異世界人の主人公巡り ~そんなに世界は素晴らしいかい?~
五の世界で犯罪者に
わたしは黄色く光る丸い何かに身を投げると、妙な感覚に襲われた。
例えるならまるで乗り物酔いを十倍酷くしたような不快感とゼラチンの中にいるような粘っこさだ。
そのネバンネバンな場所から無事抜け出したらそこは花畑だった。ほろりと土の匂いが鼻孔に入った。
黄色い花が一面に咲き乱れる美しい空間。
少し眩しいかな。太陽の光がわたしの顔中に降り注ぐ。
「あなた何者?」
逆光で見え辛いが目の前に一人、女の人がいるみたいだ。年はわたしと同じか一つ二つ上かな。
太陽を乱反射して栗色に光るショートヘア。
怪しく紅く輝く右目。
オーソドックスな日本の制服。
その中で異彩を放つ腰に下げた刀。
手首まで伸びる純白の左手袋。
白いハイソックス。
赤い鼻緒の下駄。
あれっ、下駄を履いているって事は靴下じゃなくて足袋だな。
「マガリね。あんたは誰?」
その女の人はわたしに向かってそう言った。
逆光に目が慣れて、その人の顔が見えるようになった。
目を全方位から守るタイプのゴーグルをつけていて、ゴーグルの右目辺りに赤いLEDみたいなものがついていた。
首には親指ぐらいの石が糸にかけられぶら下がっていた。
「カノジョはMs.高槻。ヒトつマエのセカイの主人公サ」
マガリさんがわたしの代わりに答えた。
「何やってるのよマガリ!?元の世界に早く返してきなさい」
わたしのせいでマガリさんが起こられるのが不愉快だった。
「わたしはわたしの意志でマガリさんと一緒に別の世界に来たんです。だからマガリさんを責めないでください」
つい堪えきれず口が出た。
「責めるわよ。別の世界に行きたがっている人がいても無闇に行かせてはならない。十中八九不幸になるから」
「そんなわたしの意志はまるで関係ないみたいな!」
そう言ってその人に詰め寄った。
「あなた自分が何をやったか分かっているの?」
その人は心底あきれたような表情をして言った。
「分かってますよ」
そう両足を広げ花と大地を踏みしめ言ってやった。
「本当に分かってるの?世界が変われば命の重さも変わることを」
「そのつもりです」
剣幕に圧されて少し弱気になってしまったがそれでもわたしは威風堂々と言葉を紡ぐ。
ブブブブブと音が聞こえる。音のする方には青い玉が五つ宙を滑っていた。
「ウルル・ラ・レイビ・レウェサ」
するとその女の人は唐突に側転した。
えっ、スカートで側転するの?しかもマガリさんの前で?
なぜだか、下着は見えなかった。
「ウルル・ラ・レイビ・レウェサ」
と青い玉がまた音声を発した。青い球から黒い綱がわたしとその女の人の腕に結ばれた。
そして綱で青い玉と左腕が結ばれて空へ引き上げられた。
「これ、なんなの?」
わたしはたまらず声を上げた。
「あなた、もしかして翻訳アイテム持ってないの?」
「なんですか、それ?」
「ああ、マガリの奴何やってんの」
そう言いながらその人はいつの間にか右腕に変な文様がプリントされた和紙を持っていた。
その和紙が白く光り、その光がわたしに向かってきた。
特に何も起こらなかった。
「なにをしたんですか?」
「それはこっちの台詞よ。この世界では花を踏みつぶすと逮捕されるの」
「えっ」
そんなのあり?
「言ったでしょ。命の価値が違うって」
そんな法律、はたして民主国家で認められるのだろうか?
いや、古来日本でも生類哀れみの令なる法律があったらしい。
あんな感じで人一人の鶴の一声で全てが決まる王国制だとあり得ない話ではないか。
いや、でも江戸時代って王国制なの?
どちらかというと合衆国制なのでは?
各藩を治める殿様がいてその中心に将軍様がいる。
まあ、関係ないか。
それにしても空からの景色は絶景だな。
まあ、逮捕されたんだけどね。
「そういえばなんで一緒に捕まってくれたんですか? あと、お名前なんて言うんですか? わたしは高槻真弓です」
「知ってるわよマガリから聞いた。私は勇芽。あなたを一刻も早く元の世界に戻すためよ」
「なんでそんなに元の世界に戻そうとするんですか、勇芽さん?」
「さん付けはよして。それは旅人なんてろくな物じゃないからよ。それとこの世界が滅びそうだからよ」
「えっ、どういうことですか」
「いいから。それと腕疲れない?」
確かに言われてみれば今左腕に全体重がかかっている。
それを意識したとたんに腕が痛くなった。
「いたたたた」
そんなことを話していると青の巨大な直方体の建物がそびえ立っていた。
青い建物の壁が開き通路が見える。そこにわたしと勇芽ちゃんは落とされた。
そして出入り口は閉じられた。
「ここで・二年間・過ごし・もらう」
青い玉からそんな音声が鳴る。
青い玉はマガリさんみたいに音も跡形もなく消えた。
「どういうことですか?世界が滅びるとか」
わたしは勇芽ちゃんに詰め寄った。
「そのままの意味よ。この世界で四大究極エネルギー体伝え曲げが一週間の間もなく生まれる。そのとき世界は滅ぶ」
「伝え曲げって?四大究極エネルギーって?」
「四大究極エネルギー体は世界を崩壊に導く無限の力のこと。終焉の烙、伝え曲げ、滅光、そして黒き巨人の四体」
「なんですか?それ」
勇芽ちゃんは左手だけの白長手袋の親指から肘の辺りまで延びるチャックを開いた。
左手に右手首を埋め込むのが、ちょっと気持ち悪かった。
「あのぉ、それ擬手なんですか?」
「いや別に」
勇芽ちゃんはそう言いながらチャックを閉じて右手にさいころを持っていました。
「基本魔術理論、世界越境理論、幻想領域理論に関しては分かってるね」
「なんですか、それ?」
「そんなことも伝えずにマガリは、こんな少女をハザマまでならともかく別の世界へ!?」
一瞬怒ったかと思うと呆れ顔になる勇芽ちゃん。
そう言いながらさいころを落とす勇芽ちゃん。
ちなみに出目は二でした。
「まず、基本魔術……」
勇芽ちゃんはすごい剣幕で話し出したかと思うと突然頭を抱えて黙りました。
「ハザマに行くよ。ハザマは分かる!?」
「一度、行きました」
「じゃあ行くよ。マガリには今から連絡しておくから基本知識とハザマへのチケットだけ渡すから元の世界へ帰りなさい」
ギュイーンと音がしたかと思うと冷蔵庫ぐらいの楕円の穴が出来ました。
扉の向こうの景色はまるでなんていうか教会みたいだった。
窓から差し込むオレンジの光はハザマであることを示していた。
でも人っ子一人おらず端の方の椅子は欠けているものもあり、一言で言えば寂れていた。
「先行ってて、マガリつれてくるから」
勇芽ちゃんの手にはいつの間にかはさみが握られていました。
そのはさみを勇芽ちゃんが開閉するとベルファみたいな気味の悪い音がして勇芽ちゃんが消えた。
わたしはとりあえずさいころを拾おうとしたらさいころはいつの間にか真っ二つに別れていた。
そして断面は赤黒くまるで胃カメラの映像みたいな気味の悪い色をしていて中心には目玉が鎮座していた。
その目玉はぎょろりぎょろりと辺りを見渡しわたしと目が合うと睨んできた。
怖くて動けなくなった。
まるで金縛りみたいだ。
またベルファと気味の悪い音が鳴った。
「どうしたの。先行っててって言ったでしょ」
勇芽ちゃんの声が後ろから聞こえた。
意を決して振り返ると勇芽ちゃんとマガリさんがいた。
「でもぉ、さいころにぃ目玉がぁ」
わたしは気が動転してそんな事を口走った。
「ああ、これ。この程度で驚いていたら旅人なんて無理。あなたの世界へ帰りなさい」
勇芽ちゃんはそう言いながら目玉さいころを躊躇無く拾い左手袋に押し込んだ。
「どうして、勇芽ちゃんはそんなにわたしのことを帰そうとするんですか?勇芽ちゃんだって旅人のくせに」
旅人、マガリさんは始めにそう名乗った。
たぶん世界を旅する人の総称だと思う。
でも、自分だって旅人のくせにわたしに文句をつける資格はないはずだ。
「じゃあ、来なさい。私が生まれた世界へ」
勇芽ちゃんはそう言うと教会へ一歩踏み出した。
でもこれって、冷静に考えると犯罪者の脱走だよな。
じゃあ、勇芽ちゃんはどんな罪を犯したんだっけ?
勇芽ちゃんはわたしと一緒に捕まるために花畑で側転した。
つまり私のために勇芽ちゃんは犯罪行為に手を染めたんだ。
お国変われば犯罪は変わる。
なぜなら法律が犯罪の定義だからだ。
たとえば飲酒喫煙を19歳がするのは日本では軽犯罪だが、海外では18歳から合法の国もある。
時代が変わっても同じことだ。
江戸時代は敵討ちで人を殺しても合法だった。
江戸時代で大名行列に産婆と飛脚以外がひれ伏さないのは切り捨てられても文句の言えない大罪だった。
その法律に当時の人は不満を持っていただろうか?
いや、産まれた時からある法律に不便を感じたとしてもそういうものだと日常に置いてしまい、むしろ楽しんでさえいるかもしれない。
「なにやってるの早く来なさい。私の世界を見せてあげるから」
そんな勇芽ちゃんの言葉でわたしは現実に帰る。
やっぱりわたし愉快な思考をしているなあ。としみじみ感じながらハザマに足を踏み入れた。
「ココはドコだ。Ms.勇芽」
「ここはハザマの礼拝堂だったところよ」
刑務所とここを繋ぐ穴が閉じた。
勇芽ちゃんはスタスタとピアノの横の明らかに不便な場所にある下り階段に向かった。
それにしても、ここはマガリさんも初めて訪れるんだ。
先頭の勇芽ちゃんのゴーグルについた赤いLEDが道を照らした。
石煉瓦に囲まれた階段を下っていくとほどなくして通路に出た。
通路の左側にはなにもなく右側には五つの木製扉があった。
手前から二番目の扉を勇芽ちゃんが開くと、そこは日本の学校の教室だった。
「もしかして勇芽ちゃんってわたしと同じ世界から……」
遠慮がちに勇芽ちゃんに聞くと
「そんなはずないじゃない!!」
とすごい剣幕で怒られました。
まあ、別の世界ならと一歩踏み込むと違和感に気がついた。
まるで、マガリさんと初めて話した時みたいに雑音が少しもしなかったのだ。
「見なさい。これがわたしの世界よ」
窓の外は一面小さいなにかがたくさん浮かんでいた。
「これが、究極エネルギー」
わたしは息を呑んだ。
「違うけど……ある意味そうとも言えるね。この世界はもう進まない。止まった世界」
「まあ、自由に見てきて、カタリーナプロデューサー呼んでくるから」
どこかで聞いた気がするけどカタリーナって誰だっけ?
例えるならまるで乗り物酔いを十倍酷くしたような不快感とゼラチンの中にいるような粘っこさだ。
そのネバンネバンな場所から無事抜け出したらそこは花畑だった。ほろりと土の匂いが鼻孔に入った。
黄色い花が一面に咲き乱れる美しい空間。
少し眩しいかな。太陽の光がわたしの顔中に降り注ぐ。
「あなた何者?」
逆光で見え辛いが目の前に一人、女の人がいるみたいだ。年はわたしと同じか一つ二つ上かな。
太陽を乱反射して栗色に光るショートヘア。
怪しく紅く輝く右目。
オーソドックスな日本の制服。
その中で異彩を放つ腰に下げた刀。
手首まで伸びる純白の左手袋。
白いハイソックス。
赤い鼻緒の下駄。
あれっ、下駄を履いているって事は靴下じゃなくて足袋だな。
「マガリね。あんたは誰?」
その女の人はわたしに向かってそう言った。
逆光に目が慣れて、その人の顔が見えるようになった。
目を全方位から守るタイプのゴーグルをつけていて、ゴーグルの右目辺りに赤いLEDみたいなものがついていた。
首には親指ぐらいの石が糸にかけられぶら下がっていた。
「カノジョはMs.高槻。ヒトつマエのセカイの主人公サ」
マガリさんがわたしの代わりに答えた。
「何やってるのよマガリ!?元の世界に早く返してきなさい」
わたしのせいでマガリさんが起こられるのが不愉快だった。
「わたしはわたしの意志でマガリさんと一緒に別の世界に来たんです。だからマガリさんを責めないでください」
つい堪えきれず口が出た。
「責めるわよ。別の世界に行きたがっている人がいても無闇に行かせてはならない。十中八九不幸になるから」
「そんなわたしの意志はまるで関係ないみたいな!」
そう言ってその人に詰め寄った。
「あなた自分が何をやったか分かっているの?」
その人は心底あきれたような表情をして言った。
「分かってますよ」
そう両足を広げ花と大地を踏みしめ言ってやった。
「本当に分かってるの?世界が変われば命の重さも変わることを」
「そのつもりです」
剣幕に圧されて少し弱気になってしまったがそれでもわたしは威風堂々と言葉を紡ぐ。
ブブブブブと音が聞こえる。音のする方には青い玉が五つ宙を滑っていた。
「ウルル・ラ・レイビ・レウェサ」
するとその女の人は唐突に側転した。
えっ、スカートで側転するの?しかもマガリさんの前で?
なぜだか、下着は見えなかった。
「ウルル・ラ・レイビ・レウェサ」
と青い玉がまた音声を発した。青い球から黒い綱がわたしとその女の人の腕に結ばれた。
そして綱で青い玉と左腕が結ばれて空へ引き上げられた。
「これ、なんなの?」
わたしはたまらず声を上げた。
「あなた、もしかして翻訳アイテム持ってないの?」
「なんですか、それ?」
「ああ、マガリの奴何やってんの」
そう言いながらその人はいつの間にか右腕に変な文様がプリントされた和紙を持っていた。
その和紙が白く光り、その光がわたしに向かってきた。
特に何も起こらなかった。
「なにをしたんですか?」
「それはこっちの台詞よ。この世界では花を踏みつぶすと逮捕されるの」
「えっ」
そんなのあり?
「言ったでしょ。命の価値が違うって」
そんな法律、はたして民主国家で認められるのだろうか?
いや、古来日本でも生類哀れみの令なる法律があったらしい。
あんな感じで人一人の鶴の一声で全てが決まる王国制だとあり得ない話ではないか。
いや、でも江戸時代って王国制なの?
どちらかというと合衆国制なのでは?
各藩を治める殿様がいてその中心に将軍様がいる。
まあ、関係ないか。
それにしても空からの景色は絶景だな。
まあ、逮捕されたんだけどね。
「そういえばなんで一緒に捕まってくれたんですか? あと、お名前なんて言うんですか? わたしは高槻真弓です」
「知ってるわよマガリから聞いた。私は勇芽。あなたを一刻も早く元の世界に戻すためよ」
「なんでそんなに元の世界に戻そうとするんですか、勇芽さん?」
「さん付けはよして。それは旅人なんてろくな物じゃないからよ。それとこの世界が滅びそうだからよ」
「えっ、どういうことですか」
「いいから。それと腕疲れない?」
確かに言われてみれば今左腕に全体重がかかっている。
それを意識したとたんに腕が痛くなった。
「いたたたた」
そんなことを話していると青の巨大な直方体の建物がそびえ立っていた。
青い建物の壁が開き通路が見える。そこにわたしと勇芽ちゃんは落とされた。
そして出入り口は閉じられた。
「ここで・二年間・過ごし・もらう」
青い玉からそんな音声が鳴る。
青い玉はマガリさんみたいに音も跡形もなく消えた。
「どういうことですか?世界が滅びるとか」
わたしは勇芽ちゃんに詰め寄った。
「そのままの意味よ。この世界で四大究極エネルギー体伝え曲げが一週間の間もなく生まれる。そのとき世界は滅ぶ」
「伝え曲げって?四大究極エネルギーって?」
「四大究極エネルギー体は世界を崩壊に導く無限の力のこと。終焉の烙、伝え曲げ、滅光、そして黒き巨人の四体」
「なんですか?それ」
勇芽ちゃんは左手だけの白長手袋の親指から肘の辺りまで延びるチャックを開いた。
左手に右手首を埋め込むのが、ちょっと気持ち悪かった。
「あのぉ、それ擬手なんですか?」
「いや別に」
勇芽ちゃんはそう言いながらチャックを閉じて右手にさいころを持っていました。
「基本魔術理論、世界越境理論、幻想領域理論に関しては分かってるね」
「なんですか、それ?」
「そんなことも伝えずにマガリは、こんな少女をハザマまでならともかく別の世界へ!?」
一瞬怒ったかと思うと呆れ顔になる勇芽ちゃん。
そう言いながらさいころを落とす勇芽ちゃん。
ちなみに出目は二でした。
「まず、基本魔術……」
勇芽ちゃんはすごい剣幕で話し出したかと思うと突然頭を抱えて黙りました。
「ハザマに行くよ。ハザマは分かる!?」
「一度、行きました」
「じゃあ行くよ。マガリには今から連絡しておくから基本知識とハザマへのチケットだけ渡すから元の世界へ帰りなさい」
ギュイーンと音がしたかと思うと冷蔵庫ぐらいの楕円の穴が出来ました。
扉の向こうの景色はまるでなんていうか教会みたいだった。
窓から差し込むオレンジの光はハザマであることを示していた。
でも人っ子一人おらず端の方の椅子は欠けているものもあり、一言で言えば寂れていた。
「先行ってて、マガリつれてくるから」
勇芽ちゃんの手にはいつの間にかはさみが握られていました。
そのはさみを勇芽ちゃんが開閉するとベルファみたいな気味の悪い音がして勇芽ちゃんが消えた。
わたしはとりあえずさいころを拾おうとしたらさいころはいつの間にか真っ二つに別れていた。
そして断面は赤黒くまるで胃カメラの映像みたいな気味の悪い色をしていて中心には目玉が鎮座していた。
その目玉はぎょろりぎょろりと辺りを見渡しわたしと目が合うと睨んできた。
怖くて動けなくなった。
まるで金縛りみたいだ。
またベルファと気味の悪い音が鳴った。
「どうしたの。先行っててって言ったでしょ」
勇芽ちゃんの声が後ろから聞こえた。
意を決して振り返ると勇芽ちゃんとマガリさんがいた。
「でもぉ、さいころにぃ目玉がぁ」
わたしは気が動転してそんな事を口走った。
「ああ、これ。この程度で驚いていたら旅人なんて無理。あなたの世界へ帰りなさい」
勇芽ちゃんはそう言いながら目玉さいころを躊躇無く拾い左手袋に押し込んだ。
「どうして、勇芽ちゃんはそんなにわたしのことを帰そうとするんですか?勇芽ちゃんだって旅人のくせに」
旅人、マガリさんは始めにそう名乗った。
たぶん世界を旅する人の総称だと思う。
でも、自分だって旅人のくせにわたしに文句をつける資格はないはずだ。
「じゃあ、来なさい。私が生まれた世界へ」
勇芽ちゃんはそう言うと教会へ一歩踏み出した。
でもこれって、冷静に考えると犯罪者の脱走だよな。
じゃあ、勇芽ちゃんはどんな罪を犯したんだっけ?
勇芽ちゃんはわたしと一緒に捕まるために花畑で側転した。
つまり私のために勇芽ちゃんは犯罪行為に手を染めたんだ。
お国変われば犯罪は変わる。
なぜなら法律が犯罪の定義だからだ。
たとえば飲酒喫煙を19歳がするのは日本では軽犯罪だが、海外では18歳から合法の国もある。
時代が変わっても同じことだ。
江戸時代は敵討ちで人を殺しても合法だった。
江戸時代で大名行列に産婆と飛脚以外がひれ伏さないのは切り捨てられても文句の言えない大罪だった。
その法律に当時の人は不満を持っていただろうか?
いや、産まれた時からある法律に不便を感じたとしてもそういうものだと日常に置いてしまい、むしろ楽しんでさえいるかもしれない。
「なにやってるの早く来なさい。私の世界を見せてあげるから」
そんな勇芽ちゃんの言葉でわたしは現実に帰る。
やっぱりわたし愉快な思考をしているなあ。としみじみ感じながらハザマに足を踏み入れた。
「ココはドコだ。Ms.勇芽」
「ここはハザマの礼拝堂だったところよ」
刑務所とここを繋ぐ穴が閉じた。
勇芽ちゃんはスタスタとピアノの横の明らかに不便な場所にある下り階段に向かった。
それにしても、ここはマガリさんも初めて訪れるんだ。
先頭の勇芽ちゃんのゴーグルについた赤いLEDが道を照らした。
石煉瓦に囲まれた階段を下っていくとほどなくして通路に出た。
通路の左側にはなにもなく右側には五つの木製扉があった。
手前から二番目の扉を勇芽ちゃんが開くと、そこは日本の学校の教室だった。
「もしかして勇芽ちゃんってわたしと同じ世界から……」
遠慮がちに勇芽ちゃんに聞くと
「そんなはずないじゃない!!」
とすごい剣幕で怒られました。
まあ、別の世界ならと一歩踏み込むと違和感に気がついた。
まるで、マガリさんと初めて話した時みたいに雑音が少しもしなかったのだ。
「見なさい。これがわたしの世界よ」
窓の外は一面小さいなにかがたくさん浮かんでいた。
「これが、究極エネルギー」
わたしは息を呑んだ。
「違うけど……ある意味そうとも言えるね。この世界はもう進まない。止まった世界」
「まあ、自由に見てきて、カタリーナプロデューサー呼んでくるから」
どこかで聞いた気がするけどカタリーナって誰だっけ?
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