。
いや、真っ暗というのは正確ではないだろう。空間は真っ黒だが勇芽、ミーヨン、カタリーナの三人を互いに鮮明に見ることはできた。
「これって、どういうことなの?勇芽、カタリーナさん」
「勇芽が常日頃ゴーグルをしているのはこうなるのを避けるためだ。詳しい話はあとでする」
カタリーナの言葉に不満そうに左手を頬につけて人差し指で目尻を撫でだすミーヨン。
「それ、ミーヨンの世界の肯定のジェスチャーだっけ」
勇芽は黒の中を歩きながらそう言った。
「この不思議な黒い空間。どこかで覚えがあるのよね。なんだったけな?えっと、何とかテント!」
ミーヨンは勇芽に付いて行きながら明るく言った。
「確かにこの空間は本質的には異界テントと一緒だな」
カタリーナがそんな事を言う。
闇の中に一人の少女が見えた。
「未来ちゃん?どこに行ったの?ねえ、ここはどこ?異界テント?どうして……」
「彼女が真弓よ」
勇芽が言った。
「勇芽ちゃん。未来ちゃんをどこにやったの?どうしてこんなふうになっちゃったの?ねえ、教えて」
真弓が必死そうに勇芽に聞いた。
「細かい話はマガリと合流した後」
勇芽は冷たくそう言うとまた漆黒の上を歩き出した。
「あはは、勇芽ってば冷たいよね。あたしミーヨン。そしてこの方はカタリーナさん」
「ミーヨンさん?カタリーナさん?あっ、はいわたしは高槻真弓です」
真弓は困惑しつつも、適応しようとしていた。
「真弓、もしマガリに恋をしているのならやめた方がいいわ」
勇芽は振り返って立ち止り真弓と目を合わせて言った。
「な、なに言ってるの!」
裸眼の勇芽に真弓は戸惑うも強い語調で言った。
「マガリは人造人間よ。普通の人間との恋路が上手くいくとは思えない」
「人造人間か、ハザマってそういう人多いよね。特に旅人」
「そういう人を受け入れるのがハザマの存在意義だからな」
勇芽にはそう見えた。
真弓の知能は低くない。
別の世界で法律が違うことをすぐ理解していた。
それを理解できる頭があるならば普通はハザマより奥の世界へ基本知識も身につけずに行こうとは考えない。
ということは考えられる答えは一つだ。
真弓はマガリへの情で何も深く考えないで世界を越えた。
ああ、救えないな。
勇芽は高槻真弓なる少女がマガリとともに世界を越えた理由をそう推測した。
勇芽にしてみれば真弓を元の世界へ送り返すのは簡単だ。
ただ、このまま送り返したらちょっとした物に唆されて自殺でもしてしまいそうな危うさが真弓にはあった。
だから真弓に異世界がどれだけ危険か、真弓がどれほど恵まれているか納得してもらう。
ハザマでマガリと定期的に会えるぐらいを落としどころにしたいと勇芽は考えていた。
だが、勇芽自身が説明するとどうしても感情的になってしまい真弓も納得しないだろうとハザマで一番弁の立つ人を呼びに行った。
✱
どんな世界でも悲劇は生まれる。悲劇の中、人は自分を救ってくれる救世主を求めた。かつて、そこに颯爽と現れ救える全てを救う者達がいた。
ここはハザマの旧礼拝堂。彼らが誰かを救う拠点だった場所。
勇芽は旧礼拝堂のすぐ裏にある図書館に向かった。
「あら勇芽。なにか用?」
図書館に入ると勇芽はメヴィアに声をかけられた。
「カタリーナプロデューサーは?」
勇芽は冷たく言った。
勇芽はメヴィアの事をあまりよく思っていないのだ。
「カタリーナなら上で新曲作っているけど」
「ありがとう」
勇芽は下駄から浮煙を出して階段をすっ飛ばして音楽部屋へ向かった。
音楽部屋ではカタリーナがミーヨンに横笛で演奏を聞かせていた。
「勇芽、ワタシに何のようかな?」
「マガリが真弓という少女を旅人にしたんですが、基本魔術理論、世界越境理論、幻想領域理論も知らないみたいなんです。簡単に基礎知識を教えてそれとなく元の世界へ戻るようよ誘導してください」
「ちょっと、勇芽。そんなの自分でやればいいじゃない。今カタリーナさんは忙しいの」
ミーヨンという少女は永住者でハザマのアイドルグループ『ハディメ』の一員だ。ちなみに『ハディメ』はカタリーナがプロデュースしたグループで勇芽もそのメンバーの一人だ。
「おおかた、自分でやれないからワタシに泣きついて来たのだろう。ミーヨン、すまない演奏はお預けだ」
そう言ってカタリーナは立ち上がった。
「じゃあ、あたしも行きます」
ミーヨンもほっぺたを人差し指と親指で膨らませながら言った。
ミーヨンの世界で軽い不満を表すジェスチャーだ。
「それで、勇芽。真弓とやらはどこにいる?」
「旧礼拝堂の地下で待たせてますけど」
「勇芽らしいな異世界の暗部を最初に見せるとは」
そう言ってカタリーナとミーヨンは勇芽に連れられ旧礼拝堂へ向かった。
「まさか、図書館の裏手にこんな場所があったなんてね」
ミーヨンは礼拝堂を見回した。
「もう、使われていないがな。あの事件以来ここに来るのは数えるほどしかいない」
カタリーナは悲しそうに言った。
「この階段、使いにくくない?」
ミーヨンがピアノの横に開けられた下り階段を指さして言った。
「これね、隠し階段になってるのよ」
勇芽が腰に刺している刀を鞘ごと石畳の床に三度打ち付けた。
すると、ガガガガと轟音が響いた。
「ちょっと、どういうこと!?」
ミーヨンが驚きの声を上げた直後階段が下からせり出て、何もない寂れた床になった。
「階段が消えた!?」
「もともとこの下はハザマ最大の禁忌をヌナに隠れて侵すための場所だったの」
勇芽はそう言うと同じ場所を鞘で三度叩くとまた轟音と共に階段が現れた。
「なにこれ?」
「この下だな」
ミーヨンが手持ちの万能スティックで階段の奥を照らした。
「うわぁ、暗いし何か出そう」
ミーヨンが震えながら言った。
「幸いなことに、ここは鼠一匹近寄らないわ」
「それはそれで怖い」
会話は長くは続かず無言になり三人が階段を下りきるまで無言は続いた。
「この扉の奥に真弓とマガリがいるはずよ」
そう言って勇芽は木の扉を開いた。
その先は木の机が木の床に一面に並んでいる学校の教室だ。
「ここは何の世界?」
「私の生まれた世界」
勇芽はそう言いながらゴーグルに手を当てた。
「そういえば勇芽がゴーグル外すの初めて見たな」
「ワタシは勇芽の事をゴーグルを付ける前から知っているが、ミーヨンは知らないのか」
そしてゴーグルを勇芽が外すと辺りが真っ暗になった。
いや、真っ暗というのは正確ではないだろう。空間は真っ黒だが勇芽、ミーヨン、カタリーナの三人を互いに鮮明に見ることはできた。
「これって、どういうことなの?勇芽、カタリーナさん」
「勇芽が常日頃ゴーグルをしているのはこうなるのを避けるためだ。詳しい話はあとでする」
カタリーナの言葉に不満そうに左手を頬につけて人差し指で目尻を撫でだすミーヨン。
「それ、ミーヨンの世界の肯定のジェスチャーだっけ」
勇芽は黒の中を歩きながらそう言った。
「この不思議な黒い空間。どこかで覚えがあるのよね。なんだったけな?えっと、何とかテント!」
ミーヨンは勇芽に付いて行きながら明るく言った。
「確かにこの空間は本質的には異界テントと一緒だな」
カタリーナがそんな事を言う。
闇の中に一人の少女が見えた。
「未来ちゃん?どこに行ったの?ねえ、ここはどこ?異界テント?どうして……」
「彼女が真弓よ」
勇芽が言った。
「勇芽ちゃん。未来ちゃんをどこにやったの?どうしてこんなふうになっちゃったの?ねえ、教えて」
真弓が必死そうに勇芽に聞いた。
「細かい話はマガリと合流した後」
勇芽は冷たくそう言うとまた漆黒の上を歩き出した。
「あはは、勇芽ってば冷たいよね。あたしミーヨン。そしてこの方はカタリーナさん」
「ミーヨンさん?カタリーナさん?あっ、はいわたしは高槻真弓です」
真弓は困惑しつつも、適応しようとしていた。
「真弓、もしマガリに恋をしているのならやめた方がいいわ」
勇芽は振り返って立ち止り真弓と目を合わせて言った。
「な、なに言ってるの!」
裸眼の勇芽に真弓は戸惑うも強い語調で言った。
「マガリは人造人間よ。普通の人間との恋路が上手くいくとは思えない」
「人造人間か、ハザマってそういう人多いよね。特に旅人」
「そういう人を受け入れるのがハザマの存在意義だからな」
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書籍化作品
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