天空の妖界

水乃谷 アゲハ

雪女と焔の先輩千宮司

「……で?」

 御社へ導かれるままにリビングへと歩みを進めると、いつの間にか作っていた合鍵をくるくると回している小さな女性が、開口一番そう言った。
 背は小さい見た目に似合わないきつい目は俺を睨みつけている。上目遣いってなんでしたっけ……。金色の髪は夕日は眩しいくらいに夕日を反射している。赤い瞳は夕日の光を帯びて更に赤く、黒く見える。
 彼女の名前は千宮司せんぐうじ ほむら。俺の二つ上になる先輩だ。

「……で?」

 何も答えずに千宮司先輩の前へと正座をすると、問い詰める様に同じ言葉を繰り返した。

「で? ってのは、どこから答えればいいんですかね? 鞄の事から? この雪女の事から?」

「ほぉ? お前はそれだけだと本当に思っているのか?」

「学校に早登校するのは規則でも義務でもないので、答えるというか謝る必要が無いと思うんですが」

「……はぁ、変わらんのぅ。まぁ良い、お前様が学校に来ないのはいつもの事だし言っても仕方なかろう。して、その妖怪はどうしたのじゃ?」

 千宮司先輩は思いのほか怒っていなかった様で、すぐに俺の話そうとしている話題へと移ってくれた。
 俺は御社と千宮司先輩の二人に先ほどあった事の全てを包み隠さずに話した。途中、御社が禍々しい雰囲気を出しては千宮司先輩に肘を入れられていたが、特にそれ以外の追及は無く静かに俺の話を聞いてくれた。

「うふふ、真君らしいわ」

 すべての話を聞き終えて、口を開いたのは御社だった。口元を隠す様にしてそんな優しい言葉をかけてくれる御社を見て、千宮司先輩も大きく頷いた。

「全く持ってその通りじゃな。困っている人間がいれば敵であろうと無かろうと助けてしまう性格は、褒められはせんが感心するわ」

「どうせ俺はこういう人間だっての」

「して、今のお前の話によれば、そやつの言う願いというのはまだ聞いていないという事になるのぅ。おい主、願いを言うついでに自己紹介をしてくれんか?」

「え!? あ、わかりました」

 俺達三人の会話に参加せず、俺の家にある様々な物を興味深そうに見ていた雪撫は俺達の元へと戻ってきて頭を下げる。というかお前危機感くらい持てよ……一応ここにいる奴ら全員が陰陽師の卵なんだぞ。

「私は雪女の雪撫と言います。願いは妖界に帰りたいって事です」

「短いのぅ。もっとあるじゃろ? 特技やら長所やら好きな物云々やら」

「どんだけ自己紹介聞きてぇんだよ」

 おかげで雪撫すげぇ困った顔しちゃってるじゃねぇか……。

「えぇ、そうですね、特技は戦闘? 長所は分からないです。好きな物は氷ですかね」

「ふむ、まぁそんな所で良い。して、願いは帰りたいだったか?」

「そ、そうですが……」

「なるほどのぅ……。正直、自分の体が戻りさえすればお主の願いを叶える事は難なく出来る相談じゃ。しかしながら、今の我が身は偽物なのじゃ。それに、妖怪を倒す為の術を妖怪を助けるの為に使ったとなるとそれもまた問題じゃ」

「そうですか……」

 千宮司先輩の言葉に雪撫は残念そうに肩を落とす。少しの沈黙がその場に流れ、俺は落ち込んでいる雪撫の手に自分の手を重ねて声を掛けた。

「大丈夫だって。俺が嘘つく人間に見えるのか?」

「真君……」

「うふふ、雪撫さん大丈夫よ。真君が助けると言った人は私も助けてあげるから」

「み、御社さん」

 俺に続いて、御社も落ち込んだ雪撫をを優しく声を掛けて俺の手の上に自分の手を重ねた。そんな俺達を見ていた千宮司先輩は、少し慌てた様に口を開いた。

「ちょ、ちょっと待て主ら! いつこの千宮司焔が手伝わんと言った! 妾もその中に入れんか!」

「み、皆さん……。あ、ありがとうございます」

 千宮司先輩の手が重ねられた自分の手を見て、雪撫がようやく笑顔で顔を上げる。……やっぱり、雪撫に限らず、女って笑っていた方が可愛いよな。

「意気込んだのはいいけど、具体的に色々考えておかないとな」

「確かにのぅ。あそこには御社の様に気配だけ妖怪を感じる者もいれば、妾やこやつみたいに妖怪が見える者もいるからのぅ」

「え、御社さんって妖怪見えていないの?」

 千宮司先輩の説明に驚いて御社の顔を見る雪撫だが、見られている本人は気が付かずに俺の方を見ている。……いや、なんでこっちを見てる。千宮司先輩の説明だっただろ。

「あぁ、御社は勘が鋭いから妖怪がいると分かるだけで見えていないんだよ。ついでに声を聞く事も出来ない」

「あら、私の事をよくわかっている様で嬉しいわ真君」

「まぁ、こやつの勘は鋭いなんてものじゃないがのぅ。こやつが街にいる事も、誰かを助けているって事も予想していたからのぅ」

 いや怖ぇよ。そこまで行くともはや勘じゃなくて未来予知だろうが。ちなみに、言われた当の本人は嬉しそうに口元を押さえてニヤニヤしている。

「あ、でも、皆さんから見えなくなる術は持っていますよ! 自分の出している妖力を限りなく抑えれば、この様に見えなくなるはずです! ……み、見えませんよね?」

 最後に自信を無くしたものの、雪撫の言う通り、見事に彼女はその場から見え無くなった。きょろきょろと回りを見ても、一切姿が見えない。

「見事じゃ。それなりに見破る自信があったんじゃがのぅ……。残念じゃ」

「あ、それなら良かったです! これがあれば学校でバレる可能性は限りなく低くなりますよ」

「その様じゃな。ちなみに、お主が妖界へと戻るために探していたであろうワープホールじゃが、あれは既にうちの学校の使物になっておる。故に、学校外部で人間界から向こうへ戻るのはほぼ不可能という事じゃな」

「あ、そ、そうですかぁ……」

「しかし、学園でトップになった者は本人の希望で妖界へ行ける事になっている。ま、うちの学園から妖界に行った人間なんて一人しか知らんがのぅ」

 そんな含みのある言い方をして俺の方を見る千宮司先輩の視線を躱して、雪撫の方を見ると、とても目を輝かせて千宮司先輩を見ていた。

「のぅ主よ、そうなると善は急げってやつじゃな?」

 そんな言葉と共に、企むような笑みを浮かべる千宮司先輩を見て俺はカレンダーを指さした。

「あ、あと三日ある……」

「善は急げ、じゃ」

 そうして、千宮司先輩は半強制的に俺と御社、雪撫を連れて学校へと行く準備を始めるのだった。……あぁ、万事休すか……。

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