天空の妖界
御社好と雪女
「そういやお前、用事があるとか言っていたのはいいのか?」
ビルを後にして例の場所へ向かう間、キョロキョロと興味深そうに周りを見る雪撫へと声を掛けると、彼女は辺りをキョロキョロ見回したまま俺の質問に答えた。
「あぁ。正直やりたい事はあってもどうすればいいのか分からないっていう感じなんです」
「ふぅん? よく分からんが、まぁ鞄さえ見つかってくれれば手伝うぞ?」
俺が何気なく呟くと、雪撫見回す事を止めて俺に輝いた目を向けてきた。
「本当ですか! 助かります! 人間界は久しぶり過ぎて……」
「あん? 来た事があるのか?」
「まぁ、二、三回程ですね。人間が大好きな友達がいてよく連れて行ってもらっていたんです」
「へぇ……」
そこで妙な沈黙が流れる。……いや、何話せばいいか分からねぇ。というか、人間大好きな友達ってそれも妖怪だよな? 人間界に普通に出入りしてんのかよ。
「真君は」
話題を考えてみたが思いつかず、妖怪の事で今の現実から逃避していた時、今度は雪撫から声を掛けてきた。……いや、コミュニケーションがあっても話題がポンポン出てくるわけじゃないんだぞ?
「真君は、なんで茶目さんを助けようと思ったんですか?」
「はぁ?」
聞かれるとも思ってなかった質問に、思わず変な声を出して驚いてしまった。しかし、雪撫は気にする事なく話を続ける。
「ビルの外には沢山の人が上を見上げて指を指していたじゃないですか。でも、誰も中に入ろうとしなかった。それなのに真君は、上にいる茶目さんを見た時迷いなくビルに入っていましたよね? 何でなのかなって」
「あぁ、言われてみれば何でだろうな?」
「え、自分で分からないんですか?」
驚いた顔でそう聞き返されたが、正直言って理由が思いつかない。下らない正義感を振り回したとかそこらへんが答えなんだろうな。
「真君って……変わってますね。ほら、すれ違う人達が不思議な顔で真君を見てますし」
「ん? ……あ、あぁ」
今まで妖怪と出会いこうして話す事のなかった俺は、雪撫の指さす人々を見て後悔した。そうだった、妖怪って普通の人間には見えないんだよな……。
少し考えてほしい、何もいない空を見上げて真剣な顔をして話しかけ、悩んでいる男が歩いていたら皆がどんな反応をするのかを。それが今の俺の状況だ。
「まぁ、雪撫が見えていない奴等の反応としては百点満点の行動だよな。俺を馬鹿にするって」
街を抜けた後でも、背後から微かな笑い声が聞こえていたりするのは若干辛い。俺の心中を呼んだのか、雪撫は突然しょげた顔をすると縮こまった。
「え? あ、そっか……ご、ごめんなさい……」
そんな視線を落としてあからさまにしょんぼりとされると文句があったとしても、言うに言えない。というか、雪撫にはどうしようも無い事だから仕方無いんじゃないか?
「いやいいよ。あと雪撫、これからお前敬語禁止な?」
「えぇ!? い、いやそれはちょっとおかしいっていうか難しいっていうか……ともかく駄目だと思います!」
「敬語使ったら許さん。滅するぞ」
「頑な!?」
分かる奴がいると思わないが、俺は敬語が好きじゃない。壁を感じるし、なんか堅苦しいし、自分の存在を拒否されているみたいな感覚が嫌いなのだ。
とはいえ、自分が目上に喋る時ぐらいは使う。じゃないと社会的に死ぬ。
「う、う~ん、そこまで言うなら敬語はやめておくけど……」
「そうしてくれ。あと、そろそろ俺達のぶつかった場所に着くけど、鞄が落ちて無い様に見えるのは俺だけか?」
「いいいい、いやそんな事ないよ? ほ、ほら、白いものが落ちてる!」
俺の鞄は黒くて大きい物なんだが? と言いたい所をぐっと堪えて目的の場所へと着くと、一枚の紙が落ちていた。拾い上げて書いてある事を読んでみる。
『鞄の持ち主である真君へ 鞄は預かった。もし返してほしければ今すぐ自分の家の前に来い』
可愛らしい女性の字で書いてある紙を見て、俺は思わずため息をついた。安堵じゃなくてこの先に起こるであろうことの憂鬱さにだが。
「御社だ、絶対そうだ……」
「御社?」
鞄が無い事を気に病み、あたふたとしていた雪撫はピタリと動きを止めて俺を見た。その間、俺の頭の中にははっきりと一人の人物が思いつき、手を振っている。
「あぁ、鞄は絶対無事だから安心していい。問題はその鞄を持っている奴の事なんだよ……」
そんな事を言っても俺の学校事情を知らない雪撫は頭に疑問符を浮かべて首を捻るだけだ。
あぁ、知らない事って素晴らしいが……大丈夫だ。今回は地獄に行くのは俺だけじゃない。こいつも道連れだ。
「え、なんかまた怖い想像しました?」
「大丈夫、怖くないから僕についておいで? いい所に連れて行ってあげよう」
「嘘くさい!!」
無知な雪女はぶつぶつ文句を言いながらも、俺と共に地獄への歩みを始めた。まぁ、鞄が本当に見つかるまではついてきてくれるんだろうな。というか、自分で言ったけどかなり気持ち悪かっただろうな今の。もう絶対やめよう。
やがて家の姿が少しだけ見えた時に、とうとう俺は足を止めた。足が地面に釘やらボルトやらナットやらで固定されているかの様に動く事が出来ない。というか、この足をもう一歩でも前に出したくない。
「真君? どうしたの?」
「い、行きたくねぇ……。ぜってぇ早登校させられる」
「え、え?」
「が、学校は嫌いじゃないけど、行くのがめんどくせぇ。というか行った後さえめんどくせぇ……」
「ちょ、ちょっと真君!? 口、口から魂みたいなものが抜けてるよ!」
いや、さっき言ったように学校に行く事はいいけど、早めに行く意味が分からん。登校日が決められているのならその日に行けばいいだけじゃないのか……。
そんな事言っても仕方がないので、重い足取りで家まで向かう。雪撫が心配そうに俺へと声を掛けてくれているのが唯一の救いだ。
「や、やっぱり御社じゃねぇか……」
玄関が見える所まで来た時、俺の鞄を両手で抱えて立っている髪の長い女を見つけてうんざりと呟いてしまった。
御社 好という女は、一言で言うと変わっている。黒くて長いストレートな髪に黒い瞳、顔は美形にも関わらず、前髪をかなり伸ばしていてとても暗い印象を受ける。
性格はかなり大人しく、時々何かを想像しては笑みを浮かべている。そしてとにかく笑い方が怖い。……昔の御社はあんなんじゃなかったんだが……。
「あら、真君。うふふふ、ようやく来たのね」
俺の気配に気が付いた御社は、振り返って笑顔を作り近づいてきた。
「遅かったじゃない。それと、そこの妖怪は誰?」
「あぁ、詳しい事は後で話すわ……どうせ家の中にいるんだろ? 千宮司先輩」
「うふふふ、その通りよ真君。とても怒っている先輩が中で待っているから、覚悟して入った方がいいわ」
そして、悪魔の様な笑顔と雰囲気で俺達の前へと立った御社は、地獄の閻魔様への道を先導して家の中へと消えていった。
「あぁ、本当に帰りたくねぇ……」
「千宮司先輩ってそんなに怖い人なの……?」
ビルを後にして例の場所へ向かう間、キョロキョロと興味深そうに周りを見る雪撫へと声を掛けると、彼女は辺りをキョロキョロ見回したまま俺の質問に答えた。
「あぁ。正直やりたい事はあってもどうすればいいのか分からないっていう感じなんです」
「ふぅん? よく分からんが、まぁ鞄さえ見つかってくれれば手伝うぞ?」
俺が何気なく呟くと、雪撫見回す事を止めて俺に輝いた目を向けてきた。
「本当ですか! 助かります! 人間界は久しぶり過ぎて……」
「あん? 来た事があるのか?」
「まぁ、二、三回程ですね。人間が大好きな友達がいてよく連れて行ってもらっていたんです」
「へぇ……」
そこで妙な沈黙が流れる。……いや、何話せばいいか分からねぇ。というか、人間大好きな友達ってそれも妖怪だよな? 人間界に普通に出入りしてんのかよ。
「真君は」
話題を考えてみたが思いつかず、妖怪の事で今の現実から逃避していた時、今度は雪撫から声を掛けてきた。……いや、コミュニケーションがあっても話題がポンポン出てくるわけじゃないんだぞ?
「真君は、なんで茶目さんを助けようと思ったんですか?」
「はぁ?」
聞かれるとも思ってなかった質問に、思わず変な声を出して驚いてしまった。しかし、雪撫は気にする事なく話を続ける。
「ビルの外には沢山の人が上を見上げて指を指していたじゃないですか。でも、誰も中に入ろうとしなかった。それなのに真君は、上にいる茶目さんを見た時迷いなくビルに入っていましたよね? 何でなのかなって」
「あぁ、言われてみれば何でだろうな?」
「え、自分で分からないんですか?」
驚いた顔でそう聞き返されたが、正直言って理由が思いつかない。下らない正義感を振り回したとかそこらへんが答えなんだろうな。
「真君って……変わってますね。ほら、すれ違う人達が不思議な顔で真君を見てますし」
「ん? ……あ、あぁ」
今まで妖怪と出会いこうして話す事のなかった俺は、雪撫の指さす人々を見て後悔した。そうだった、妖怪って普通の人間には見えないんだよな……。
少し考えてほしい、何もいない空を見上げて真剣な顔をして話しかけ、悩んでいる男が歩いていたら皆がどんな反応をするのかを。それが今の俺の状況だ。
「まぁ、雪撫が見えていない奴等の反応としては百点満点の行動だよな。俺を馬鹿にするって」
街を抜けた後でも、背後から微かな笑い声が聞こえていたりするのは若干辛い。俺の心中を呼んだのか、雪撫は突然しょげた顔をすると縮こまった。
「え? あ、そっか……ご、ごめんなさい……」
そんな視線を落としてあからさまにしょんぼりとされると文句があったとしても、言うに言えない。というか、雪撫にはどうしようも無い事だから仕方無いんじゃないか?
「いやいいよ。あと雪撫、これからお前敬語禁止な?」
「えぇ!? い、いやそれはちょっとおかしいっていうか難しいっていうか……ともかく駄目だと思います!」
「敬語使ったら許さん。滅するぞ」
「頑な!?」
分かる奴がいると思わないが、俺は敬語が好きじゃない。壁を感じるし、なんか堅苦しいし、自分の存在を拒否されているみたいな感覚が嫌いなのだ。
とはいえ、自分が目上に喋る時ぐらいは使う。じゃないと社会的に死ぬ。
「う、う~ん、そこまで言うなら敬語はやめておくけど……」
「そうしてくれ。あと、そろそろ俺達のぶつかった場所に着くけど、鞄が落ちて無い様に見えるのは俺だけか?」
「いいいい、いやそんな事ないよ? ほ、ほら、白いものが落ちてる!」
俺の鞄は黒くて大きい物なんだが? と言いたい所をぐっと堪えて目的の場所へと着くと、一枚の紙が落ちていた。拾い上げて書いてある事を読んでみる。
『鞄の持ち主である真君へ 鞄は預かった。もし返してほしければ今すぐ自分の家の前に来い』
可愛らしい女性の字で書いてある紙を見て、俺は思わずため息をついた。安堵じゃなくてこの先に起こるであろうことの憂鬱さにだが。
「御社だ、絶対そうだ……」
「御社?」
鞄が無い事を気に病み、あたふたとしていた雪撫はピタリと動きを止めて俺を見た。その間、俺の頭の中にははっきりと一人の人物が思いつき、手を振っている。
「あぁ、鞄は絶対無事だから安心していい。問題はその鞄を持っている奴の事なんだよ……」
そんな事を言っても俺の学校事情を知らない雪撫は頭に疑問符を浮かべて首を捻るだけだ。
あぁ、知らない事って素晴らしいが……大丈夫だ。今回は地獄に行くのは俺だけじゃない。こいつも道連れだ。
「え、なんかまた怖い想像しました?」
「大丈夫、怖くないから僕についておいで? いい所に連れて行ってあげよう」
「嘘くさい!!」
無知な雪女はぶつぶつ文句を言いながらも、俺と共に地獄への歩みを始めた。まぁ、鞄が本当に見つかるまではついてきてくれるんだろうな。というか、自分で言ったけどかなり気持ち悪かっただろうな今の。もう絶対やめよう。
やがて家の姿が少しだけ見えた時に、とうとう俺は足を止めた。足が地面に釘やらボルトやらナットやらで固定されているかの様に動く事が出来ない。というか、この足をもう一歩でも前に出したくない。
「真君? どうしたの?」
「い、行きたくねぇ……。ぜってぇ早登校させられる」
「え、え?」
「が、学校は嫌いじゃないけど、行くのがめんどくせぇ。というか行った後さえめんどくせぇ……」
「ちょ、ちょっと真君!? 口、口から魂みたいなものが抜けてるよ!」
いや、さっき言ったように学校に行く事はいいけど、早めに行く意味が分からん。登校日が決められているのならその日に行けばいいだけじゃないのか……。
そんな事言っても仕方がないので、重い足取りで家まで向かう。雪撫が心配そうに俺へと声を掛けてくれているのが唯一の救いだ。
「や、やっぱり御社じゃねぇか……」
玄関が見える所まで来た時、俺の鞄を両手で抱えて立っている髪の長い女を見つけてうんざりと呟いてしまった。
御社 好という女は、一言で言うと変わっている。黒くて長いストレートな髪に黒い瞳、顔は美形にも関わらず、前髪をかなり伸ばしていてとても暗い印象を受ける。
性格はかなり大人しく、時々何かを想像しては笑みを浮かべている。そしてとにかく笑い方が怖い。……昔の御社はあんなんじゃなかったんだが……。
「あら、真君。うふふふ、ようやく来たのね」
俺の気配に気が付いた御社は、振り返って笑顔を作り近づいてきた。
「遅かったじゃない。それと、そこの妖怪は誰?」
「あぁ、詳しい事は後で話すわ……どうせ家の中にいるんだろ? 千宮司先輩」
「うふふふ、その通りよ真君。とても怒っている先輩が中で待っているから、覚悟して入った方がいいわ」
そして、悪魔の様な笑顔と雰囲気で俺達の前へと立った御社は、地獄の閻魔様への道を先導して家の中へと消えていった。
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